08:騎士と七聖剣。②
連日投稿、どこまで行けるでしょうか。一年間続けれれば、良いと思います。
俺はラフォンさんから模擬戦用の木刀を渡され、同じく木刀を持っているラフォンさんの正面に立っている。周りには、訓練していた人たちがおり、その中にはフローラさまとサラさん、スアレムがそこにいた。
「私が良いと言うまで戦いは続ける。なに、心配せずとも重傷は負わせない」
「・・・分かりました」
重傷以外なら、傷を負わせるつもりなんですかね、この女性は。しかし、正直三木と接触のある人物と接触したくはない。ふとした瞬間に三木と出会うことがあるかもしれないからな。だが、フローラさまの言いつけとなればこの申し出を断れない。難儀な立場になったものだ。
「それと、この戦いでスキルを使用するのは禁ずる」
「・・・・・・は?」
スキルを、使用できない? ・・・・・・ば、バカなっ⁉ そんなことをすれば俺は何もできないんだぞ⁉ 結局俺はスキルありきの存在だ。例えるならば、炭酸が抜けている炭酸水。これはもはやただの水だ。あっけなく俺は負けてしまうぞ。
「あの、スキルを使用できないのならば、自分は戦えないと思います。スキルありきで戦ってきたので」
「それでも構わない。スキルなしの状態でどれくらいの強さなのか測っておきたいからな」
スキルなしの状態って、それだとスキルなしの後にスキルありの状態でどれだけ戦えるかを測るのか? そんなことはやめてほしいのだけど。
「文句を言っていないで、早くやりなさい!」
「はい!」
遠くからフローラさまの渇を入れられて、俺はスキルなしの状態で戦うこととなった。俺は普段≪剣舞≫のスキルを使って戦っているから、スキルなしに剣をまともに振ることはできない。素人丸出しだろう。だけど、フローラさまに言われたのだから、いつもやっている感覚でやるしかないか。
「この金貨が落ちたら開戦だ。それでいいな?」
「はい、大丈夫です」
ラフォンさんが懐からこの世界の最上級のお金を取り出し、それを親指で上へとはじいた。金貨は上へと行くと勢いをなくして落下していき、金貨が地面へとぶつかる音が聞こえてきた。それが合図となり、ラフォンさんは勢いよく飛び出してきて、俺へと木刀を振るった。
俺は自身の木刀で防いだ。そして次々に繰り出されていくラフォンさんの攻撃を苦しくも防いでいき、一発も受けずに済んでいる。スキルを使わずに受けられているのは、おそらく俺の身体があの地獄の一年間で鍛えられているんだろう。そうでなければスキルなしにこんな攻撃を受けれていない。
「スキルなしだと言うのに、こんなにも受けるとは思わなかったぞ。スキルありきというのは嘘ではないのか?」
「まさか、そんなはずがありません。身体が覚えているだけです」
「ふっ、その年で身体で覚えているのか。どれほどの修羅場を超えてきたというのだ」
そうだな。俺はいくつもの修羅場を超えてきた。一日に一回だけならそれでいい。だが、一日に数十回もある場所で召喚されたから、死に物狂いで戦っていた。それが今につながると思えば、過去の俺はよく頑張ったと言えるだろう。
「次から全力で行くぞ! スキルを使わないから安心すると良い!」
「えっ、ちょっ、それは死ぬのでは⁉」
俺の言葉を聞かずに、ラフォンさんの猛追が始まった。今の動きは、さっきの動きとは桁違いに早い。目では追い付けられているが、身体が追い付かない。これが俺の限界だろう。守らなければならない重要な部分だけは受け流し、残りは受けることをいとわずに攻撃を受けていく。
このままでは何もしないまま負けてしまうと感じた俺は、隙を見て攻撃することに決めた。しかし、この猛攻の中で攻撃することができるのか疑問が残るが、ラフォンさんのさじ加減で続けられるのならやるしかない。俺はラフォンさんが見せるか分からない隙を見つけるために、ラフォンさんの攻撃に集中する。
俺が唯一この戦いで勝負できるのは、この目だ。動きを完全にとらえることができるこの目。見ろ、ラフォンさんの隙を。
