可愛いは作れる
艶やかな柔らかい髪を揺らして歩く。
少女達の輪の中に彼女を見つける。学校が終わり下校するところのようだ。気付かれないように遠くからそれを眺める。
少女達の談笑が柔い日差しにゆっくりと響く。
そこには、蒼ハルの妹。蒼りこもいた。
「それにしても、もうすぐ適性検査ですわね」
「そうですわね、なんだか少し怖いですわ。それで、進路が決まってしまえなんて。ねぇ、蒼さん」
「ええ、でもこの学校は血統が良い方ばかりですからそうそうCランク以下はでないでしょう。それほど心配することはございませんわ」
りこは丁寧な笑みを返した。
「そ、そうですわね」
髪の短い子が安心したようこちらを見て微笑む。
「でも私達は女の子ですし、いざとなれば結婚という手もありますわ」
もう一人の女の子が口を開く。
「蒼さんのお兄様は、名門校にいらっしゃるのよね。是非お会いして、お近づきになりたいわ」
「もう、相原さんたら。蒼さんが困ってるでしょう」
「ええ、そうですね。機会があれば。それでは、私はここで」
別れ道に差し掛かり、りこは軽く会釈した。
「ごきげんよう」
とても美しい笑顔で、手を振り友人と別れた。
その後ろ姿を暫く眺めてから小さくりこは、呟いた。
「そんな機会あるわけないだろ、ブス」
瞳の奥は、酷く冷たい色だった。
「ねぇ、いつまでそうしてついてくる気なのよ」
その言葉を聞いて神室は姿を見せた。
「声は掛けようと思ったんだが。キャラが違い過ぎて、タイミングを失った」
「いや、いや私いつもこんなんだから。ハルちゃんが張り切って学校を選んだ結果がこんなお嬢様学校に入ることになっちゃたのよ」
「いや、そうじゃなくて。髪もおろしてるし、表情とかも。蒼ハルの家で会う感じと違う感じがして」
「髪?ああ、そうね。ていうか、こんな所にくるあんたが悪いんだからね」
今日の蒼りこは別人のようだった。
「頻繁に家に行くのも迷惑だと思うから、出向いたんだが」
「なるほど、気を使ってくれたのね」
「それに祐希がいると邪魔で、話がなかなか進まないだろう?たまには君の家の近くのカフェにでも誘おうと思ってな。蒼ハルはいつも遅いから、少しならいいだろ」
「そうね、いいわよ」
りこは二つ返事でそれに答えた。
店に入り、注文を終えると蒼りこは髪を結び出した。
「家ではいつもその髪型なのか?」
「うん。だってツインテールの方が幼い可愛い妹って感じするでしょう。ハルちゃんの前ではいつも可愛い妹でいたいもん」
「それにしても、意外と普段は大人っぽいんだな」
「そっちこそ、普段は馬鹿ぽいのに今日は紳士ぽく見えるわ」
「いや、それは祐希のせいだろ」
整った顔の少年。黒髪のメガネの神室聖の顔をりこは見つめる。こうやって彼を見るとなかなかのイケメンだ。ハルちゃんの遠く及ばないが……。
「はい、できた」
りこのツインテールは完成した。
「ほら、いつも私。ハルちゃんも可愛い妹」
「蒼ハルの前でねこを被ってるのか?」
「ちっがうわよ。ハルちゃんの前の私が真実の私なの。それに、ハルちゃんには目には常に可愛い映りたいの。ちょっとした表情一つでもよ。だって、可愛いは作れるの」
「だったら、協力して貰ってる立場ではあるが俺の前でも少しは可愛くしてくれよ」
「嫌よ。ハルちゃん以外にどう思われようが関係ないもの」
可愛い顔でりこは清々しく言い放った。