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鶯の鳴く真夏の夜にまたここで

作者: ☆夢愛

2018年3月16日にエブリスタで投稿した作品です!

 ある真夏の事だった。


 小学3年生の私が出会ったのは、 青い色の鶯だった。

 季節もおかしい、 色もおかしい……だから鶯ではないんじゃないかと思っていたが、 その鳴き声は鶯そのものだった──。


「おーい『アオスケ』豆が欲しいかそらやるぞ~」


 相手は鳩ではなく鶯なのに、 私は歌いながらエンドウ豆を投げつけていた。

 今思ったら最低ですね。

 だけど『アオスケ』は逃げる事もなく、 夏の間はずっと私の家に居た。


「ねえ、 『アオスケ』? 何であなたは逃げないんだ? 近付いても、 触っても殴っても逃げないじゃん」


 今更だが私は鶯に『アオスケ』と名前を付けて呼んでいた。

 アオスケは6月~8月まで、 家からは出る事がなかった。

 しかし、 8月後半になった頃……少しずつアオスケは姿を見せなくなっていった。

 呼んでも帰らず、 8月が終わる頃には誰にも目撃されなくなった。


 どこに行ったんだろう──。

 私はアオスケの帰りを待つ。

 ─────────────────────────

 それから数年が経って私は高校2年生となった。

 今更ですが自己紹介。

 私は『鶴野鶯花(つるのおうか)』 鶴なんだか鶯なんだかはよく分からない名前ですが、 鶯花と覚えていただくと嬉しいです。


 アオスケと別れて早くも8年が経ち、 私には今好きな人がいる。

 そして今日その人に告白するんだ──。


 春の景色はとても好き。

 桜は桃、 白色に染まり、 満開なら上がピンク色の空に変わる桜並木。

 美しい景色を堪能しながらの花見は心が安らぐ。

 私は、 そんな大好きな桜の木1本の下を舞台に選んだ。


「どうしました? 僕に話って……」


 私の恋の相手は、 黒髪ショートでメガネをかけていて身長は164㎝くらいのそこそこ地味な人だった。


「好きです、 付き合って下さい」



 即答だった……。

 私の事なんか眼中に無いって言い方はちょっと違くて、 他に好きな人が居るらしい。

 私は人生初の失恋をした。

 ────

 私は落ち込むと毎回決まった場所に向かう。

 そこは、 桜に囲まれた泉……水に桜が写り、 ピンク色の水に見える……勿論春だけだけど。


「初恋って、 ドキドキするものだけど、 失恋はズキズキするものなんだなぁ……」


 私は初失恋を実感し、 なぜか感動し泣いていた。

 ──いや、 絶対違う……悔し涙……? よく分からない。

 背後から柔らかい土を歩く音がする。


「何の用だよ、 泉なんかに呼び出して」


「失恋の辛さって分かる? 」


 私の言葉に驚くのは、 中学からの男友達『世井龍次(せいりゅうじ)』だ。

 龍次の事は私が呼んだ。

 話を聞いて欲しくてね。


「──て感じなのですよ」


「お前が恋をねー」


 未だに信じようとしない龍次の肩を出来るだけ本気で無言真顔で殴ってみた。

 てへ。


「お前落ちたらどうすんだ! 俺は泳げねーんだぞ! 」


 威張って言うセリフではないと思ったけど……無視しよう。


「へーどうもすみませんでしたー。 はいおしまい」


「おしまいじゃねーよお前は獅子舞で良いわ」


「……」


「黙んなおい黙んな」


 あまりにもバカな発言をするので固まってしまったではないか龍次君よ。

 あ、 この人バカだから仕方ないのかな。


「で、 どうしろと? 」


「何がだっけ」


「お前が呼んだんだろが」


 要するに君は『愚痴吐かれ器』さ、 もう用はない去れ。

 ─────────────────────────

「無視すんなおい」


「ん」


「いや見ろって意味じゃないから」


「はーい」


「いや、 見んなって意味でもなくて……メンドクセー奴だなおい」


 おいおいおいおいうるさいよって言ったら怒られそうなので言ーわない。


