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92:騎士と敵陣。

ようやく敵の拠点に乗り込みます。

 俺は今、アンジェ王国からそれなりに離れた森中に来ていた。本来なら、俺とグロヴレさん、フローラさまの三人で行くことになったはずだったのに、なぜかグロヴレさんはおらず、俺とフローラさま、そして前野姉妹とルネさまがこの場にいるのだ。


 まだ俺とフローラさまだけなら分かる。俺一人だけでも敵陣を制圧できる力は持っているし、神器無効化を受けない面があるからな。だが、前野姉妹は神器無効化を受けるだけではなく、実力も伴っていない。そんな状態でこの場に来ることは間違っている。


 それなのに、俺とグロヴレさんとフローラさまが行こうとしたら、前野妹が俺たちと一緒に行くとか言い出した。それはさすがにグロヴレさんでも止めたが、前野妹はそれでも食い下がって行くことをグロヴレさんに頼んだ。


 そこで俺に確認したが、俺は聞かれるまでもなく嫌だと即答した。だけど、そこからの前野妹の粘りが酷かった。涙目になりながら、俺に連れていくことを懇願してきたのだ。俺はそれを嫌だと言い続けるが、それでも懇願してきた。俺は無視して敵陣に行こうとするが、腕にしがみついて放そうとしない前野妹にキレそうになった。


 そこでグロヴレさんが折れて、グロヴレさんがアンジェ王国に残って俺とフローラさまと前野妹で行くことになったが、前野妹に続いて前野姉まで立候補してきて、前野姉が行くのならとルネさまもついてくることになった。・・・・・・遠足じゃないんだから、行く必要はないだろうが。そう思ったが、時間が惜しいためこの五人で行くことになった。全く、本当に腹しか立たないな。こいつらは俺を苛立たせるプロか何かなのだろうか。


「・・・・・・ここか」


 ともあれ、森中に隠されていた敵のアジトの入り口を発見した。魔法を使わずに奇妙に入り口が隠されていたが、俺の≪完全把握≫のおかげで見つけることができた。正直、ここから俺一人で行きたいところだが、ここでフローラさまとルネさまを置いていくわけにはいかないから、ここまで来たのならお連れする以外道はない。


「では、入ります。自分が先導しますので、自分の後ろにいてください。くれぐれも、自分よりも前に出ないでください、自分の指示に従ってください。そうでなければお守りすることができませんから」


 俺は確認を込めて、前野姉妹含めた四人にそう言った。四人は俺の言葉に頷いて分かってくれたようだ。それを確認した俺は、敵陣へと侵入していく。敵陣の内部構造は≪地形把握≫のおかげで分かり、≪完全把握≫を併用すれば、敵がどこにいてどこに罠があるかも丸見えだ。あれだけ苦しい思いをして良かった。


 そうは言っても、俺は油断せずに慎重に進む。神器を無効化を作り出す相手だ、どんなことをしてくるか分からない。相手の場所も分かり切っているが、それでも何が来ても対処できるようにはしておこう。


「ねぇ、アユム」

「はい、どうされましたか? フローラさま」


 迷路のようになっている洞窟を、俺は感知で地形を把握しながら迷わず進んでいると、フローラさまが後ろから声をおかけになられた。俺は周りの警戒を緩めずにフローラさまの方を向いて聞き返した。フローラさまは他の三人に聞かれないように、俺の近くで話し始めた。


「アユムは、ルネお姉さまのことをどう思っているの?」

「どうって、大切に思っています。それがどうかなされましたか?」

「分かり切っていたけれど、分かったわ。・・・・・・それで、アユムはルネお姉さまと今の状況になってどうしたいと思っているの?」


 こんな状況で何を聞かれるのだろうと思ったが、今聞くことなのだろうか。確かに俺とルネさまにとっては大切な話なのだろうが、敵陣に来てまで話すことなのかと思ってしまう。それでも大切な話であることは変わらない。


「・・・・・・仲直りしたいと思っています。ただ、それをルネさまが拒むのであれば、自分が離れる覚悟もできています」


 俺は今まで考えたことを素直にフローラさまに伝えた。ルネさまが自分勝手に俺と関わりたくないと仰るのなら、それはそれで良いだろう。だが、ルネさまが俺のことを思って関わらないと仰っているのなら、そんな考えを捨てていただきたい。何のための騎士だと思われているのだろうか。守るためであり、守られるためではない。


「本当に、それで良いの? ルネお姉さまがアユムと離れたいと言ったら、あなたは離れられるの? 何も未練はないの?」

「・・・・・・ないわけではありませんが、それがルネさまにとって必要なら、仕方がありません。自分が我慢をして解決するのですから、騎士として離れることはできます」


 納得するのかと言われれば、それはノーと言っておこう。あんな別れ方をして、全然納得するはずがない。でも、それは俺の話であってルネさまの話ではない。・・・・・・少しだけ、こんな心苦しい心情から解き放たれたいと思っている自分がいるのが腹立たしい。ルネさまのことを考えているだけで、心がモヤモヤするから、このモヤモヤを早く取り除きたいとも思ってしまう。


「もう一度聞くわよ? 本当に、それで良いの? もう一生ルネお姉さまと話せなくても、ルネお姉さまがどこかの誰かにお嫁に貰われて行っても、それで良いのね?」


 フローラさまは随分とルネさまについて聞いてくる。一生話せなくても良いは分かるが、お嫁に貰われて行くというのは関係あるのだろうか。それはそれで祝福することなのではないだろうか。・・・・・・ルネさまが嫁に貰われて行くのを考えたら、また少しモヤモヤする。それを考えれば、ルネさまにお嫁に行ってほしくないということなのか?


