88:騎士と異形。④
眠くて誤字脱字があるので、遠慮なく言ってきてくださるとありがたいです。
俺は一番近場にいる化け物を処理するために建物の上に立って、そちらの様子を見た。そこには黒いもやを纏っている巨大なゴリラが街中を破壊して回っていた。他の場所からも破壊の音が聞こえてくる。幸い、俺の他にもこの街で警備していた人たちがモンスターたちを対処しているようであった。
さて、俺も早くこの街を壊しているゴリラを倒して、フローラさまたちの安全を確保しないといけない。俺は建物から降りて巨大なゴリラの元に走り、街を破壊しているゴリラに近づく。ゴリラは俺の姿など見えていないように街を破壊しており、街にいた人々は逃げ惑っている。
「いやぁぁぁぁっ!」
「た、助けてぇぇっ!」
人々はゴリラから逃げるために俺とすれ違っていくが、人が邪魔で動けない。こんなことなら建物の上から行くんだったと思っていると、人ごみの中で、少女が人ごみの中で躓いてしまった。母親らしき女性がその少女の手を取ろうとするが、人ごみの中にいるため母親らしき女性はその人ごみに押されて少女から離されていく。少女は少女で人ごみの中にいるため、立てずにいた。
そして、人ごみがなくなった時にはすでにゴリラが少女の近くにいた。ゴリラはその少女を見つけて攻撃しようと腕を上げた。押し流されていた母親らしき女性は少女の元へと戻ってきて、ゴリラから守るように少女を抱きしめた。ゴリラはそんな親子などお構いなしに腕を振り下ろして親子を殺そうとする。
さすがにそんなことは見過ごせないから、俺は親子とゴリラの間に立ち、≪裂空≫を放った。ゴリラは一瞬で縦で斬れて左右に身体が分かれた。こいつにも神器を無効化する力があったのかは分からないが、それがなければ俺にとってはただのゴリラだ。そう思いながら、俺は親子にゴリラが倒れた時の余波が及ぶといけないから、母子を抱えて後方へと飛んだ。母子を丁寧に下して、ゴリラの方を向く。
真っ二つにされたゴリラは絶命しており、俺はゴリラの元へと近づいた。ゴリラの身体の中を見ると、やはり心臓付近に黒い宝石を見つけた。俺はそれを取り出して黒い宝石を握り潰した。ここまでが一連の作業であるが、この黒い宝石は潰さないといけないのだろうか。他の人に何も聞いていないから、適当にやっているのだが、合っている確証はない。ただ危険そうだったから潰しているだけだ。
「あ、あのっ!」
「はい?」
俺が次の場所へと移動しようとするが、先ほど助けた母親らしき女性に声をかけられた。何かと思いそちらを振り返ると、女性が頭を下げていた。
「助けていただきありがとうございます。おかげで私もこの子も助かりました」
「気にしないでください、自分が好きで助けただけです」
「それでもあなたがいなければ、今、私とこの子は生きていませんでした。本当にありがとうございます」
・・・・・・何だかこうして見ず知らずの人からお礼を言われるのは新鮮な感じがする。それは俺が人のことを助けていなかったから、新鮮な感じがするのだろうか。まぁ、悪い気分はしないから素直にお礼を受け取っておこう。それよりも、今はこの人たちを安全な道に誘導しないといけない。
「それよりも、今はここからすぐに逃げてください。他にもモンスターが国中で暴れています。あちらならモンスターもいないので大丈夫ですから」
「えっ、でも他の人たちは違う方向に逃げましたよ?」
この女性の言う通り、さっき集団で逃げていた人々とは違う方向を俺は指さした。別に女性をモンスターがいる場所に誘導しようとしているとか、母子を集団から孤立させようとかそう考えているわけではない。ちゃんとした理由はある。
「他の人たちが逃げた方向には、モンスターが二体います。今は冒険者か誰かが戦っていますから、あちらに逃げることはお勧めしません。自分が示した方向ならモンスターがいないので一応は安全です」
そう、あちらに逃げた集団の先にはモンスターが一体いるのだ。そして、その集団とモンスターが出くわしてしまったようだ。どうしてそちらに行ったのかは分からないが、そちらには気配がそれなりに強い人間が数名いるから問題ないだろうが、戦闘の余波が及ぶかもしれない。
「はい、ありがとうございます。アリエンヌ、行くわよ」
女性が俺の示した方向に行こうと少女の手を引くが、少女は一度止まって俺の方を向いて、手を振りながら言葉を放った。
「ありがとう、お兄ちゃん」
「・・・・・・あぁ、気を付けてな」
