09:騎士の秘密。
連日投稿が当たり前になってきましたが、前までは考えられないことでした。こんなにもパソコンに文字を打つ行為を続けられるとは。
フローラさまからお仕置きを受けながら一夜を共にした。何だかこれだけを聞いたらSMプレイに聞こえるのは俺だけだろうか。俺だけだな。そもそも俺にはその気はない。お仕置きと言っても、フローラさまの騎士の何たるかを聞かされていただけだ。たまに抱きしめられていたけれど。
「私たちは行ってくるわ」
今日から本格的に学園が始まる。フローラさまとサラさんは昨日見た制服を着ており、スアレムはいつも通りメイド服を着て学び舎に向かおうとしている。俺はと言えば、暇が与えられたのだ。学園に付き人を増やしても良いが、授業に共に出席できるのは一人だけなのだ。
フローラさまは俺を指名するのかと思ったが、スアレムを指名した。俺としてはスアレムに任せることができるから文句はない。なぜスアレムを指名したのかを質問したが、顔を赤くして何も答えてくれなかった。学園で何が起ころうとしているのだ? もしかして、エロイことなの!?
「あなたは自分の好きなことをしても構わないわ。私が授業を受けている間は好きにしなさい」
「心遣い、ありがとうございます。遠慮なく自分の好きにさせていただきます」
「でも、くれぐれも私が言ったことを忘れるのではないわよ」
「承知しています。一線を引いて接してきます。そして、フローラさまをいつでもお守りできるように努力してまいります」
「それで良いわ。じゃあ行ってくるわ」
「はい、行ってらっしゃいませ」
三人を送り出し、執事服ではなく動きやすい格好に着替えた俺は言われた通りにラフォンさんの元へと向かうことにした。俺がもっと強くならなければ、もしも魔王軍が侵攻してきた時にフローラさまをお守りすることができない。七聖剣がいても、魔王軍を倒せていないのだから、ラフォンさんを越えなければならないことになる。新たな目標ができたから、これからはより一層頑張ろう。
騎士育成場に行く最中、学園内にチャイムが鳴り響く。これは始まりの鐘か。この世界でも当たり前だが時間の概念があり、正確に授業を行うために背が高い塔に鐘が設置されているのも当然か。チャイムが鳴ったから、学園内で自由に歩いているのは俺くらいのもので静かなものだ。
俺は騎士育成場にたどり着くと、ラフォンさんが訓練場のど真ん中でそわそわとして待っているのが見えた。どれだけ俺のことを待っているんだろうかと思いながら、ラフォンさんの元へと歩いていく。するとこちらを見つけたラフォンさんが素敵な笑顔でこちらに手を振って走ってこちらへと来た。
「よく来たな! 待ちわびたぞ」
「待ちわびたって、授業が始まったのはついさっきですよ? どれだけ前から待っていたのですか?」
「ま、待ちわびたというのは言葉の綾だ! 二時間くらいしか待っていないぞ!」
二時間って、だいぶ待っているじゃないか。どれだけ俺が来るのを待ちわびていたんだよ。俺のことが好きなのか? いや、それはないな。どうして待ちわびたのだろうか。
「それは待ちすぎですよ。自分はフローラさまが授業に行かれないとここには来ませんから、もう少し後に来てもらった方が良いです。二時間も待たれると気になって仕方がないので」
「そ、そうか。それはすまない。今度は一時間前にする」
「いや、そうじゃなくて。自分と同じ時間にここに来てくださるだけで大丈夫です」
「そうなのか? ふむ、女が男性を待たせるのはあるまじき行為だと教えられたが、アユムがそういうのなら明日から気を付けよう」
誰だよ、男と女の立場を入れ替えて教えたやつは。でも、この世界では冒険者の割合が女性の方が多い。あっちの世界で言い換えれば、女性の方が社会的に貢献していると言えるだろう。つまり、女性の方が強いのか? ・・・・・・いや、こっちの世界に毒されたらダメだ。俺は俺の考え方を保っていないと。
「では、早速始めようか。身体をほぐすところから始めようか」
「はい」
まずは身体を傷めないように二人でストレッチをする。こっちの世界でもストレッチという概念があるようで、俺が開脚前屈をする際に、ラフォンさんが体重をかけて俺の背中を押してくれて十分に上体を前に倒すことができた。わざとなのだろうが、ラフォンさんが体重をかけるときに手で良いはずが、上半身で押してくれるから、大きいとは言えないが十分にある胸を押し付けてくる。やばい、たちそうだ。しかもこの場には俺とラフォンさんしかいない、と考えたら余計にたちそうであったが、フローラさまのことを考えて何とか抑えた。
