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無限の選択肢



鳴りやない携帯の番号を見た。

いま、まさに声が聞きたくて、聞きたくなかった人物だった。


「出ないのですか?」

「ああ……」

少女は俯く。


「僕のことは気にしないでください。逃げられるなんて思ってもいないですからね」

「………………」

少し悩んだあと、彼女は携帯に出た。

「もしもし」


「あっ、わっ、よかったぁ。僕だよ。碧ハル」

それは、柔らかく優しい少年の音声。

「うん、知ってる」


「………無事。だったんだね」

「うん。なんかごめんね。祐希くんから神崎さんが心配してたって聞いて。すぐに伝えなきゃって」

焦りのなかにも思いやりが感じられた。

私は、もっとなにか気の効いた言葉で、喜びを伝えたかった。でも口から出たのは言葉は、当たり障りのない平凡な台詞だった。


「……ほんとに無事でよかったわ」

「ありがとう。ごめんね」

「でも心配してくれて凄く嬉しい」

まったくこの場面に不釣り合いで、これから誰かの命は奪うことが面白おかしく思えた。


「じゃあ、もう切るね。妹のところに早く帰らないといけないから」

「まっ、待って!」

私は何を言っているの。

「どうしたの?」

焦る自分の声に自分が戸惑う。

「あの、その。友達の話なんだけど」

「友達の?」

「そう友達の?」

「そう友達の。とても悪いことをした人がいて、だからそれは許せないと思っていた。たまたま、偶然にも自分がその人を裁く立場になった。あなたはその人の罪を裁けるかしら?その人の命を奪えるかしら?」


「………………」

沈黙が流れる。


それは本当に意外だった。


なぜなら私は、彼がそんなことは出来ないよ。なんて、優しく笑いながら言ってのける人だと信じてたのだから。

そして、自分はこんな冷酷なことが平然と出来ると再確認したかった。私達は、こんなに違う形をしていると。


そのひとときほどの瞬間がとても長く感じた。

「ごめん。変なこと聞いたね」

冗談ぽく笑ってみせる。


「あっ、僕こそ。ごめん。ちょっと、考えちゃって。難しいなって」

「あなたにとっては簡単ではないの?」

「ぼくはさ、ぼくは、君が思ってるような聖人君子ではないよ。たとえば、親とか恋人とか。たとえばすごく大切な人が傷つけられたり命を奪われたりしたら許せない。すごく許せない。殺したいほどに憎むかもしれない。自分の手で相手を殺してしまうかもしれない。でもさ、もしそれ以外だったなら。悩むかな」

「悩む?それはとても、意外ね」

私は静かに呟いた。

「ほかに方法があるかなって。許せるかもって。ほかに別の選択肢もあるかもって。思ってしまうよ。たらればの話で意味ないかもだけど。僕の正義が正義がじゃなかったり。僕の真実が真実じゃないかもだから。よく考えて決めるかな」

「でも、考えても選択を間違えることはあるでしょう?」

「そうだね。だから結局、あのときこうしておけばよかった、もっとこうしたらよかったのみたいなもので答えが出ないね。神様が答えを教えてくれればいいのにね」

「神様なんていないわよ」

フフッと彼の笑い声が聞こえた。

「でもね、僕は君がどんな選択をしてもいい思うよ」

「それが、もし間違いだったら?」

「間違えてもいいんじゃないかな?僕もよく間違う。たくさんの選択肢があるとして、君の好きなのものを選べばいいと思うよ。間違えたらまたやり直せばいいんだから」

「そう……」

不思議だ。

なぜか彼の言葉はよく心の奥底にまで響くのだ。

「あっ、ごめん。友達の話だったね」

「そ、そうね。友達の話だったわ」

「じゃあ、もう切るね」

「うん、有り難う」



わたしはわたしの心を決めた。


少しの静寂のあと、私はシダの姿を瞳に映した。

彼は元凶。地球の人間を脅かした。ここで始末しておいたほうが効率がいい。それに、私は彼が嫌いだ。したたかで、嘘つきで、とても醜い。


「次に、地球人に危害を加えることがあればお前を殺す」


そんなところが、私にとても似ている。


「だから、今回のことは許す」


鳩が豆鉄砲を食らったような顔で男は青ざめていた。


「なぜだ。どういうことですか?」

「殺さないと言ったんだ。聞こえなかったか?」

「だから、それはなぜですか?」


そんなの私が知りたい。ただなにか理由をつけるなら。


「私がそうしたいからだ」



この世に無限の選択肢があって、私はいつもその1つを馬鹿みたいに選び続けた。最善の答えだと信じていたから。

でも、誰かがほかの道も選んでいいと言ってくれるのなら。

間違えてもいいと言ってくれるのなら。




私は私の好きな選択肢を選んでみることにした。

































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