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77:騎士と封印の地。⑧

結構長くなりました。書きたいことがあると長くなってしまいます。

 ステファニー殿下の覚悟を聞いてから、前野姉が我に返りどうにか稲田の腕をくっつけた。それも後遺症がなく腕を治せたようなので、さすがは神器の力だと再認識した。俺の≪順応≫もそうだが、神器の力は人智を超えたものを感じる。まぁ、俺は頭の出来は普通だから人智とか言えないんだけど。


 当の稲田は腕を前野姉に治してもらっている間に、俺の方を睨みつけていたが、俺が殺気を込めた視線を送るとすぐに視線をそらしてきた。これは良いな。こいつが調子に乗らないのなら腕を斬ったかいがあった。


 稲田の腕を治した後、俺たちは予定通り封印の地に歩き出した。どうやって俺たちの元まで来たのか聞くと、俺たちが飛ばされた魔法陣の横に魔法陣で道が出現したらしく、そこからこの場所に来たらしい。ステファニー殿下が言うには、俺とルネさまを隔てていた壁は、お互いに魔法陣を起動しないと開放されず絶対に壊せない壁であったらしいが、俺が難なく壊してしまった。


 そして、今は魔法陣で飛ばされた場所まで戻ってきて俺が先頭で進んでいる。なぜ俺なのかと言えば、稲田が絶対に前に出ようとせずに俺がすれば良いのだと言ってきたからだ。さっきの威勢はどこにやら。ようやく自分の実力を確認したのか。遅すぎ。


「テンリュウジさん、少しよろしいですか?」

「何でしょうか?」


 先頭で進んでいると、ステファニー殿下から声をかけられた。さっきのことがあったのに、俺に声をかけられるのかものなのか。それは人それぞれか。


「このダンジョンの意味がなくなりましたから、ここについて説明しておきます。この地下への続く道は、侵入者を防ぐためでもありますが、ただ罠が仕掛けられている普通の道ではありません」


 ステファニー殿下が話し出したことに俺は耳を傾ける。意味がなくなるとかあるのか? それにただ罠が仕掛けられている普通の道ではないとは、どういうことだよ。


「ここは、本来なら罠を潜り抜け勇者の基礎能力値を上げ、勇者たちの連携を高めるために作られた場所です。・・・・・・仁器を取りに行くだけなら、テンリュウジさんだけでも事足りました。ですが、私はあなたと勇者たちが少しでも分かり合えたらと思い、あなたと勇者たちをお呼びしました」


 ・・・・・・なるほど、そういうことか。どうして勇者たちがいるのかと思っていた。強さが必要なだけなら、俺だけでも良かった。そういう目的で作られた場所だから、俺と勇者たちが必須だったのか。それを聞いて納得した。


「それを今話されて、どうするおつもりですか? それを聞いても自分はあいつらと仲良くするつもりはありませんよ?」

「分かっています。イナダさんがあんなことをしてしまった以上、仲良くさせるつもりはありません。もう彼らと仲良くさせようとすることもありませんから、ご心配なく」

「それを聞けて何よりです。俺とあいつらでは、仲良くするという次元にはいませんから」


 ステファニー殿下からその言葉が聞けて良かった。俺とあいつらでは、この世界での目的が違うし、仲良くすることなど不可能だ。過去のことで何か事情があったとしても、それを理由に過去が消えるわけではない。だから、俺とあいつらは分かり合えない。それだけは決まっている。


「ねぇ、アユムくん」

「はい、何でしょうか?」


 ステファニー殿下が少し下がると、今度はルネさまが俺に話しかけてこられた。さっきまでニコレットさんに付き添われていたが、もう大丈夫なようだ。だが、稲田との件で俺は申し訳ない気持ちになる。俺がもっとしっかりしていればと思ってしまう。


「もうさっきのことは気にしなくていいんだよ? 私も無事だったんだから」

「・・・・・・はい、すみません」


 そんな俺の顔に気づいたルネさまが俺を慰めてくれた。主に慰められる騎士など、本当にどうしようもない。本当に、自分の不甲斐なさに怒りを覚えてしまう。もっと、騎士として成長しないといけない。