そんな誘惑に負けず、十分にストレッチを終えた。ラフォンさんに意図がないから余計に質が悪い。
「次は走り込み。そして軽い打ち合いをして特訓へと移ろう」
「了解しました」
ラフォンさんと並走して訓練場の外周を駆け足で回っていき、身体を温めていく。何だかこうして普通に二人で女性と運動しているのが新鮮だな。いつもはフローラさまとだけど、フローラさまにはどうしても遠慮してしまうからな。まぁ、好きな人と一緒にいるだけで俺は嬉しいけど。
「そう言えば、アユムは異世界から来たのだな?」
「はい、昨日言った通りです」
走っている最中に、駆け足であるから余裕があるラフォンさんに話しかけられた。俺もこれくらいなら余裕があるから答える。
「それは召喚されてきたのか?」
「・・・・・・おそらく、召喚されたのだと思います」
「おそらく? どういうことだ?」
「いや、普通は召喚されたら召喚した人物がそばにいるはずですよね?」
「そうだな、召喚術なのだから」
「ですけど、自分の場合、こっちに来た時には近くに召喚した人物がいなかったのです」
「・・・・・・それは、召喚されたと言えるのか?」
「自分が聞きたいですよ。召喚されるだけされて、剣を一つ持たされただけで、〝終末の跡地〟という場所に放り出されたんですから」
「・・・・・・ちょっと待て。え、え? ふ、二つの情報が重要すぎて頭の処理が追いつかないぞ。どういうことだ?」
俺が何気なく発した一言で、ラフォンさんが急に立ち止まって頭を押さえ始め、動揺した表情を浮かべている。さっきのセリフのどこに重要な情報があったのだろうか。
「一つずつ確認だ。まず、アユムが異世界に来たのは何年前だ?」
「三年前くらいだと思います。二年前より前は、時間が分からない場所にいたんで、憶測でしかないですけど」
「・・・・・・召喚された時期と合っているな。じゃあ、次の質問だ。〝終末の跡地〟にいたというのは本当か? そこで何をしていたんだ? 詳しく教えてくれ」
「詳しくと言われましても、その〝終末の跡地〟に召喚されて、そこの魔物たちが襲い掛かってきたので、片っ端から片付けていきました。何度も死にかけましたけど、どうにか生き残りました。そうして魔物がいなくなったので二年前にそこから出ていき、近くにあるシャロン家にお世話になり、今に至ります」
「二年前か、これも辻褄が合うな。・・・・・・それよりも、よく生き残っていたな。あそこに放り込まれると私でも生き残ることができないぞ」
「まぁ、何とかなりました。剣のおかげで」
「では、最後の質問だ。・・・・・・ッ」
ラフォンさんは、最後の質問を中々言い出せないようであった。俺はラフォンさんが言い出せるようになるまで待ち、少しして最後の質問を口にした。
「アユムが来た時に持っていたという、剣を見せてくれないか?」
「・・・・・・まぁ、良いですよ。ラフォンさんになら」
悪そうな人なら見せるつもりはないが、ラフォンさんみたいな人なら良いと思ってしまった。そもそも俺の剣は隠す必要のあるものではないからな。だから誰であろうと見せる。正直俺の剣を知っている人がいれば教えてほしいくらいだ。
俺は異空間に収納している白銀の剣を取り出す。その格好良さと言ったら、いつ見ても変わらない。これが俺のだと自慢したいほどのできだと思う。そんな白銀の剣をラフォンさんが見て、目を見開いて固まってしまった。もしかしてこの剣が何なのか知っているのか?
「まさかっ・・・・・・、もしかしたらと願ったが、こういうことが、あるのか」
硬直から解けたラフォンさんであるが、何か独り言を言っている。そしてその口はうっすらと笑みを浮かべているように見える。絶対にこの人この剣のことを知っているよ。これで知らないとか言い出したら、俳優さん顔負けの演技だ。
「これが何かを知っているのですか?」
「・・・・・・あぁ、知っているとも。その剣は、神器クラウ・ソラス。召喚された五人の勇者にそれぞれ最初から装備させられている最強の武器の一角だ」
・・・・・・召喚された、五人の勇者。勇者って言葉をどこかで聞いたことがある。あぁ、三木とラフォンさんが会話していた時に稲田が勇者だと言っていたな。うん? つまり異世界に召喚されたものが勇者と言うことなのか?
