暗雲
りこはその様子を不安げに見ていた。
そして、声をかける。
「ねぇ、そんなに興奮しないでよ。新書目録ってなんなの?」
神室が答える。
「俺達の叡智の書だ。宇宙の真理。森羅万象。全て情報の権現。最悪、宇宙船が失くなっても、あれがあれば再生可能。まぁ、材料と資源はないのでこの星では難しいがな。だが、諸刃の剣でもある。あれが人類の手に渡れば悪用されかねない。最も避けたいのは、我々宇宙人の存在が知られてしまうことだ」
「まっ、まぁ、でもさ。ニュースとかで流れてないから大丈夫だよ」
「気休めは止してくれ。政府が一般人にそんな情報は提供しない」
「いや、そうだけど……」
「あのとき宇宙船にはなかったはずだ。外部の者か内部の者の手にある可能性がある」
「それって、どっちがマシかな?」
「どちらも最悪だよ。だが内部の者のほうで遥かにマシだ。こちらに接触してこないところから裏切りが濃厚だが」
控えに言って最悪ってことね。りこは苦笑いをする。
「あはは……」
「最悪だよ。あれがあれば資料にも情報にもなる。作業も捗ると思ったのに。それもこれも祐希お前のせいだぞ」
ギロリと睨む。
「ご、ごめん」
深いため息が聞こえた。
「もういい……」
部屋に重い空気が流れる。
「ちょっと、止めてよ。作業はいままでのペースでいいじゃない。私だって私の生活もあるしね。かなちゃんも落ち込まないでよ」
うう、重い。空気が重いわ。私の部屋なのに。
「とりあえず、私達地球人がそれを持ってなけばいいのよね。調べてあげるわ、感謝なさい。もし、宇宙人側が持ってたとしてそんなに軽率な行動はしないと思うし」
「調べるってどうやって?」
「実は私これでもその界隈では顔が広いのよ。そのつてを使って政府の情報網を調べてくれるように頼んであげる」
「い、いるのかそんな知り合い」
りこがニヤリと笑う。
「まあね。私が嘘ついたことある?」
「それは……」
「信用してよね。そうね、せめて7日間時間をちょうだい」
「本当に信用出来るのか」
「この借りは高くつくからね。安心して、あなた達のことや新書目録のことはうまく伏せるわ」
「わかった信用しよう。なんとお礼言ったらいいか」
「よし。じゃあ、この件は私が預かるわ。かなちゃんも気にしないで」
パンッと大きく手をたたく。
そして、本日はお開きになった。
りこは誰もいなくなった部屋のドアを締める。
嘘である。
そんな知り合いなどいない。いるわけないじゃん。その界隈ってどこよ。どこなのよ。どんだけ信用してるんだよ。
私まだ小学生よ。どんなコネだよ。
もう一度言う嘘である。
りこは心のなかで絶叫した。
なんだあの悲壮な顔は。助けてないわけにいかないじゃない。
「ああ、私もはハルちゃんに似てきたな……」
トホホとりこは肩を落とした。
「なんとかしてみるかなぁ」




