27 学年別剣術大会
「よう、アイオリア。少し気になる事があったんだが、時間はあるか?」
「何だイスノキ。手ぶらで帰ってきた言い訳でも聞かせくれるのか?」
「……まぁ、そんな所だ。」
俺達は昨日あった出来事をアイオリアに説明する。話を聞かせるにつれアイオリアの表情が硬くなり、何か考え込んでいるようにも見えた。
「何か心当たりでもあるのか?」
「まぁな。一つ聞くが、その話を誰かにしたか?」
「あぁ。その空間では、お前の息子とそのクラスメイトと一緒になってな。あとは、教官達に経緯を説明している。」
「ユズハも?!ユズハは無事なのか?!」
「大丈夫だ。お前が心配するほど彼は弱くない。むしろ同年代では上の方じゃないか?」
息子を褒める気持ちを込めて、本心を話したつもりだがアイオリアの表情は硬いままだった。
「イスノキ、実はミカ達もその現象に遭遇している。」
「まさか、ミカさんが左腕を失くした原因は……。」
「想像通りだ。ミカ達はその現象の根源を倒して生還している。」
「根源?おかしいな、俺達はそんな奴を倒していない。仮に倒したダストエルフが根源だとしても、そんな力があるとは思えなかったぞ。」
「それが引っかかる。もし、根源を倒せば生還できると勘違いしているのであれば、何者かが意図的にその空間を創り出している可能性が高い。」
「そうなると、俺達やミカさん、お前の息子も、その何者かに顔が知れてる事になるな。」
「そうだ。俺らギルドも情報を集める準備をしているが、まだ時間が掛かる。だからイスノキ、くれぐれも気をつけてくれ。」
「わかった、ありがとな。」
「それと、依頼未達成のペナルティは、その情報でチャラにしてやる。」
最後に場を和ませようとするアイオリアを見て、相変わらず優しい奴だと改めて思った。
(俺が王都を離れず、このギルドに世話になるのは、お前が居るからだよアイオリア。)
――――「ユズハ、大丈夫だったか?」
そう言って俺の部屋に訪れたのはヴィネだ。どうやら、実技訓練の話題は思ったより知れ渡っているみたいで、他のクラスでも話題になっているらしい。
「ヴィネは魔物と戦った事あるか?」
「ん?あるぜ。ベインさんに連れられてな。ユズハだってコボルトと戦ったんだろ?」
「でも、一対一じゃなくクラスメイトのパーティーだったから。」
「あぁ、そういう事か。酷な話になるが、俺達はいつか死ぬじゃなくて、いつ死んでもおかしくないんだよ。嫌な事を言うけど、ユズハの師匠のミカさんもな。」
「あのミカさんが死ぬなんて考えられないけど……そうだよな。」
「冒険者ってのはそんなもんだ。」
「ヴィネは怖くないのか?」
「普通は怖いだろーな。でも、自分の命よりも大切なもん、思い浮かべりゃどーってことねーよ。」
「今の俺にあるのかな。」
「ははっ!俺を大切にしろ!」
そう茶化した後、話を続けるヴィネの表情は真剣だった。
「カルティやシオン、一緒にパーティを組んだ奴ら。これからどんどん増えるさ。それに、ユズハが倒した一匹の魔物が何人の命を救うと思ってる?」
「そういうもんなのかな。」
「ユズハは考え過ぎなんだよ。“偽りは後悔を生む”んだぜ?ここぞ!って時には素直になれ。後先考えずにな。」
「わかった。ありがとう、ヴィネ。」
「いいってことよ。それより――――」
話題は秋月に行われる、学年別剣術大会になった。俺達1年は総勢45人。その内、剣士希望者と魔導師希望者に別れ、大会が行われる。参加資格は特に無く、期日までに参加申請を出せばいい。
ヴィネ、シオンは既に申請を出している。カルティは不参加だ。何か理由があるかも知れない。
俺は迷っていた。カルティやヴィネ、シオンと手合わせを何度かしたが、実力差がはっきりしているからだ。参加したとしても、負けが見えてる。
「俺はユズハと本気出して戦いたいと思ってるぜ。」俺の迷いを察したのか、ヴィネはそう言い残し部屋を出て行った。
――――それから一週間が経った。寮を出て、いつも通り教室へ向かうと、途中でリノ達と出会う。
あの日依頼、パーティー全員に信頼関係が生まれ、友達として共に行動する事も多くなった。軽い挨拶を交わし、教室に入ると机にうつ伏せになっているシオンが目に入る。
ここ数日、そんなシオンを良く見る。どこか体調が悪いのかと心配になる程に。隣の席に座ると、ハッとしたように顔を上げ、「おはよう。」と声を掛けてきた。
「おはようシオン。てか、目の下の隈が酷いな、顔色も悪いし。」
「心配ありがと。でも大丈夫。」
そう言葉を交わすと、またうつ伏せになる。
時間は進み、昼休みになるとシオンは足早に教室を出る。少し気になった俺は、後を追うことにした。シオンが向かった先は訓練場だ。木剣を手にして2階にある自動人形のある部屋へと入る。強化ガラスの外側から、しばらく打ち合いを見ていたが足元は於保着かず、ふらふらと今にも倒れそうだ。
「痛っ!」
自動人形の振り下ろした木剣が、シオンの手首を弾く。ガタン!と木剣が床に打ち付けられた。
「シオン!大丈夫か?!」
慌てて部屋に入ろうとしたが、シオンは手の平を向けて静止を促す。それでも強引にドアを開け、手を掴んだ。
「明らかにやり過ぎだ、シオン!」
「ダメ、私は強くならないといけない。」
「体を壊したら、意味ないだろ?」
「放って置いて。ユズハには関係ない。」
「……じゃあ、俺と勝負しろ。」
「はっ?何でそうなるのよ。」
「今のシオンになら勝つ自信があるからだよ。俺に負けて自分の状態を見つめ直せ。」
「私が貴方に負ける?あり得ないわ、たとえどんな状況でも。」
貴方か……。わかっていたけど、やっばり下に見られていたな。けど、当たり前だ。俺達は仲良しこよしになる為に、この学校に入ったワケじゃない。そう言ったシオンの言葉を思い出す。
そして、俺は木剣を手に取り、シオンを1階の模擬戦場へ誘った。




