マキリ
校門までさしかったったとき、黒髪の美しい少女。旭稜楓の姿に気が付いた。翡翠の瞳はこちらを見据えていた。
「俺ちょっと、先に行くわ」
そそくさと遠坂が視界から消えようする。
「えっ、なんで?」
「いや、ちょっと苦手なんだわ。こう、なんか上から見下すような女がさ。それに目をつけられたくないからな。基本的に財閥系の人間アウトだから。それで、退学に追いやられたやつもいるんだぞ。だから極力関わりたくないのさ」
「でも旭さん、良い人だよ」
「お前にはそうかもしれないがな。俺は遠慮しとく。悪いけど先に教室行くわ。じゃあな」
脱兎のごとく遠坂は走り去る。
「旭さん、おはよう」
「おはようございます。教室までご一緒して宜しくて?」
黒髪をかきあげて、微笑を浮かべる。
「勿論だよ。それにしてもひさしぶりだね」
「ええ、オリエンテーションぶりですからね。なんにせよ、気を引き締めなくてはね。そんな受かれているあなたに警告です」
旭は颯爽と歩き出す。
ハルは慌てて後を追った。
「警告?とは?」
「編入生の話ご存知かしら」
「うん、知ってる。詳しくは知らないけど」
「二人の編入生のうち一人は財閥の子息。マキリ家の者が入ってきます」
「マキリ?」
「くれぐれも注意して欲しいですわ。粗野で乱暴な方です。他の者ならば私が目を光らせるできますが、力関係は同格。口出し出来ませんわ。幸い彼とはクラスも違うようですから、目立たずにして関わらないようにしてくださいね」
「そんなに素行が悪いの?」
「ええ、暴力事件も多く。この度に揉み消しています」
「そ、そうなんだ……」
ハルは息を飲んだ。
「あっ、じゃあもう一人も知ってるんだ」
「ええ、彼女はマクレウスの一人娘。とはいえ、財閥としてはたいしたことないですわ。邪魔であれば私がいかようにも出来ますわ」
「そうなんだ。マキリって……」
なんか聞きおぼえがあるような。
「ああ、マキリは特殊な家系で日本の財閥ですが生粋の日本人ではないのよ。先代がイギリス人で今はもう血も薄れてますが。しかし、遺伝子でしょうか。代々、金色の髪は引き継がれているようですわ。とにかく、関わるのはやめてくださいましね」
突然、ピタリと旭さんの足が止まる。
そんな長話をしている間に、教室の前に着いてしまった。
「では、私は自分のクラスに戻りますのでごきげんよう」
「ごきげんよう」
僕は手を振りながら彼女を見送った。
そんなに心配することはないと思った。
なぜなら、僕は普通オブ普通だからだ。そして、地味な顔立ちだったからだ。成績も運動も普通。目をつけられることどころか、眼中に入らないかもしれない。
教室に入ろうと向きを変えると、そこには女の子がいた。
黒いカチューシャの赤毛の髪。
フワリと風が舞う。
「来ちゃった」
彼女はそっと歩みより、僕の耳に声をかける。
「蒼くんに会いに来たよ」
それは、あの日の少女だった。