完璧な人間などいない。
''21番通路お客様対応できる方いたらお願いします!''
少し急いだ口調で、無線が入った。
(21番通路か…苦手なんだよな…)
''申し訳ない。土田、接客中です。"
''藤田、行きます!''
土田さんダメなら、とりあえず行くしかなかった。
私は駆け足で、21番通路に向かった。
「お待たせいたしました!」
ネジやボルト、釘のコーナーで待っていたのは、中年くらいの人間のおじさんだった。頭には黒いタオルを巻いている。
「コンクリートに打てるネジある?」
正直、ここに入って3ヶ月ほどの私には、まだわからなかった。素直に無線できいてみよう。
「すみません。ちょっときいてみますね。」
私はお客様に伝えると無線のスイッチを押した。
''お尋ねです、お尋ねです。コンクリートに打てるネジは当店取扱いありますでしょうか?''
''はい!壁側の棚の下の方にアンカーというものがあります。そちらを紹介してください。''
''はい!承知しました!
ありがとうございます。''
土田さんに無線で言われた通り、アンカーとつく名前の部品があった。
しかし、種類が沢山ある。
「これどうやって、使うの?」
お客様に質問されたが、わかりません。
経験不足です。本当にすみません。
「ちょっと、お待ちくださいね。
詳しい者をお呼びします。」
「最初からそうしてよ!」
お客様は半ばキレ気味だ。私はめげずに無線のスイッチを再び押した。
''すみません。社員の方21番通路、アンカーの使い方について、お客様へご説明お願いします。''
''土田、接客対応中です。''
土田さんの無線の後、数秒の沈黙があった。
あっ、これ詰んだわ。誰もいない。
''はい!渡辺行きます!''
救世主として来てくれたのは店長だった。
「お待たせ致しました。」
この時の店長は頼もしかった。
「コンクリートにネジとめたいんだけど、これ、どんなふうに使うの?」
「こちらのアンカーは下穴を開けていただき、電動ドライバーでねじ込んでいただくと、中で先端が開いて引っかかるので、コンクリートにねじ止めできます。」
「じゃあ、ドリルもいる?」
「はい。下穴を開けないといけないので、ドリルも必要です。
ドリルはお待ちですか?」
「うん。ドリルはあるけど、この太さの刃がないかもな。このお店にあるかな?」
「もちろん。取り揃えております。
38番通路の方にございます。」
「うん。どれかわからないから、一緒に見てほしい。」
「かしこまりました。」
店長は、私に向かって頷いた。
あとはやっておくから、作業に戻っていいよというサインだ。
店長…。
今までエルフ好きの変態だと思っていたけど、ちゃんと店長だったんだな。あとでお礼を言っておこう。
しばらくして、新商品の値札を出すために、事務所に入った。いつものように店長はパソコンと睨めっこをしている。
「店長。さっきはありがとうございました。」
「うん。今日は忙しいね~。」
「はい。」
「おっ!売上目標達成してる~。」
店長は両腕を上げ背伸びをした。
「さ〜。仕事終わったら、エルフのお姉ちゃんがいっぱい、いる店に行ってこよ〜。」
「………。
やっぱり、さっきのお礼、返してください。」
「え〜。でも、あのチラシくれたの藤田さんだよ〜。」
「本当に行ったんですか?」
「うん。」
「店長は、エルフのことがなければ、完璧ですよね。」
「え?なに?僕呪われてる?
あっ!でも、どんな呪いでも、エルフ族と結婚したら解けるかも〜」
「………では、私は仕事があるので…。」
このエルフの絡みの発言さえなければ、完璧な人間なのにな、残念。と思いながら、私は仕事に戻った。