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85:騎士と異形。

くっ、長く書こうとしていなかったところで、長く書いてしまいます。

 今日はいつも通り学園がある日で、フローラさまのお部屋の向かい側にある使用人の部屋のベッドで横になっていた。最近の俺の体調はすこぶる悪いだろう。全然食欲がわかないし、寝ることができない。だからと言って騎士として十分に戦えないと言われれば、そうではない。この状態があと二ヶ月くらい続けば、騎士としての調子は良くはないだろうが、まだ数日くらいだから問題ない。


 いや、問題はある。先日前野妹と話し合って、俺が彼女らのことを何も知ろうとしなかったことが分かったものの、仲良くする気はすでに失せて前野妹の告白を断ったことがあったが、問題は前野妹の最後の言葉であった。前野妹の、ルネさまと前野姉が一緒にいるという言葉に俺は驚いた。どういういきさつでそうなったのかは全く分からない。想像がつかない。


 ルネさまと前野姉の接点は、封印の地に行く道中で転移魔法陣で飛ばされた時に稲田を含めた三人で一緒に飛ばされた時か。それ以外に接点はなかったはずだ。どうしてこの二人が一緒にいるのか理解できないし、接点が思い浮かばない。


 幸い、ルネさまはニコレットさんと一緒にいるようで、それに加えて稲田と接触していないようだ。後者が一番心配であったが、大丈夫なようで良かった。しかし、これだけでも驚きなのに、俺を除いたフローラさまたち三人はこの事実を知っていたようでさらに驚いた。


 俺だけ一人ハブられていた。・・・・・・別にハブられるのは慣れているから良いけど、騎士として話してほしかったところではある。本音を言えば、俺はフローラさまたちを信用していたのに、何も教えてくれなかったことに少しの悲しみはある。俺は何のための騎士なのだろうかとも思ってしまう。そのことも頭の中でずっと回って、今の落ち着かない状態になっている。


「・・・・・・待つって、つらいなぁ」


 俺にできることをフローラさまに聞いたが、今は待つようにと仰られた。一見すると簡単なことのように思えるが、何もしないというこの状況がいつまで続くか分からない不安や葛藤をずっと抱えなければならないのかと思うと、辛くて仕方がない。


 この状態では、男に待たされているアニメや漫画の女の子も待たずに行くわけだ。俺も行きたいところであるが、今はルネさまの心の状態を考えれば、待つ方が良いのだろう。心の状態なんて分からないから何とも言えないけれど。・・・・・・気分転換にどこかに行くか。


 そう思った俺が一番最初に思いついた場所は、ラフォンさんがいるであろう騎士育成場であった。身体を動かした方が余計なことを考えずに済むだろうし、今の俺は身体がなまっている。鍛え直さないといざという時に手遅れになってはいけない。それに今ラフォンさんに会って安心したいという気持ちがあるからという理由もある。


 それと、他にもう一つ思いついたのは冒険者ギルドに行くことだ。これはただ単純に身体を動かすという名目でモンスター狩りをしに行こうかと思ったが、ラフォンさんに会いに行きたいから却下としよう。騎士育成場に行くか。




 動きやすい服装、と言っても動きやすいように作られた執事服を身に纏い、俺は騎士育成場に到着した。今日は学園があるため、騎士育成場には誰もいなかった。当然かと思いながら、俺は騎士育成場にある二階建ての横に長い建物に入ることにした。


 確かラフォンさんに教えてもらったラフォンさんがいつもいる場所は、一階の一番奥にある部屋だと聞いた。気配もあるからそこにラフォンさんがいるだろう。俺はお邪魔しますと誰にも聞こえないと分かりながらも言いながら、一番奥の部屋に歩いていく。歩いていく中で、ラフォンさんの気配の他に、誰かの気配があることに気が付いた。


 この気配はステファニー殿下の気配か。どうして学園もあるというのに、ステファニー殿下がここにいるのだろうか。さぼりでここに来ているのか? それなら俺は親近感を覚えることができるであろう。王女さまがそんなことは絶対にないけど。ステファニー殿下がいるのに、ラフォンさんに会いに行っても良いのだろうかと思ったが、ラフォンさんがいつ特訓に付き合ってくれるか聞いておくくらいのことはしようと思った。


「すみません、ラフォンさん。テンリュウジです」

「アユムか、良いところに来た。入ってくれ」


 奥の部屋にたどり着き、部屋の前で扉をノックして声をかけた。すると中からラフォンさんが妙なことを言って俺の入室を促してきたので、とりあえず俺は大人しく部屋へと入った。そこには思った通りラフォンさんとステファニー殿下が机を挟んでソファーに向かい合って座っていた。


「何かお取込み中ですか?」

「あぁ、少しステファニー殿下とお話しになっていた。それよりも何か私に用か?」

「いえ、ラフォンさんに特訓を付き合ってもらおうかと思っていただけです。大事な話なら、自分は出直します」


 何やら大事な話をしているようだったから、それとなく出直すことを伝えると、ラフォンさんとステファニー殿下は顔を合わせて確認するかのように頷いた。えっ、もしかして俺は厄介な時に訪問した感じか? 今は勘弁してほしいが、来てしまった以上仕方がない。


