青い夏
さらさらと風が彼女の青い髪を撫でる。
その輪郭は彫刻のように美しく、深い青い瞳は懐かしそう遠くを見る。その眼差しはどこか寂しくそうでもあった。
「友達?」
「うん」
そう言って神崎冬子は小さく頷いた。
「あなたとマキリくんの話を聞いたら、私にも幼なじみがいたのを思い出したの。不思議ね」
冷たい空気がその伸ばされて指に触れる。
二人はひさしぶりに花壇のまえで談笑をしていた。
ベンチに腰掛けまだ芽のでない若い花を眺める。
「ねぇ、神崎さんの友達はどんな人?」
「そうね。大胆で不敵で傲慢。でも曲がったことが嫌いで、強くて頼りになる。信頼のおける友だった」
「だった?」
「うん、もういまは遠くはなれてしまったから……」
「そんなに遠くにいるんだ」
「ええ、すごく遠くにね」
ハルはそれを聞いて優しく微笑んだ。
「でもきっとまた会えるよ。どんなに遠く離れていても。僕がマキりんに会えたんだから」
「…………」
「どうしたの?」
「不思議ね。あなたがそう言うと本当に会えあえそうだわ」
静に微笑むその横顔は鮮明に美しくかった。
「ところで、今日はゆっくりしていていいの」
いつもならそろそろ帰ろと言い出す彼が、いつまでも座って自分といくれるので冬子は尋ねた。
「うん、今日は急がなくていいんだ。妹が花火をするから遅くなるって言ってたから。夕飯もいらないって」
「そう……」
「どうしたの?」
「そういえば、祐希と私の友人もそのようなこと言っていた………」
「だね………」
「すまない。彼らは迷惑をかけていないだろうか?」
「まぁ、最初はちょっと困惑したけど。うん、なんだかんだ言って楽しそうだよ。本当はあまり友達を作りたがらなくて、家にばかりいるから心配してたんだ。口には出さないけど、りこも嬉しそうだよ。賢い子だか僕より彼らとのほうが会話が弾むのかもね」
「そんなことはない。妹さんは君を一番に思ってるよ」
真剣な様子で冬子は答える。
「……………。へへ、そうかな?」
急に気恥ずかしくなったハルは小さく誤魔して笑う。
「神崎さん、これ見て」
「じゃーん!」
それは、棒のように思えた。
「それは?」
「花火だよ。妹から一本貰ってきたんだ。夏っていっても、大気変動のせいで寒いけど毎年花火するの好きなんだ。ちょうど日も暮れてきたしやってみたくて」
それはまるで向日葵みたいな笑顔だなと冬子は思った。
「夏の思い出にしたくて」
「うん」
「学校だし校則違反なんだけど……。神崎さんはクラス委員だからやっぱり駄目かな?」
「ここには君と私しかいないから黙っていよう。もし見つかっても私も罰を受けるよ」
「いいの?」
「うん。私も夏の思い出が欲しいから」
クスクスと悪戯っ子のように笑って、ハルは小さくスレイブを起動させる。空中に浮かんだその枠の中に花火の先端を入れるとパチッと点火する。
それを薄暗い空に向かって掲げると、七色の閃光がはしる。たくさんの星たちが踊っているようだった。
それはとても美しい光景だった。
「凄く綺麗だわ」
「うん」
まるで、時間が止まったように静な時が流れる。
「一瞬の輝きね」
「だから凄く綺麗なんだよ」
「でも、少し寂しいわ」
終わりかけの花火は、パチパチと音をたてた。
「寂しくないよ。また来月の夏も一緒に花火をしよう。こんなに喜んでくれるなら、僕もっと沢山の花火を用意するね」
「うん」
冬子は穏やかに微笑んだ。
それはとてもとても幸せで、感じたようなことのないような気持ちだった。私はこのまま何事もなく、星には帰れないけれど、平凡に穏やかに過ごすのも悪くないと思っていた。
誰にも言えやしないけど、私は普通の学生として彼の隣でならんで歩いて行きたいのだ。
王族という立場や責任や国の対立。残してきた部下や民の思いなど全部全部捨ててしまえたら、もういっそ楽になるのに。頑張ったけど、どうしようも出来なかったと言い張ってこの立場に甘んじたいと脳裏によぎってしまうのだ。
「どうしたの?」
「なんでもない」
「そう」
「これからも君と一緒にいたいなと思ったの」
それが間違ったこどだと知りながら、冬子は微笑んだ。
この花火のような一瞬だけは、誰にも知られることはない。
この光が消えたらこの愚かな考えも全部消してしまおう。たんだんと、小さくなる花火の音を聴きながら名残惜しそうに冬子は瞳を閉じた。




