問題児
冷静に冬子は、赤毛の子を見ていた。
「あなたが、編入生のコニーさんね。担任の先生がもうすぐいらっしゃるわ。だから、教室に入って。それから話をしましょう」
清楚で美しい少女は、優しい笑みを浮かべた。
勿論、社交辞令ではあるが。
「私はこのクラス委員長の神崎冬子。宜しくね」
そう言って事態の収集を図る。
「それと、ジュリは自分の教室に戻りない」
「はい、冬子様」
軽く会釈をして、ジュリは立ち去る。
「さぁ、あなたも」
冬子は彼女に目を向けた。
「わ、わたしは騙されないんだからね。あなたもハルに気があるのね。でも駄目よ。彼は私のお婿さんになるんだから」
「いや、ならないよ。コニー」
ハルは真顔で突っ込んだ。
「なんで、なんでよハル。だって私、可愛いでしょ。お金もいっぱい持ってるよ。なんでも買ってあげるよ」
ポケットから札束を出して、ほっぺに押し付けられる。
いや、こっちがなんでなんだがと思いながら、札束ってこうやって使うんだなという感想をもった。ハルは視線で、神崎さんに助けを求める。
「コニーさん、念のため言っておくわね。私には祐希くんっていう彼氏がいるのよ。だから安心してね」
「そうなのか?」
「ええ、そうよ。だから取り合えず、教室に入りましょう。コニーさんをクラスの皆に紹介をして、昼休みに校内も案内するわ」
「そっか。じゃあ、教室に入るね。なんか、そのごめんね。神崎さん」
ようやく警戒心が溶けたのか、コニーの言葉が柔らかくなる。
「冬子でいいわ」
畳み掛けるように美しい笑顔を浮かべた。
「私もすぐ行くから、自分の席に座っていてね。席は右の後ろの方よ、空いてるからすぐにわかるはずよ」
「わかった」
そう言って、コニーは教室に入っていった。
そして、廊下には僕ら二人。
「今頃だけど、おはよう蒼くん」
「おっ、おはよう神崎さん」
僕はちょっと気恥ずかしくなってしまった。
「あの、コニーとはその違って。前に道に迷ってるのを送っただけなんだよ」
僕は何故か言い訳をオタオタ始めた。
「蒼くんなら、有りそうな話だわ。ところであの子、問題があってそのことで事前に職員室に呼び出されていたの」
「問題って?」
「まあ、そのうちわかるわ」
神崎さんは、少し疲れた表情をした。
「どうしたたの?」
「ええ、うちのクラスだけじゃなくて祐希のクラスにも問題があってね。編入生で喧嘩を起こしてしまって」
「そんなまさか……」
この学校は、育ちがいい人ばかりなのに。
「たまたま、祐希がいたから割って入って止められたけど。素行が悪いみたい。蒼くん、それでしばらく花壇の方には行けなくなると思う。編入生の面倒をみないといけなくて」
「それなら心配しないで、僕が世話しておくから」
「有り難う。また落ち着いたら顔を出すわ」
ふと、神崎さんが僕を見る。
「彼女はいいけど、祐希のクラスのマキリという男は危ないわ。くれぐれも目をつけられないようにね。カツアゲとかされたら私に言ってね。退学にしてやるから」
「う、うん。わかった」
いま、サラッと怖いこと言った?
でも、マキリってどこか聞いたことがあるんだけど。
なんだろう。思いだせないな。
ハルは首を傾げた。