ラフォンさんの一挙一動を見ていると、ある隙があることに気が付いた。ラフォンさんが袈裟斬りで斬りかかってくるときだけ、動作が少し遅いことに気が付いた。早いことには変わりないのだが、それでも俺にとっては唯一反撃できる隙であることには違いない。
そしてラフォンさんが再び袈裟斬りをしてくるのを待っていると、すぐにチャンスが訪れ、ラフォンさんがモーションで袈裟斬りをしてくるのが分かった。力では負けていないが、速さで対応できないだけ。そしてその対応が辛うじてできる攻撃が袈裟斬りしかない。
俺は袈裟斬りをしてくるラフォンさんの攻撃を木刀ですぐに受け止めて、ラフォンさんの木刀をはじき返した。はじき返されたことに驚いたラフォンさんに反撃させないように、こちらが猛追しようとする。しかし、いつの間にか体勢を立て直していたラフォンさんの横払いを何もガードしていない脇腹に喰らい、数メートル吹き飛んでしまった。
「ッ! 大丈夫か⁉」
俺が脇腹を押さえながら立ち上がると、ラフォンさんが焦った様子でこちらに来た。て言うか、これ骨が折れているぞ。ここまでされるとは思わなかった。でも、≪痛覚麻痺≫のスキルがあるから痛みがあるわけではなく、立ち上がるのに違和感があるだけだ。
「すまない、反射的に本気で攻撃してしまった」
「別に構いませんよ。これくらいの攻撃ならすぐに治りますから」
俺は試合中ではないため、≪超速再生≫のスキルを使い骨折を治す。スキルを使い終わり、俺の身体は元通りとなった。
「・・・・・・≪超速再生≫を持っているのか。そんな希少で最上級のスキルを持っているとは、驚いた」
「そうですか? 一人で戦っていた時期があるので、このスキルによく助けられていました。それで、戦いはもう良いのですか?」
「あ? あぁ、そうだな。もう決闘は構わない。君の実力も見れたわけだしな。まさか攻撃を喰らいそうになるとは思わなかったぞ」
「・・・・・・え?」
「私は攻撃をどれだけ凌げるかを見ていたのだが、予想以上の潜在能力の持ち主だ。ある男と比べるまでもなく、君の方が良いな」
ちょっと待て。つまり最初からスキルなしで俺に勝ち目はなかったのか? まぁ、言われなくてもそうだけど、一本くらい取らないといけないのかと思った。・・・・・・しかし、スキルがないと七聖剣と俺の間にはこれほどの差があるのか。調子に乗っていたが、まだまだ俺は強くならないといけない。
「テンリュウジくん、いや、アユムと呼ばせてもらおう。アユム、君は私の弟子になるつもりはないか?」
その言葉に周りは一段とざわめきだす。そうか、七聖剣に弟子になれと言われれば騒ぎたくもなるか。強くなれるのなら、その申し出を受けるのも良いが、俺はフローラさまの弟子だ。
「その申し出はすごく魅力的ですが、すみません、その申し出をお受けすることができません。自分はフローラさまの騎士なので、弟子になることはできません」
「そうだろうな。騎士が強くなるために騎士の職務を放棄することなどあってはならないことだ。しかし、私の弟子になるということはそこまで硬いものではない。彼女が授業を受けている間や、暇な時間を使い私と特訓をするだけだ。ぜひとも、アユムを私の弟子にほしいんだ」
周りは黄色い声を上げている。確かにそんなことを、キスしそうな距離で言われれば色めきだっても仕方がない。そして、この人は美人だから近づいてほしくないんだけど。・・・・・・女性は、どうして汗をかいてもにおわないんだろうか。むしろ良い香りがしてくる。
「アユムッ!」
フローラさまの叫び声で、頭がスッキリしてラフォンさんから距離を取る。危ない、ラフォンさんの魅力に捕らわれるところだった。よく考えればこの人の弟子になれば、三木と会う可能性が出てくるんだった。二人の会話で〝また〟という言葉が出てきていたからそうなのだろう。
「・・・・・・ダメか?」
上目遣いで俺のことを見てくるが、絶対にこの人わざとじゃないだろう。それだから余計にドキドキさせられるけれど、さっきのようにはいかない。
「フローラさまを優先させてくれるのなら、その申し出を受けさせてください」
