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83:騎士と勇者。②

総合評価が千三百を突破しました! ありがとうございます!

「どちらからにする?」

「一つ目からでいい。一つ目の方が重要だ」


 前野妹にそう問われて、俺は迷わず犬の化け物について聞くことにした。後者は後回しにできるのなら後回しにする話題だ。・・・・・・俺も少しは心の準備をしないといけないからな。すぐに話されても困る。こうして落ち着いて会話をしているだけ、褒めてほしいくらいだ。


「うん、分かった。・・・・・・私たちについては、緊張するから後に回してもらってよかった」


 今日呼び出した本人が何を言っているんだか。緊張くらいはほぐしてこいよ。俺は今日聞いたが、お前は今日ではないだろうに。いつもそうだ、こいつはいつまで経っても緊張に慣れないんだな。


「じゃあ、犬の化け物に話していくけど、話していく前に私が犬の化け物を追うようになった前提を話さないといけないけれど、それでもいい?」

「構わないから、早く話せ」

「うん、ありがとう。数日前にステファニーから、ここ最近国の周りで妙な魔物が出現しているって話を聞いて、それの調査を依頼されたんだ。私たち、と言ってもコウスケを除いた四人でその調査を行うことにしたの」


 そう言えば、稲田はどうしているのだろうか? ステファニー殿下に釘を刺しておいたから、稲田が俺たちに何かしてくるということはないだろうが、あいつがそれで終わるとは思えない。あいつは諦めが悪いからこいつらの目を盗んで何をしでかすか分からない。確か、元の世界で彼氏持ちの女性を口説き落としていたことがあったな。それが彼氏にばれても、隙を見て口説いていて、その女性は結局浮気をしていたな。あれはバレていないのかな?


「私たちは国の外へと出て、妙な魔物について調査した。目立って何かあるわけでもなかったけど、チナの超感覚で怪しい洞窟を見つけてそこを見に行ったの」


 超感覚と言えば、弓兵の勇者が持っている固有スキルだったな。俺が持っている≪順応≫と同じものだったはずだ。俺の≪順応≫と比べれば、大したことはないかな。いや、そう考えるのではないのか。職業に見合ったスキルが大事だ。弓兵が≪順応≫を持っていたとしても、あまり効果がないからな。


「その洞窟の中は腐敗臭や血生臭さがあって、奥に進んで行くにつれてその臭いが強くなっていったんだよ、本当に臭かった。そんな中で奥に進むと、あの犬の化け物と同じようなモンスターが五体、人間を食い散らかしていた」


 この話を平然としている辺り、こいつもこの世界に慣れていると見た。元の世界で生活していたら、人間が食われている光景を見たら、思い出したくもないし思い出しただけでも吐きそうになるだろう。もはや普通の女とは言えなくなっている。元の世界に帰っても、十分たくましく生きていけそうだな。


「生きていた人たちもいたから、すぐにモンスターを倒そうとしたけれど、私たちに気が付いたモンスターたちは襲い掛かってきて、私たちも食べようとしたの。もちろん、簡単に食べられるつもりはないから返り討ちにしようとしたけれど、そこでそのモンスターたちが神器の攻撃を無効化することに気が付いたんだ」


 へぇ、他のモンスターも神器の攻撃を無効化することができたのか。一体ならまだしも、五体もいればそれは確実に誰かが意図的に俺たちを殺しにかかっているだろう。だが、俺たちを倒して得をする者は誰だ? 魔王側? それとも人間側で神器持ちを邪魔に思っている者がいるのか。


「その五体に苦戦していると、五体が一斉に洞窟から出てバラバラに逃走しちゃったんだ。バラバラになったその五体を私たちもバラバラになって追うことになったけど、一体はチナとマヤの合わせ技で倒して、それぞれが請け負うことになったんだよ。追って行ったところで、アユムと出くわしたわけ」

