お屋敷搬送
起きて、起きて……
誰かが起こそうとしている。誰だ
はやく起きて! 朝だよ朝!
この声は……!! ヒナか!
「ヒナ!?」と体を起こし、目を覚ます。また見知らぬ場所だ。
「急に起きたと思ったらうっせぇなあ」
周りを見渡すと、昔懐かしい教室の風景が部屋のように少し改造されている気がする。自分はベッドで寝ていたようで、隣にはルービックキューブで遊びながら話しかけてきた。真田さんとは違う人のようで、チャラっとした髪型に耳にピアスをつけていた。
「ここはどこです? ウッ!!」
体を動かそうとすると、ズキッと痛む。全ては夢ではないのがわかった。骨の痛みがないのだけが違和感。たしかにアイアンという大男に殴られた一撃は、確実に骨を砕いていた。しかしかろうじて動かせるのでおかしい。
「骨折はタイスケになんとかしてもらったんだよ。安心しろ。だが、痛みはなおせねーから気合でなんとかしろな」
カチャカチャとルービックキューブを鳴らしながら喋っていたが、一向に完成はしなさそうではあった。
「とりあえず起きれるなら、はやくヒラさんのとこへ行け。話があるらしい。俺からは以上だ。またな」
そう言って男は部屋を出ていく。セナは痛みを耐えつつ廊下を出ようとした。
ドアをガラガラっと開ける。すると、さっきの男の姿はなく、扉の前で待ち構えていたかのように女の子は立っていた。意識を失う前までの記憶がハッキリはしないが、彼女が真田さんと助けにきた人だろう。ゴスロリチックな服装にお人形さんみたいな顔。その顔には失礼ながら、生きようという希望的な表現が一切ない、正に無感情無表情である。
「真田師匠があなたをお呼びです。初めて来る場所でしょうから、本人のいる部屋まで私、笹金が道案内させていただきます。」
コクッと頷き、言われた通りついていく。廊下は元々学校なのか、ところどころに水道が設置されていたり、同じような部屋が何室かある。変な点といえば、全体的にバラバラに部屋が配置されていることだ。基本学校なら教室は同じ側面に綺麗に並べられているはずなのが、ここでは途中に水道やお手洗いが設置されているのでちょっとおかしい。
目的地まで遠いようで、二人の歩く音だけが廊下に響き続ける。規則的な歩くリズムが初対面同士の空気をズンと重くしてるのを感じた。
セナは勇気を振り絞り、話しかける。
「笹金さんもここに住んでるのかな?」
………………
無視。まさかの無視だ。
そんな気はした。彼女を見た感じ、あんまり人と関わりたくないオーラが出ていた。それでも、無視されてしまうと精神的にクるものがある。
顔をおもむろに下に向け気を落としてる中、笹金は扉の前で立ち止まった。
「着きました。ここを開ければ中に師匠がいらっしゃいます。私はここで失礼します」
セナが感謝の意を伝えようとした時にはもう遠くへと歩いていた。
笹金さん、ちょっと怖い。氷の女王のような凍てついた表情を溶かすにはなかなか困難で仲良くなるには難しそうな気がした。
とりあえず扉をノックする。「どうぞー」と真田さんの声が聞こえたので、扉をガシャと開けた。
校長室がまるまる使われてる寝てた部屋より少し狭かった。中央に真田さんが座り、その前にまた見知らぬ女の子が立っていた。
「お? セナおはよう。体の方は大丈夫か? すまんな、朝から呼び出して」
「おはようございます真田さん。体はちょっと痛みますが、この通り動けるので問題ないです」
「君の妹は私の仲間に捜索するよう指示している。その辺は安心してくれ」
「そうなんですね。助かります。ありがとうございます! 僕もお手伝いさせてください」
「まあ、そう焦るな。先ずは俺の話を聞きなさい。」
「は、はい」
真田は立ち上がり、コホンと一度咳き込む。そしてこう告げた。
「お前たちは今日からこの屋敷に住むことになる。集団生活をするにあたって、最初の指示を出す」
指示や命令などを言われると少し緊張感を持つことがないだろうか? セナはその状態であり、喉を鳴らす。
「晩飯を作れ?」
「「え?」」と2人が声を合わせた。
「ご、ごはんですか?」
横の女の子が口出しする。
「そうだ。腹が減っては戦ができぬっていうだろ? 最近は忙しいせいで、料理が全然できてなくてな。せっかく新人が来るんだから、これを機に任せようと思ってな。セナ、お前は料理できるんだろ? 父親に聞いたぞ」
「まあ、はい。ある程度のことなら問題ないかと……しかし何を作れば?」
「なんでもいいぞ。自分が得意なものでも構わん! とりあえず作れ。アイも大丈夫だよな?」
「はい、わかりました…………頑張ります」
「じゃあ決定だな。よろしくな。解散! あ、そうだ。ほうれんそうは忘れずにな」
ほうれんそう? 具材に必要なのだろうか。
「了解です」とセナ
真田さんは部屋を後にして、二人だけが残った。
隣りの子はアイって名前らしいな。なんでもいいか……そう言われると逆に困るな。カレーでも作ろうかな。
「初めまして。二階堂聖南と申します。よろしく」
「久田利藍って言います。アイと気軽に呼んでください」
笹金さんとは打って変わって、元気な感じで制服を着ていた。ボブショートがよく似合う。名前はどこかで聞いたことがある気がしてならない……
「アイさんって中学とか一緒でした?」
「んー、すいません! 覚えてないです。申し訳ない二階堂さん……」
「いえいえ、大丈夫ですよ。僕のこともセナって呼んでもらって大丈夫ですよ」
「じゃ、じゃあセナ君……でいいです?」
「はい!」
なんだろう、この気持ち。この気持ちはなんだろう。自分が恋愛経験がほぼ0のせいか、今にも恋が始まりそうなが気がする。下の名前を呼ばれたごときで、本能が飽和状態となり、今にもあふれ出してしまそうだ。
「それでは、何を料理しましょうか?」
アイが訪ねてきたので。理性が本能にドロップキックをかまし押さえつける。あほ面は即刻直し、すました顔で
「カレー……でも作りましょうか」と誘いをかけた。
「いいですね! とりあえずキッチンらしきところ見かけたので、材料を確認しませんか?」
「わかりました。行きましょう」
アイの後ろをついていくセナ。今日一気持ち悪い顔だ。
ヒナ、父さんごめん……僕の婚約相手決まったかもしれません。今度ふたりに紹介しますね。
危ない状況にあるのにもかかわらず浮かれまくるセナ。因みにこの恋は一切実ることはない。