「ステファニー殿下、アユムに相談しても良いのではないでしょうか?」

「そうですね。テンリュウジさんには情報を渡すという約束をしていますので、お話しするだけお話ししましょう」


 二人で最後の確認を取ったようで、ラフォンさんが自身の隣に来るように促してきたので、俺は大人しくラフォンさんの隣に座った。・・・・・・気のせいかもしれないが、ラフォンさんの隣に座ったら、ラフォンさんがそれとなく近づいてきた気がする。


「テンリュウジさん、先日は私の提案を受けてくださり、ありがとうございます」


 正面で座っているステファニー殿下が俺にそう言って立ち上がって頭を下げてきた。まだ何もしていないのに頭を下げられる必要はない。それにあまりステファニー殿下と接したくないというのが本音だ。俺はステファニー殿下が嫌いで強い当たりしかしていないからな。社交辞令的な感じで済ませるか。


「頭を上げてください。自分は条件が良かったので受けただけです」

「それでもです。テンリュウジさんが私の提案を受けてくださること自体、信じられないことです。本当に感謝します」


 あぁ、ステファニー殿下自身も俺がステファニー殿下のことが嫌いだと分かっていたのか。それなら良かった。不用意に何か言ってくることもないだろう。そんなことより、俺に話したいことは何だ? とんでもないことでなければいいが。


「テンリュウジさん、先日の提案により今あなたにお話ししなければならないことがあります。今お話ししてもよろしいですか?」

「・・・・・・はい、問題ないです」


 先日の提案に関係することなら、聞かないわけにはいかない。犬の化け物や神器所有者について研究されていた謎の洞窟しかこちらには情報がない。情報が少ないのだから多いに越したことはない。それが謎を解く情報になるか、一層謎を深めるかは聞いてみないと分からない。


「では、お話しさせていただきます。先日、ユズキからユズキたちが謎の洞窟に行ったという話は聞かれましたよね?」

「はい、聞きました」

「その話の中で、モンスターたちが人間を喰らっていました。生存している方もいましたが、ほとんどが亡くなっている人たちでした。顔が損傷している人もいれば、身体の一部しか存在しない人もいましたが、生存者や顔が分かる人たちの身元を調べたところ、アンジェ王国で少し前に行方不明になっていた人たちであることが判明しました」


 まぁ、そうだよな。洞窟がアンジェ王国の近くにあって、どこから人間を狩ってくるかと言えばアンジェ王国しかないだろう。それは置いといて、問題はどうやって誘拐したかという話になる。犬の化け物モンスターだけで誘拐できるはずがない。


「非常に許しがたいことです。誰しも帰りを待っている家族がいるというのに、命を奪い、待っている家族に悲しみを与える。絶対に許されない行為です。私たちはできるだけご家族に誘拐された人たちを帰してあげようとしました。ですが、洞窟で見つけた死体の数と、誘拐された人たちの数が一致しませんでした」


 そこは同意見だ。万が一にも俺が待たされる状況に立たされて、帰ってきたのが腕や足だけなら俺の精神は崩壊するだろう。ただ、一つだけモンスターの立場から言うのなら、奴らも生きていて、誰かの命を喰わなければ生きてはいけない。立場が違うだけで、人間も同じことを相手にしているんだ。そんなことよりも、死体の数が合わなかった?


「モンスターが食べただけなのでは?」

「私もそう思いました。ですが、死体の数やまき散らされた血の量、骨の数や内臓の数。あのモンスターたちが食べていた人間の量は一日で一人程度ですので、行方不明になった頃から考えると行方不明者とあそこで亡くなった人たちの数が合いません」


 よくそんなことを平気な顔で言えるな。・・・・・・いや、平気ではなかった。手から血が出るほどに拳を握っている。俺が嫌いな綺麗ごとを言う王女殿下なのだから、当たり前のようにこの国の人間も大切なのだろう。


「では、他にもモンスターたちがいるか、まだ他の研究所があるのか、ですか?」

「考えられる可能性は色々ありますが、私はそう考えていました。・・・・・・ですが、そう考えざるを得ない事態が起こりました」

「事態?」

「はい。最近は誘拐事件が起きていませんでしたが、最近また誘拐される事件が起こるようになりました。それも、ユズキたちがあの洞窟を制圧したすぐ後からです」


 この国はよく人が誘拐されるようだ。どれだけガバガバな警備なのだろうか。もしかして外からの侵入には強くても、外の警備に慢心して中の警備は手薄なのか? そうだとすればとんでもない笑い話だ。


「この国の兵士たちは何をしているのですか? これだけ人が行方不明になっているのに、何もしていないのですか?」

「仰る通りです。この事態は国の兵士たちがしっかりとしていれば起きなかった事態です。こればかりは国が恥ずべき行いです。行方不明者が誘拐されたと知り、すぐに兵士たちを叱責し、その責務を全うするようにきつく言いつけました」


 さすが優等生王女殿下。思った通りの行動をしてくれていたし、何より兵士たちが情けなくて仕方がない。この王女殿下がいるのにもかかわらず、兵士がこんなのでは、王女殿下もさぞお怒りだっただろう。ここだけは王女殿下に同情する。