「良かった! 男性をこちらから誘うことなどしたことがなかったから、断れるかと思ったぞ。これからよろしく頼む、我が弟子、アユム」
さっきまでは鋭い視線を送ってきていたのに、満面の笑みで本気で嬉しがっているから、そのギャップにやられそうだ。だが、本気でやられるわけではない。やられそうになったら、フローラさまが差し違えてでも元に戻してくれそうな気がする。
「はい、よろしくお願いします。師匠」
ラフォンさんから差し出された手に応じて、俺も手を出して握手した。さっきまで決闘していたため、手が汗でべとべとになっていることに握手する前に気が付き、そっと手を添えるだけにするが、ラフォンさんはそんなことを気にせずにぎゅっと握手してくれた。ラフォンさんの手も汗でぬるぬるであったが、手の細さと柔らかさを感じた。この手のどこからあんな剣技が繰り出されるのだろうか。
「あぁ、それとこれは内緒の話なんだが」
そう言ったラフォンさんは、握っていた俺の手を引いて自身の身体に引き寄せたッ! 俺とラフォンさんは抱き合っている形になっている。おぉっ、一瞬でフローラさまの殺意がここまで来た。そしてラフォンさんの身体を堪能してしまった。
「アユム、君は異世界人なのだろう?」
脳内でラフォンさんの女性らしさを堪能していたが、その言葉で俺の思考はすぐに切り替わった。何故俺が異世界人だと分かったんだ?
「そんなに警戒しなくても良いぞ。私は別に周りにこのことを言いふらすつもりがないからな」
「・・・・・・それなら、どうして今そんなことを?」
「今言っていた方が、後から言うよりか信用度が違うだろう? だから今言ったんだ」
「それで、自分に何かしてほしいのですか?」
「いいや、何もない。強いて言えば、アユムには聞くだけだ。チナ・サエキ、ユズキ・マエノ、リサ・マエノ、マヤ・ミキ、コウスケ・イナダの名前に聞き覚えはないか?」
・・・・・・ハァ。やはり、五人全員がこちらに来ているのか。三木と稲田と来て他の三人が居ない方がおかしく思えるくらいにあの五人は一緒だったな。別に稲田のハーレムだとかで羨ましいとか思っていない。むしろ四人を引き取ってくれているのなら、それはそれで良かった。会いたくないくらいに大っ嫌いだけどな。
「はい、その名前は知っていますよ。前の世界で知り合いだった奴らです」
「やはりそうか! マヤからアユムの話はよく聞いていたんだ。幼馴染なのだろう? 数年も離れていて会いたいとは思わないのか?」
「思いません。あいつらとはもう切れた関係です」
「そうか? マヤがアユムの話をする時は、嬉しそうな顔をするぞ? 親しい関係だったのだろう?」
「いいえ、違います。親しい関係だと認識しているのなら、誤解です。あいつらと自分は今は無関係の人間ですので」
「そうは言ってもな。マヤは、きっと君と会えば元気になると思うぞ?」
「それ以上その話をするのなら、師弟の話は、なしでお願いします」
俺は無理やりラフォンさんから距離を取る。ラフォンさんがしつこく関係を持てと言ってくるのなら、俺はラフォンさんから身を離すしかない。俺はそれくらいに五人と会いたくない。会っても正気でいられるか分からないくらいにな。
「あぁっ! すまない、無理やりするのはよくないな。マヤとは会わせないように心がけよう」
ラフォンさんが分かってくれたようで、良かった。人が嫌がることを騎士がやるのは良くない。それに折角目標とできる人が見つかったというのに、早々に諦めるところだった。
「ご理解いただいて何よりです。あいつらとは会いたくないので」
「・・・・・・どれだけ彼女らのことが嫌いなんだ。まぁ良い、彼女らに伝えなければ良い話だ。それでもこの学園にいれば見つかる可能性は高いぞ?」
「そこはご心配なく。いざとなれば≪隠密≫スキルを使って回避するので」
そうだ、さっきの状況でも≪隠密≫スキルを使えば良かったんだ。さっきはてんぱって使えなかったが、隠密さえあればバレる心配はない。
「≪隠密≫まで持っているのか。騎士とは思えないな。もちろん良い意味で言っているぞ。どんな状況でも対応できないと主を守れないからな」