「なるほど。それでその犬の化け物の正体は何なんだ?」

「モンスターたちがいた洞窟を調べてそいつらの正体が分かったんだけど、簡単に言えば、一から神器に対抗するために作られたモンスターたちだよ。モンスターたちは神器持ちを倒すためだけに産み落とされた存在で、誰が作ったまでは分からなかったけれど、アユムや私たちの研究資料がそこに隠されてあったり、手のひらサイズのモンスターがたくさんいた。その研究資料には、私たちが神器を使う時に発生させる魔力の固有波動や、その共通点などが書かれていて、何を書いているのか全く分からなかったよ」


 こいつは分からなくなったらすぐに思考を放棄するから、最初から何も期待していない。だが、頭が良い奴が俺たちを殺しにかかろうとしていることはよく分かった。この世界の文明で、こんなことを考えられる奴がそうそういるはずがない。


 いるとすれば、俺たちと同じ転移者なのか、それとも転生者。はたまた、ただ頭が良いこちらの世界の人間なのか、定かではない。しかし、俺たちを的確に狙ってきている、それだけ分かっていれば良い。それ以外に分からないし。死者の軍勢で諜報部隊を作っておくのもアリだな。今度は俺から仕掛けるのもアリだ。それにお相手が俺の≪順応≫に対抗できるかどうかも分からない。


「・・・・・・それで、この話をしたということは、俺に何か言いたいことがあるんだろう?」


 この話が事後報告をするだけで終わるはずがない。確かにこの情報は重要なものだったが、重要なものだからこそ、俺に話すことでその重要な情報を共有して俺に何かしてもらおうと思っているのかもしれない。ただ話しているだけかもしれないがな。


「うん、アユムの言う通りだよ。・・・・・・この神器持ちを限定して対抗するために作られたモンスターたち、誰が作っているのか分からないし、何の目的かも分からない。だから、ステファニー殿下の提案で、こちらが何か情報を手に入れた時にいち早く伝える。その代わり私たちの手に負えないことが起きれば手伝ってほしいと言っていたよ」


 まぁ、そうなるわな。だけどこの提案は別に悪くはない。俺としても敵の情報を知らないままにしておきたくはない。それに提示した条件には、手に負えなくなった時と言っていたな。国が手に負えなくなれば、それはもう俺が出るしかなくなる。フローラさまにも言われるだろうから、条件はあってないようなものだ。


「分かった、その条件を飲もう。帰ってステファニー殿下にでも伝えろ」

「本当⁉ ありがとう! マヤたちもあのモンスターを倒すのに苦労してたから、アユムが味方になってくれれば百人力だよ!」

「勘違いするな。俺はお前たちの味方になった覚えはない。俺はステファニー殿下と取引をしただけだ」


 何も問題なく会話しているから、こいつが調子に乗って俺がお前のことを許したと思っているようだが、俺はお前と話すのが今も苦痛なんだぞ? これだけで許すはずがないだろう。本当に脳に花が湧いているのではないのか?


「ご、ごめんね? 少し勘違いしていた・・・・・・」


 前野妹はさっきまでの声のトーンは鳴りを潜めて、落ち込んだ雰囲気になった。そちらの方が俺とお前の図はあっているだろう。明るい方が間違っているんだよ。普通に話していた俺も悪いんだけどな。


「・・・・・・これで、一つ目のお話は終わったけど、二つ目に行っていい?」


 しばらくの沈黙が続いた後に、前野妹は俯きながら上目遣いで俺の方を恐る恐る見て俺に話しかけてくる。俺はそのために来たんだから、話していいに決まっているだろう。それとも何か、お前が逃げ出すと言うのなら今後俺は一切お前の呼びかけには応じないけどな。


「良い。言いたいことがあるのなら早く話せ」

「・・・・・・ありがとう」


 その言葉で、前野妹は黙り込んでしまった。いや、黙り込んだと言うよりかはどう話せばいいか分からずに考えていると言った方が良いのか? 俺はコーヒーを飲みながら前野妹が話し出すのを待っているが、一向に話す気配がしてこない。これでは終わらないと、俺が話し出そうとした時に、とうとう前野妹が口を開けた。


