31 繋がれた手
(この人……強い。)ミカさんを目の当たりにすると、憧れを抱いていた自分がどれ程おこがましい事か思い知らされる。
「初めまして、私はミカ・ユリノキだ。」
「は、初めまして、シオン・ラナンキュラスです。ユズハ君とは同じクラスで友人でもあります。」
ミカさんは優しく微笑み、ユズハと仲良くして欲しいと伝えると、訓練場を後にした。そして入れ代わりに、また女性が入って来る。
「お帰り、ユズハ!」
「あ、ただいま母さん。」
ユズハのお母様、ユイフィス・アイオリアさんだ。ユズハから聞いた話だと、この人も元冒険者で階級は智天使。現役時代“大断斬のユイ”と言われ、身の丈ほどの大剣を振るう理由から囁かれた二つ名だそうだ。
「シオンさん、でいいかしら?」
「はい。」
「時間も時間だし、夕食を一緒にどう?」
「そんな、私は明日には学校の寮に帰りますので。」
「じゃぁ、尚更ね。ユズハ、シオンさんを引き留めなさい。」
「引き、引き留める?!」
「諦めてくれ、ああなると断れない。」
ユズハは呆れた顔をして、ため息交じりに呟いた。
誘われるがままに食卓に座らされ、ユズハとの出会いや、学校生活などの話題を中心に食事が進んでいく。私も家族での食事が楽しかった幼少の頃を思い出す。そういえば、私がどこの国の生まれか聞かれていない。気を遣っているのか、単に興味がないのか、どっちなんだろう?
「シオンさん、どうしたの?神妙な顔して。食事が口に合わなかった?」
「いえ、美味しいです!……あの、私の事を聞かないんですか?出身国とか……。」
エギルさんは「ここは冒険者ギルドだ。色んな国や領土の人間が入り乱れる。そんなもん、いちいち気にしてられるか?」と笑いながら話し、ミカさんも続けて「心配無用、この二人は元とはいえ、階級智天使。人も修羅場も場数が違う。」とお酒を口にする。
――――食事も終わり、後片付けを買って出る。炊事場から見える奥のテーブルでは、エギルさんとミカさんがお酒を酌み交わしながら談笑している姿が見えた。ユズハは背中を二人にバンバン叩かれている。
「私も含めてだけど、ユズハが大好きなのよ。」ユイフィスさんは食器を洗いながら嬉しそうに話す。ただ、少し他人行儀な言い方にも聞こえた。
「ところでシオンさんは、ユズハに会いに来たみたいだけど何かあったの?」
「はい。実は夏期休暇の間、学校の訓練施設が使用できないので、ギルドの訓練場が使えないか、ユズハ君に頼んでいたんです。」
「でも、いつ使えるか分からないでしょう?」
「その為に、予め空いてる日時を記した予定表を貰いに来たんです。」
「予定表と言っても、その通りになるとは限らないわよ?」
「それは、そうですが……。」
「なら休暇中、この家で過ごせば良いじゃない?空き部屋もあるし!」
「えぇ?!」
ユイフィスさんはパンッと手を叩き、奥に居る三人の気を惹いた。何故か恐る恐る振り向く三人。
「みんな、今日からシオンさんを休暇の間この家で面倒を見ます!」
さっきも思ったけど、この決断力と強引さは脅威だ。ユズハが自動人形のある部屋で、私の手を強引に握ったりした行動は、ユイフィスさんの影響かも知れない。
私は宿を取っている事、寮から通う事を理由に断ろうとしたが認められず、結局期間中は住まわせてもらうことになった。
その代わりに無償というわけにもいかないので、ギルドの手伝いをする事を条件に出し、交渉が成立した。
「では、今日は宿に泊まって明日、またお伺い致します。」
「えぇ、待ってるわ。ユズハ、送ってあげなさい!」
――――外に出ると辺りは暗くなり始め、外灯の明かりが舗装された道を照らし出していた。
「迷惑じゃなかった?」
「全然!久しぶりに楽しい食事だった。いいご両親だね。」
「それは心から思うよ。血の繋がってない俺を、本当の子供のように育ててくれてるからな。」
「えっ、そうなの?」
そうか、それで他人行儀な言い方に聞こえたのか。ユズハの本当のご両親、お父様は産まれる前に、お母様はユズハを産み、しばらくして亡くなったと話してくれた。
そして、お母様が亡くなる前、親愛と呼べる関係を築いていたエギルさん達に自分を託し、今に至っているそうだ。
「ごめんね。」
「あぁ、いいよ。俺は今の親父と母さんの息子だと思ってるから。」
そう言って、照れくさそうに微笑むユズハを見て、私は安心した。
「そうだ!少し時間ある?」
「うん。」
「シオンに見せたい景色があるんだ。」
宿のある商業区を抜けると、小高い丘があり、住居区との境に大きな公園が見えた。ユズハはそこに私を誘い出す。
「凄い綺麗……。」
ユズハが連れてきてくれた場所は、商業区を一望でき、眼下には宝石を散りばめたような夜景が広がっていた。
「どう?気晴らしになったかな。」
「……どうして?」
「食事してる時、寂しそうな顔をしてる時があったから。」
「ありがとう。」
正直、少しあざといと思ったけど、その横顔に下心はなく、本当に私を心配してこの場所へ誘ったのなら、それは“少し嬉しいな”と思い直している自分に気づく。
「もう、行こう。」
私はユズハの手を引っ張ってその場を後にした。何故なら、急に恥ずかしくなったからだ。




