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魔力判定 前編 新




―――――――――――




六大大陸の一つ、光の守護をうけた癒しと安らぎの大陸エルヴァン。


その首都テルガン国の公爵家の一人娘として生をうけたのが、ライラ・トルク・スティハーンである。


公爵家の娘。その肩書きだけで誰もが羨むだろう家柄に加え、彼女の容姿は人目を引いた。


少し褐色のかかった肌は玉のように美しく、腰までのびた艶やかな銀の髪はまるで絹のように滑らかで、ヴァイオレットの瞳は生きる宝石と言われるほどだ。


身に着けている服装は質素なものではあるが、使われている素材がいいものであることは一目見ただけで明らかだった。


そんな彼女は今、素朴な木造建ての学び舎にいた。


素朴といっても平民から見れば十分に立派な学び舎なのだが、やはりお貴族様である。


ライラから見た学び舎は、公爵家の馬小屋ほどの広さしかない小さな建物でしかなかった。


公爵家の娘がなぜそんな所にいるのか、それはこの国の教育方針の影響に他ならない。


ここ、テルガン国は身分や種族に関わりなく、子ども達は六歳まで同じ舎で学ぶことが義務付けられている。


ライラが通うこの学び舎も平民から王族まで多くの子ども達が通っていた。


生徒数が多い分、学び舎の棟は分けられていたが身分ではなく、種族によって分けられている。


人間であるライラは人族のクラスだ。


人族のクラスは人間の他に、小人族、ドワーフ族、エルフ族と呼ばれる者達が属している。



「おっ、ライラおはよう!」


「おはようございます、エド様。」



エドと呼ばれた平民の少年は少しそばかすのかかった顔を、にっかと笑わせライラの隣へと腰を下ろす。


少し赤みのかかった茶髪の隙間から見える尖った耳はドワーフ族特有のもである。


公爵令嬢のライラに、平民の出でここまで気さくに話しかける者はあまり多くはない・・・・・・というよりエドだけである。


「エド様!!何度言えばわかりますの?ライラ様は公爵令嬢ですのよ。もっと言葉に気をつけなさいませ!・・・こほん、ライラ様、おはようございます。今日もとてもお美しいですわ。」



エドに続きライラに挨拶を交わすのは侯爵令嬢のマリアナだ。

美しい金髪に大きなベビーピンクの瞳。絹のように白い肌に薄い桃色の唇がよく生える姿は誰が見ても愛らしい少女である。

身に着けている白い簡素なドレスがより一層彼女を引き立てていた。

この学園でも指折りの美少女として名高い彼女に憧れるものは少なくない。



「ふふ、おはよございます。マリアナ様。マリアナ様も今日もとても素敵ですわ。」


マリアナとライラは家の爵位が近いこともあり、互いに気の知れた仲だ。

同じ令嬢として色々な悩みを打ち明けられる親友である。



「うへ~、お貴族様ってのはまぁ、よくも毎日毎日飽きもせず歯の浮くセリフが言えるもんだな。俺には無理だわ。」


平民であるエドはいつになっても、貴族の挨拶が聞き慣れないらしい。これでも簡素に済ませている方なのだが、エドから見れば十分に鼻に着く挨拶なのだろう。


「エド様!!」



その言葉に反応したマリアナが怒る。エドとマリアナは何かと相性が悪く、事あるごとに衝突しているのだが、はたから見たら仲の良いじゃれ合いである。もちろん、当の本人たちにその自覚はないのだが。


「マリアナ様。素直な所がエド様の長所の一つですわ。それにここは学び舎ですもの。少しぐらい不作法があっても咎めるものは誰もいませんわ。私は平気ですから、お気になさらないでくださいな」


本来なら平民であるエドが公爵令嬢であるライラにこのような態度や口調で話すなど、子どもだからといって許される事ではないのだが、エドの裏表のない性格がライラは好きだった。

せっかく友人になれたのだからと、そのままでいて欲しいとライラがお願いしたのである。


 もちろん公爵令嬢に頼まれたからといって普通は丁重に断りそうなものだが、そこはエドの性格なのだろう。快く了承してくれたのだ。勿論、他の貴族の子息や令嬢の中にはそんな態度をとるエドやそれを許すライラを快く思わない者は少なからずいる。


