顛末
僕はあれから、病院に搬送された。
念のためということだが、検査の結果異常はなかった。正直、スレイブが使えなくなるようなことがなくてよかったと他人事のようにぼんやりと思った。
事件のことは、レジスタンスのテロのことで処理された。あっという間に抗生物質が出来上がり、事後処理も驚くほどの速さだった。政府はその対応から市民から称賛され、ほとんど非難されることはなかった。もちろん僕も自衛隊やら警察やら、医者や救護隊がよくやってくれたのは知ってる。
でも、いくらなんでもあんな大きな事故がこんなに綺麗に処理されていくのに薄ら寒い気持ちのほうが僕は強かった。きっと誰か偉い人や賢い人が手を回したのだろう。普通の市民が知るよしもないところでだ。それはそれでとても有難い。だけど、僕たちはいつもなにも知らされない。知らないところで勝手に決められていき。進んだ先の未来が最善であるかなんて知るよしもない。
ただ、僕は無力なりに思ってる。それならそれとして最後まで見届けてやろうではないかと。
吐いた息が冷たい。
さめざめと星が僕を見下ろしている。
「夜に出歩くのは、よくないぞ。明日には退院らしいな。大人しく病室に戻るほうがいい」
少し離れた暗がりに少女がたっていた。
ジャリと砂の音がする。
「神崎さん」
僕はホッとしたように胸を撫で下ろした。
「無事だったんだね」
「その言葉そっくりそのまま返すわ」
「昨日は本当にいろいろあってね。でも、みんな無事だったよ。それと今日はみんながお見舞いに来てくれたんだ」
「そう………」
「でも、君が来てくれたのが一番嬉しい」
少女は言葉に詰まった。
「君が無事で本当によかった」
ハルは少し笑顔をみせた。
「その言葉もそのまま返すわ」
少女も緊張がとけたのか少し表情を緩めた。
「あんなことがあったのに意外と元気なんだな。驚いたよ」
「そりゃもう、僕らはこの破滅に向かう世界で生きてるんだ。昔もいろんなことがあったよ。今もいろんなことがあるよ。ただみんなうわべだけは取り繕ってだけに過ぎなよ。僕だってそんな馬鹿じゃない。それでも僕達は、生きて行かないいけない気がする」
「それは、なぜ?いいえ、なんのために?」
「わからない。でも、この先が何かあるような気がするんだ」
人類が学んだ先が絶望か希望なわからない。
「………風冷たいね。神崎さんもそろそろ帰ろう。僕も病室に戻るよ。明日は学校に行くね」
「わかったわ」
漆黒の空には瞬く星の光があった。
僕達はゆっくり歩いた。
「僕ね、今回のことで思ったんだけど、僕達のこと助けてくれる誰かがいつもいるのかも……」
「誰かって?」
「わからないけど、宇宙人とか?」
ハルは首を傾げた。
「……宇宙人信じてるの?」
「空は広いから。いるかもって。だってどう考えたって今回ウイルスが有効だったなら人類は自滅してたかもしれない。誰が手助けしてくれてるとしか」
「でも、もしかしたら今回、人類をこんな目に合わせたのも宇宙人かもよ?」
「そう言われてと難しいなぁ」
「ねぇ、もしも。もしもだよ?私が宇宙人だったらどうする?」
真剣に聞いてくる彼女になんと答えたらよいのだろうか。僕は少し考えて口を開いた。
「だったら君はいい宇宙人だね。だっていつも僕を助けてくれるもの」
今日、はじめて彼女が笑ってくれたような気がして、ちょっとくらい死にかけたことがどうでもよくなってしまったなと僕は思った。
恋は盲目とは昔の人はよく言ったものだ。
神様、この静かな日々がどうか1日でも続きますように。




