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82:騎士と勇者。

書いていて思いますけど、長くなるだろうなと思っています。

 俺とルネさまとニコレットさんの三人で行ったお出かけから、数日が経った。正直、この数日間は生きている心地がしなかった。いや、今も生きている心地がしない。もはや魂が抜け出るぞと思うくらいに俺の精神はやられていた。


 ルネさまが俺から離れられて犬の化け物が来て倒した後、何か前野妹に話し合わないかと言われたが俺はそんな気は一切なかったからすぐに断ってフローラさまたちの元に向かった。幸いにもフローラさまたちには傷一つ付いておらず、俺はすぐにルネさまの元に向かおうとした。だが、それをフローラさまに止められたのだ。


 フローラさまが一度、時間を空けてお互いに冷静になった方が良いと仰られた。ルネさまには大切だろうが、俺は至って冷静だったから今すぐにでも行きたかったが、フローラさまにまた止められてルネさまの元に向かうことを諦めた。


 そこから一日が経って俺はルネさまの元に向かおうとするが、それもまたフローラさまに止められてしまう。まだ時間を空けないといけないと言われたが、俺はルネさまに言うことが山ほどある。それが言えずとも少しでもルネさまの間違った認識を訂正したいところだった。結局止められたけど。


 ルネさまの言葉を訂正できないで、ずっとルネさまに会えずにいるから、気が気じゃない。あのルネさまの悲しそうな顔をされているのを思い出すだけで、今もそんなお顔をされているのかと思って生きた心地がしない。だからこそルネさまに早くお会いして言葉を投げかけたいが、どういうわけかフローラさまにずっと止められてしまっている。


 どうしてかフローラさまに聞いても、時間がいるの一点張りで答えてくれなかった。・・・・・・どうしてルネさまに会わせてくれないのか分からない。もしかして、ルネさまが俺に会うのが嫌だと言っているから俺が会いに行くのを止めているのか? そうだとしても、どちらにしろ生きた心地はしないだろうな。


「・・・・・・ふぅ」


 今は予定がない日だからフローラさまのお部屋のソファーで背もたれにもたれかかって一息ついた。今日はフローラさまたちがお出かけに行っており、女子会だから俺は来るなと言われた。せめてと、死者の軍勢の護衛はつけておいた。


 ここ最近、俺は人に避けられてばかりだな。ルネさまから始まり、ニコレットさんにも避けられている気がする。・・・・・・ハァ、一体どうすれば良いんだよ。こうなったのは初めてだから対処する方法が分からない。声をかけられないのなら、そこで詰んでるとしか言いようがない。


「ハァ・・・・・・、あ?」


 ソファーで今までのことを思い浮かべてぐうたらしていると、部屋の近くにラフォンさんの気配がする。どうしてこの場所に来たんだと思っている内に扉がノックされてラフォンさんの声が聞こえてきた。


「アユム、いるか?」

「はい、いますよ」


 俺は立ち上がって扉の元へと向かって扉を開けた。そこには声と気配で想像できていたラフォンさんが何か気まずそうに立っておられた。・・・・・・傷心中ではあるが、ラフォンさんが何か俺に良くないことを考えておられることはすぐに分かった。今度は何だよ。


「時間はあるか? 少し用事があるのだが・・・・・・」


 さて、ここでどう答えるべきか。予定があると嘘をつけば、ラフォンさんは素直に帰ってくれるだろう。だがラフォンさんに嘘をつく行為をしたくはない。なら、俺が言う言葉は決まっている。


「予定はないですよ。それで? 一体どのようなご用件ですか? まさか、勇者関連なんて言いませんよね?」


 俺はラフォンさんを疑うような目を向けて用事について問いかける。すると、ラフォンさんは分かってくれと言わんばかりの挙動不審ぶりを発揮してくれた。目は泳いでいるし、瞬きの数も多くなっている。毎度思うが、どうして俺の時だけ嘘をつくのが下手なのだろうか、良く分からない。