俺も手を振り返して母子が行くのを見送って他の場所にいるモンスターたちに狙いを定める。少女にお礼を言われてむずがゆい感じがしたし、助けたのだから少女と女性を死なせるわけにはいかない。そんな暖かな気持ちになりながら、俺は建物の上に上がった。
やはりこちらの方が視界が良好で良いな。≪完全把握≫で感知しているから見るまでもないが、結構他の人は苦戦しているようだった。これくらいの敵で苦戦しているとは思わなかった。次々とモンスターたちを倒しているのは、ラフォンさんとグロヴレさんくらいか。神器持ちは随分と苦しんでいるようだな。おそらくモンスターたちは神器を無効化する能力を持っているのだろう。
だからこそ、素の力で強いロード・パラディンの二人がどんどんと倒しているのだろう。もしモンスターたちが神器無効化の能力を持っていなければ、神器所有者もロード・パラディンの二人ほどではないが倒せはしていただろう。
「あ?」
戦況を分析している途中で、サンダさんが俺の近くまで押されながら黒いもやを纏っている巨大なクマと戦っている。サンダさんの短剣の神器も歪んでおり使い物にならないようであった。それでもサンダさんはボロボロになりながらフラガラッハを構えている。
俺は今にもサンダさんに襲い掛かろうとしてる巨大なクマを後方へと殴り飛ばして、サンダさんの隣に立った。するとサンダさんは驚いた表情をしていた。
「随分と苦労していますね、サンダさん」
「アユムくん? どうしてここにいるの?」
「どうしてって、このモンスターたちを倒すためにここにいるんですよ」
「そうじゃなくて、アユムくんが追っていた誘拐犯もモンスターだったんでしょう? そのモンスターはどうしたの?」
サンダさんは俺が今もあの誘拐犯に手こずっていると思っているのか。だが、残念ながらそんなことはない。クラウ・ソラスの≪順応≫で神器無効化などないものにできたし、クラウ・ソラスがなくても俺のスキルだけで乗り越えられていただろう。ただ俺がちょっと油断していただけだ。
「倒しましたよ?」
「た、倒した? あっちのモンスターも神器が使えなくなる相手じゃないの?」
「はい、使えなくなりましたが、≪順応≫でその無効化を無効にしました。なので、自分はこいつを倒せますよ?」
「・・・・・・相変わらず、ぶっ飛んでいるよね、アユムくんもクラウ・ソラスも」
呆れた笑みを浮かべているサンダさんであるが、神器なしでもサンダさんは強いだろうに。どうしてこんなに苦戦しているのだろうか。勇者たちなら戦闘経験の少なさから神器の力に頼っている部分があると思うから、苦戦してもおかしくはない。
「サンダさんはどうしてこんなに苦戦しているのですか? 神器がなくてもサンダさんは強いと思っていたのですが」
「・・・・・・まさか、気が付いていないの? こいつらに近づいたら、神器の力を使えなくなる上に私の力も著しく低くなるんだよ。絶対にアユムくんの方にいたモンスターでもその能力を持っていたから」
・・・・・・そんな力があるのか? いつもより調子が出ないと思っていたくらいで、力が低くなるとかは分からなかった。まぁ、そこは気にしなくて良いだろう。今はこいつを倒して、この王国の状況を打破して考えても良いだろう。
「そんなことより、自分が倒しますからサンダさんは下がっていていいですよ」
「私も一応冒険者なんだから、ここでは引き下がれないよ。あれは私が倒すよ」
「そんなボロボロな身体で、自分みたいな≪順応≫がなくて神器が使えなくても、ですか?」
「そんなことで引くようなら、私はこの神器を手に入れてないよ。私は、私という冒険者の誇りを守るためにこの敵を倒す」
どうやら、サンダさんの意志は強固なもののようだ。それなら仕方がない、俺が手伝うのはサンダさんに失礼だし、サンダさんの誇りを傷つけてしまう。なら、せめてサンダさんの援護に回るか。サンダさんに死なれても困るし。
「じゃあ、自分はサンダさんの援護に回りますよ。さっさと倒しましょう」
「うん、ありがとう。早く倒して、他のみんなの元へと向かおう」
俺とサンダさんがお互いの神器を構えて、俺たちの前で敵意を丸出しに再び来た巨大なクマを見据える。そしてサンダさんがクマに攻撃を仕掛けようとした瞬間に、フラガラッハとクラウ・ソラスが、共鳴で光っていた以上に光り始めた。
その光は国一面を呑み込みそうな強い光であったが、俺にはハッキリと二つの神器が見えていた。クラウ・ソラスの白銀の光が、フラガラッハに吸い込まれて行っているのが見えた。そしてフラガラッハの桃色の光も俺のクラウ・ソラスに吸い込まれて行く。光を交換でもしているのか? でも、この現象は何だ? 何が起きているんだ?
