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21 カグルマ・アイスティ

 酒場の扉に手を掛ける。ガランガランと、入店を知らせる錆びた鐘の音が店内に響く。


「よう、ミカ!左腕の調子はどうだ?」

「痛みも引いてマシになったよ。ただバランスがね。また鍛え直しだ。」

「かぁー!相変わらず鍛錬の虫だな!」


 この酒場は一般客よりも冒険者の割合が大きい。なにせマスターが元冒険者だからな。合う合わないにせよ、私達の気持ちを汲んで愚痴やら自慢話を何も言わず聞いてくれるのが有難い。


 カグルマはまだ来てないし、先にツマミと酒を頼んでおくか――――。



 しばらくすると、似非(えせ)熾天使と揶揄(やゆ)されながら私に向かってくる男がいた。カグルマ・アイスティだ。


「待たせたでござるか?ミカたん。」

「師匠に言われたんだよ、人を待っても、待たせるな!ってな。それより、その呼び方はやめろ。」

「ミカたんは(それがし)の個性を潰すおつもりか?」

「はぁ……。」


 カグルマ・アイスティ。武器マニア(ウェポンマスター)と二つ名付きの冒険者だ。階級は最高位の熾天使。と言っても戦闘能力はそこそこで、智天使階級の私より低い。

 ただ、冒険者階級は戦闘能力だけで評価されるわけではない。冒険者ギルドや国への戦闘以外での評価も含まれるからだ。


 カグルマを熾天使へと押し上げた評価の1つに、二刀流という両手に剣を持つ剣術の、本当の技術を見出だした。という実績がある。

 以前の二刀流は、同じ長さの剣を両手に一本ずつ持ち、攻守共に併用するのが主体であり基本とされてきた。

 しかし、カグルマは利き手には長剣を、もう片方の手には小剣を持つよう発案する。その行為は、当時の二刀流を主体とする剣術家からの猛反発を受け、カグルマは決闘を強いられた。


 いざ決闘が始まると私は目を疑った。従来の二刀流剣術は攻撃の手数が多く攻撃の型とされていたが、カグルマはその猛攻を小回りの利く小剣で凌ぎ続けたのだ。攻撃の型と言われていた二刀流剣術はその後、防御の型として現在に至る。


 決闘の結果はカグルマの体格を見ればわかるだろう。小太りな上に、当時は剣術の()()()も知らないような男だ。攻め疲れた相手が根を上げ、引き分けになった。


「で、本当に師匠の事を知りたいのか?」

「うむ、でござる。」



 ――――セツナ・ツキシロ。ミカたんはいつになく真剣に、そして静かに語り始めた。


 この世界に姓や名を逆に呼ぶような習慣はない。例えば俺のようなカグルマ・アイスティを、アイスティ・カグルマと呼ぼうとも好きにすればいい。という感覚だ。しかし、セツナ・ツキシロという名を聞いた時、何とも言えない違和感を覚えた。でも、その違和感は名と姓を言い換えるとあっさりと消え去った。


 “ツキシロ・セツナ”


 俺にとって聞き覚えの無い名前ではあるが、聞き慣れた響きのある名前だった。そう、彼はきっと()()()()()()()()


 謁見の場でも聞いていたが、彼はこの世界の住人ではない。そこで思ったのが、どうやってこの世界に迷い込んだのか?だ。その疑問に対しミカたんは、この世界と異なる次元を彷徨い辿り着いたと話す。

 正直、俺にとってそれは考えにくい。異次元なんてゲームや漫画の世界として存在し、実際に日本で、世界で、地球でもその空間は存在していないからだ。

 百歩譲って可能性があるとすれば、異次元が存在する、地球ではない似たような惑星から来たという考えもあったが、ミカたんの次の言葉で、その考えは吹き飛んでしまった。


「師匠は“霊視(れいし)”という異能(スキル)を持っていて、私達には認識出来ない物や人物を認識できる力を持っていたんだ。」


 彼について、エクス王からの話にも出てきた“霊”や“霊界”というキーワードに、もしや……と可能性を感じたが、霊視ともなると明らかに地球人にして日本人だ。何故なら霊視なんて言葉、俺からすれば日本人、拡げれば地球でしか聞いた事が無いからだ。


 この時点で、彼について俺の知りたい事は全て知ったのだが……ミカたんの話は留まる事を知らず、夜明けまで続く事になった。


「じゃ、じゃぁミカたん、俺帰りますね。」

「おい待て!って、お前個性が薄れてるぞ?!」

「勘弁してくださいよ。」


 ツキシロセツナか……。俺とは異なる方法でこの世界に辿り着いた男――――。



 この世界ではカグルマ・アイスティと名乗っているが、俺の本当の名前は“二階堂静正(にかいどうしずまさ)”、日本人だ。元の世界では26になっても定職に就かず、個室ビデオ店でアルバイトをして暮らすアクション映画やゲームが好きなただのオタクだ。eスポーツも(こころざ)したが若い奴らの反射神経について行けず断念。何をやっても続かず、いつも何かの所為(せい)にして生きてきた。

 そんな俺がこの世界に来たのは5年前。目が覚めたら寂れた家屋に寝転がっていた。辺りを見渡すと怪しげな人形や壺、所々穴の開いた木の床には魔法陣らしき文様が施されていた。


 最初はパ二クって無駄に一日を過ごしたが、寝ても覚めても何も変わらない。いつものように何かの所為にしようにも、その何かが無いんじゃ現状を受け入れるしかなかった。気怠(けだる)い体を起こし、ひび割れた窓の外を見ると、空には見た事もない鳥がギィギィと鳴き、辺りは欝蒼とした森林だけ。

 これは異世界か?!と思いステータスや加護、異能(スキル)など、夢のある小説に出てくる設定を試してみたが、どれも引っかからない。どうやら俺は、特別な力を持った主人公でもなければ、勇者でもないようだ。


 それから俺は家の中を徹底的に探り、少しの食料と地図、ゲームの攻略本に載っていそうな剣を見つけ家を出た。程なくして山伏(やまぶし)みたいな男に会い、記憶喪失を偽りこの世界の事を聞くと、やはり正真正銘の異世界だった。

 朝と夜を数え、その男に3日ほどお世話になった俺は、近くの村を目指す為に別れを告げた。そして村に着いて数ヶ月、色々な困難や災難にあった。特に村で唯一の剣術道場での決闘は完全に俺の所為だが……。そういえば、そこで出会ったのがミカたんだったな――――。



 柄にもなく少しの寂しさを感じながら、王都にある宿へと辿り着く。部屋に戻った俺は一杯の水を飲み、無気力にベッドの上に倒れ込んだ。

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