「じゃあご苦労様さよーなら」


「さよーならじゃねーよ」


「いや、 用ないからもう」


「お前じゃあ何のために俺呼ばれたの? 」


「知らね。『愚痴吐かれ器』君」


 頭殴られた、 泉に落ちたらどうするんだ。

 普通に泳げるし水恐くないけどびしょ濡れになるでしょーよ。

 いつまでも居るけど本当に何もないからね、 帰って良いんだよ。

 龍次は帰らない……じゃあ私が帰ろう。


「おいどこ行くんだ」


「帰るんだ」


「いやいやいや」


「やいやいやいやい」


 また怒られた。

 器の小さい男だな、 私が帰るだけなのに何なんでしょうね。

 その茶髪全本抜かれて禿げたいのかな? ミスタードラゴン。


「相談とかじゃねーのかよ」


「何の話」


「オメーの記憶力は鶏並みか」


 鶏だってさニワトリ。

 鶴に鶯に鶏に……私は一体どの鳥なんでしょうかね。


「ねぇ、 鶴って綺麗だよね」


「いや知らんけどな」


「鶴知らない訳ないでしょ」


「お前また殴んぞ」


 うん、 この男は女の子にも手を出すようだ。

 明らかに手加減はしてるしとても優しくだけど。


「鶯は鳴き声いいよね」


「変だよな」


「んだとコラ」


「!? 」


 私はアオスケに会った時から鶯が好きになったんですよ、 悪口言うな。


「鶏は面白いよね」


「どこがどんな感じに?? 」


「動き」


「それは共感しかねます」


 鶏のあのホヘッてる(?)歩き方は面白いと思うけどなぁ……この男はユニークさが足りないな。

 もっと面白くなりなされ。


「ねぇねぇ龍次」


「何?」


「アーメン」


「ちょっと待て」


「何」


「何を祈ったんだよ」


「君の不幸をさ」


「おいコラ」


 まあ、 冗談だけどね。

 親友には幸せになって欲しいに決まってるじゃん。

 まあ言わないけどね、 面白いし。


「んじゃ、 マジで何も無いなら帰るぞ」


「しっしっ」


「お前マジで1回本気で殴ろうか」


「おまわりさーん」


「やめろや! 」


 私と龍次は別々の家へ帰った。

 そりゃそうだ、 同棲してないもん。

 したくないもん。

 ────────────────────────

 家に帰るとメールが届いた。

 あら、 龍次君ではないか。


 ーー 『泣いてたろお前、 大丈夫か? 』ーー


 何で知ってるのかな。

 とりあえず聞いてみよう。


 ーー『見たから』ーー


 ーー『視姦? 』ーー


 ーー『ぶっ飛ばすぞお前』ーー


 おお、 殴るがクラスアップしたじゃないか、 凄いぞ私。

 煽り方が上手くなってるのかな?


 ーー『まあ、 眼こすり過ぎるなよ』ーー


 ーー『ラジャー』ーー


 こうして今日の私達の会話は幕を閉じた。

 でも……龍次? 私は堪えるの苦手なの、 知ってるでしょ? 代わりに私は貴方の怖いものを知ってるけど。

 オバケ怖いんだもんね。

 だから私の家に来ないんだよね、 神社だからオバケ来そうだもんね。

 ──よく見るよ。


「あーあ、 私は素直になれないなぁ。 純粋になりたいよ」


 そう思ったのは、 泣きたいのに泣けないし、 1人になりたくないのに1人になろうとするからだ。

 でも、 龍次が居るから大丈夫だよね……全く頼りはないけども。


 ────龍次と出会ったのは中学1年生の頃。

 夏休みが明けて、 初登校の日転校して来たのが龍次だった。

 無口で、 慣れてない感じの龍次に誰も話し掛けない中、 私は話しかけたんだ。


『へい世井君、 悩みとかあったらsayな』


『お前頭大丈夫か』


 ──私達の初会話だった。

 ……アホじゃね?? って思うだろうけど違う。

 あえてバカと言おう。

 ダブルバカです。


「めーしだー! 降りてこい鶯花! 」


「はーい」


 お母さんに呼ばれリビングに行く。

 リビング……神社に合わない呼び名だ。

 食間にしよう……何だそりゃ。

 リビングに来るとご飯の用意はしてあるのに誰も居ない。

 あれ? 母さん? は、 どこだい??