「・・・・・・それで、どうなされましたか?」

「あ、そうだった。さっき私と一緒に飛ばされた女の人、えっと・・・・・・」

「髪を編んでいる茶髪の女、前野のことですか?」

「へぇ、マエノさんって言うんだ」

「その前野がどうかなされましたか?」


 まさかルネさまから前野姉の話題が出るとは思わなかった。さっきの話題が出ること自体タブーだと思っていたが、思ったよりも吹っ切れているようだ。それならそれで安心した。俺が遅れたことは変わらないからなかったことにはできない。


「うぅん、何だか、・・・・・・あの人が可哀想だなって思っちゃったんだよね」

「可哀想、ですか?」

「うん、可哀想。たぶん、他の女の人も可哀想だと思うよ」


 あいつらが可哀想? 何をおかしなことを言っておられるのだ、ルネさまは。あいつらは自分たちの都合が良いように動いて、結果俺が苦しめられた。そんな奴らが可哀想なわけがない。言うのならば自業自得としか言いようがない。


「何故、そう思われたのですか?」

「なぜ・・・・・・、うーん、そこはあまり良く分からないんだよねぇ」

「稲田、男の方の言いなりになっていたからですか?」

「それもあると思うけど、どうなんだろう? 女の勘? みたいに直感で可哀想だなと思っただけだよ」


 ルネさまの言い淀む様に、俺は首を傾げるしかなかった。俺からしてみればあいつらの一挙一動のすべてに悪意を感じてしまう。だが、それは先入観があるからであって、他の人から見れば別のものが見えてくるのは当たり前だ。それでも俺はあいつらが可哀想だとは思わない。


「よく分かりませんが、自分はルネさまの言葉に賛同できません。あいつらを哀れに思いませんし、自業自得だと思っていますから」

「そうですわ、ルネお姉さま。あんな奴らが可哀想なわけがありません。あいつらはルネお姉さまを襲いそうになった挙句に、アユムの心に傷をつけた。これだけであいつらを憐れむ必要はありません」


 俺の言葉にすぐ後ろにいるフローラさまも賛同なさった。フローラさまは俺の過去を知っておられるから、そう思われているのだろう。俺とフローラさまの言葉を聞いても、ルネさまは納得のいかない顔をされている。


 俺と一切関係のない人であれば、ルネさまに納得していただけるように歩み寄るという選択肢を取れるが、あいつらはダメだ。あいつらは稲田とあの四人がセットになっている。またルネさまに危害を加えるようなことがあるかもしれない。だから下手にルネさまに何か言うことができない。




 あれから俺たちは、俺が先頭のまま先に進み、難なく魔法陣を突破していった。音もなく出てくる魔物や、目に見えない魔法など癖のある魔法が仕掛けられていたが、ラフォンさんが手を出す前に俺はすべてを一人で対処した。そこそこの実力がないと突破できない魔法陣ばかりだが、あいにくと俺の実力では簡単に突破できてしまう。


「ここですね」


 魔法陣が仕掛けられた区間は終わり、俺たちの前には大きな赤い二枚の扉があった。その赤い扉にはアンジェ王国の紋章が刻まれており、扉の取っ手がある場所には両手の手形があった。そしてステファニー殿下がその扉の前に立つ。


「ここが王家の血筋しか開けられない扉のはずです。聞いていた扉と特徴が一致しています」


 そんな雰囲気は醸し出しているよな。普通の奴らじゃ開けられない感じがする。ここに来る道中で少し聞いたが、ここ数十年でここに入ったものはいないらしく、俺たちが久しぶりに入ったことになるらしいが、そうでもないな。ここ最近来た形跡を道中で発見した、それも大人数で。足跡はもちろんだが、骨や少量の血痕が残っていた。


 本当に少しだったから、俺は隅々まで見ていないと気が付かなかった。ラフォンさんやマユさんたちは気が付いたようだが。さすがは場数を踏んでいるだけはあるのか? 分からないけど。


「では、開けます。・・・・・・あれ?」


 ステファニー殿下がその大きな扉を一人で開けようと扉にある手形に両手をはめて押しているが、一向に開くことはない。ステファニー殿下も一生懸命開けようとするが、びくともしない。王家の血筋の者でないと開けられないんじゃないのか? デマか?