 どうして行ってほしくないのだろうか。・・・・・・俺がルネさまのことを大切に思っているから? 俺がルネさまのことを好きだから? ルネさまのことを好きとか、どれだけの女性を好きになれば気が済むのだろうか、俺は。でも、そう考えれば、行ってほしくはないよな。


 そう考えれば、これからルネさまと話せなくなったり、お嫁に貰われて行くのは嫌だ。だけど、結局は俺の我がままで、そんなことを言ってしまったら、騎士として情けなく思えてしまう。騎士が我がままを言ってはいけないだろう。


「もしかして、騎士が自分のしたいことを素直に言ってはいけないとか思っていない?」


 フローラさまが俺の思っていることをそのまま言い当てられたことに、俺は少しだけ驚いた表情をしてフローラさまの方を見た。俺のその顔を見たフローラさまは、呆れた表情をして、俺の顔を見られた。えっ、何か呆れる顔をしていただろうか。


「まさかとは思ったけれど、本当に思っていたのね。それなら聞き方を変えるわ。あなたが、いえ、アユム・テンリュウジがルネ・シャロンとどうなりたいと思っているの? その関係にお嬢様と騎士という関係は必ず入ってくるけれど、その関係を抜きにして、アユムはどうしたいの? ルネお姉さまとどうなりたいの?」


 俺が、騎士という立場を抜きにして、ルネさまとどうなりたいか? ・・・・・・どうなのだろうか。フローラさまやニコレットさんの時は、思いを伝えられて嬉しいと思ったし、付き合いたいと思った。ルネさまは違うのか? そんなわけがない。俺は、ルネさまのことが好きで、どこにも行ってもらいたくないと思っている。だけど、その思いが良いのかと思っている。


 それ以前に、騎士としての俺がいる。・・・・・・だけど、フローラさまが騎士としての関係を抜きにしろと仰られるのなら、俺は周りにいる女性を全員放したくない! 本当にワガママな願いだし、騎士としてあるまじき考えだな。これが俺の考えだろう。素直にフローラさまにこれを言ってしまおう。


「自分は――ッ」


 俺がルネさまのことについてフローラさまに答えようとした時に、気配が増えたことで足を止めて≪完全把握≫に集中する。フローラさまが何か口を開こうとなされていたので、フローラさまの方を向いて首を横に振った。すると口を閉じられた。後ろにいたルネさまたちも俺のすぐそばで止まられた。


 ・・・・・・どこかから瞬間移動でもしてきたのか? そうでないと気配が増えたことに理由がつけられない。俺たちが入ってきたのが入り口だったし、それ以外に出入り口はないはずだ。そうなれば、侵入されたと分かるとどこかに逃げる可能性がある。


 今のところ、俺たちが入ってきたという変わった動きをしていない。そして、この洞窟の中にあのモンスターたちと同じ気配を持っているモンスターしかいない。これは、作った奴がモンスターなのか、それともここにはいないのか? それでもここにいるモンスターの数は尋常ではない。軽く百以上はいる。それくらいに洞窟の中は広い。


 俺が目指している場所は、最下層にある研究室みたいな場所だ。そこにたどり着ければ、何か分かるだろう。・・・・・・しかし、本当にそれであっているのか分からない。だけど、そこ以外に行く場所がないから仕方がないか。


「・・・・・・今から、危険な場所に向かいます。フローラさまやルネさまに危険が及ぶようなことがあれば、前野姉妹、お二人のことを頼んだ。そこからは俺一人だけでここを制圧する」

「うん、分かった」

「分かったよ」


 前野妹と前野姉は俺の言葉に納得してくれたようだ。それにしても、やはりここにフローラさまやルネさまを連れてくるのは間違いだったな。≪完全把握≫を手に入れてもなお、不確定要素があるのなら、無理にでも俺一人で来るべきだった。


 後悔しても遅いため、俺はより慎重になりながら迷路の中を進んで行く。もうすでに後ろにはモンスターたちがこちらに向かってきている。ここにいるモンスターたちが、全員神器無効化能力を持っているのなら、前野姉妹を使えないということになる。まだそうと決まったわけではないが、その可能性は高いだろう。


 本当に何のために前野姉妹は来たのだろうかと心の中で愚痴りながら、どちらにしろ進まないといけないため進んで行く。幸い、後ろに来ているモンスターたちは歩く速度が遅いため俺たちに追いつくことはない。だけど、追い込まれていることは変わらない。フローラさまたちにそのことを伝えないといけないが、今は何せ落ち着いた話す時間がない。