上層階級と呼ばれる貴族の世界では何よりも秩序や序列が最も重視されていることはライラも嫌というほど知っていた。だが、ここは学び舎だ。正式な社交界の場でもなければ、家同士のプライドの競い合いの場でもない。偏った思考にならないためにも、様々な身分や種族の者が共に勉学しているのではないかと言うのがライラの言い分なので、ごちゃごちゃ言っている輩は気にしないことにしている。


公爵令嬢という肩書に群がる者も決して少なくない中、エドは数少ないライラ自信を見てくれる大切な友人なのだ。


「ライラ様がそう言うんでしたら・・・・・・。」


「ありがとうございます、マリアナ様」


ライラの言葉を聞いたマリアナはそれ以上何も言わず隣へと腰を下ろす。


「なぁなぁ、今日は魔力判定だぜ!俺は学び舎に来てからずっとこの日を待ちわびてたんだ!!俺の属性は何だろな。あーわくわくするぜ!」


「もう、エド様ったら子どもみたいですわね。ライラ様は何属性になるんでしょうか?私の家系は代々風属性が多いみたいなのですが・・・・・・ライラ様のお家は確か光属性でしたわね。」


興奮が抑えきれないエドと、そんなエドを愉快そうに見つめるマリアナにライラは首をかしげる。


「どうでしょう・・・?確かにスティハーン家は光の加護を受けるものが多いと聞きますが・・・・・・エド様はどうなのですか?」



「ん~、俺たちドワーフ族は家柄とか関係ねぇな。」



「そうなのですね。エド様とマリアナ様がどの属性になるのか私も楽しみですわ。」


人族の体には魔力と呼ばれるものが流れており、魔力を魔法へと変え日々の生活に役立てていた。


六歳になる年に自分の体に流れている魔力の源を知り、そこから己の魔力に見合った知識を身に着けいていくのが大陸の常識であった。


今年で六歳になるライラ達も今日の授業で魔力属性を知り自分の魔法を知るのである。


それからしばらく、エドとマリアナと談笑していると授業の始まりを告げる鐘が学び舎に響き渡る。

始まりの鐘と同時に学び屋に入ってきたのはライラ達の先生であるエルフ族のリンネだ。


「みなさん、おはようございます。今日は皆さんお待ちかねの魔力判定ですよ。魔力判定は皆さんの人生にとって第一の分岐点になるとても大切な授業です。ですが魔力判定の前には、まず魔力とは何か

を理解しなければいけません。魔力と大陸の歴史は深い繋がりがあります。おさらいも兼ねて、大陸の歴史をもう一度学びましょう。今から先生が説明するから、ちゃんと聞いておくんですよ!」



リンネの問いかけに周りの生徒たちから元気な返事が返る。



―――――――――――――――――――――――――――――――――



星々の導きの元、大いなる湖に六つの輝きありて、

種の護手の誕生を祝わん


光の守 エルヴァン


地の守 ナーデラ


水の守 ヴィナンガル


炎の守 ミトラク


風の守 ラミス


闇の守 ノワール


守護の護手あれば、大地の子に祝福をおくらん


護手の輝き称えし時空、永久の祝福をおくらん


護手の声を訊きし時空、永久の安らぎおくらん


護手の児がめぐりし時空、種巡りて幸わからん


されども・・・・・・・、



―――――――――――――――――――――――――――――――――


「みなさんがよく知るこの伝承の通り、この世界は大きく分けて六つの大陸が存在しています。六つの大陸には様々な国があり、そらに多種多様な種がお互いに協力し合い共存しています。そんな種族も獣人族、人族、半獣族、精霊族の大きく四つの種族に分けられます。獣人族は各々が優れた身体能力を持っているように、私達、人族の身体には魔力が流れています。私たちは魔力を魔法に変え日々の暮らしに役立ててきました。ですが、私たち人族は自分の力だけで魔力を魔法に変えることはできません。精霊の力を借りて魔力を初めて魔法に変えることが出来るのです。」



