放置と溺愛
園芸コーナーで働いていると、よく植物について質問される。
その中でも、多いのが…
「すみません。」
「はい。いらっしゃいませ。」
振り返ると、リザードマンの女性が立っていた。
「こちらで、1ヶ月前にミニトマトを買って、鉢に植えたんですが、枯れてしまって。」
そう、植物が枯れた、または植物の元気がないどうしたら良いかという質問だ。
実は、植物を枯らす原因はだいたい2通りある。1つは肥料や水を与えるのを忘れていたという放置パターン。そして、もう1つは…
「ちなみに水はどのくらいで与えてましたか?」
「もちろん。毎日あげてました。」
植物を可愛がりすぎて、肥料や水を過剰に与え、枯らしてしまうという溺愛パターンだ。
「お客様…。ミニトマトは乾燥気味が好きな植物なので、水を毎日与えるのは、今の時期では多すぎます。」
「えっ?!そうなんですか?」
「はい。枯れた原因はおそらく、水をあげすぎたことによる根腐れだと思われます。」
「何日に1回あげればいいですか??」
「基本的には土が乾いたら、というのを目安にしてください。それから水を与える時は、鉢底から水が出るまで、与えるようにしてください。
ミニトマトの場合は、水が不足して葉がしなしなになっても、水を与えれば元に戻ることが多いので、
葉っぱがデローンと垂れたらというのを目安にしていただいても大丈夫です。
ただ、真夏はミニトマト自体も大きくなり、さらに暑さで土が乾きやすくなるので、お住まいの地域によっては、水やりは毎日になるかもしれません。」
「わかりました。また、頑張って育ててみます!」
「はい!美味しいミニトマトが育つといいですね!」
お客様はリベンジに闘志を燃やし、ミニトマトの苗を買って帰っていた。
ちなみに、わたしは放置パターンだ。
夏は植物をよく枯らしてしまう。
レジで行列を作っているお客様の精算していると、横から声をかけられた。
「レジ交代の時間だよ〜」
猫獣人族の猫沢さんがレジ交代の時間に来てくれた。山田さんの次に長く勤めているパートスタッフだ。
「いらっしゃいませ〜」
猫沢さんは、のんびりと優しい声でレジの精算業務を始めた。
私は、お昼休憩のため園芸コーナーから休憩室を目指す。途中、液体肥料のコーナーで声をかけられた。
「あのすみません。」
「はい。いらっしゃいませ。」
蛇人のお客様は、希釈して使用する液体肥料を手に持っている。
「植物が元気がないんですけど、この肥料で大丈夫ですか?」
「今、その植物はどんな様子ですか?葉っぱが黄色くなってるような感じですか?」
「あっ!スマホで写真を撮ってきてます。」
「お写真あるんですね、助かります。
ありがとうございます。」
私はお客様からスマホを受け取った。
写真を見ると、観葉植物の若葉が黄色くなっている。
「元気なさそうですね。お客様、ここまで弱っている時に肥料分の濃ゆい液体肥料を与えてしまうと、そのまま枯れてしまいます…」
「えっ!?そうなんですか。」
「はい。なのでこちらの活力剤を与えてください。」
「活力剤?」
私は緑の液体が小さい容器にたくさん入った。活力剤のアンプルを紹介した。
「はい。こちらは肥料分が薄ーく入ってるような商品です。
一度、こちらを使っていただいて、植物が元気になったら、そちらの液体肥料をご利用ください。」
「わかりました!ありがとうございます!」
私は一礼すると、休憩室を再び目指した。
液体肥料と活力剤はよく一緒と思われがちだが、実はちょっとだけ用途が違う。そして、場合によっては、その代償は大きい。
お客様に質問してもらってよかった。あのまま、液体肥料を使っていれば、一生懸命お世話したのに残念な結果になっていただろう。
(なんか、いいことした気分…)
そんなことを考えながら、お弁当の唐揚げを噛み締めた。
(爬虫類もかわいいな…)