能力と覚悟
「りねーと? ってなんですか?」
疑問を投げるセナ。真田はコマを置き、立ち上がる。
「お前も見ただろ俺らの能力、あと戦いも経験しているはずだ」
この一週間に起きた意味不明な事象。能力、そんなファンタジーなものが存在するのか。
「不自然的現象。世の理や概念を無にする力。通称リネイトだ」
真田は、部屋にある黒板の前まで行きチョークを取り出す。旧校舎なので不思議なことではない。そしてこう書いた。
reNatu:リネイト
「れなつ……ですか? リネイトって読むには少し難しいかもですけど」
「それに関しての質問や抗議は一切受け付けん。俺の師匠が名付けたんでね。リバースネイチャーを略したらしい」
「自然の逆……それって人工じゃないんですか?」
「今なんか言ったか? これ以上言ったら俺は帰るぞ」
ムッとする真田。いちいち細かいことを突っ込んだら自分の身がもたないかもしれないと思ったセナは
「いやー、とりあえずオセロの続きしましょう」
「よし、そうだな」
座り、置いたコマを即座に盤面へ配置する真田。
「最近ニューザ中心で犯罪が起きているのを知っているだろうか?」
「そういえば、ヒナが見ていたような……誘拐事件とかですか?」
「ああそうだ。あれらのだいたいがこの能力に関わっていると睨んでいる」
「え?! じゃあ今までの未解決事件等って……」
「セナの推測通りで間違いない。2011に起きた三大怪事件の大震災と旅客機墜落、そして暴力団事務所消滅事件もリネイトの仕業だ」
絶句のセナ、とんでもないことが身の回りに起きていたことに戦慄する。
「つまりだな、セナの得た力もリネイトのひとつってわけだ」
「そうだったんですね。妹を連れ去ったアイアンとかいう大男はたしか、天の恩恵とか言ってた気がしますが」
「それは奴らの言い方だ。力は神や天から選ばれた者だけが手にすることができると思っているんだろう。まあ、言い方はひとそれぞれだな」
「あいつらは一体誰なんですか? 敵ですか?」
咳き込み、体勢を整える真田。こっちに鋭い目線を向け
「敵か否かと言われると敵だ。昨日の女が言っていたと思うが、篁という全ての元凶にして最悪の男だ。ヤツが師匠を殺した。ここ十年、音沙汰がなく死亡したと思っていたが、最近になって目撃情報が流れ今に至るということだ。その情報も十年前と容姿がほぼ変わってないらしくてな……」
「妹を連れ去ったのも、もしかして……」
「その通りだ。篁の指示だろう。俺はこのニューザ市一体に蔓延る能力者の排除と町の平和のためにチームというか、部隊を結成したんだ。ここでひとつお願いだ。俺の仲間として協力してほしい」
真田は頭を下げた。
「僕がチームとして務まるでしょうか……不安です」
セナの両肩を抑え、真田は
「大丈夫だ。お前を育てるのも俺の役目だ。誰だってみんな最初は初心者さ、必ず教わらなきゃできない。俺だってこのガムの能力は最初から扱えたわけじゃない」
「ガムってそんなに強いんですか?」
「そうだなー、俺のガムを噛むことによって性質や形状を大きく変化させることができる」
服の中から風船のようなものを取り出した。
「これは昨日戦った時の戦利品だ。中に毒ガスが入っている。こんな感じに保管できたり物凄く応用が効くんだ。他にも硬質化や柔軟化で場合に応じて対応もできる」
「ガム一つでそこまでできるんですね」
ふふんと、自信ありげの顔をする真田。ガムを一つ取り出しセナに渡した。
「これやるよ。俺みたいに幅広く対応はできないが、嚙むことによってガムを使って対応ができる。困った時に使います」
「ありがとうございます。だけどまだ不安です。これといった戦闘を経験してないので……」
「戦いってのはなセナ。力も必要だが、もっと大事なのはここだ」
そう言って人差し指で頭を指す。
「どんな状況でもたった一手で形成は逆転する。ピンチの時こそチャンスだ」
置かれたコマは黒を白へとどんどん塗り替えていく。文字通りの逆転負けを喫した。
「ほらな」
ニコッとした笑みの真田
「も一戦やりましょう! お願いします」
「よし来た! こりゃ長くなりそうだ」
「コマが一つ壊れてません? 磁力が機能してないようですね」
「もう十年以上前の代物だからなあ。仕方ない」
もう一度並べなおすセナ。そしてこういった
「真田さん。僕、妹を救うために戦います。そして平和を作る手伝いをさせてください」
「その覚悟しかと受け取った。改めてよろしく頼む」
お互いに握手を交わす二人。それは再戦の合図でもあった。
父さん、覚悟を決めたよ。後悔は絶対にしない。ヒナ、必ずお前を助けるから待っててくれ。
これは何かに苦しみ惑う者たちによる復讐と救済の物語である
reNatu
九月未明 某所にて
「アイアンくん、例の女の子は持ってきましたか」
「はい、もって参りました。連れているときには既に死んでいました。申し訳ございません」
「まあ、構いません。話は以上です」
「は!、失礼します」
去るアイアン、カリスマ気質な男はひとりぼやく。
「ポイズンくんは失敗しましたか、まあ侮れないということですね。導京くんにも会いたいですが、もうすぐ会えそうですね……真田英くん」
彼の名は篁傑。十年前の事件の張本人にして真田たちの標敵である。
プロローグ完
とりあえず、プロローグはここで終了とさせていただきます。
ここから本格的に物語が動き出しますので、何卒宜しくお願いします。