「そ、そんなことはないぞ⁉ た、ただ、私はアユムと一緒に出掛けたいと思っただけだ。他意はないぞ、本当だ!」


 他意しかないだろう。まさかとは思ったが、本当に勇者関連だったとは。俺が勇者たちのことがどれだけ嫌いか表情をつけて説明しただろうに、ラフォンさんにはまだご理解いただけていないようだ。ここもまた俺の嫌な表情をつけて説明することにしよう。そう思っていると、動揺していたラフォンさんが急に真面目な顔になった。


「ハァ、もう嘘はなしだ、私の性には合わない。単刀直入に言おう、アユムには今からユズキと会ってもらいたいと思っている」

「嫌です」

「・・・・・・そう言うと思ったが、せめて説明を聞いてからにしてくれないか?」

「説明を聞いても変わりません、嫌です」


 ラフォンさんが本当のことを言いだしたとしても、俺はあいつらと会うつもりはない。もはや、今更会ったところで何をすると言うんだ? もう俺とあいつらの関係はこれ以上進まないし後退するだけだ。何もすることはないだろう。何より会うのが嫌だ。あいつらの顔を見ているだけで怒りが湧き上がってくる。


「そうだよなぁ・・・・・・。私は、アユムが過去のことでユズキたちに負の感情を持っているのは分かっている。だが、アユムとユズキたちの両方と接していると、両方の話には差があることに気が付いた。これだけはどうしても見逃せないと思ったから、こうして私直々に来た」


 差、か。そんなものがあったとしても、俺や友達にした事実は変わらない。差があっても関係が変わることがないのだから、その話し合いは無駄というものだ。ラフォンさんが俺とあいつらの言い分を両方聞くことは良いことだが、今回は俺の言い分の方が正しいだろう。


「それでもあいつらと話し合う気はありません。あいつらと何度も会っていると嫌な思い出がよみがえってくるので、金輪際会いません」

「そう言わずに、一度だけで良いんだ。アユムとユズキたちが仲直りすることができる可能性があるのなら、話し合ってもらいたいんだ」

「何度言われても変わりません。・・・・・・もう、終わったことですし、忘れたいことなので」

「・・・・・・頼むッ! アユムの心の傷をえぐるような真似をすることになるが、それでも、私はアユムとユズキたちと話し合ってもらいたいんだ!」

「ちょ、頭を下げないでください! 頭を上げてください」


 俺が一切会う気がないと頑なになっていたところ、ラフォンさんが俺に頭を下げてきたのだ。俺は慌ててラフォンさんに頭を上げるように言った。しかし、どうしてラフォンさんがここまで必死で俺にお願いして来るのだろうか。今までならすぐに引き下がってくれたのに、今回だけは引き下がってくれない。


 そこまでする理由があるのだろうか。何か俺と勇者が手を組まないといけない理由でもあるのか、それともただ単純に話し合ってもらいたいだけなのか、良く分からない。


「どうしてそんなに必死になるのですか? 今までは自分の意見を尊重してあいつらと会わないようにさせてくれていましたよね? 今回はどうして必死に」

「・・・・・・ユズキたちから学生生活の話を聞いたが、私が考えていることが正しければ、おそらくアユムとユズキたちは一つの要因によってすべてが狂わされている。確証は持てないが、それでも一度話し合う価値があると思って、私はこうしてアユムにお願いしに来た」


 ・・・・・・一つの要因? 狂わされている? 訳の分からないことを言うな、ラフォンさんは。あいつらが俺や俺の友達の人生を滅茶苦茶にしたのは変わらないだろう。だが、ラフォンさんがこういうのなら一考する価値はある。


「このまま、アユムとユズキたちが仲違いで関係が終わってしまうのは、どちらの味方である私にとっても苦しいものがある。もちろん、ユズキたちが一方的に悪く、アユムを傷つけていたのなら、ユズキたちとは全力で会わせないようにする。だが、今回に限ってはそうじゃないんだ。・・・・・・頼む」


 ラフォンさんの純粋で、切実な言葉に折れない人間などいない。ここまで言われてしまうと頑なになっている俺の方が悪く感じるし、何より俺の師匠であるラフォンさんがこう言うのだから信じてみる価値はあるだろう。・・・・・・仕方がないか。