「しかし、国内の警備を万全にしていても、行方不明者が多発しました。前回とは違い、警備を万全にしていたため何も手掛かりがないわけではなく、誘拐される現場を兵士たちが目撃していました。兵士たちが言うには、男か女か分からず帽子を深く被っており顔は見えなかった。そしてその場から一瞬のうちに消えたと言っていました」


 ほぉ、人間が誘拐していたのか。と言うことは、この国に侵入してきた誰かが人間を誘拐していた。それともこの国の誰かが人間を誘拐していたとかが考えられる。そもそもあの研究所がこの国の人間が作ったかどうかも分からないのだから、まずはその誘拐犯を捕まえない限り何もわからない。


「兵士が警備しているため、誘拐が頻繁に起こるわけでもありませんが、それでも誘拐されているものが出ているのですから解決しなければなりません。そのためには誘拐犯を捕まえる必要があります。しかし、誘拐犯は国の兵士では捕まえられない速さと実力を持っています」


 あぁ、そういうことか。ラフォンさんが妙なことを言っていたが、ここまで話していたところで俺が来たのか。・・・・・・俺はシャロン家を守る騎士であって、この国の人間を守る騎士ではないぞ?


「ご察しの通りですが、テンリュウジさん。あなたにその誘拐犯を捕まえてもらえないかと思っているところです」

「・・・・・・ラフォンさんやグロヴレさんがいると思いますが?」

「もちろん二人や二人の下の者には手伝ってもらっています。ですが、この国全域を守るとなれば、全然人手が足りません。誘拐犯に対抗すために国の兵士は数人で固まって行動し、冒険者ギルドにも協力を仰いでいますが、それでも頻繁に出現する誘拐犯を捕まえるには至っていません」

「それなら自分が加わっても変わらないと思いますよ?」

「いいえ、あなたの場合違いますよね? テンリュウジさん。あなたには感知スキルで最高ランクの≪完全把握≫があるはずです。そのスキルを使えばこの国全域を感知することができます」


 ・・・・・・うん? どういうことだ? どうして俺のスキルが王女殿下に伝わっているんだ? 俺が王女殿下にスキルを伝えることなんてもちろんないし、ラフォンさんにも伝えたことがなかったはずだ。誰から伝わったんだ?


「この情報はフローラから教えてもらいました。ですが、彼女を責めないでください、私が無理言って彼女から教えてもらったことですから」


 フローラさまだったか。まぁ、フローラさまとステファニー殿下は少し仲が良いようだし、王女殿下と伯爵家の間柄だから仕方がないか。俺以外の人間はステファニー殿下に敬意を示しており、不敬を働く俺が異常なのだろう。それでも王女殿下だからと言ってスキルを教えるつもりはない。


「王女殿下は、自分に≪完全把握≫のスキルを使って、誘拐犯を捕まえろと言っているのですか?」

「はい、そうお願いしています。このままでは誘拐犯を捕まえられずに被害者が増えるばかりです。報酬は出しますので、どうか、お願いします」


 確かに≪完全把握≫があれば国全体を感知して誘拐犯を捕えることはできるだろう。だが、俺がそれをやる義務はない。正直断りたいところではあるが、この事件を早々に片付けたいところではある。ラフォンさんもこの件で忙しいのであれば、ラフォンさんを助けると思ってやればいいか。


「・・・・・・分かりました。誘拐犯を捕えるのをお手伝いしましょう」

「ありがとうございます、助かります」

「ただし、人や建物に故意に害は与えませんが、戦闘で壊れてもそちらで費用を負担していただきますよ?」

「分かっています、それくらいのことならご心配なく戦ってください」


 よし、これで相手が実力者でも周りを気にせずに戦うことができる。もちろん故意に壊すことはないが、相手を見ていないしどれだけの相手か分からないから一応保険はかけておこう。


「そう言えば、テンリュウジさんはこの国の道などにお詳しいですか?」

「いえ、この国に来てからまだ数か月しか経っていないので分かりません」


 ステファニー殿下が何を言おうとしているのか理解した。この国を警備するのだから、この国の道について詳しくなければならない。そうなれば、俺と一緒に行動してくれる人をつけてくれるのだろうか。そうなってくれた方がありがたい。


「そうでしたら、この国に詳しい女性をテンリュウジさんと行動するようにお願いしておきます」

「そうしてくれるとありがたいです」

「はい。では今日の夜からお願いします」


 ルネさまとお話しできるのは、まだまだ先のようだ。とりあえずいい感じで邪魔をしてくれた犬の化け物を作った奴らをぶっ飛ばすことを考えよう。

次回はたぶん戦闘シーンがあります。何か最近アユムが全然スキルを使っていない気がします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ステファニー殿下とラフォンさんは国の問題解決で がんばっているんだなー って感じました。 ステファニー殿下の周りの人材も優秀な人がそろってそうですね。 ラフォンさんも強いほうだと思いますが…
[一言] 自然に考えれば犯人ってニース王国のマッド博士しかいないよな アユム強くなりすぎて脳筋になりすぎてないか
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