平行線の果て
そのまま前髪を掴んで、自分の近くにシダを凄い力でひき寄せる。
深い海の色の瞳は冷たく暗い影を落しながらその男の瞳を覗きこむ。まるで自分の嫌な部分でも見るようで気分が悪くなる。
「なぜ、こんなことをした。なにが気に入らぬ」
ウッと小さくと呻き声がした。
「すべてです。全てが気に入らない」
その黒い瞳は怒りに燃えているように見えた。
「なぜなのですか?なぜあなた様自ら?もう俗世には興味はないものかと思っておりました」
私は私の痛いところをついてくるこの男が嫌いだ。
「そうだな。その通りだ」
「だからと言って、見逃して貰えるとでも思ったのか?存外、私はこの地球という星が気に入っている。目に余る介入は見過ごせぬ。やり過ぎだったなシダ」
男は目を見開いて、乾いた笑いを浮かべた。
「ははっ、こんな辺境の星が?近い未来滅ぶ星が?」
一呼吸おいて答える。
「そうだ。とても美しい星だ。儚くも美しい」
どうせ話したところでお互い平行線だろうが。
「私はお前を処分する。しかし、宇宙船の墜落からお前達生き残りを探すのを早々に切り上げ今の今までのうのうと過ごしていたことは悪かったとは思っている。私はなにも決断出来ず、道も示すことはなかったことは悪かった。だから、最後に言い残すことがあれば言ってみろ」
少女は残酷だった。
シダはなんとも言えない複雑な表情をした。
「私はただ最後に夢を見たかっただけです。あなたが、王にさえなってくれたなら、わたしはあの美しいシリウスで夢を叶えられたのに。なのに、惨めにこんな辺境の星で一生を終えるのは耐えられない」
苦々しげに毒を吐いた。
「なにがお前は欲しかったのだ」
「栄誉、富、名声なにかも欲しかった」
「そうか……」
「わたしのせいだな。恨んでくれてかまわない。だが、私が今いる星で私の大切な人を傷付けることは許されない。命を持って償わせる」
「はは、やってられない。私はこんなにあっけなく殺されてしまうのですね」
「そうだな、そのとおりだ」
「………そうですね」
なにか逃げる術を何百通りも考えた。
これが王族でなければ、彼女でなければ。自分のほうがスキルが上だった。まさか、初盤で姫様がやってくるなんて誰が思うのか。
まさにお手上げだった。
「私の野望は敗れました。せめて命だけはお助けくださらないでしょうか?姫様も悪かったと言うのならば、せめてもの慈悲として」
「私が助けると思うか?」
「思ってません。姫様は優しい方ですが、非情なお方でらっしゃる。だから嫌いなんですよ、融通の聞かない王族ってやつがね。反吐が出る」
「惨めなものだな……」
「ハッハッ、兄君に裏切られクーデターの主犯にされて、辺境の星で落ちぶれた姫様ほどでもないですけどねぇ」
意外にも彼女は、そのことに対しては怒ってはいないような様子だった。
「こんなにお前と会話をしたのは、初めてだな……。じゃあ、最後に私からも言わせて貰おう。なぜ最初からも兄についていなかった。私の周りウロウロしていなけばよかったではないか。兄こそが王なのだから。人選を間違えるなんてお前らしくなかったな」
「そうですね、とんだ失敗だった……」
消え入るような声でシダは最後に苦々しく笑った。
だけど、あのときは理性よりも感情が動いてしまったのだ。そこから人生は転げ落ちていったのだ。
愚かにも。私は失敗したのだ。王は疑うことなく誰がなるべきか決まっていた。
でも、いままさに自分を殺そうとしている美しい水色の髪少女のことが私は本当はそれほど嫌いではなかった。
私は失敗はしたが、今でも間違ってなどいなかったと思っていた。
人を導き、シリウスを育んでいくのは。
ルーデンビリア様だったのだ。この人をおいて他にいない。そう強く心のどこかで確信していたのだ。
シダは目を閉じた。
「なぜ、こうも思い通りにならないのか。残念です」
「そうだな、私も残念だ」
死を覚悟したとき、携帯の着信が突然けたたましくなった。




