ナイトメア
久しぶりの感覚がハルは嬉しく思い顔が綻ぶ。彼女と歩調を合わすのが楽しくて。
新学期になって慌ただしくかったが、友達が増えた。だけど、ほんの少し神崎さんと過ごす時間が減ったように感じていたからだ。
仲のいいクラスメイトなのに、それ以上を思うのは贅沢なのだろうか。
この美しい少女の回りには、本当に優秀で見目麗しい人ばかりが集まってくる。住む世界が違うようでたまに、歯痒いような気持ちになる。
「どうしたの?」
「ううん、一緒に登校出来て嬉しいなって」
「そう、私も嬉しいわ」
水色の髪の少女は涼しい顔をして言う。
彼女はあまり表情が変わらないから、心情を読み解くことは僕には出来なかった。
ふと、話題をかえて声のトーンを落とした。
「ねぇ、神崎さんはナイトメアって知ってる?」
「なんの話かしら?」
興味深そうに神崎さんは聞き返す。
その名の通り。悪夢である。
人間の細胞を破壊して、大切なスレイブの適性を奪ってしまうものだ。まだこの辺りは聞かないが、治安の悪いところでは流行り出しているらしい。
詳しいことはまだわかっていないようだ。
「じつは僕の妹から聞いたんだけど、僕らの体を壊すウィルスみたいなものがあるらしいだ。そんなにたいしたことはないのだけど、僕らはスレイブが使えないと致命的じゃない。だから、神崎さんも気を付けてね」
「それは初耳だわ」
少し驚いたように目を見張る。
「うちの自慢の妹は、凄い情報通なんだよ。まだ大々的に発表されてないんだけどね。ちまたではナイトメアって呼ばれてるんだって。あっ、でも安心して命に関わるとかそんなものではないらしいから」
不思議そうに少女は僕を見た。
「どうして、教えてくれるの?」
「………だって、神崎さんにもしものことがあったら心配だから。それに僕達友達じゃないか。ねっ。また何かわかったら教えるよ」
はやく予防策がわかればいいのにな。
そう思ってハルは、にこりと笑った。
「有り難う。でも、私は大丈夫。だから碧くんも危険なことには首を突っ込んだはしないでね」
「ふふっ、大丈夫。僕にそんな度量があると思う?せいぜい、神崎さんに情報をちょっと早く教えてあげるくらいしか出来ないさ」
ハルは思わず苦笑いをした。
そりゃ僕の妹や神崎さんとかだったら、華麗に調べたり解決したするんだろうけど。そういのは主役や主人公の仕事だからモブには関係ないのだよ。
「ならよかった」
そのあとはたわいない会話をしながら教室に向かった。廊下を曲がった門で祐希くんに会った。
「おはよう、祐希くん」
「碧ハルか、おはよう。冬子さ、じゃなくて冬子おはよう。たまには一緒に登校しようぜ、冬子」
前髪をかき分けながら、微笑む祐希くんは最高に王子様だった。
「あっ、じゃあ僕先に行ってるね」
僕は気の効くきく友人Aとして、その場を離れた。
「ええ、すぐに私も行くわ」
神崎さんは微笑んだ。
「……………なんですかね?この間は?」
冬子は視線を会わせず、碧ハルの背中を見ていた。
「最近思ったのだけど……」
「はい」
「私とあなたが付き合ってるという設定いるかしら?というかまだその設定は生きているの?」
「男子生徒からの告白が鬱陶しいので、そういう設定にしましょうと冬子様が仰りましたが?」
「それもそうなのだけど。あなたが横にいるの碧くんが気を使うのよ。そもそも、あなたこそ気を利かせて物陰にでもかくれていなさいよ。私はもう少し友達としてして、彼と仲良くなりたいのになんだかあなたが邪魔だわ……」
冬子は少し考えて、天井を見る。
そして、視線を戻す。
「別れましょう。しばらく学校では話しかけないでくれるかしら?」
「えっ……?」
確かに設定ではあるけど、こんなに長く彼氏役をやってきたのに労いの言葉もない。あるのは、なんがゴミを見るような冷ややかな空気だった。
理不尽。
心の中で祐希は呟いた。