「・・・・・・分かりました、前野妹との話し合いに応じましょう。ただし、一度だけです」

「本当か⁉ ありがとう! 一度だけで十分だ。本当にありがとう」


 ラフォンさんは俺の手を握って嬉しそうな顔をしている。まるで自分のことのかのように驚いているラフォンさんだが、本当に俺と前野妹たちのことを考えてくれているのだと思った。それは、勇者としてなのか、それとも人間としてなのか。まぁ、それはどちらでも構わないか。


「それで、いつからですか?」

「ユズキは待ち合わせ場所にいる。ついてきてくれ」

「はい」


 まさか、高校を卒業して大学生になって接点を限りなく消したのに、こちらの世界で前野妹と面と向かって話し合う日が来るとは思わなかった。これが運命の糸とでも言うのなら、俺はすぐにでも断ち切りたいところだ。俺の運命は俺が決めるからな。




 俺とラフォンさんは、学園から出て街へと来ていた。ラフォンさんは相変わらずこの国では有名なため注目を尊敬のまなざしを受けている。俺は今代の騎士王だが、前の噂があったせいで尊敬のまなざしなんて受けることはできない。別にそこは構わないけどな。


「そう言えば、今日は主と一緒ではないのか? いつも一緒だから珍しいな」

「今日は買い物に行かれてますね。自分はのけ者にされました」

「ほぉ、それは珍しい。彼女がアユムをそばに置かないことがあるとは。彼女の見た目や言動から、片時もそばに置いておくと思っていた」

「たまにありますよ。・・・・・・大体が、何か事情があるときなんですけどね」

「事情があるようだな。気を紛らわしたければ、いつでも私のところに来い。話を聞くことや特訓するくらいはするぞ」


 ラフォンさんとそんな話をしながら歩くこと数分で、とあるお洒落なカフェに到着した。そこは店の外と内に椅子とテーブルが設置されており、店の外に設置されている椅子にそわそわしながら座り、おそらくコーヒーに砂糖とミルクをたっぷり入れている甘々カフェオレを飲んでいる茶髪のお団子頭の女、前野柚希がそこにいた。


「あそこだな」

「嫌でも見えていますよ」


 二人で前野妹の元へと歩いていくと、前野妹は俺とラフォンさんの姿に気が付いたが、俺の方を見て嬉しそうで泣きそうな顔になっている。ハァ、やっぱり面と向かって会うと喋りたくなくなってくるな。でもラフォンさんの頼みだからそんなことしないし、ここまで来たら帰るわけがない。


「ユズキ、何とかアユムに来てもらったぞ」

「ありがとうございます、フロリーヌさん。私が行っても絶対に相手にしてもらえませんでした」


 それはそうだ。俺がここに来たのはラフォンさんがいてからこそだ。前野妹が来ても絶対に相手にしなかった。相手にすることなく追い返していただろう。だが、今回はラフォンさんの頼みで、ラフォンさんに何か考えがあったからだ。


「さて、私はどうすれば良い? 席を外しておこうか?」


 ラフォンさんが俺と前野妹に向かって問いかけてくるが、俺はどちらでもいい。ラフォンさんがいてもいなくても話す内容は変わらない。ラフォンさんに隠していることなんてないんだからな。前野妹にでも決めさせればいいか。いや、決めれるのか? こいつだけで。


「・・・・・・ここは、私とアユムだけで大丈夫です。ラフォンさんは席を外してください」


 へぇ、自分で決めたのか。それならそれで良いか。別に何も文句はないし、何も問題はない。前野妹の言葉を聞いたラフォンさんは、頷いて少し遠くの席に座って店員さんに何か注文していた。


 前野妹の前にあった椅子に座った俺は、店員さんに何か注文しようと店員さんが見えるように手を上げようとするが、その前に前野妹が手を上げて店員さんに声をかけた。


「あの、コーヒーを一杯お願いします」

「かしこまりました」


 前野妹の言葉を聞いた店員さんが店に戻って行くが、こいつもう一杯コーヒーを頼むつもりなのか? まだ目の前には砂糖とミルクでマシマシになっているコーヒーがあるのに。頼むのなら飲み物ではなく食べ物の方が良いんじゃないのか?