≪隠密≫は俺が騎士を志した前に持ったスキルだ。あの地獄で、魔物に見つからずに順応して習得したスキル。これと≪超速再生≫、それに≪感知≫には幾度となく助けられた。
「私は大体ここにいる。七聖会議があればいないが、時々しかない。暇な時にでも訪ねてくるといい」
「分かりました。暇なときにこちらに伺わせていただきます」
「・・・・・・来てくれよ? 待ちぼうけは嫌だぞ?」
「分かっています。心配せずとも必ず向かいますので」
「わ、分かっているのなら良いんだ。私はこんな体験が初めてでな、どうしようもないことでも不安になってしまうのだ」
・・・・・・出たよ、たまに出る乙女。こういうギャップをやめてほしいと思っている。そんなモジモジとした態度を取られたらこちらまで気恥ずかしくなってくる。
「それでは、自分はこれで失礼します」
「そ、そうか。また会おう」
「はい、ではまた」
俺はラフォンさんから離れて、フローラさまの元へと戻る。あぁあ、戻りたくねぇな。今にもこちらを襲い掛かろうとしている主の元に戻りたい人間がどこにいるのだろうか。だけど、それが騎士の性。戻る他ないのがこの俺だ。
「ただいま戻りました」
フローラさまの前で一礼して戻ったことを報告した。一礼したのは直接顔を見たくないからだ。今にも逃げ出したい。そもそも俺が悪くないのに、怒られるのは理不尽だろう! 感触はきっちりと堪能したけど。
「すごかったですよ、アユムさん! あんな動きをスキルなしでできるんですね! 改めてすごいなと思いました」
「はい、ありがとうございます」
最初にかけられた言葉は、フローラさまからではなく、サラさんからであった。純粋な敬意を受けて少しだけ照れた気分になる。本当に少しだけど。
「やりますね、七聖剣の一角も落とすとは。どれだけの女性を落とせば気が済むのですか?」
「事実無根のことを言うんじゃねぇよ、スアレム。どこからどう見ても落としていないだろう。そもそも俺が落とせる女性はどこにもいないだろうが」
「・・・・・・本当にそうでしょうか」
意味ありげな言葉を発するスアレムであるが、今落としたとかそういうことをフローラさまの前で言ってほしくないんだけど。フローラさまの騎士である俺が、他のところで勝手をしていることに怒っているんだから、火に油を注ぐなよ。
「アユム」
「はい」
ついにフローラさまから声をかけられるが、その声音は怒っているものではなかった。穏やかなものであった。俺は顔をあげてフローラさまの方を見ると、怒りの表情はなかった。
「七聖剣と渡り合うとは、よくやったわ、さすが私の騎士よ」
「はい、ありがとうございます」
「周りを見てみなさい。あなたのことでざわめき立っているわ」
フローラさまの言われた通りに周りを見ると、俺の方を見て美女たちがざわめき立っている。さっきの戦いにそんな効果があったのか。結構派手にやられた気がしていたんだが、そこまで戦えていたのか。
「主として鼻が高いわ。・・・・・・でも、分かっているわよね?」
その言葉ですべてを悟ってしまった。フローラさまは怒りを収めたのではなく、一周回っているのだ。この怒りがどれほどのものか計り知れない。
「何度も何度も言ったわよね? 勝手なことをするなと。それなのに、あなたはこれで何度目の忠告なのかしら」
「で、ですが、自分がやったのではなく、相手が仕掛けてきたことなので、一概に自分を責めるのは・・・」
「騎士は言い訳しない! 部屋に帰ったら、楽しみにしておきなさいね?」
ふぅ、ここではみんなの目があるから何もしてこないのか。でも、帰ったら俺は何をされるのだろうか。生きてはいるだろうな、たぶん。ていうか、フローラさまはどうして俺が女性と接触しただけでこんなにも怒り狂うのだろうか。七聖剣の一角が相手だったのだから、断り切れないだろう。俺のことが好きでもあるまいし。・・・・・・分からない。あいにくこの方恋愛なんてしたことがないから、女心なんて知るかよ。
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