表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

モラル

作者: 泉 羅卯

 男は真剣なまなざしで話していた。

「君は今、自分のしたいようにすると、そう言ったね。でもね、それが許されないときもあることを、君は知るべきだね」

 相手が何か言いかけたようだが、それを遮り、男はなおも言った。

「いいか、よく聞きなさい。君は一人で生きているわけではないだろう? それは認めるね。社会の中で、その恩恵を受けて生きているんだ。わかるだろう?」

 相手は素直に認めたようだ。それを聞き、男は満足そうに頷いた。そして、少し声色を和らげ、

「社会の恩恵を受けて生きている以上、社会のルールも守らなくてはいけないんだよ」

 男がこほんと咳払いをした。

「では聞くが、社会にルールがあるのはどうしてか、わかるかね?」

 少し間を置き、

「それはね、社会にはいろんな人がいて、その多くの人がそれぞれに望みを持っているが、その望みを自分勝手に叶えようとすれば、社会が混乱するからさ。だからルールがあり、そこで暮らす者は、それを守らなくてはいけない」

 男はまた、少し黙った。相手に考える時間を与えているようだった。

 しばらく黙ってから、男はまた話し始めた。

「自分がこうしたいと思っても、それをしていいのかどうか、それを判断する力がまず必要だ。それが、分別というものだよ。これを備えた大人になることが、君には必要なんだ。わかるね」

 いいか、わかったかな、と男が大声で言った。

 しかしその男の声は、すぐに掻き消えた。電車内に、次の駅に到着するというアナウンスが流れたからだ。

 男はそのアナウンスに、舌打ちをした。

 そうして、スマホに忙しなく指を這わせ、それをポケットに入れると、周囲の者を押し退けて電車から降りていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