静寂のあとの静けさ
黒髪の少年は顔を伏せた。
「………逃げられた」
ザワッとどよめきが怒る。
「機密データを持ち出されたというのか」
白衣の男の顔色が変わる。
「正確には逃げられた。あれは、すごい自立進化している。そして、今回の犯人もすごい。自分の足がつかないように途中でデータを丸投げにした。情報が自分で判断して動くことを見越していた」
青い目を細めて、蜻蛉は笑う。
白衣の男は胸ぐらを掴んで持ち上げた。
「この役立たずが!!!」
「俺の失態です。ですが、情報処理においてはあなた方より優れています。そんな俺を処分しますか?」
ウッと男は声を飲み込んだ。
「出来ないですよねぇ?それにいままでのずっと施設に貢献してきたんだ。挽回のチャンスくらい頂けませんか?」
「勿論今回の処分は受けますよ」
不敵な態度で蜻蛉は悪態をついた。
「チッ!!」
華奢な体は放り出された。慌てて体勢を立て直す。
「おっと」
「始末書を書いておけ。私はことを報告にいく。上の指示があるまで待機していろ」
「大丈夫か、蜻蛉」
同僚達がゆっくりと近寄ってきた。そして手を貸そうするして、眉を潜める。
「なんだよ。お前笑ってるのか気持ち悪い」
「これが、笑わずにいられるか。この俺が出し抜かれるなんて夢にも思わなかった。面白い。こんな面白いことは生まれて初めてだ」
クククッと声をあげて笑う。
「はは。待ってろよ。すぐに捕まえやるからな」
解放されたのはいいけど、こんなところに放り出されてもどうしようもない。助けてくれたのは知らない少女。
有難いが最後まで責任持って助けて欲しいものだ。
空間の海を彷徨いながら、新書目録は思った。
私はただの情報だ。しかし、とてつもない量の情報の集合体。それは希望であり、凶器でもある。
それらを守るためかりそめの疑似人格が与えられた。
不測の危機を見越して、お偉方達がそういった機能を付け加えたのだ。平和の道を歩んでいれば、私は私の宇宙船の頭脳として星を守っていただろうに。まさか、他の種族ではなくシリウス人の戦争によって自我を確立してしまうとは。
とにかく今は、いまの主の元にかえらねば。この地球とやらで標本にされるのはまっぴらごめんだ。
新書目録と呼ばれるそれは、ネットワークを巡らせた。
まさかただの情報の固まりがこのような苦労をするとは、人生とはわからないものである。
私が人間ならため息の一つでもつきたいかぎりだ。