「アユムは、コーヒーで良かったよね?」


 ・・・・・・あぁ、あの注文は俺のための注文だったのか。それに他の飲み物がある中で俺が好きなコーヒーを頼んでくる辺りがむかつく。俺もこいつが飲んでいるものを検討がついていることもむかつく。こいつのことなんて分かりたくないのに、分かってしまう。


「・・・・・・あぁ、それで良かった」

「アユムって、甘いものは好きだけど、コーヒーはブラックで飲んでたよね。私はコーヒーのブラックが苦いから砂糖とミルクをいっぱい入れて飲んでいるよ」


 フン、そんなこと言われなくても知っている。お前が甘いものが好きで、俺とよく甘いものを食べに行ったことだってある。だけど、その思い出は俺が消し去りたいものだ。俺を構築する情報にお前らが入っているから何とも腹立たしい。


「お待たせいたしました」


 意外にも早く店員さんがコーヒーを持ってきてくれ、前野妹は俺の方を手で示して俺の前にコーヒーが置かれた。前野妹が俺と俺の前に置かれたコーヒーを交互に見てくるので、仕方なくカップに口をつけてコーヒーを一口飲む。・・・・・・うん、ここのコーヒーはおいしいな。このくらいのおいしさは元の世界でもそうそうない。ここの常連客になるレベルだ。


「どう? おいしい?」

「・・・・・・あぁ、おいしい」

「本当? 良かったぁ」


 こいつの問いに答えるのすら癪だが、ここに座っているから黙っているわけにはいかないから俺は辛うじて答えている。それにしても、こいつがコーヒーの味を分かるわけがない。佐伯辺りがこいつにコーヒーがおいしいところでも教えたか?


「ここはチナが教えてくれたコーヒーがおいしいところだよ。今日のために教えてくれたんだよ」

「ふーん」


 俺の思った通り佐伯がここを教えていたのか。あいつはコーヒーのこととなれば目がないからな。いつもは黙っているのに、コーヒーの話題が出た途端饒舌になるくらいにコーヒーについて語りたい女だ。いつもそれくらい喋ればいいものを。


 とりあえず、今はこいつを止めないと永遠に世間話をするほどに会話が好きだから、前置きを止めて本題に入るように言うか。何のために呼ばれたのか分からなくなる。だからこいつと会話するのが嫌なんだよ。あいつら四人と一緒にいる時は三木が止めて俺が止めなくて良かったんだけど、俺だけしかいないから仕方がないか。


「それでね、あと――」

「そんな世間話は良いだろう、早く本題に入れ。じゃないと帰るぞ」

「あっ! そ、そうだね! ・・・・・・ごめんなさい」


 俺が鋭い視線で世間話をする前野妹を止めると、前野妹は縮こまって黙り込んでしまった。こいつは、一か百しかないのか? 本題に入れと言っているのに黙っていたら本題に入れないだろうが。


「それで? 俺に何か話があって来たんだろう?」


 こうなっては俺が話を進めないと話が一向に進まない。だから俺が前野妹に話しかけた。すると前野妹は顔を上げて嬉しそうな顔をして話し始めた。だから、どうして嬉しそうな顔をするのかよく分からない。


「うん! えっと、今日話したいことは二つあって、数日前にアユムが倒した犬の化け物についてと、私たちについてだよ」


 犬の化け物についてだと? 前野妹はあれについて知っているのか? あれが何なのか分かっているのなら、知っておきたいところだ。・・・・・・今一番話したくないのが後者だが、覚悟を決めるしかないか。

くっ、他の作品が書きたくなる病がまた再発してきました・・・・・・ッ!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんでこいつらは主人公に嫌なことを押し付けまくるんだろう読んでてイラッとする
[良い点] アユムがハブられていて、もやもや感が残る回でした… でも、今後のルネさまの変化が気になります。 勇者が召喚されたことや、神器にはまだまだ謎が多いですが、 今は、ラフォンさんは大変だぁ・・…
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