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15 仇も情けも我が身から出る

「あ~、さっきはゴメン。」私に頭を下げてきたのは、ユズハ・アイオリアだ。決して彼も悪気あって、責めてきた訳じゃないと分かる。


「ユズハ君だっけ?いいよ。私も、もう少し魔力を抑えれば良かったね。」

「えっ?あれでも魔力を抑えてたのか?」

「そうだよ――――」


 15年前、私は宗教国家シャダイの領地の一角を治める領主ヒラド家の長女、“リンネ・ヒラド”として生まれ変わった。しかし、私に神となれと言ったシャダイと同じ名前の国家だったとはね。

 それはさて置き、ヒラド家は代々魔導師の家系で、数多くの有能な魔導師を世に送り出していた。

 しかしジュリスの代では、母親が病弱なため後継者を望むことができず、孤児院から魔導師の才能を持つ養子を取り、既に後継者として教育していた。


 しかし病弱だった母親の体は徐々に体力を回復し、やがて私を身籠ることになった。でも、これは全て仕組まれた出来事。

 その理由は、神霊シャダイが用意周到に下地を整えていたからだ。さらにシャダイは偶像崇拝者達を導くルドルフ教皇に、“ヒラド家に神となる子が生を受ける、その者は汝の偶像を実現と成すだろう”と神託を授けいた。


 赤ちゃんの頃から今まで、欲しいものは何でも与えられた。「これが与えられる喜び…。」前世では考えられないほど大切に育てられ、それは養子だった義理の兄の存在をかき消すほどだった。


 私が6歳になった頃、ルドルフ教皇が尋ねてきた。今思えば、私を試したのだろう。離れにある使われていない家屋に連れられ、いきなり火の魔法を家屋に放ったのだ。

 轟轟(ごうごう)と燃え盛る家屋を指さし「この炎を消して見せよ!」と言いう。私はパフォーマンスを忘れずバッと両手を空に伸ばし「雨よ降れぇ!!」と叫んだ。前世でも雨は何度も見ているからイメージしやすい。


 周囲の湿度が急激に上がり、空を見上げれば雨雲が発生した。


「……なぜ両手を空に()げるのか知らんが、天候をも操る事が出来るのか?!」


 局地的に降り出す雨の中、それを見た父親とルドルフ教皇は私に跪いた。そして顔を上げ「シャダイ様、お待ちしておりました。」と声を震わせた。シャダイと言われると、なんとなく腑に落ちなかったので――――


 「私はリンネ、リンネ・シャダイよ。」ちょっとワザとらしく声を作り言葉にした。その時の父親と教皇の顔は、まるで子供のように瞳を輝かせ、さらに涙さえこぼしていた。


 それから国家を象徴する都市、“神都シャダイ”にある教皇院に連れられ、集まった信徒達に教皇は、大々的に神の誕生を告げた。一瞬の沈黙の後、怒号にも似た大歓声が沸き起こる。私の体は何とも言えない喜びと快感に襲われ、その衝撃に対し脳が処理しきれず、気を失ってしまった。



 ――――2年後


「神に仕える騎士…ですか。」

「そうです。リンネ様を守る騎士を、自らお呼びになられるのです。」


 どうしよう…そんなの出来るかどうかも分からない。呼び出すってスマホ感覚でいいのかな…。


「リンネ様、聞いておいでですか?」

「は、はい?」

「ですから、我々はリンネ様がご誕生なさる前から“神降ろしの儀式”を行っておりました。その儀式に描かれた魔法陣を使い()()なさるのです。」


 ちょっと待って。神降ろしって、神様を呼ぼうとしたのよね?それって成功してないよね?成功してたら私は必要ないじゃん。結果が出てるのになんで召喚できると思ってんの?


「それは…。」

「おお、神の世界から騎士を召喚なさるのですね!わかりました、今すぐ用意に取り掛かりますぞ!」

「ちょっ!!」


 そして数日も経たないうちに神降ろしの儀式は執り行われることになった。私は祭壇に立ち魔法陣を見下ろす。その時、ピンと閃いた


 “そうだ!失敗したら魔法陣に欠陥があった事にしてやろう”


 (さて、問題は召喚よね。召喚って言うぐらいだから、あの魔法陣から人間が出てくるイメージ?いくら創造魔法だからといって、人間をどこから呼び出せばいいものなの?)


