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異世界でも、ホームセンターは必要なようです。  作者: 切り花のほとんどは菊
8/10

小は大に怯える

「山本さん。店長に何もされてない?大丈夫?」


夏の鮮やかな花苗が並ぶ園芸コーナーで、花の手入れをする山本さんに話しかけた。

いくら山本さんがドSとはいえ、少し心配だった。面接後の店長の頬を見るに断れる性格だろうとは思うのだが、セクハラ・ダメ・絶対である。


「はい。大丈夫ですよ。

面接の時、私の母に手を出したいから連絡先を教えて欲しいとお願いされましたが、平手打ちかましたら、許してもらいました。」


「う、うん。そっか。」

(なんか、大丈夫そうだ。)


「ハーフエルフも良いけど僕はエルフを愛してるんだ!とも言っていたので、ハーフエルフは店長の好みとは少し違うようです。」


「あはは。店長らしいね。

私の時も友達にエルフいないか聞かれたよ。これ、面接時の鉄板ネタでやってるとしか思えないね。」


「藤田さん!そういうことにしておきましょう。店長の名誉のために。」


私達は目を合わせると、無言で頷いた。


「すみません!アグリン産業です。検品お願いします!」


「はい!今行きますね!」


私は、検品用の機器を手に園芸専用の搬入口に向かった。アグリン産業は主に肥料や培養土など、園芸用品を取り扱っている会社だ。


3つのパレットには、園芸用品が山盛りに載っていた。私はバーコードをスキャンすると、到着した商品と注文した数があっているかをを確認していく。


全て確認し終わると、伝票にサインをした。配達のお兄さんは、伝票を受け取ると、さわやかに挨拶をして帰って行った。

私は、無線のスイッチを押した。


''園芸用品到着しました。''


''は〜い。重いのは、奥村が売り場に出しておくから、出せそうなのから商品出しお願いしま〜す。''


''承知しました。''


''はーい!よろしく〜''


答えてくれたのは、奥村さんだった。彼は正社員で、園芸売場のリーダーをしている。ちなみに種族は力持ちで定評のあるオークだ。


私は小さめの肥料から商品出しを始めた。

しばらくすると、小さめのものを出し終わり、5kg代の袋を手に取り出し始める。初めは、余裕だったが、のちのち足腰に応えてきた。


「お待たせ〜!」


奥村さんが大きめのリフトに乗ってやってきた。


「わぁ!藤田さん!それ僕が出しとくからいいのに〜」


夏の暑さもあり、激しい息切れをしながら「よいしょ」と叫んでいた私を見て奥村さんが言った。

奥村さんは体格も大きく、いかつい見た目だが、この店で1番口調も性格も優しい。


「ありがとうございます……ハァ、ハァ…。

後は…任せました……。」


「はぁーい!」


奥村さんはにこっと笑うと、20kgの袋を両肩に5袋ずつ乗せて運び始めた。

この店に入って来てすぐは、一瞬脳がバグっていたが、今はもう見慣れたものである。


(何度見ても、歩くリフトだな。)


水分補給を済ませると、店内の商品出しに入った。作業用手袋のコーナーで、せっせと商品を出していると「あの…」と控えめに話しかけられた。


私は、後ろを振り返ると、頭から2本角を生やした、女性の小鬼の姿があった。きれいな青い皮膚である。


「いらっしゃいませ。」


私はお客様と目線を合わせるためしゃがんだ。


「あの…花壇を作りたいので、土とレンガが欲しいんですが、どこにありますか?」


「はい。ご案内しますね。」


心の中でかわいい〜と悶絶しながら、私は園芸コーナーでまで案内した。


園芸コーナーまで行くと奧村さんが、園芸用品を全て出し終わり、パレットの片づけをしていた。驚きの速さだ。おそらく、この店の力仕事で彼の右に出るものはいないだろう。


「レンガはこちらになります。

あっ!カートをお持ちしますね?少々お待ちください。」


「えっ!?はい!すみません。ありがとうございます。」


小鬼のお客様は一礼した。

たぶんレンガを多めに買うなら、カートは必須だ。


店の入り口付近のカート置き場から、1台カートを押してくると、奧村さんが小鬼のお客様を接客していた。しかし、様子が変である。


「…は、はい。」


小鬼のお客様はプルプルと足が震えている。


「お待たせしました。」


私がカードを持ってくると、小鬼のお客様は素早く私の後ろに隠れた。


「あ〜。藤田さんが接客してくれてたんだね〜。

このレンガを50個だって〜。

僕、お客様のお車に乗せておくから、土をよろしく〜!重かったら、呼んでね〜。」


「はい。了解です。」


私は、小鬼のお客様と培養土のコーナーに向かっていた。小鬼のお客様は、プルプルと震えやがて涙を流し始めた。


「お、お客様?!大丈夫ですか?」


「う〜。怖かったです。」


(えー。あー!そういうことか。)


「お客様、先程の奥村リーダーは顔は怖いですが、中身はこの店で1番優しいので、ご安心ください。」


「う、う〜。はい。」


どうやら、小型の種族には、奥村さんが脅威にしか感じないらしい。どんなに笑顔でも、すぐに怯えられてしまう。でも、奥村さんは困ってそうなお客様がいれば、放っておけない性格なのだ。わりと、裏目に出てしまっていたりするが。


お客様は花壇用の土をすぐに選ぶとお会計をした。車まで土を運ぶと、奥村さんがそれをお客様の車に載せてくれた。


小鬼のお客様もさっきまでの怯えた表情はなくなり、最後は笑顔で「ありがとうございました。」と帰られた。


''石材用品到着しました。''


''はーい!奥村行きます''


奥村さんはリフトに乗り込むと、石材の置かれている搬入口へと向かった。


オークが積極採用される会社は大抵が建設業や重労働の工場などの職場だ。人間の倍の力を持つオークだ。納得もいく。実際、作業効率もかなり上がっているらしい。

しかし、接客業などには、少し敬遠されてしまいがちだ。いくら笑顔でも、体格差があればある程、お客様に恐怖を与えてしまうのだ。

加えて、昔は凶暴なイメージがあったようで、私も小学校の道徳で種族理解週間というものがあった。その中でも、オークやゴブリン、サキュバスなどの種族でも私たちと同じ知力、感情などがあるというのを教えられたし、お決まりの自分がされて嫌な事は他種族にもしない。というので締めくくられていた。

まぁ、なんにせよ、平和が1番なのである。


ちなみに、奥村さんは、その優しさと見た目のギャップから意外と女性にモテる。

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