「あれ、 カーテンが開いてる……」


 リビングにカーテン……この神社はどうなってるんだろうか。

 私は閉める為に窓に近づくと、 何かが飛んで入って来た。


「なに? なに……!? 」


 翼をバタつかせながら飛んでいる……鳥のようだ。

 青い羽が部屋中に舞う……禿げんじゃね?


「青い羽の……スズメ? 」


 私はそれをダイブしながら捕まえてみた。

 スズメではないみたい。

 これは何か……てか見覚えがある。


「アオスケ……?」


「アホスケ」


「また豆ぶつけられたいか? 」


「ヒトゴロシ! 」


「お前は鳥だろ」

 ────────────────────────

 アオスケじゃないな、 アオスケはこんなオウムやインコみたいに喋らないし。

 ただ思考能力はかなり高そうだけど。

 あとアオスケと別れたのは8年前だし、 帰って来るなんてあり得ない。


「お前は誰? 」


「ココハドコ? 」


「いや、 私の家だし神社だし」


「ワタシハダレ? 」


「どこでそんな言葉覚えてるんだろうね」


 アオスケに酷似した青い鶯は……いやアレインコの方が近い気がするけど。

 窓から出て行った。

 何だったのかな……。


 ──数分後、 家に母、 父、 ジー様、 バー様が帰って来た。


「ん? 鶯花これなにやったの? 青い羽だらけ」


「インコっぽい鶯に聞いて」


「青い鶯か? 」


 ジー様は私の言葉にすぐ反応した。

 そして青い羽を拾う。


「この羽の持ち主はな、 羽を落とした家に災いをもたらす。 ……だが、 来るのは恩がある家のみだ」


 いや何それ、 恩返しと言うか恩を仇で返してる気がするけど。


「お前が居る時に来たって事は、 お前の願いが叶うと共にこの家に何かが起こるって事だ」


「願いが叶う? 」


「昔、 アレに会ったんだろう? あの時はわしの願いでバーさんの病気が治り、 代わりに引っ越す羽目になった」


「へー、 偶然じゃないんだ」


「ああ違う」


 あの鶯は特別な鳥……そんなのだったんだ……。

 そんなの聞いてない。


「私の願い……ね」


 そんなもの、 勿論好きな人と結ばれる事だけど……振られたばかりだから多分違うな……。

 どの願いが叶うのか、 教えてくれないかな……ムリだね。

 そこから毎日毎日アホスケは家に来るようになった。

 アホスケー、 は、 アホスケばかり言ってくるから付けた。


「あ、 アホスケだ」


 学校にまでアホスケは来るようになった。

 学校にも何か災い起こすのかな……。

 大きな桜の木の下で弁当を食べていると、 龍次が来た。


「なあ、 次のバスケの試合、 見に来てくれねーか? 」


「いつ? 」


「明後日」


「面倒いけどいいよ」


 私は龍次のバスケを見る振りをする事になった。


「見る振りかよ」


「見に行くは見に行くけど、 見に行くだけ(・・)


