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竜王様にお会いしました~新



身支度を終え、騎士団が待つ場所へと向かったライラはその光景に大きく目を見開く。

そこには半獣化した騎士団の面々がライラを待ちわびていたからだ。



「ああ、準備が出来たか。こっちだ」



「・・・・・・耳が」



手招くカザルの頭には虎のような耳が生えており、お尻から生えるしま模様の尻尾は可愛らし気に揺れている。

屈強な体格には不釣り合いなほどに愛らしい姿に思わず目が奪われる。


「うん?なんだ獣人が珍しいか?ここいる騎士達はみな獣人だ。人族の騎士も中には入るが、獣化した俺たちの方が早く野を駆けれるからな。今回は特別に獣人の隊長達を集めたんだ。本来は、馬車を使うべきなんだが急ぎの案件だ。すまんが、我慢してくれ。」



学び舎にも獣人の子どもはたくさんいるが、獣人は成長するに連れ自分の意思で耳や翼を自由に出し入れ出来るようになると聞く。

街中では獣の耳や羽を生やす者を目にすることはほとんどなく、初めて見る成人した獣人はライラが普段目にしている子どもの獣人よりはるかに逞しく、力強そうな印象を受けた。

だが、頭から生える虎耳をぴくぴくと動かすカザルに先ほどまでの威厳は皆無である。


(恰幅のいい殿方でもお耳が生えただけで随分印象が変わるのですね。こちらの姿の方が親しみやすくて私は好きですわ。)


「いえ、それはかまいませんが、皆さんは獣化して向かうのですよね?えっと、私は後ろから馬車でついていけばよろしいのでしょうか?」



王宮の場所など知らないライラが不思議そうに尋ねると、騎士団達から一斉に笑いが起こる。



「馬鹿言え、馬車が俺たちの速さについてこれるものか。お前は俺たちが抱えていく。好きな獣人を選ぶといい。ちなみに、俺は虎だ。今は半獣化だが獣化した俺の速さはすげぇぞ。」



悪戯っ子のように笑うカザルの言葉に目を瞬く。



「へ?」





――――――――――――――




テルガン国を出て半日ほど経った頃、大陸のはずれにあるルランド領地のグランハルド城に辿り着いたライラはぐったりとソファに横たわっていた。

あの後、完全に獣化したカザルの背に乗せられたライラはあまりの速さに景色を目で追うことが出来ず、悪酔いしてしまったのだ。

途中で気分の悪さに止めてもらおうと声をかけたもの、一向に休むことなく竜城を目指された。

 完全に獣化した獣人族に言葉が通じないと知ったのは、ライラのために用意された部屋に通されてからだ。


「すまなかった、精霊の加護を持っているから平気だと思ったんだが、人を乗せたのも久しぶりでな。加減を間違えたようだ。」


申し訳なさそうに謝るカザルに苦笑いを向ける。

獣化したカザルや他の騎士たちはもの凄い速さで森を駆け、馬車でなら三日はかかるであろう道のりを経った半日で駆けたのだ。

 普通なら風の抵抗で息も出来なさそうなもののだが、目を回すだけで済んだのはダークが何かしらの形でライラを守ってくれたからかも知れない。 


「いいえ、ここまで運んでくださりありがとうございます。」


正直まだ目は回っているし気分はあまり良くないのだが、獣化化したカザルの背中は予想以上にもふもふで手触りこそは最高だった。

今度は是非、全力疾走ではなくお散歩程度の速さで乗せてもらいたいと思う。


「その調子では今日の謁見は難しそうだな。」



カザルの言葉に気怠い体をお越し、背中で運ばれたさいに強風で乱れた髪を手櫛で直し最低限の身なりを整える。

獣人の背中に乗るときに正装は向かないことも分かった。


「私はもう大丈夫ですから竜王様の元に連れて行ってくれませんか?この闇を早く晴らさせなければ行けませんもの。」


体調を気にかけてくれるのは嬉しいのだが、今は一刻の猶予もないことはカザル達の焦る顔色からも伺えた。

でなければ、ライラだけを連れ獣化してまでここに向かはないはずである。


「・・・・・・そうか?すまない。だが、あんまり無理はするんじゃないぞ。大事な客人だからな。これ以上無理はさせられん。」



先ほどの出来事をよほど悪いと思っているのか罰の悪そうな顔をし、気遣いを見せるカザルに微笑みを返す。

上質なソファから立ち上がり、部屋を出ていくカザルの後ろに続く。

それからしばらくの間、竜王が居るという玉座に向かい城の中を歩いていたライラはその物珍しさに辺りをを見回す。

ルランド領地とは竜王のために用意された特別な領地である。

人族や獣人とは大きく異なる竜王が少しでも住みやすいようにと整えられた場所なのだが、竜城と呼ばれる竜王が住まう城に行くまでの間、道という道はなく大草原が広がっていた。

