3 ヴィネ・アザレア
学科試験は午前と午後に分けられ、午前は歴史、商業。午後は魔法、戦略だ。
歴史問題は、この大陸の始まりから国の成り立ちがメインで出題される。
商業は素材の価値や買取に必要な鑑定資格、運営方法、商売をする為に必要な法令等が出題された。
そして、この世界の通貨単位はリーフ。
1、5、100、500リーフはコイン、1,000、5,000、10,000リーフは紙幣で売買される。
午前の試験が終わり昼休憩に入った。
ユズハは1階にある校内食堂に行くため教室を出ると、カルティと鉢合わせ、一緒に昼飯を食べようと食堂へ続く廊下を歩いていた。
「やっぱり、ユズハも冒険者になるために学校に通うのか?」
「いや、俺は自由騎士を目指してる」
「3年制度か。俺とは2年でお別れだな」
この学校の2年制度は、冒険者に必要な経験と実績を積むことができ、冒険者階級下位は免除される。
学校に通わずとも15歳以上なら冒険者になれるが、階級は下位の天使から始まり、一般的に階級中位になるには4、5年の実績を要する。
3年制度は自由騎士団協会への入団許可証が与えられる。
冒険者との違いは、国家を選ばず仕官できる制度が確立されていることだ。
さらに、自由騎士団協会から発行される専用依頼を受けることができ、月額2万リーフが10年間支払われる。
デメリットは、冒険者ギルドから発行された依頼が制限されることだ。
違法した場合、直ちに退団となり、冒険者ギルドを含め、5年間の依頼停止を受ける。
ユズハが何故、自由騎士を選んだのか。
それは、恩返しとして、月額2万リーフをエギルたちに受け取ってもらうためだった――
食堂に着きメニューを選んでいると、カルティに声を掛ける1人の男がいた。
「よう、カルティ。相席いいか?」
「その声はヴィネか。ユズハ、いいか?」
「もちろん」
声を掛けて来たのは、カルティが目を引いた人物、ヴィネ・アザレアだった。
「なんだよヴィネ、暇してんのか?」
「暇は暇なんだけど、カルティが面白そうな奴連れてるからさ」
「面白そう? ユズハのことか?」
「そう! だってコイツ、俺らといい勝負出来るくらい強そうじゃね?」
「ははっ! ヴィネも気づいたか!」
2人によると、ユズハはシオン・ラナンキュラスにも目を付けられていることがわかった。
自分が現段階でどれだけ強いかなんて知る由もない。ミカ以外と剣を合わせたことが無いからだ。
「ヴィネ、それより早く食べるもん決めとけよ」
「急かすな。少ない小遣いでやり繰りしてんだから」
「コイツさ、剣の腕は確かなんだけど、飯食うのめっちゃ遅いんだよ。笑えるだろ?」
「っせーな! よく噛んで食べろ! って言うだろ? これも鍛錬なんだよ!」
明るいグレージュの髪を後ろで纏め、切れ長のどこかギラついた瞳。
ヴィネの第一印象は正直、素行の悪そうなイメージだった。
しかし、2人の会話を聞いていると良い奴そうだとユズハは思った。
結局、午後の試験開始間際までヴィネの食事は続き、食べ終わったと同時に食堂を出た3人は、急いで教室に戻り午後の試験に挑む。
魔法学は、火、水、風、土の基本属性の性質、そして“得意属性”に関する問題だ。
得意属性とは、この世界に生を受けた時から魔力と一緒に併せ持つ属性のことである。
例えば火の得意属性を持って生まれた人間は、火に関する魔法に対し、威力増や魔力消費の低減等の恩恵がある。
軍略学は大規模戦略から、冒険者らの少数パーティに置ける戦術が出題されていた。
特に少数パーティの要となる戦術は、大きく戦況を変えるものが多く、近年は、さらに重要視されている。
教室が茜色に染まり始めた頃、試験終了のブザーが鳴った。
「お疲れ様でした。では、答案用紙を裏に向け机の上に置いて退出してください」
静まり返っていた教室が騒めき、周りから試験の良し悪しを話し合う声が聞こえ始めた。
「おーい!」
教室の外から、カルティが大声でユズハを呼ぶ。
カルティの話では、明日の実技試験の為に、学校にある訓練場の使用が可能になっていた。
「使わない手はないだろ?」
「たしかに」
「ヴィネやシオンも絶対来るから一緒にやろうぜ!」
カルティ、ヴィネ、シオン。
そして自分の実力を知る良い機会だと思うと断る理由は無い。
少しの緊張と高揚感を持ちながら、ユズハはカルティと共に訓練場へと向かった。
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