「アユムは、私たちのことが嫌いなの?」


 前野妹から出た言葉は、とても、とてもくだらない一言だった。そんなこと口に出さないでも分かるだろうし、俺の口から言わせるなと思ってしまったが、本気で分かっていないようだったから、俺は前野妹に答えてやった。


「あぁ、とても嫌いだ。こうして顔を見るだけでも嫌になってくる」

「ッ! ・・・・・・そう、なんだ。・・・・・・どうして、どうして、どうして、私たちのことが嫌いになったの? 私には全然分からないよ」


 俺の言葉に前野妹は泣きそうな顔になりながら俺に聞いてくる。フン、泣きたくなるのは俺の友達だよ。自覚もなしにいじめられて、本人たちに罪の意識はない。反省させることもできないのだから、どうすることもできない。本当に分かっていないようだから、俺が教えないといけないようだな。


「どうして私たちが嫌いになったのか、か。そんなこと決まっている。俺や俺の友達の尊厳を踏みにじったからだ。それ以外の理由はない」

「・・・・・・どういうこと? 本当に分からないよ、私がそんなことをするはずがないよ!」

「お前、それを本気で言っているのか?」


 泣きそうな顔をして身に覚えのないことだと言っているが、一層俺の怒りが膨れ上がるだけだ。それよりも、どうしてこいつらはこんなに身に覚えにないと言っているんだ? ここまで来れば、病気か、それとも他の要因があるのだと考えてしまう。


 ・・・・・・そう言えば、ラフォンさんがそんなことを言っていたな。そのことを思い出したくはないが、ここから進めれないから、話すしかないか。それでも、どこから何を話せばいいんだ? こいつらがしたことを話せばいいのか? それとも、俺とこいつらの接点を話せばいいのか? まぁ、最初から話した方が分かりやすいだろう。


「・・・・・・お前らは、俺のことをどう思っているんだ?」

「どうって、もちろん大切に思っているし、好きだよ?」

「大切に思っているのに、どうしてお前たちは俺の邪魔ばかりしてきたんだ? どうして俺が傷つくようなことを平気でできたんだ?」

「・・・・・・えっ?」


 俺が当時抱えていた思いを、前野妹にぶつけた。だがぶつけられた本人は、これまでの反応通り何を言っているのか分からない顔をしていた。これだけでは分からないだろう。だから、これから思い出したくないことを話していく。


「ど、どういう――」

「分からないのなら一つずつ言ってやろう。お前たちは俺が一人で学園生活を過ごし、少しずつ友達ができ始めた頃に、根も葉もない俺の悪評を流し始めた。お前たちは人気者だったからな、どちらが信じられるかは明らかで、俺の地位はすぐに底へと落ちた。そのおかげで俺は日々暴力を受けたり学校の机やいすにいたずらをされていた。それだけならまだよかったが、俺の周りも一緒に悪評を流していただろう。どうしてこんなことができたんだ?」

「待って! それは私たちじゃないよ! そんな、アユムを傷つけることを私たちがするわけがないよ!」

「いいや、お前たちだ。俺に悪さをする奴らすべてが、お前らから話を聞いたと言っていたんだぞ? お前たち以外に誰がいるんだよ」


 そうだ。『前野ちゃんがお前に胸を触られたと言っていたぞ、このクズが!』とか、『三木さんが勘違いしていてしんどいと言っていた』とかだったか。ご丁寧に誰が何って言っていたかまでも教えてくれたから分かりやすかった。まぁ、今度あいつらに会った時は我を忘れるかもしれないが、自業自得としておこう。その他にも噂の元を探していたが、結局前野妹たちであることに変わりなかった。


「それは誰かの勘違いで終わったでしょう⁉ 私たちじゃない!」

「そんなことがあるわけがない。俺は確かに噂の裏どりをしていたんだぞ? どう調べてもお前たちにしかたどり着かなかった。まだ俺一人だけなら良かったが、俺の友達も巻き込んだよな? それだけが許せない」


 そう言えば、噂の裏どりをしていた時に前野妹たちといつも一緒にいた男の話も聞いた。俺も一度見たことがあるが、・・・・・・あの男、どこかで見たことがあるような気がする。あの時のことは忘れたくても忘れられないから鮮明に覚えているから、確かにどこかで見たことがある。あれは誰だ?