「ッン! ・・・・・・どういうことでしょうか、開きません」


 ステファニー殿下は自信満々に王家の血筋しか開けられないと言って開けようとしたのに、開かなかったので顔を耳まで真っ赤にしてこちらを向いた。全員の視線がステファニー殿下に向けられられていることもあって、一層顔を赤くされた。まぁ、恥ずかしくなる気持ちは分かる。


「アユム、行ってきなさい」

「自分が行ったところで何も起こらないと思いますよ?」

「起らなくてもいいのよ。ステファニー殿下をあそこで一人にさせるわけにはいかないじゃない」

「・・・・・・はい」


 フローラさまに行くように言われて、俺は顔を赤くしているステファニー殿下の元へと向かった。するとステファニー殿下はこちらを見てどうすればいいのか分からないといった表情をしているが、俺もどうすればいいか分からない。


「手伝います」

「あ、ありがとうございます」


 ステファニー殿下は深々と頭を下げて俺にお礼を言ってこられた。俺はステファニー殿下に頭を下げるのを止めて、ステファニー殿下の隣に並んだ。


「手伝うと言いましたが、この扉は王家の血筋の者でないと開けられないのですよね?」

「そのはずです。そのはずなのですが、それを怪しいところです」


 確かにステファニー殿下がいくら押しても扉が開くことはないしびくともしない。試しに俺が両手形に両手をはめて押してみるが、微動だにしない。≪剛力無双≫の限界の三割を使って押してみるが、これでも変化はない。全力で押せば、たぶん扉と一体化しているここが崩れるな。


「私も押します」


 右手の手形に手をはめようとするステファニー殿下であったから、俺は右手を外して俺が左のステファニー殿下が右で押し始める。すると、何がきっかけか分からないが、扉が赤く光り始めた。それと同時に身体から魔力が吸われているのが分かった。


「ッ! っはぁ」

「おっと、大丈夫ですか?」


 ステファニー殿下も同じようで、少しだけ身体がよろけたため俺がステファニー殿下の身体を支えた。


「はい、ありがとうございます。どういう仕掛けか分かりませんが、このまま押しましょう」


 俺はステファニー殿下の言葉に頷き、俺とステファニー殿下で赤く光っている扉を押し始める。扉は先ほどよりも軽く動き始め、段々と扉の先が見えてきた。そして俺とステファニー殿下は一気に扉を開け放ち扉の先を目にした。


「・・・・・・ここが、封印の地、ですか?」

「そう、みたいですね。思っていた場所とは違いました」


 扉の先を見た俺とステファニー殿下は困惑している。俺が封印の地と言われて思い浮かんでいた光景は、牢獄みたいな殺風景でジメジメとした場所かと思っていた。おそらくステファニー殿下もそう思っていただろう。


 だが、俺たちが今見ている光景は殺風景な場所ではなく、地面に花々が咲いていて奥には湖があり根っこが湖の中にある水に浸っている大樹がどっしりと構えている自然豊かな場所であった。こんなところにドラゴンが封印されていたのか? ここはそんな場所ではないような気がする。どこか神聖な場所だと感じる。


「・・・・・・綺麗ね」

「うわぁ、素敵な場所」


 フローラさまやルネさまたちが次々と俺とステファニー殿下の後に続いて入ってくるが、全員がこの場所に驚いている。そして、俺とステファニー殿下が先導して封印の地という名の謎の場所を進んで行くと、封印の地の中央に目的のものがあることに気が付いた。


「これが、そうですか?」

「はい、そのはずです。・・・・・・そのはずですが」

「一つしかないですね」


 封印の地の中央には、俺たちが求めていたであろう赤い鞘が突き刺さっていた。そう、それだけが突き刺さっていた。これは前野妹が持っている神器に対応している神器なのだろう。その場所には他に何もなかった。俺の神器の対となる神器はどこにもなく、封印には三つ必要なのに、一つしかなかった。