「なに、これ?」
「さぁ、何でしょうね」
次第に光が収まり、クラウ・ソラスとフラガラッハの方を見る。クラウ・ソラスは何も変化がないが、フラガラッハの方は違っていた。フラガラッハは、普通に刀身があるのだ。さっきまで刀身が歪んでいたのに、光のおかげなのか刀身が戻っている。
「えっ、これってどういうことなの? アユムくんがしたの?」
「これは知りませんよ。自分だって驚いています」
神器にこんな力があるのか? いや、全く分からない。前野妹たちならこの現象を知っているのだろうか? 本当に俺は神器所有者が周りにいなかったから神器と神器について全く分からないことがこういう時に難点だな。
「でも、それで満足に戦えますね。サンダさんが危ない時は自分がクマの攻撃をはじきます」
「何が何やら分からないけれど、そうだね、今なら満足に戦える! もしもの時はお願いね!」
そう言ったサンダさんがフラガラッハを構えて、さっきの光で怯んでいる巨大なクマに向かって走り出してクマの背後に回って後ろから魔力で伸ばして刀身が長いフラガラッハで巨大なクマの首を掻っ切り、クマの心臓があるであろう場所を貫いた。巨大なクマは致命傷を二つ受けたことで、絶命しながら倒れた。さすがは暗殺者と言ったところか、心臓の場所を正確に狙っている。
そうだ、感心している場合ではなかったんだった。クマの中から壊していいのか分からないけれど怪しい黒い宝石を探さないといけない。俺はサンダさんとクマの元へと向かいクマの死体を見下ろした。
「・・・・・・あった」
「何をしているの?」
死んだ巨大なクマから黒いもやは出ていないが、それでも一部から黒いもやが少しだけ出ているのが見えた。そこはサンダさんが貫いた心臓の近くで、俺はクラウ・ソラスでクマの胸部を切開した。それを見ていたサンダさんが疑問を口にした。
「それは・・・・・・、これです」
「黒い、宝石? そんなものがこのモンスターの中に入っていたの? もしかして、こういうモンスターには入っているの? 力の原動力なのかな?」
巨大なクマの身体から黒い宝石を発見できた。サンダさんは俺の手にあるその黒い宝石を見て、俺が知っていることを大体言ってしまった。その勘の鋭さはすごいと感心してしまった。
「自分もそこまで知りませんが、サンダさんが言ったように神器を無効化するモンスターには全てこの黒い宝石が入っていました」
「そうなんだ、やっぱりそれが神器を無効化しているのと関係しているのかな? それよりも、それはどうするの?」
「壊します。これ自体にも危険が秘めています。こういう風に」
俺が黒い宝石を持っていると、黒い宝石から俺に向けて黒いもやが向かってきた。だから、俺は黒い宝石を握り潰して黒い宝石を粉々にした。それを見ていたサンダさんが驚愕の声を上げた。
「えっ⁉ どうして潰しちゃったの⁉」
「ああいう風に黒いもやが来て危険だと直感したからです」
「それでも、調べるために取っておいた方が良いんじゃないのかな」
「そんなことを言っても、握り潰してしまったので仕方がありません。ラフォンさんやグロヴレさんが倒しているでしょうから、あちらで黒い宝石について調べてくれるでしょう。危険なものである以上、自分は放っておけませんが」
「まぁ、そうだね。危険だから壊した方が安心だね」
サンダさんにご納得いただけて何よりだ。そして、ここで少し時間を使ってしまったが、国の状況が一向に良くなる兆しが見られない。ラフォンさんとグロヴレさん、そして彼女らの直属の部下の人たちがいても全然制圧されない。