「本当に私たちじゃないよ。私たちは、当時アユムが構ってくれなくなったから、そのことで寂しいとか構ってくれないとか、そういうことを周りに話していただけで、誰も悪評を流していない。それに、アユムが暴力を受けていたことやアユムの友達にも危害が及んでいたことが初耳だよ!」


 前野妹の目は、本当のことを言っている目に見える。ここまで言って何も手応えがなく、何も出てこないのは変だ。ラフォンさんの言う通り、もしかして何か俺の知らないものがあるのか? くそっ、意味が分からない。今更何があるんだよ。


「・・・・・・どうしたら、信じてくれるの? 両親たちが仲が良くて、私たちは小さい頃から仲良くさせられていたけれど、親とか関係なくアユムの優しいところやアユム自身と同じくらいに大事にしてくれていたところが好きで仲良くしていた。私たちが大人になっても、この関係が続けたいとは思っていても、そうはいかないのは分かっているよ。でも、それでも、アユムと私とお姉ちゃんとマヤとチナの五人が一緒にいるこの関係が好きで好きでたまらなかった。だからこそ、アユムが怒っているのは辛いし、それが私たちが関係していることも辛い。私は、ただアユムと笑って過ごせれるようになりたいだけなの」


 前野妹は俺の目を涙目で見ながら、俺に自身の思いの内を吐き出した。・・・・・・前野妹が正直に話していることは、長年の付き合いで分かっている。だからこそ、俺の友達を傷つけたことを間接的にとは言えしたことが許せないと思ったし、俺のことを尊重してくれないことも許せない。


 だが、ここに来て俺がこいつらのことを何も聞いていなかっただけではないのか? 幼馴染と言っておきながら、俺自身がこいつらのことを信用していなかっただけなのではないのか? ・・・・・・俺がこいつらの話を聞いて、何が真実なのか見極めても、遅くないのではないのか?


「前野は、本当に何もしていないと言えるのか?」

「うん、言えるし、命に賭けても誓える。何ならジュワユーズを渡しても良いよ」

「ジュワユーズ? 神器を渡せるのか?」

「あれ? 知らないの? 神器所有者同士で、片方の神器所有者がもう片方の神器所有者に神器を渡すことを許せば、その神器はもう片方の神器所有者のものになるんだよ。それはもう私たちで体験済みだから」


 神器でそんなことができるのか。俺の周りに神器所有者がいなかったし、神器のことを調べても何も出てこなかったから知る由もない。だが、神器を渡せるということは相手に自分の戦闘手段を委ねるということになるから、前野妹は俺に何をされても良いと言っているのだろう。


「分かった、今はその前野の言葉を信じる」

「本当⁉」

「ただし、これから過去の話を聞いて真実かどうか判断してから、これからお前たちと付き合うかどうかを考える。今だけは、前野の言葉を信じて話を聞くことにする。嘘偽りなく本当のことを言えるか?」

「当たり前だよ、私はアユムの前で少ししか嘘をついたことがないんだから」


 それは信用に値しない言葉だが、それでも言ってしまったのだから今だけは前野妹の言葉に耳を傾けて聞くことにしよう。それで、俺に何が見えていないのか、ラフォンさんが言う一つの要因が何なのかそれを確認する必要がある。

少しだけ勇者との対話が続きます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 勇者とアユムを狙う見えない新たな敵が出てきて また少し緊張感が出てきました。 前野妹とアユムの召喚前の出来事について いよいよ話が進んでいきそうですね。 [気になる点] 少し名前が出てき…
[一言] 作者様が以前のコメントに、悪は幼馴染側にあると書いていましたが。。前野妹はサラッと嘘でもつくのかなぁ? 今までのアユムの発言や気持ちで幼馴染へのヘイトが溜まっているから、もし勘違いでしたで仲…
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