28 シオン対ユズハ
互いに向き合い、一礼をする。シオンは上段に木剣を構え、俺は下段に木剣を落とす。幸い訓練場に人影は無く、誰にも邪魔されずに済みそうだ。
辺りは静寂に包まれ、シオンの息遣いが聞こえる程だ。
シオンが一歩、間合いを詰めると、俺も一歩下がり、間合いを外す。それを何度か繰り返したが、一向に打ってくる気配がない。
(流石にこの程度じゃ誘いに乗って来ないか。)どんな状況でも負けはない。と言っていた割には冷静だ。勢いに任せて打ってくる剣にカウンターを合わせようと考えていたが、当てが外れてしまった。
「どうしたの?来ないの?」
シオンはまた一歩踏み出す。今度はそれに合わせてワザと半歩後ろに下がった。間合いに変化が起こった瞬間、シオンは強く踏み込み、まるで飛泉のように上段から木剣が振り下ろされる。
想像以上の剣速にカウンターを合わせられず受け止めるのが精いっぱいだった。俺は木剣を撥ね退け、中段に構え直す。
反撃を恐れてか、後ろへ下がり間合いを外す。その顔は驚いた表情を見せていた。討ったと思った一撃を受け止められたのが予想外だった事のように。
「貴方、そんなに強かったかしら?」その言葉に耳は貸さない。そんな余裕はさっきの一撃で、とっくに吹っ飛んでる。
警戒心を強めている今、こっちから仕掛ける。俺は剣先を左に少し傾けると、シオンは目で追っている。
それを確認し、剣をゆっくりと元の位置に戻す。と同時に斜めに大きく右足を踏み出し、視界から外れる様に姿勢を低く取る。
ピクリとシオンの体がそれに反応する。でも遅い。既に腰を捻り上げ放った一撃は、シオンの左脇腹を捉えトン――と叩く。
全身の力が抜けたように、ダランと両腕を落としシオンは俯いた。
「負けちゃった……。」そう呟くシオンの頭に手の平を乗せ、くしゃくしゃと撫でる。
「ちょっと、やめて!髪型がぁ!」
「髪型?今朝とそんなに変わらないよ。」
「え、そんなにぼさぼさだった?」
「うん。」
「あはは……。そっか。」
――――負けるはずがない。
確かにユズハには伸びしろがある。でも、それは私も同じだ。それに、こうして向き合っていても、カルティやヴィネのような圧力を感じ取れないからだ。
私は上段に木剣を構え、隙あらば一気に片を付けてやろうと左足を一歩踏み出した。それに合わせる様にユズハも一歩下がる。
何度も繰り返している所を見ると、間合いを嫌がっているのでは無く、私を誘っているのだろう。
「どうしたの?来ないの?」
ワザと挑発するようなトーンで言い放ち、一歩踏み出すとユズハは半歩後ろに下がった。そんなにも私の剣を誘いたいのなら、敢えて乗ってやろうと思った。
間合いの境界線につま先が触れる。私はこの間合いからの攻撃で、討ち損じた経験は少ない。
剣速、タイミング共に申し分のないの一撃を放ったはずが、ユズハにそれを受け止められる。それもカウンターを意識したような形でだ。
私は反撃を恐れ、咄嗟に間合いを外す。
「貴方、そんなに強かったかしら?」
動揺を隠すように、思わずそんな言葉が口を吐いた。それでもユズハは気にする事も無く、今度は中段に構え私を見据える。
――ゆらり
ユズハが剣先を右に傾ける。警戒心に囚われていた私は、初撃を見極めようと視線を合わす。
その剣先が元の位置に戻るのを見た瞬間、ユズハの姿が目の前から消える。微かに視界に映った時はもう遅く、左の脇腹に軽く木剣が当たっていた。
剣技“視奪”
本来、体を上手く使い、相手の意識を集中させ、剣を死角から抜き打つ剣技。
しかしユズハは、剣先だけで視線を奪い体ごと死角に入れた。それを可能にさせたのは鍛えられた体幹と、私の警戒心を利用したからだろう。
項垂れる私の頭を、ユズハはくしゃくしゃと撫でる。それが、何故か心地良くて安心出来た――――
「あ~、疲れた~。」仰向けになり大の字になる。その傍でユズハは、片膝を立て腰を下ろす。
「私は強くならないといけないの。」
「うん。」
「どうして?」とは言わず「うん。」と応える。それは私に、話しても良いし、無理に話さなくても良いよ。とも取れる気遣いを感じさせる返事だった。