・・・・・・どんどんと、モンスターたちが増えていないか? 最初は十体前後だったのに、今は二十体以上いるぞ。外から持ち込まれている感じはしない。ということは、どいつかがこの国に入って直接モンスターたちを呼び出していることになる。
「それで、アユムくんはどうするの? 私は今もまだ手こずっている冒険者の同僚を手伝いに行くけど」
「自分は、近くの場所からモンスターを倒していきます。この状況は非常にまずいです」
こんな状況だ、いつフローラさまたちに被害が及ぶか分からない。フローラさまたちはモンスターたちと離れている場所にいるから今は安心だが、こんな状況だからいつモンスターがフローラさまたちの元に来るか分からない。早く解決しないと。
「そう、じゃあ私は行くね。神器を使えるようになった私とアユムくんは離れて戦った方が効率的だからね」
「そうですね。気を付けてください」
「うん、アユムくんもね」
そう言ってサンダさんはモンスターがいる場所に屋根から屋根に飛び移って行った。・・・・・・この状況を一手で打破する方法が何かないかと考えながら、俺は近くにいる巨大なモンスターを倒していく。この程度の強さは俺の敵ではないが、巨大で、数が多いと周りに甚大な被害を与えてしまう。モンスターたちを出している敵を倒せばいいのだろうが、おそらく何体もいる。
俺は極力モンスターたちが暴れる前にクラウ・ソラスで真っ二つにしながら制圧していくが、何せ数が多くて仕方がない。そのせいでそこら辺には巨大なモンスターの死体が山のように積み上がっている。このくらいの数では俺の体力すら奪えないが、他の人たちは違うだろう。
何十、何百と倒しながら、俺は不思議なことに気が付いた。一つ一つのモンスターの強さが、段々と弱くなってきているのだ。それも気配ですぐに分かるレベルで。どれくらいかと言われれば、最初の強さが百くらいだとすると、十三くらいになっている。これは、何か他のモンスターの仕業なのか?
「アユム」
「ラフォンさん」
この状況を打破する方法を考えていると、ラフォンさんが俺の近くに現れて俺の近くにいたモンスターを倒していく。俺もそれに合わせてモンスターたちを切り刻んでいく。やはりラフォンさんは強くて組んでいる時にやりやすくていい。ラフォンさんはモンスターたちを倒しながら、俺に話しかけてきた。
「この状況、何か打破する案を持っていないか?」
「何か持っていればすぐに実行していますよ。自分やラフォンさんがモンスターたちを倒す数より、増えている数の方が多いので、このままいくと国が破壊しつくされますよ」
「そんなことは分かっている。最悪、国が崩壊するだろう」
ラフォンさんも分かっているが、それでもモンスターが減らない。俺とラフォンさんが十秒で敵を百殺しているとするならば、敵は百十ほど増えている。これだと敵が減らない。
「せめて、敵が一か所に集まれば、やりようはいくらでもあるんだが・・・・・・」
・・・・・・一か所に? 何を忘れていたんだ、俺のスキルで一か所に敵を集めるスキルがあるじゃないか。何故すぐにそれをしなかったんだろうか。これならすべての敵を集めることができる。
「ラフォンさん、自分が敵を集めれますよ」
「本当か⁉ それならすぐにでも敵を集めるぞ。一か所に集める場所は決めてある」
「はい」
俺とラフォンさんは敵を集めるために、ある場所へと向かった。
たまには言っておきます。感想お待ちしています。