29 僅かな変化
私は自国の状況を説明した。都合のいい騎士道を解き、圧政で国民を苦しめている事、騎士の家系に生まれたばかりに、両親も2人の兄も体裁だけを気にして何一つ行動を起こさない事、黙って過ごしていれば保護され、子供たちは騎士団への入団を約束されていると信じている事。
それが嫌で、自由騎士を目指している事を。
「なら、このまま卒業して自由騎士になれば良いんじゃ?」
「それがね、実技訓練の次の日、両親から手紙が届いたの。」
その内容は、スキュラが自国民に対し自由騎士を容認しないという通知だった。私は憤りを感じ破り捨てようとしたが、その文面に続きがある事に気づいた。
但し“台覧試合の勝者には自由を与える”と。
台覧試合。3年に一度、皇族の前で行われる勝ち抜き戦だ。スキュラの現役の騎士や騎士家のみ、参加が許されている。昔は歴史ある純粋な武を競う試合だったが、今は賭博の温床になっていると囁かれている。
「それが、私が卒業する3年後に控えているんだ。」
「今からオーバーワークしてまで、強くならないといけない強敵でもいるのか?」
「うん……。」
勝ち抜き戦を制した後に出てくる最後の壁、“クヌギ・アザミ”。アオキバ・スターチス現国王の側近にして、スキュラ騎士団の長を務めている。その戦闘力は十熾天剣並みと称され、他にも黒い噂が絶えない男。
「私もバカじゃない。今から努力しても、3年やそこらでクヌギを倒せるとは思ってないけどね。」
「それなのに強くなろうと?」
「……こういう運命だったと諦めたくないから。何でも運命の所為にしたら“諦め癖”が付いちゃうでしょ?」
「確かにそうだな。」
「はぁ~!……でも、負けて良かった!登ってた血が降りてきたよ。」
「そうだ。学年別剣術大会、出るんだろ?その時は万全の状態でシオンと戦いたい。」
「え?私まだ申請してないよ。出る気も無かったんだけど……。」
「あれ、ヴィネがそう言ってたけど?」
「アイツ、勝手に申請しやがったな!……ま、いっか。私もユズハにリベンジしたいしね!」
少し引きつった顔をするユズハを見て頬が緩む。
「さて、今日は早退しよう!」
「その方が良いよ。教官には俺から上手く言っとくから。」
「嫌な思いさせてゴメンね。そして、ありがとう。」
――――シオンが早退した放課後、選択科目の授業も終わり、寮に戻る途中にカルティと出会った。
「おう、ユズハ。」
「お疲れさん、カルティ。」
「今、帰りか?」
「あぁ、カルティも?」
「そう。あ、今から時間あるか?」
カルティに誘われ、食堂に向かう事になった。思えば、久しぶりに言葉を交わしたな。
「なぁ、夏期休暇はどうするんだ?」
食事を済ますと、4日後に迫った約1ヶ月の夏期休暇の話題になった。
「俺は両親の所へ一旦帰るかな。学校の訓練場は整備期間で使えないから、ギルドの訓練場を使おうと思って。」
「そうか。俺とヴィネは伯父の所に帰るつもりだ。」
「シオンはどうするつもりかな。」
「家の事情があるからな。多分、俺らと一緒に帰るんじゃないか?」
「そうなると、1ヶ月は会えないな。」
「なら、遊びに来いよ。伯父にも紹介したいからさ。」
「クラウンズ家に?!良いのかよ。」
「もちろん、アイオリアさんとも面識があるしな。」
「じゃぁ、暇を見つけて遊びに行くよ。」
「おう、待ってる。」
そんな話をしていると、ガチャリと食堂の扉が開く。大きなあくびをしながら入って来たのはシオンだった。
「あっ。……まぁ、いっか。」
「少しは恥ずかしがれよ。」
「ゴメン、二人に恥じらいは必要ないかと思って。」
「男として見られてないぞ、カルティ。」
「見られるのも、どうかと思うけどな。」
「あ~、嫌な感じ。」
「お互い様だろ。」
シオンは早退後、寮で眠っていたらしいが、腹が減って目が覚めたらしい。目の隈はまだ残っているが、顔色は今朝よりも良くなっていた。
「シオンは夏期休暇、どうするんだ?」
「そうそう、ユズハに聞きたい事があったんだ。」
「ん、何?」
「ご両親、ギルド経営してるんだよね?休暇の間、訓練場借りれないかな?」
シオンも俺と同じ考えだった。他の冒険者も使用するから、時間は限られていると伝えたが、それでも良いと答えが返ってきた。
「じゃぁ、伯父にはよろしく伝えておくよ。」
「さてと。カルティ、そろそろ戻ろうか。」
「だな。シオンはごゆっくり。」
「え~、つれないなぁ二人とも。」
「そんな性格だったか?」
「女心は水物。どこに流れ落ちるか分からないものよ?」
「カルティ、行こ行こ。」
「あぁ、行こう。」
「ちょっと!付き合いなさいよ!」
結局、シオンが食事を済ますまで残り、三人で食堂を後にする。そして、ほんの僅かだがシオンの食べ方が綺麗になった気がした。