「先生質問!獣人族や半獣族は魔力は使えねぇのか?」


「先生!精霊に力を借りるにはどうしらいいんですか?」


「どんな魔法が使えるんですか?」



リンネの話を聞いていた生徒たちから興奮を抑えきれない声で質問が飛び交う。


「はいはい、みんな落ち着いて。獣人族や半獣族も精霊に力を借りれば魔法を使うことはできます。この世界に生きる生き物には少なからず身体に魔力が流れているからです。ですが、獣人族が使える魔法はそう多くはありません。獣人族は種族によって異なりますが、大きな爪や強靭な牙、空をかける翼を持つ者もいます。そのせいかは分かりませんが、身体に流れる魔力はそう多くないのです。精霊の力をかりてもほんの少し魔法が使える程度なのですよ。半獣族は獣人族と人族のハーフですから、どちらの血をより濃く受け継いでいるかによって魔力の大きさも変わってきますまた、精霊と契約できるのは私達人族だけです。獣人族は精霊の力を借りることが出来ても、契約をすることは出来ません。。」



「魔力の大きさが使える魔法に影響してくるってことか?」



大人しく話を聞いていたエドが首をかしげる。



「さて、私たちが魔法を使うのに欠かせないパートナーとなる精霊ですが、精霊族は獣人族や人族、半獣族とは大きく異なる存在です。精霊族は普段は姿を見せることはありません。ですが大陸のいたるところに彼らは存在します。精霊族は大陸から生まれる大陸の恩恵の証として古くから私達と共存してきた存在なのです。今回は特別に先生のパートナーを見せてあげるわ。“氷の精霊よ”。」



リンネが精霊の名を呼んだ瞬間、辺りに冷やりとした冷気が走る。


「雪だ!上から雪が降ってくるぞ!!」


エドの声に生徒たちが一斉に辺りを見回す。

ライラも上へと視線を向ければ小さな白い塊が頬に当たった。


「先生の魔力は氷なの。そして先生が契約を結んだ氷の精霊がこの子よ。」


リンネに視線を戻すと彼女のすぐ隣に、水の塊で出来たような具現化しない女性とも男性ともとれる人型の“何か”が浮いていた。


「すっげー!!あれが精霊!!」


初めてみる精霊にエドは大興奮だ。


「精霊って不思議な存在ですのね。私、初めてみましたわ。」


マリアナもエドほどではないが大きな瞳を零れんばかりに見開いている。


ライラも精霊を見るのは初めてだった・・・・・・のだが、どこか懐かしい気配を放つその存在をライラは知っている気がした。


(私・・・・・・どこかで精霊に会ったことがあったかしら?)


少し思考を巡らせた後、気のせいねとライラは自身に言い聞かせリンネの話へと意識を向ける。


「精霊にパートナーとなってもらうには精霊と契約を結ばなければいけません。ですが、精霊にも魔法の得意不得意があります。例えばですが、氷の魔力が流れている先生が、自分の属性を知らずに火の精霊に呼びかけたとしましょう。たとえどんなに先生が心を込めて火の精霊に問いかけても、火の精霊が先生の呼びかけに答えることはありません。なぜだか分かるかしら?


「先生が氷だからだよ!だって氷は火にあたると溶けちゃうもん」


「相性が悪いからだよ」


「魔力が足りなかったんじゃないかな?」


リンネの問いかけに生徒たちから様々な声が上がる。


そんな生徒たちを優しい瞳で見つめながらリンネは話を続ける。


「ん~、そうね、相性が悪いと言えばそうなるわね。火の精霊は火の魔力を魔法に変える事は出来ても、氷の魔力を魔法に変える事は出来ないの。身体に流れている魔力の源は一つだから、氷の魔力が流れている先生には火の魔力がないの。だから火の精霊と契約を結ぶことが出来ないのよ。自分の属性と異なる精霊を呼びださないためにも、私たちは自分の身体に流れる魔力の源を知らなければいけないの。そのための魔力判定を今日の授業で行います。ここまでで何か質問のある人は?」


「はい!魔力の大きさで使える魔法が決まってくるんだよな?じゃぁ、魔力が小さかったらあんまり魔法が使えないってことか?」


身を乗り出す勢いでエドがリンネへと問いかける。


「そうね、魔力が多ければ多いほど難しい魔法も使えるようになります。ですが、今の皆さんは簡単な魔法しか使えませんよ。魔力は成長するにつれ、その人に合わせて増えていきます。今の皆さんはまだ子供ですから、ほんの少し魔力しか身体に流れていないの。貴方達が大きくなるにつれて、自ずと魔力も大きくなるわ。もちろん、魔力が大きいだけじゃ難しい魔法を扱うことは出来ません。魔法も勉強と同じです。使えば使うほど上手くなります。難しい魔法をを使えるようになるには努力が欠かせないよ。」