「あっそ……」


 龍次はがっかりしてる様だったけど、 私は面倒くさいことが嫌いなんですよええ。

 ──────────────────────

 バスケの試合当日、 私はお弁当を食べながら試合を観ていた。


「ふぁんふぁれ~」


「食いながら言うな、 あと今休憩時間」


「いや、 龍次じゃなくて別チームの試合見てるの」


「いや俺の方も見ろよ」


 私はうるさい龍次の口に卵焼きを突っ込んだ。

 美味しいだろうこの野郎。


「どう? 間接キスだけど」


「い、いやどうじゃねーし」


「照れてるキモーい」


「殴んぞ」


 いやだって私は気にしないのに気にしてるんだもん。

 気にする方が悪いんだよ。

 龍次は私の肩を掴んできた。

 セクハラーって叫んだろーか? 龍次君。


「なあ、 俺が試合勝ったらで、 デートしてくれるか? 」


「めんどい。 じゃあ全勝して優勝したらね」


「マジか。 んー、 よし分かった」


「え、 マジ? わかったの?? 」


 龍次はハチマキを縛り気合を入れて試合に戻った。

 え、 マジで優勝しそうな勢いなんだけど……。


 ────。


「はい、 優勝あとちょっとだったね」


 私は龍次の後頭部にスポーツドリンクを投げつけてみた。てへ。


「てへじゃねーからなマジでいてーからな」


「あれま」


 龍次は優勝まであと3点で、 負けてしまった。

 やりぃ。

 あ、 いえ何でもございません。


「チクショー……チャンスだったのにな……」


「そんなに私とデートしたいの? 何で? 」


「そ、 それは本当は優勝してから言おうと思ったんだけど……」


「じゃあいいや」


「おい」


 こんなに落ち込んでる龍次は初めて見たかも知れない……ちょっとだけ面白いかも。

 ……仕方ないなぁ。


「いいよ、 お店の物全部奢りならデートしてあげる」


「嬉しいけど嬉しくねぇ」


「じゃあいいや」


「買える範囲でお願い致します」


 こうして私と龍次はデートする事になった。

 全部彼の奢りでね、 やりぃ。


 ──。

 デート当日、 私はテキトーな服を選んで出掛けた。


「よお鶯花、 その格好可愛いな」


「私暑いからアイスが食べたい」


「会話は無しですか」


 私と龍次はそこそこ楽しくデートを続けた。

 いやぁ、 奢らせるのって気分いいですね。


「おい、 御神籤引こうぜ」


「私いつでも引けるけど」


「いいから! 」


 仕方ないなぁ……私は御神籤を引いてみた。


「俺は大吉だ! よっしゃ! 」


「私は中吉……えーと? 」

 ───────────────────────

 恋愛運上昇? ……振られたばかりなのに?


『割と近くにある恋に気付いていないのかも』。


 割と近くにある恋……か、 それにしても恋愛占いみたいな書かれ方してるな。


「お、 俺はスポーツ運が高いぞ! 優勝も近いな」


「夢見て頑張れファイトーおー」


「夢見ては要らねぇ」


 デート終盤になると、 いつもの泉に来た。

 夜になって辺りは凄く暗くて私は凄く眠い。

 オバケと水が苦手な癖によくこんな時間にここ選んだね。


「今はもう夏だろ? 」


「まあ、 そうだね、 5月最後だしそう言っても良いんじゃん? 」


「お前、 鶯好きだよな。 今日で春が終わりなら聞けるのも最後かもな」


「鳥が時間を守ると思う? 」


 龍次は三日月を見上げながら眼を閉じた。

 見る意味無いぞそれ。

 そして私の方を真剣に見る……けど暗くてよくは見えない。


「俺はお前が好きだ! 大好きだ! 付き合ってくれ! 」


 龍次が頭を下げている。

 街灯が当たって頭が光っている様に見え、 笑いを堪えながら私はチョップしてみた。


「何で!? 」


「私は恋愛的な意味では決してないけど、 龍次の事は好きだよ。 バスケも尊敬する」


「本当か!? ……て、 ん? ある意味振られてる? 」


 本当だよ、 尊敬してる。

 でも私は他の人に振られたばかりだし──。


「私と龍次じゃ釣り合わない。 夢の為に努力する人間と、 何も真剣にやらない人間じゃ全く合わない」


「何言ってんだ、 お前は真剣になってるよ」


 何にもなってないけど? 何事にも中途半端だけど?

 何を思ってそれを口にしたんだ。


「恋愛……に真剣じゃねーか。 ずっと同じ人を想い続けて、 振られて泣いて……すぐに人に泣きついたりしない」


「それが……? 」


 龍次は拳を握り締めて言った。


「俺が好きなのも知らなかったのは、 別の人に夢中になってたからだろ」


「まあ……そうかもね」


「さっきから軽い! 」


 そうかな。

 龍次は私を指差し、 叫んだ。


「俺は世界一お前が好きだ! 誰にも渡したくねぇ。 俺と、 付き合って下さい!! 」


「……」


 私は黙ったまま微笑み、 下げている龍次の頭をチョップした。


「……ヤダ☆」


「なんてこった」


 その瞬間、 アオスケの羽が降り鳴き声が聞こえた気がしたけど……聞き間違いだよね。

 私と龍次はどうなるのかな。

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