26 イスノキ一族
書き直し、再投稿しました。改めて、よろしくお願いします。
(おかしいな。死体が残らず粉になるのは。)
俺達の住むこの地には、二種類の脅威が存在する。一つは、環境に適応した生物が子孫を残し、生と滅びを古くから繰り返す存在、魔物や魔獣。
もう一つは魔生物と呼ばれる未知の生物。そいつらは、平行世界からの干渉事変の時に紛れ込み、その数は何千、何万と言われている。
特徴的なのは“異形”というのに相応しいその姿だ。腕や足だけが異常に発達した者や、2mを越える巨躯を持つ者が多い。
その魔生物を倒すと、白い粉となり消えていくが……。
「どうしたの?ハジメ。」
「いや、ダストエルフって魔生物じゃないよな?」
「存在したのは確かよ。文献にも載ってるし、骨格も採取されてるしね。」
「じゃぁ、なぜ死体が残らない?」
「それもそうね……。」
この古城といい、数千年前に存在したダストエルフいい、俺達はどこに迷い込んだんだ?少しの不安と好奇心が天秤を揺らし安定しない。こういう時に限って良くない事が起きる――――。
「イスノキさん、さっきの戦闘は身体能力強化を使いましたよね?体は大丈夫なんですか?」
「あぁ、あれはちょっと違う。」
俺が使ったのは、魔力による身体強化ではなく、“生存本能”による強化だ。
その仕組みは、体内に流れる魔力を激流のように循環させるだけだ。脳は突然の体内の異変に、命に危機が迫っていると誤認する。
人は命の危機に瀕した時、脳が命を守る事を最優先に考える。そして、脳が俺に出した答えは、“今ある能力を限界値まで上げ、危機を脱せよ”だ。
その条件で得る現在の身体能力は、冒険者階級・智天使ほどの戦闘力になる。
魔力での強化より、身体に掛かるリスクは少ないが、デメリットが二つある。一つは脳を誤認させられるタイムリミットが約7分、それを超えると脳は正常を取り戻す。もう一つは、今ある能力の限界値を決して超えないという事だ。
命を守るという答えに、限界値を超えるという事は寿命を縮めてしまう行為に繋がる。脳はそれを恐れ、無条件でリミッターを掛けてしまうのだ。
「そんな力が……それは身に付けられる物なんですか?」
「いや、それは分からない。ただ、俺を育ててくれた女性が教えてくれたんだ。」
「その女性は?」
「死んだよ、病でな。」
「ほら、無駄話してないで。行くわよ?」
ソフィーに諭され、俺達は城内に足を踏み入れる。
――――古城・王宮の間
「サカキ、侵入者ですけど……どうする?」
「“ユッカ様の亡骸”も手に入った。ここには用はない。」
「相変わらず固いですね。少しぐらい遊び心を持っても良いんじゃないですか?」
「我らの復讐に遊びはいらない。」
「でも、前はシルフ・シルフィードを嗾けましたよね?」
「あれは遊びではない。世界の戦闘能力を測る為だ。」
「驚いたよね。過去に最強と言われた男が、たかが冒険者程度の人間に倒されたんですから。」
「その為に、生まれながらにして“異能”を持つイスノキ一族の亡骸を集めているのだ。」
私の名は“サカキ・イスノキ”、共に居るのが“エリカ・イスノキ”だ。我々はイスノキ一族の末裔であり、この世界への復讐というユッカ様の悲願を叶えるために行動をしている。
「エリカ、遡及顕現を解くぞ。」
「了解です。」
私の異能、“遡及顕現”は、過去の地形や建物等の一部を現在に顕現させる能力。この周辺一帯を過去に存在した地形へと変化させている。しかし根本から変化させることは出来ず、別の空間内に顕現させている。
この古城も、元は小さな火山だった花簪山が噴火を繰り返し、標高800mにもなる前に建てられた物だ。
そしてエリカの異能、“死現”は、遡及顕現内でのみ、その地で命を落とした死者を留める事の出来る能力。 ユッカ様の亡骸を手に入れる間、妨害の為に放ったダストエルフも、迫害を逃れこの地で死んだ者。
“死んだ者の魔力が、全て源に帰すとは限らない”これは、我らの能力で知った現実だ。
――ジジッ
「どうした?ユズハ。」
「いえ、何でもありません。」城内に入り込んだ瞬間、一瞬景色が歪んだような気がしたけど、本当に気のせいかもしれない。
「ねぇハジメ、城壁を見て。」
ソフィーさんの指摘に、俺達は奥の突き当りに見える城壁に目を向けると、いきなり雷が走ったように亀裂が入った。
やがてその亀裂は、俺達を囲むように周辺にまで及び、ガラスが割れる様にバラバラと崩れ始める。
「どういうことだ?……これは。」
崩れた箇所から見慣れた景色が現れる。そう、目の前には花簪山が高々と姿を現したんだ。そして、その麓には教官を始めクラスメイトの姿が入り込んだ。
「ユズハ?!」そう言ってシオンが駆け寄ってくる。それを見て教官も向かって来た。
イスノキさん達が事情を説明している中で、シオンから経緯を聞くと、どうやら俺達は遭難したと思われていて、帯同していた他の教官達が捜索に出たらしい。
隈なく探したが見つからず、いよいよ王国騎士団の協力要請を出す寸前だったようだ。
「とにかく、無事でよかった!」バンッと背中を叩かれ、緊張から解放されたのか、ヘナヘナと腰から崩れ落ち尻もちを付いてしまった。
「あ~……しんどかったぁ。」
「何があったか、詳しく聞かせてよね。」
この事件がきっかけとなり、のちに事態は大きく急転する。何故なら、各地で同じような事象が頻発するようになるからだ。