リンネの言葉を聞き不服そうにエドは席へと座る。


「ちえ、いきなり強ぇ魔法は使えねえのかぁ~俺も早く強い魔法が使えるようになりてぇなぁ」


「エド様、気が早いですわ。まずは自分の魔力の源を知らなければいけませんもの。」


「ライラ様の言う通りですわ!それに精霊とも契約を結ばなければいけませんのよ?」


エドの言葉にライラとマリアナが諭す。


「わかってるよ」とこれまた不服そうに言うエドにライラとマリアナから笑いがこぼれた。


「さぁ、一人続前に出てきて。」


リンネの声に一人また一人と魔力判定を行っていく。


大きな水晶玉の前に手をかざし、呪文を唱えたらその者の魔力に反応し水晶の色が変わる仕組みになっているようだ。


属性は色事に分けられており、自分の属性を知った生徒たちから嬉しそうな声が上がる。

今日は属性を知るだけで、精霊と契約を結ぶのはまた別の機会だとリンネは言っていた。

精霊を呼ぶためには己の魔力をある程度高める必要があるらしい。

自分の属性やこれから契約する精霊の事を考えていると、早くもライラ達の番がやってくる。

ライラ達の中で真っ先に水晶玉の前に立ったのはエドだ。


エドが水晶玉の前に手をかざすと、水晶玉は朱色の輝きを放つ。


「俺は炎属性か!っよっしゃ!」


自身の属性が火属性と分かったエドは、大きく拳をつくり嬉しそうにはしゃいでいる。


それもそうだろう。ドワーフ族は人族の中でも手先の器用なものが多く、彼らが作る装飾品や剣は強度や美しい見た目は勿論の事、同じものを二度と作らないことでも希少価値が高く有名なのである。

それゆえにドワーフ族が作ったものは高値で取引される。


そんなドワーフ族の中でも特に火の守護を持つドワーフが作った物は評判が良く、その腕は竜王すらも唸らせるほどと言われているのだ.

エドが将来、物作りの道に進むのであれば炎の属性が大いに役に立つことは間違いないだろう。



「エドは炎の魔力ね。次はライラ、前に来て。水晶玉に手をかざしてクリアと唱えて。」


エドの次に呼ばれたライラは水晶玉の前まで歩み寄り両手をかざす。


「“クリア”」


水晶玉がライラの声に反応し漆黒の輝きを放つ。その瞬間、大きな魔力の波がライラを包みこんだ。


「まぁ!ライラは闇の魔力なのね。闇の魔力はとても珍しいの。この学園にも数えるほどしかいないのよ。」


ライラを包み込んでいた魔力の波動が身体の中へと、静かに消えていく。


(私、この魔力をよく知っているわ。)



魔力に触れたのも、自身の源を知ったのも今日が初めてなはずなのに身体が覚えている。


自分でも分からない感覚にライラは小さな不安を覚えた。


「最後はマリアナね。さぁ、前に出てきて」


最後のマリアナが水晶玉に手をかざすと、水晶は淡い緑の輝きを放った。風の魔力だ。


「マリアナは風の魔力ね。これでみんな魔力判定は終わったわね。マリアナ達も席に戻って。」


リンネの声に押されライラ達は自分の席へと移動する。


ライラ達が席に着いたのを確認してからリンネが口を開いた.



「さぁ、みんな自分の魔力の属性が分かったわね。さて、この学び舎でみなさんが学べるのもあと少しです。学び舎を巣立つ前にみなさんには精霊と契約してもらいますが、その前に自分の魔力を高める授業を明日から開始します。今日はお家に帰ってから、きちんと親御さんに自分の属性が何だったのか伝えること。そして、ここを巣立った後、どうするのかをきちんと話し合ってきてくださいね。今日はここまで。気を付けて帰るように。」


水晶玉を手にリンネが学び屋から出ていくと生徒たちがあちこちで雑談を始める。


「うっし、俺の属性は炎だな。」


「私は予想通り風属性でしたわ。」


エドとマリアナも自分の属性が知れて嬉しいのだろう。


お互いにどんな魔法を使えるようになるのか今から待ち遠しい様子だ。


そんな楽し気な友人二人の様子に自然とライラの口元から笑みがこぼれる。


「ライラ様は闇属性でしたわね。私達の中でもライラ様だけ何て本当にとても珍しいんですのね。」


「闇属性か、俺たちドワーフ族にも数えるほどしかいねぇよ。昔はもっと闇使いも多かったって聞いたことあるけどよ、何百年前かの闇の守護竜が堕竜してからめっきり減ったらしいぜ。」



“ドクン”、エドの言葉を聞いた瞬間、心臓を鷲掴みにされているかのような痛みと息苦しさがライラを襲う。


(・・・・・・・違う。違う!違う!!それは真実じゃない!!!!!!)




