コニー・アンナ・マクレウス
艶のある赤毛が、風にたなびく。
黒いカチューシャがチャームポイント。
新しいワンピースに身を包みワクワクしながら、ショーウィンドウの鏡を見つめる。そこには、肩より長い髪の深紅の瞳の少女がいた。
そして、クルリと一回転。
「ここがアトランティスか。はじめて来たな、要塞都市は」
物思いにふけりながら空を眺めながら呟いた。
そして、コニーは後ろを振り返る。
あれ?
誰もいない。
いつも自分には、お抱えのボディガードがいたはずなのに。そういえば、ブティック、クレープ屋さん。楽しいところが多すぎて、いつの間にか彼らを置いてきてしまった。
ということは?
あれ?
どうやって帰るんだっけ?
「慌てるな、コニー。携帯があるじゃないか」
ゴソゴソとスカートのポケット探す。
あれ。
あれれれれれれ。
「慌てるな、コニー。カードがあるじゃいか。そうそう、お金があればなんとかなるわ」
あれ。
カード。
財布がない。
あれれれ。
コニーは青ざめる。
もう日もとっぷりくれ。あたりは真っ黒な闇に包まれる。
公園でコニーは膝をかかえて、泣いていた。
「都会の人。冷たい。誰も助けてくれない。ポリスの場所もわからないよ」
ていうか。
ここはどこよ。
暗いよ。
寒いよ。
お腹すいたよ。
そこにあるのは、ただの星空だけ。
「星しかない」
心細くコニーは呟く。
遠くから、ふと歌が聞こえた。
「ある日~、森のなか~、くまさんが~、あっ、ヤバ」
ハルは自転車を漕ぎながら、誰もいないと思い歌っていた。いつものベンチに赤い髪の毛の少女が泣いていた。ハルは自転車を止めると、降りてその子に近寄る。
「こ、こんばんは。隣いいですか?」
「好きにすればいいじゃない」
「歌聞いちゃった?」
「へたくそね」
「へへっ」
恥ずかしそうにハルは、座る。
「君も天体観測?」
「いえ、迷子ですが。なにか?」
コニーは、ぶっきらぼうに答えた。
「連絡。携帯は?」
「失くした。それに、ポリスもいない」
「ああ、警察は解体されちゃったからね。5時までなら、アンドロイドが巡回してるはずだけど。人員、じゃなくてロボット削減で数も少なくなったからね。そうだ。僕の携帯貸すから、迎えに来て貰いなよ」
ハルは自分の携帯を差し出す。
「えっ、いいのか」
コニーの顔が明るくなる。
「うん。使って」
差し出された携帯に、コニーの手が止まる。
「どうしたの?」
「番号わからない……」
ビュンビュンと暗闇の街で風を切る。
赤毛の少女を自転車の後ろに乗せて、ハルは走る。
「ねぇ……」
「よっと、到着!!!」
キキキッとハルは自転車を止めた。
「この辺かな?ここで合ってるかな?住所。スレイブで確認したから合ってると思うけど。なんかの施設?ここ?」
「あっ、うん。お父さんが勤めてるの」
いそいそとコニーは、自転車から降りる。
「そうなんだ。じゃあ、もう安心だね」
「こんなに遠くまで送って貰って。その、有り難う」
自転車からおりながら、コニーは申し訳ない気持ちになった。
「僕は、夜のピクニックみたいで楽しかったよ」
ハルは笑いながら言う。
「でも、二人の乗りは本当は駄目だから。内緒にしてね」
そう言うとモジモジとコニーは恥ずかしそうする。
「う、うん。わかった。あのう、その、えっと、名前。教えて欲しいんだけど。いいかな?」
「僕?僕は蒼ハル。高校に通う二年生だよ」
柔らかい亜麻色の髪の爽やかな少年はニコッと微笑んで、自転車に再び乗る。
「じゃあ、もう遅いから僕帰るね」
そう言って闇の向こうに消えていった。
「蒼ハル」
そこで立ち尽くしていると、大人達が自分を見つけ外に出てくる。
「ご無事手なによりです、コニー様」
「ああ、いま帰った。心配掛けてすまなかったな」
そして、燃えるような色の毛をフワリとかきあげた。
「突然なのだが、私はこの街にしばらく滞在しようと思うのだが」
「いや、それはいくらなんでも……」
周りの人間は歯切れ悪くしどろもどろになった。
「よいではないか。視察と思えば」
「ですが…」
「あと、このアトランティスに蒼ハルという人物がいる。個人データを調べたいのだか」
「それは、個人情報保護保護法に触れてしまいますが」
「そうか。では、私が勝手にやろう」
スタスタとコニーは歩き出す。
「いえ。それはもっと駄目です。分かりました。分かりましたから。でも、何故そんなことを急に言われるのですか?」
「私もハルと同じ学校に通うからだよ」
ニヤリと小悪魔のような笑みを浮かべるコニーに、大人達は目眩を覚えた。
そして彼等は、こう思った。
最悪だと。