人工物が一切ない大自然は太古から変わることのない姿でライラを出迎えた。街で育ったライラにとってその光景だけでも驚きだったのだが、城内には更に目を見張るものが溢れかえっていた。

 先ほど通された客室もそうなのだが、竜王が住む宮という事もあり身の回りの物から屋敷内全ての物が一級品であることが窺えた。

 玉座に向かう途中に差し掛かった回廊は贅沢にも水晶で作られており、普段公爵低で使用している鏡よりも美しくライラ達の姿を写し出していた。


「まぁ、・・・・・・とてもお綺麗ですわ。」


見たこともない美しい輝きを放つ水晶にライラの口からため息がこぼれる。


「綺麗だろ?この回廊の水晶は歴代の竜王様の体から取り出されたものだ。みな立派な竜王だったに違いない。」


自信気に話すカザルの表情は自分の事のように誇らしげだ。

そんなカザルの言葉にライラは目を瞬く。


「竜王様の体には水晶が生えているのですか?」


「生きているときは生えていない。お前さんも大陸に伝わる伝承を一度くらい聞いた事があるだろう?その伝承には続きがあってな、邪心に蝕ばまれ堕竜に落ちた竜王からは瘴気が溢れ、真相を貫き寿命を全うした竜王の体は宝へと変わり更なる国の繁栄を招くだろうってな。この回廊の水晶は真相を貫いた歴代の竜王様そのものだ。」



大陸の伝承とは必ずと言っていいほど一度は耳にするものである。

というよりも、学び舎に一度でも通ったことがる者なら誰もが知っている。

 何よりも先に習うことが伝承だからだ。

大陸の恩恵とは何か、いかに竜王という存在が尊いのか、この世界の理を知るためには知っておかなければいけない。

それは人族に限らずどの種族にも言える事である。

とは言え、竜王に関する伝承は各地で様々な形で残されているため全てを習うわけではない。

 実際に、亡くなった竜王が鉱石に姿を変えるなど初めて耳にしたことである。

種族ごとに体のつくりが大きく異なることは授業で習って知っているつもりではあったが、竜王ともなると人族や獣人族とも大きく異なるようである。


「竜王様って本当に凄いんですのね、そんな方にお会いになるなんて・・・・・・」


公爵家ともなると様々な家柄の者と関わりを持つことになる。

それは公爵家の令嬢として産まれたライラも例外ではなかった。

 まだ六歳であるライラはデビュタントを迎えてはいなかったが、父のスティハーン公爵や母のトゥ―ナに連れられ正式な場ではないものの、上層階級と呼ばれる貴族たちが出入りする夜会や茶会に参加することが多々あった。

 そこで多くの貴族達と言葉を交す機会を毎回与えられたのだが、デビュタント迎えるのはまだ先の事だからと上層階級の世界に全く関心のなかったライラには、なぜ公爵やトゥ―ナがそのような場に連れ出すのか分からなかった。

それでも夜会や茶会にでれば奇麗なドレスを着られるし、美味しいものも食べれたので言われるがままに参加した。

幼いライラにとって、社交界やお茶会は楽しいくて美味しいものをたくさん食べれる場所という認識しかなったからである。

 だが、聡明で厳格なことで知られているスティハーン公爵やライラ達をいつも気にかけてくれる母のトゥ―ナが何の考えもなしに、幼いライラを大人の欲と妬みが渦巻く場に連れて行くはずがないと気付づかされたのは何度目か分からない悪意を貴族達から向けられた時だった。

 最初は楽しかった夜会や茶会も参加すればするほど、ライラの周りの環境は大きく変化した。

公爵令嬢なのに貴族のマナーも知らないのかと嘲笑うものもいれば、幼いから仕方がないと庇護をする仮面の下に侮蔑を浮かべる者もいた。

最初は善良な顔をしていた者たちが次々と手の平を返し、上層階級の秩序を知らない“恥知らずな令嬢いびり”を始めたのである。

 公爵低に帰った後に、いつものようにトゥ―ナに泣きつきながら貴族の連中がいかに陰険で意地が悪いかを伝えると、トゥ―ナは慰めるわけでもなく貴族界での流し方をライラに説いたのだ。