自分の意思に反して頭の中に拒絶の言葉が次々と浮かんでくる。


何百年前の出来事など自分が知るはずもないのに、今にも叫んでしまいたいほどの拒絶がライラの中で渦巻いていた。


「まぁ、その黒竜は他の竜王達に殺されたって話だけどな。」


「そうなんですの?竜王が落竜になるなんて・・・・・・怖いですわ。ねぇ、ライラ様。



(違う!!そんなの嘘!!!!!!)



そう叫びたいのにライラの口は堅く閉ざされたまま開こうとしない。


何日も水を口にしていないかのように喉がカラカラに渇いていた。


背中に冷や汗が走る。



「ライラ様?どうかしまして?」


心配そうに顔を覗かせてくるマリアナに、首を振るのがやっとである。



「おっ、ライラの迎えとマリアナの迎えが見えてるぜ」


エドの言葉にマリアナとライラは学び舎の入口へと顔を向ける。


そこにはライラの従者であるガランとマリアナの従者の姿が見えた。


いくら国の方針とはいえ、貴族の子どもを護衛もなしに平民の中に放り出せるわけがないのだ。


地位を持つ者は良くも悪くも狙われやすく非力な子供なら尚更である。


そのため各々が家で抱える騎士団や従者の中で腕の利く者を付き人として学び舎に同行させることが許されている。


と、いっても学び舎はさほど広くはないので付き人や護衛の全員が室内に入れるわけではない。


数人の付き人が代る代る交代し室内の安全を守っているのだ。


勿論、学び舎に入れないからといってその間の護衛の任が解かれるはずもなく、空いた時間は学び舎の巡回や中庭で訓練を積んでいる。


室内の守りだけではなく外も見回るのは、自分の主を不届き者から守るためも勿論なのだが、付き人を持たぬ平民の子ども達の身を危険から守れるようにとの配慮なのだそうだ。

そして、授業が終わる時間を見計らい自身が使える家の令嬢や令息を迎えに来るのである。


「も~、授業が終わると直ぐこれですわ。ゆっくりお話も出来ないなんて」


「仕方ねぇだろ。お前らはお貴族様だしな。俺らみたいな平民とはあんまり関わってほしくねんじゃねぇの?」



不満そうに呟くマリアナに悪気がないのかあるのか分からない皮肉をエドが口にする。



「エド様!!私もライラ様もそんな事を思った事は一度もありませんわ!!」


間を置かずにマリアナが言い返す。


「お前らがそう思ってなくても、お前達の家族はどうか分かんねぇだろ。」


少し寂しそうに呟くエドにマリアナは思うことがあったのか、口を噤んでしまう。

ライラもマリアナもエドの事を大切な友人だと思っていることに偽りはないが、身分とは時に本人の意思とは関わりなく序列を生み出すことをライラ達は知っていた。

気まず雰囲気が流れる中、ライラは呼吸をととのえる。

先ほどまで感じていた、不快さはマリアナ達のやり取りを見ている間にどこかに消えてしまったようだった。



「身分が何であれ、エド様もマリアナ様も私の大切な友人である事には変わりありません。もう少しで学び舎を卒業なのですから、今からそんなふうでは私達の友情も大したことなさそうですわね。」



大げさに悲しむ振りをするライラをみて慌てて二人が口を揃えて言う。


「そんな事ありませんわ!私はずっとライラ様とエド様とお友達です!!エド様もそうですわよね!?」


「あ~もう、俺が悪かったよ。らしくないこと言っちまった。俺もお前らとはずっと友達でいたいと思ってるよ」



少し照れ臭そうに言うエドと、そんなエドを安心したように見つめるマリアナに安堵し笑みがこぼれる。


気まずかった空気が和み、互いに別れの言葉を言い合いその日は帰路についた。




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