 散々悩んだ結果、腹を括るしかできなかった。私はイメージする。たしか、前世の世界に好感度抜群で、天才子役と言われた男の子がいたわよね……。大きくなったらイケメン俳優になると思ってたっけ。今は私と同い年ぐらいだったかな。


 (よし、イメージは決まった!)バッと両手を揚げ、それらしい言葉を並べながらイメージする。天才子役の名は“柊和弥(ひいらぎかずや)”!


「我を守りし神界の騎士よ!我を守る()()を持って顕現せよ!!」


 そして勢いよく魔法陣に魔力を注ぐ。驚いた事に魔法陣は、私の魔力をこれでもかと吸収し始める。魔法陣は徐々に光輝き、爆発するように閃光を解き放った。

 しばらくの間、視界が真っ白になったが徐々に色を取り戻し始め、魔法陣が見えてきた。するとその中心には、全身に大火傷を負った1人の男の子が苦しそうにうずくまっていた。


 (失敗した?!)私は慌てて傍に駆け寄り様子を伺う。全身が赤黒く焼け(ただ)れ、呼吸も浅い。咄嗟に魔力を当て火傷が治るイメージをする。後で知ったが、この方法は魔力を当てる、または流し込む事で裂傷等を治す回復魔法と呼ばれるものだった。


 治れ!治れ!と念じながら魔力を当てていると、みるみる火傷は回復し呼吸も落ち着いてきた。私は何か言いたげそうな教皇らを無視して、急いで部屋の用意をするよう指示した。


「魔力を使い過ぎたので、しばらく回復に努めます。くわしくはその後で。」


 教皇にそう伝え、ガチャリとドアを閉め鍵をかける。ベッドに横たわる男の子を見て、ふぅ~っとため息を吐いた。


「どっからどう見ても柊和弥だわ、これ…」火傷を負っていた時は分からなかったが、テレビで見たまんまの本人だった。


「う、ううん……。」

「気がついたみたね。」

「え…っと…。」

「君は大火傷を負ったところを、私が見つけて治療したの。」

「そうだ!撮影場所で爆発があって…って、ここはどこ?」


 どう言えばいいのか散々考えていたが、上手く誤魔化せるような言葉が浮かばなかった。ここは私の正体を含め、正直に話すしかない。



 ――――「……面白い!まるでゲームの世界だ!」


 これまでの経緯を話すと、私の事はニュースで知っていて、彼はすんなりと信じた。今置かれている状況にも、特に驚くこともなく逆に楽しんでいるように見える。


「正直、役者仕事にも疲れてたし、あの爆発は確実に死ぬと思った。だから、元の世界に興味はないよ?」

「そんなんでいいの?」

「うん、リンネの騎士にもなる。ただ、すぐじゃなくていいかな?」


 流石は天才子役……。恐ろしいほどの爽やかな笑顔と、心をぐっと引き付ける優しい声。こんなの見せられたら、我がままを聞くしかない。私は神霊シャダイがやったように、彼の頭に直接この世界の情報を与えた。


「……リンネ?なんかリンネの右肩辺りに数値が見えるよ?」

「どんな?」

「継続戦闘時間:16時間、潜在属性個数:全、総戦闘力数値:96000…かな?」



 これも後で分かった事なんだけど、私が召喚時に言葉にした神技というワードが、柊和弥に相手の能力値(ステータス)を見るスキルを与えていたみたい。


 この一連の出来事も大喝采を受け、その快感の虜になった私は“何をしても称えられる存在なんだ!”と信じて止まなかった。


 そして


“ユズハ・アイオリアに責められた時に気づくべきだった”


 自分の愚かさを。

リンネの5年後を書いた最後の文章、いわゆる神の声を削除しました。(超都合により)


ご愛読ありがとうございます。

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