上層階級とは何か、公爵令嬢の肩書が他の者からどう見られるのかを理解させるために連れていかれてるのだとはっきりと理解したのはこの時である。

その甲斐あってか、幼いながらもライラは上層階級で生き残る術を着々と身に着けていった。

幼いから、子どもだから。その言葉が何の意味を持たないことを嫌というほど身にもって知らされたのだ。

身分ある者はそれだけ足元をすくわれやすく、常に気を張っていなけらばならない。

竜王ともなると貴族界以上に厳しくみられるに違いない。

 勿論、ライラだって何も知らない赤子ではない。最低限の礼儀や教養は身についているし、謁見の挨拶だけならば粗相をする事はないと自身を持って言える。

 だが、それと気持ちの問題は別というか・・・・・・。

人生で一度お目にかかれるかかかれないかという相手に会うのだ。

ライラの意思に反し身体は強張り緊張していることを嫌というほど自覚させられる。

 

「なんだ怖いのか?安心しろ、フワンカ様はとてもお優しい方だ。お前の力になってくれるだろう。」


そんなライラの様子を敏感に感じ取ったカザルが宥めるよう言葉をかける。

そんな些細な言葉でも緊張していた心が少しだけ軽くなるのを感じた。

期待と少しの不安を胸にライラは竜王が待つ玉座へと向かった。





♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦




 ほどなくしてたどり着いた竜の間と呼ばれる玉座がある部屋に通されたライラは、非礼がないように自身の家の爵位にあった地位まで歩みを進め頭を下げる。

上層階級の世界とは厳しくランク分けされた世界である。

王の謁見は勿論の事、竜王の謁見の際にも身分により近付ける距離が事細かに決められているのだと、来る途中にカザルが教えてくれたのだ。

ライラは公爵令嬢である。各王国の王の次に竜王に近付ける爵位であるが、玉座に座る竜王との距離はそれなりに開かれていた。


「幼いのにしっかりした娘だ。よい、頭を上げよ。」


凛とした声に顔をあげれば、両脇に騎士を控え玉座に座る青年の姿があった。

まだ年若そうな青年の肌はキラキラと光輝いており、青年がただの人ではないことを物語っていた。


(肌がすごく、キラキラしていますわ。この方が竜王様なのですよね?)


青年が静かに立ち上がり、ライラの元へと歩みを進める。


「名を聞かせてもらえないだろうか?」


「あっ・・・・・・ライラ・トルク・スティハーンと申します。この度はこのような貴重な場を設けて頂きありがとうございます。」



優しそうな雰囲気を纏う青年に公爵令嬢として挨拶を述べる。


「公爵令嬢か・・・・・・。私はこの大陸の守護をしているフワンカと申す。君に会いたいと言ったのは私だからね。そう畏まらなくても良い。さて、半信半疑だったのだが、君は本当に精霊王と契約したんだね。それも・・・・・・闇の精霊王とは恐れいる。」


面白そうな物をみるかのようにフワンカの緑色の瞳が細められる。


「あの・・・・・・・大変申し上げにくいのですが、私が精霊に会ったのは契約の儀のときの一度きりなのです。それ以降は何度呼びかけても姿を見せてはくれません。もしかしたら、もう、私の側にはいないのかもしれません。」


目覚めてからここに来るまでの間にライラは切実に何度もダークに呼びかけた。

だが、ダークが姿を現すことも呼びかけに応えることも一度としてなかったのである。


「君のすぐそばに精霊王はいるよ。竜族ではない君達には分からないかも知れないが、とてつもない大きな氣が君を守っているからね。これほどまでに巨大な氣を放つ者は早々いない。」


フワンカの言葉に驚いたものの、ダークが自分の元を去ったわけだはいことに安堵をつく。


「・・・・・・では、どうして精霊王は私の声に応えてくれないのでしょう?」


「さぁ、私にも理由は分からないけれど・・・・・・先に謝っておこう。すまない。」


そう言うや否や、フワンカのキラキラと輝く掌に眩い光が集まったかと思った時には、光は矢に変わり勢いよく放たれる。

至近距離で放たれたそれは、真っすぐに一寸の狂いもなくライラの胸元を貫く・・・・・・かのように思えた。

その瞬間、けたたまし音ともに、矢はライラの直ぐ胸元で消失する。



『なめた真似してくれるじゃないか。クソガキが。』



すぐ後ろでした唸り声に驚き、振り向けばそこには憤りを隠そうともしない美しい顔を怒りで歪ませるダークがいた。

何が起こったのか理解できず固まるライラと、闇の精霊王に目を向け不敵な笑みを浮かべるフワンカに、何事かと今にも剣を抜きそうな騎士団達。

緊迫した沈黙が竜の間を包み込んだ。




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