「つまり、自分は勇者なのですか?」
「そういうことになるな。どうしてあの場ではなく終末の跡地に召喚されたのかは疑問が残るがな」
「あの場? どういうことですか?」
「あぁ、言っていなかったな、最初から説明しよう。勇者を召喚する前、世界は魔王軍が人類側に侵攻してきていた。衰退を恐れた人類は、ある伝説に則って人類側を助けようとした。伝説とは、異世界から呼ばれし五人の勇者により世界を救うという伝説だ。勇者は五つの種類に分けられている。勇者・騎士・弓兵・賢者・司教の五人だ。そして、この伝説により、無事に五人の勇者がこの国の王によって呼び出された。それが私が昨日言った五人の名前の人物だ」
えっ! あの五人が勇者としてこの国に召喚されていたのか。いつも仲がいいのに、異世界転移まで仲良くしたのか。稲田ハーレムは健在なのか?
「・・・・・・ちょっと待ってください。五人がその場で呼び出されたのなら、自分は勇者ではありませんよね?」
「そう、五人の勇者は呼び出されていた。他の勇者がいるなんて考えもしなかった。しかし、君が持っているその武器は、間違いなく神器クラウ・ソラス。伝承に書かれていた武器と丸々同じ特徴をしている」
「なら、同じ武器が二つあるというのですか?」
「いいや、そんな最上位の武器が二つもあれば、魔王軍を打ち払えるだろう。しかし、現実はそう甘くない。とある一人の勇者の武器が、伝承とは違っていたのだ」
勇者の武器が二つもないのなら、俺が当てはまる職業は騎士。つまり、騎士として呼ばれた誰かの武器が違っていたのか。
「コウスケ・イナダ。こいつは騎士として呼ばれたが、伝承とは違う武器を持ってこちらに召喚されたのだ。聖なる儀式として召喚されたのだから、武器が伝承と違っていたとしても誰もが疑わずにそいつを騎士として迎えた」
・・・・・・ぷっ、笑える! あいつがまさかニセ騎士として生きているとは思わなかった! 別に大した恨みはないが、あいつがそうとは知らずに我が物顔で騎士をやっているところを想像すると、笑うしかない。あの、いつも自分が主人公だと、俺がモブキャラだと蔑んだ奴が、偽物だったとは。
「何を笑っているんだ?」
「いえ、別に。ぷっ、ただ、あいつが偽物だということを知らずに行動しているところを考えると、滑稽だなと思っただけです」
「・・・・・・性格が悪いと、言いたいところであるが、あいつが相手ならば仕方がない。あの腐った根性が勇者であるはずがなかったんだ。ふっ、少しはあいつへの恨みが晴れた」
ラフォンさんも少しだけ笑いを漏らしていたが、すぐに笑いを止めて話の続きを始める。
「さて、勇者であろうとなかろうと私の弟子であることは変わらない。しかし、強く仕上げる理由が一つ増えた。本来、君には他の勇者とともに行動してもらう必要があるのだが」
「昨日もお話しした通り、あいつらと行動する気はありません。それに、自分はフローラさまを守ることが何よりも重要なことなので」
「そうだろうな。勇者は民衆のために戦わなければならないが、騎士は少し違う。騎士も民衆を守る必要があるが、誰か一人を守る方が騎士としての強さを発揮する。アユムはそのままでいい。その考えを見落とさないでくれ」
「え、はい、分かりました」
「アユムのことも分かり、コウスケのこともスッキリしたことだし、走り込みをやめて特訓を始めるか」
「はい、よろしくお願いします」
「言っておくが、勇者と分かったのだから手加減はなしだ。そもそも終末の跡地を一人で生き延びるものに手加減などしていられない」
ラフォンさんは訓練場の端に置いてあった二本の木刀を持ちだし、一本を俺に渡してきた。
「始めようか、勇者アユム。君に私のすべてを詰め込むつもりでいる。生半可な覚悟では乗り越えられないぞ!」
「望むところです!」
覚悟はすでにフローラさまと出会った時から決まっている。そして、俺の謎の大部分が解け、俺とラフォンさんの特訓が始まった。
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