「・・・・・・どう考えても、誰かがこの場所に来て、もう二つの神器の対となる神器を持って行ったのでしょうね」

「その線が妥当だろう。アユムもここに来るまでの痕跡に気が付いたか?」

「はい、気が付きました」


 俺がステファニー殿下にそう言うと、後ろからラフォンさんがこちらに来て俺にそう聞いてきた。やはりラフォンさんも気が付いていたようだ。・・・・・・それにしても、クラウ・ソラスの仁器がないのはまだ良いが、仁器が一つしかないとは思わなかった。これでは前野妹しか強くならない。


「ま、待ってください。ここに来るには王族の者がいなければならないのですよ? それにここに来るためにはあの罠を掻い潜らなければなりません。簡単にここにたどり着けるわけがありません」

「確かに簡単にたどり着けないでしょう。ですが、難しいわけではありません。例えば、大人数でこの場所に来て、罠が仕掛けられている場所を走り抜ければ、死人が出ますが通れば魔法陣が起動しなくなりますから後続は安全に通ることができます」


 ステファニー殿下の疑問に、俺はここに来る途中にあった骨などを参考にして答えた。ただ、これが正解かどうかは分からないが、誰かが来たことは確かだろう。


「・・・・・・しかし、ここに入るためには王族でなければならないはずです」

「いや、その場に王族がいなくても入れるはずです」


 俺の言葉にこの場にいる全員が俺に注目した。いや、そんなにこっちを見なくても良いじゃないですか。それにステファニー殿下も分かっているはずだろう。


「どういうことですか?」

「いや、たぶんあの扉を開けるためには魔力が必要なだけですから、王族の誰かの魔力を奪えば王族でなくても入ることができますよ。それはステファニー殿下も気が付いたはずです。自分も魔力を吸われましたから」

「確かに、吸われていました。・・・・・・ですが、誰が何の目的で仁器を持って行ったのでしょうか?」

「それは分かりません。神器がなければ力を発揮できないようですが、それに触れたことがありませんからどうにかして使う方法があるのかもしれません。ハッキリとしたことは分かりませんが」


 そもそもそんなことを知ったところで、俺はどうこうするつもりはない。シャロン家に危害を加えなければの話だが、危害を加えるつもりなら、俺は誰であろうと叩き潰す。絶対にシャロン家に手を出したことを後悔させてやるつもりだ。


「そうですね。・・・・・・今は考えても仕方がありません。とりあえずジュワユーズの仁器を持ち帰りましょう。ユズキ、あなたの仁器です。あなたが手に取ってください」

「・・・・・・うん」


 前野妹にステファニー殿下が声をかけるが、稲田一行の雰囲気がさっきからお通夜みたいになっており、前野妹の持ち前の明るさも今はない。前野妹はこちらに来て、少しだけ俺の方を見るが俺は興味がない目をして突き刺さっている鞘の方を見る。


 それを見た前野妹が、一段と雰囲気を暗くさせながら赤い鞘の前に立った。すると赤い鞘は赤く光始めて前野妹からジュワユーズが出現してジュワユーズも赤い光を放っている。そして二つは誰も動かしていないのに動き始め、剣と鞘は元ある形に戻るかのように剣が鞘に収まった。


「さぁ、取ってください。それでより神器の力を発揮できるはずです」

「・・・・・・これがあれば、魔王を倒せるかな?」

「それは今後のユズキの努力次第です。神器の力が強くなったのは確かですが、使えるようになるかはユズキ次第です」


 こんなことを見るためにここまで来たのかよと思って萎えていると、突然何かが俺を呼んでいる気がした。声とか音とかではなく、何か、感覚によるものだ。その何かに答えているかのように、俺の意志と関係なくクラウ・ソラスが俺の手に出現した。


「どうしたの、アユム?」

「いえ、何か、分かりませんが、何かが、呼んでいます」


 俺はフローラさまが心配する言葉にあいまいにしか答えることができず、何かに意識が持っていかれている。くそっ、何なんだよこの現象。何かに引き寄せられる力に抗えない。


 一応の抵抗をしながらも、抵抗できないままに俺は湖の方へと歩みを進めていく。そして湖の前に立って視線を下に向けた。すると水面に誰か女の人が見えた気がしたが、そこには俺しか映っていない。目までおかしくなったのかと思いながら、湖の中をよく見ると、浅いところに白銀の欠片があることに気が付いた。


