静寂のなかで時は刻む
たくさんの本に囲まれた本棚。
薄暗い図書館にはおおよそ、一生では読みきれないほどの知識の山があった。それは、王宮の一角にありしもじもの者がお目にかかることのないような貴重な蔵書である。
その本を取ろうとして手が止まる。
なぜなら、ほしい本などなかった。ただ数多の時間が退屈過ぎて暇をもて余しただけだ。つまらないことに気が付いてしまい伸ばした手をゆっくり降ろす。
私はなにがしかたったのだろうか?
「なにかお探しですか?」
黒髪の長身の男が話しかける。
「いや、別に」
スッと視線を下げた。威嚇を込めて。
男はなおも近づいてくる。
「なら、この本はどうですか?とても面白いですよ」
「かまわないでくれないか。それに私は面白いという感情がよくわからない。文章は知識だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「それは残念。王族というのは、本当に感情が希薄なのですね。それではなにもかもつまらないでしょう」
「……………そうだな」
私はこの男が苦手だ。話しかけるなとでも言うように、背を向けて歩きだした。
「姫様」
あろうことかこの男はついて来た。
「こんなところで会うなんて、なんて奇遇なんのでしょう。私はあなたと話しをもっとしてみたかったのです」
こんな人気のない所。人気のない時間に偶然なんてあるものか。よりによって会いたくないような人物だった。
「わざとらしい。なんのようだ、シダ」
シダはピエロのように大袈裟におどける。
「ああ、そのお声。堂々たる態度。やはりあなたは王の器である。人々もみな貴方のことを誉めそやす。ああ、あなたが次の王であればと………」
少女は歩くのを止めて、ピタリと止まる。
「次の王は兄上だ」
海のように深い青い瞳は怒りの色を含んでいた。
「そんなに退屈ならば、王座でも手に入れてみたらどうでしょう。わたしと一緒に」
シダは飄々とした笑みをにやりと浮かべた。
「戯れ言だな。聞かなかったことにしてやる。失せろ」
「ああ、なんというその幼い年で、その風格。やはり私のを目に狂いはない。どうです、私とあなたが組めばこわいものなしですよ。あなたの権力と私の人脈があれば玉座に手が届く」
「やめろ。誰かに聞かれたら誤解されるぞ。お前だって困るだろう」
「何事にもリスクはつきものです。わたしもただの裕福な貴族で終わりたくない」
「おかしな話しだな。それならば、兄上につけばいい。簡単だろ」
「それは最もですが、あいにくと血統を重んじるあの方に私は嫌われています」
「だからなんだ。私に関係が?」
「だから、ね。嫌われてる者同士仲良くしましょうということですよ」
にっこりとシダは私に手を差し伸べた。
「私が兄に嫌われると、お前はいうのだな」
「これは、失礼しました。知らなかったのですか?」
その表情に悪気はないのだろうが、私の心は冷え冷えと重たくなっていく。
「ああ、よく知っているさ。ただ他人の口から言われるのははじめてだと思ったんだ」
シダという男が苦手から嫌いに変わった瞬間だった。
バサッ!!!!!!!
静寂から目が覚めた。誰もいない図書室で、冬子は仲間の帰りを待っていた。土曜の17時には戻る予定だった。
転がったを本を拾いあげ埃を払う。
「まったく。嫌な予感しかしないな」
静かに呟いて顔をあげる。
そこには、息を切らし走ってきた人物。神室聖の姿があった。不足の事態が起こったときのシュミレーションはしていたのだが、本当にそうなると気が重いことこのうえない。
なにかあったに違いないが、それしかいう言葉がなく。しかたなく口に出して聞いてみた。
「なにかあったのか?」