 どうしようかと思いながらしばらく進んでいると、全方向からすべてのモンスターが来ているのが分かった。・・・・・・これは、バレていないよな? バレているのか? でも、そんな感じで来ているわけではない。何気なく来ている足取りに感じるし、慌ただしさは感じない。


 つまり、偶然で俺たちは囲まれそうになっているのか? それは本当に運がないな。ここで戦うとなれば、俺は洞窟の狭さで戦いが制限されるだろう。まずクラウ・ソラスが満足に振れないが、そこは拳で何とかすればいい。だけど、戦闘の音で俺たちが侵入してきているのがバレるかもしれない。


 そうなれば、瞬間移動を持っているモンスターたちが逃げるかもしれない。それは避けたい事態だが、どうすれば良い。まずフローラさまたちを無傷にすることだけを考えよう。・・・・・・そうなれば、戦闘を避けて俺のスキルの≪隠密≫を使うしかない。これならバレずに済むはずだ。


「ここに、全方位からモンスターが来ています。もれなく逃げ道はすべて塞がれています」

「それは、バレたということ?」

「いえ、バレたとは考えにくいです。そういう素振りや前兆は確認できませんでした。本当に偶然なのかもしれませんが、できれば重要な場所である最下部にあるものを逃したくありません。ですから、今から隠れます」

「隠れるって? 全方位にモンスターがいるのでしょう?」

「自分の≪隠密≫スキルを使います。それよりも・・・・・・、少し場所を移動しましょう」


 その場で隠密するのではなく、なるべくモンスターたちとすれ違わない場所の方が良い。そう思っているところで、≪地形把握≫で少し道幅が広くなっている場所を発見した。俺は四人に移動するように促すと、四人はついてきてくれた。今も刻一刻とモンスターたちが近づいている。


「ここら辺で良いか」


 最下部へと続く道から少し外れて、俺は行き止まりへと続く道に入り、少ししたところで壁際に寄った。こちらに来ているモンスターも一体で大きくない。ここら辺で≪隠密≫を使うことにしよう。


「ここで≪隠密≫を使います。そのためには自分と間接的にでも接触していないといけません。俺と二人が手をつないでいただいて、残りの二人はその二人と手をつないで横一列になってほしいです」


 そう言って俺は四人に向けて両手を差し出した。それにいち早く気が付いたフローラさまが、俺の差し出している右手を取られて壁際に移動した。さて、ここからが問題だろう。誰が俺の左手を取るんだ? ルネさまが取られる可能性は低いから、前野姉妹のどちらかか?


「ルネ、取らなくて良いの? ここに来たのは自分の想いを言うためでしょう?」

「で、でも、・・・・・・拒まれると思うと」

「アユムに限って・・・・・・、リサが拒まれているから、何も言える立場じゃなかった」


 何やら前野姉とルネさまが話しているが、そんなことより早く俺の手を取ってくれないとモンスターが来てしまう。この際誰でも良いから早くしてください。この場で俺以外に誰もモンスターを感知できていないから危機感がないのだろう。俺でもそうなる。


「じゃあ私が手をつなぐね」


 ルネさまと前野姉が話している間に、前野妹が俺の手を取った。それを見たルネさまと前野姉は、お互いの妹と手をつないで俺たちは壁際に横一列に並んだ。そして俺は≪隠密≫を発動させた。これでモンスターをやる過ごせれば、ここからすぐにでも最下部に向かう。のんびりしていてはたどり着けない。


 これからどう動こうかと思っていると、行き止まりから来ているモンスターが目視できるところまで来た。そのモンスターは人の形をしているが、人とは異なる特徴をしていた。まず、全身の至る所に目玉が付いており、頭部は大きく膨れ上がって頭にも目が大量についている。・・・・・・しかし、こいつどこかで見たことがある。どこだったか。


 その不気味なモンスターはついには俺たちの前を通ろうとする。その際に、モンスターはこちらを怪しむ素振りすらせずに進んで行くが、その際にモンスターの頭の目玉と目があった気がする。・・・・・・ッ! しまった、こいつ、〝ナイトメアロード〟か⁉ こんな有名な魔物のことをどうして忘れていたんだよ。


 こいつの目玉と目が合ったら、ナイトメアロードの意志とは関係なく悪夢の中へと誘われる。幸いなことにそれをナイトメアロードが感知できないことだが・・・・・・、くそっ、意識がもうろうとしている。悪夢の中に引き込まれる。


 この手の相手には出会ったことがないから、何も耐性を持っていない。・・・・・・こんなところで、眠ってしまったら、フローラさまたちに危害が及ぶかもしれない。寝ていられるか。悪夢なんかに負けるなよ、天龍寺歩夢。・・・・・・せめて、ナイトメアロードがどこかへと行くまでは、我慢しろ。それか順応するしかない。

九十五話では、まだ終わらない気がします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アユム・フローラさま、ルネさま、前野姉妹… とても珍しい盗伐隊ですね。 フローラさまがアユムの気持ちを深掘りする会話はほっこりさせられました。 フローラさまは表現のしかたはどうあれ、根はや…
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