 身体が勝手に動いて湖の中にある白銀の欠片を取ろうと、湖に手を入れて白銀の欠片を取ろうと手を伸ばした。だが、湖の中に腕を入れている間、頭の中がふわふわとしている感覚に陥ってしまう。どこかに吸い込まれそうで、どこか心地よい気分になっている。


「アユム?」

「ッ!」


 白銀の欠片なんて忘れて、このまま全身を湖の中に入れてしまいたいと思うくらいの心地よい気分だが、フローラさまの呼ぶ声で俺はすぐに意識を取り戻して白銀の欠片を手にして湖から腕を抜いて湖から一歩下がった。


「ッァ! ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・」


 湖から下がると俺は尻もちをついて呼吸が荒くなり冷や汗が流れていることに気が付いた。この湖は一体何なんだ? いや、湖と言うよりかはあの大樹の方か。・・・・・・身体が持っていかれそうになった。


「アユム⁉ 大丈夫⁉」

「アユムくん⁉」


 フローラさまとルネさまが声を上げて俺の傍に駆け寄ってくださり、ニコレットさんとブリジット、サラさんもこちらに来てくれた。来てくださったことは嬉しいが、今は呼吸を整えることとさっきの余韻を消し去ることで手いっぱいで、フローラさまとルネさまの問いかけに答えることができなかったが、手で大丈夫だと合図した。


 少しして呼吸が整い、俺は通常運転できるくらいに体調が戻った。手に持っている白銀の欠片が、今もなお光り輝いており俺のクラウ・ソラスに反応しているようであった。クラウ・ソラスの方も白銀に光っている。


「ご心配をおかけして申し訳ございません。もう大丈夫です」

「本当に大丈夫? すごい汗よ?」


 フローラさまがフローラさまのハンカチで俺の額にでた汗を拭きとってくださる。いや、これは逆じゃね。俺がフローラさまの汗を拭くのなら分かるが、フローラさまが拭いてくださるとは、本当に心配してくださっているのが分かる。


「大丈夫です、ありがとうございます」

「そう? それなら良いけれど」


 いや、大丈夫ではない。だけどフローラさまに心配をかけないためにはこう言うしかない。さっきの身体や心までも持っていかれる現象はなんだよ。あれは本当にやばかった。フローラさまが声をかけてくださらなかったら、俺は湖に身体が持っていかれていたぞ。


「本当に大丈夫か? あそこで一体何があった?」


 俺の元へと来たラフォンさんが心配そうな顔をして俺に声をかけてくれた。そうか、俺がこんな顔をしているのはあまり他の人に見せないから、それでより不安にさせてしまったのか。いや、本当に大丈夫ではないから心配してくれて正解だ。だけど、あの現象を言葉にする自信がない。


「大丈夫です。・・・・・・何が、と言われても、分かりません。ただ、この湖には何かがあるとしか言えません。自分ですら意識が持っていかれそうになりました」

「・・・・・・これは、調べる必要がありそうだな。大丈夫とは言っても、アユムの体調が悪そうだから今は帰ることにしよう。目的のものは一応手に入ったわけだからな」

「はい、そうしてもらった方がありがたいです」


 ラフォンさんの判断で俺たちはこの場を後にすることになった。今度は稲田たちが先頭で帰ることになり、最後に俺はフローラさまたちに心配されながらも封印の地から出ようとした。


『・・・・・・ね』


 湖の方から何か声が聞こえてきた気がしたが、今の俺はだいぶ精神がやられているみたいだから幻聴だろう。誰もいないのに声が聞こえるわけがない。帰ったらすぐに休もう。

次回はルネさまの回ですね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 前野妹はモチベーション低い状況ですが、神器で脚光があたりますね。 前野姉の回復できる神器ってけっこう凄くありませんか! ルネさまを全面に出してくれているところはこの章の内容の中では特に気に…
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