行方不明
目を覚ます。悪い夢でも見てたんじゃないかと頭痛がひどく、眩暈も酷い。しかし、現実だとすぐに気づく。
見知らぬ天井。そうか、ここは病院か。
「セナ! おい大丈夫か!!」
横で自分の肩を揺さぶる父さん。おかげで、はっ!? と目が起きる。
「父さん!! ヒナは?! ヒナはどこに!?」
「分からない、行方不明届は出した。警察に対応してもらってるところだ。金子先生! セナが起きましたー」
窓を見ると夕陽が光を指している。かなりの時間、意識がなかったらしい。ここはニューザ総合病院であろうか。
父さんが呼んだ先生がやって来た。見た目は眼鏡をかけ、物凄く聡明そうに見える。顔立ちもよいが、髪がぼさっとしてて、どこか疲れ果てた顔をしていた。
「セナくん起きましたか。それはよかった。調子はどうです? どこか痛いとこはありませんか?」
「いえ、特にこれといったのはありません大丈夫です。ところで妹は運ばれてないのですか?」
「はい……通報を受けたときには、君しかいませんでしたね。」
「そ、そんな! 近くで妹がぶっ倒れたのを見ましたよ。いないわけがない。」
「救急隊員によるとですね。たしかにセナくん一人だけが倒れてるっておっしゃっていました」
セナは急に立ち上がり走り出した。
「まだ検査してないので、すぐ体を動かす行為はやめてくださーい」
金子医師の言葉を無視し、廊下を出る。
「ヒナー!! いるんだろ! ヒナー!」
病院で走り回ったり、大声出すのは禁止なんぞ幼稚園のころから知っている。しかし、彼は妹がいなくなった事実を到底受け入れることができなかったのだ。
足を止め、その場で泣き崩れる。泣いたのはいつ以来だろうか。あんなに守る守ると言ったのに、結果このありさま。今までボクシングや武道をやってきたのは何だったんだ。ヒナを危険から守るためだろう? あの公園の日以来今まで僕は……僕は……
自分の無力さと情けなさもその涙に入っていた。
この後、検査には異常はなかったのですぐに家に帰された。帰りの道中、父さんと会話を交わす。
「ヒナ、心配だな。頭殴られたのは本当か?」
コクリと頷くセナ。彼は絶望に打ちひしがれていた。
「そうか、大丈夫きっと生きてるよ。最近の警察はめちゃくちゃ賢いしな。戻ってきたら、いつも通り食卓囲んでご飯を食べよう」
ここで初めてセナが口を出す。
「父さんは何でそんな悲しそうじゃないの? ヒナがいなくなったんだよ。大事な大事な家族なんでしょ?」
「……」 と黙り込む父さんにセナは声を荒げた。
「なんか言ってよ! なんで……なんでそんなポジティブなんだよ!!!!!!!!!」
途端、父親は息子の肩を両手で触り、こう言い放った。
「大人だからだよ。俺だってな悲しいし悔しいよ。なんでそこにいてあげられなかったんだろうってずっーーーと思ってる。でもな、後悔だけじゃこれからの未来が変わるなんてことはあり得ないんだ。ヒナは賢く強い子だ。絶対に生きて帰ってくるさ。だからな、今はヒナを最高の状態で迎えるにはセナ、お前が町中を走り回って探してくれ。その間に父さんは人三倍以上働いて、たくさん給料手にいれてやるから。大人はズルいな。ポジティブに考えなきゃ全て失う気がしてならないんだ。我慢ってするもんじゃないのにな。大人は苦しいよ。その分楽しいこともあるけどな」
ニコッとした顔で僕を見る。しかし、後ろの街灯はこんな薄暗い夜でも見破っていた。今にも体を揺らせば簡単に零れ落ちそうな粒が目にたまっている。
「わかった、必ず探し出す。安心して」
二人はお互いの約束を結んで、今日食べるご飯を話し合った。
~四日後~
この間は父さんはたくさん働く中、セナは懸命に捜索したが全く見つからなかった。夜、二人でカレーライスを食べてる中、異変があった。
「今日な高校の制服が見つかったらしくな、明日ヒナのものか確認しに行こうと思ってるんだ。お前も行くか?」
食べ終えと同時にうん、と頷くセナ。その時異変は起きた。
「あれ? なんだかこのスプーン離れない。どうして?」
「ん? どうかしたか?」
「スプーンが手から離れないんだよ。ブンブンって手を振ってもホラ、おかしくない?」
「たしかにな、マジックか?」
「そんなの身につけた覚えないよ!あ、落ちた」
カシャーンと落ちたスプーン、これがすべての運命を変えるきっかけになるとはセナは知る由もなかった。




