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73:騎士と封印の地。④

いつの間にか総合評価が九百に達していました! ありがとうございます! あまり気にしないようにしていましたが、やはり増えていくとモチベーションが上がって行きます。投稿が続くように頑張りたいです。

 背後に勇者四人とステファニー殿下を置いた稲田が魔法罠が張り巡らされている区間に足を踏み入れると、すぐに前から大きな火の玉が稲田に飛んできた。稲田は持っている白の剣で切り裂いた。それを稲田はドヤ顔で後方を見てくる。馬鹿が、今のは前に放たれた火の玉の残りカスだ。次は本気の火の玉が来るぞ。


「次が来たよッ!」

「来るのはやっ!」


 大きさは先ほどよりも小さいが、さっきのとは比べ物にはならない魔力濃度の火の玉が来たことを前野妹が稲田に教え、稲田は驚きながらも余裕の表情で剣を構えている。だが、それだと絶対に切れないぞ?


「あっつッ!」


 俺の予想通り、稲田は火の玉を斬れずに剣で火の玉を防ぐので手一杯なようだ。後方の五人には火の玉の被害はないようだが、稲田が受けこぼした火の玉は俺たちの方に来た。俺はクラウ・ソラスを出そうとしたが、他の勇者の神器と反応してしまうから、クラウ・ソラスを出していない状態で≪魔力武装≫を使用して、右腕の鎧だけ出現させた。


 武装している右腕を前に突き出して、火の玉をかき消した。これくらいの火の玉をかき消せないとは、騎士とは言えないな。でも、他の勇者たちならこれくらいの火の玉は無傷ではいけないだろうが、進めるだろう。この先のために温存しているのか?


 稲田が苦戦している間にも、次々と火の玉が飛んでくる。稲田が身体の至る所を燃やしながらも、剣を振り続けているところは評価できるな。まぁ、身の丈が合っていない仕事はするものではないがな。そしてこちらにも火の玉が来ているところをどうにかできていれば、なお評価できたが、ぬくぬくと修行していたあいつにそれを求めるのは酷なものだ。


 後ろで付いて行っている俺は片腕でこちらに来る火の玉をすべて消していく。俺は無傷だし、当たり前だがフローラさまたちに傷一つ付いていない。これくらいの罠だけならラフォンさんだけでも行けると思うが、これ以上のものは何があるのだろうか。


「ッ! くっそっ・・・・・・ッ!」


 火の玉の威力や火の玉のサイズ、火の玉の量が進むにつれて増加しているため、遂に稲田は足を止めて火の玉をただ受けるだけになっている。こちらに来る火の玉の数が増えているのは、稲田が一番来る場所から離れているからだ。しかし、避けた先でも火の玉は来ている。壁に火の玉が出る魔法陣が施されているが、見たところ横を通過すると自然に止まっている。


 俺は稲田がさっきの自信満々の顔から苦しむ顔に変わっていく姿を見て、胸がすいた。俺を馬鹿にしてまでその場所を手に入れたのに、いざやってみれば最初の難関で苦戦している。この姿を見ないで心が晴れないはずがない。俺は思わず笑みを浮かべてしまう。別に恨みはないが、簡単に人を馬鹿にする報いは受けてもらわないとな。


「ふっ」

「もしかして、あの姿を見るためにあいつにあの位置を譲ったの?」


 俺のすぐ後ろにおられるフローラさまが、俺の笑いを聞き逃さずに聞いてきた。俺は隠すつもりはないから、フローラさまの質問にすぐに頷いて答えた。


「はい、そうですよ。最初から稲田にはこの罠の中を無傷で進むことは不可能だと分かっていました。それでもあいつが自分から進んで、そして俺のことを馬鹿にしてでも格好つけたいと言ってきたので、その言動すべてが間違いだと身にしみ込ませるために、あの位置を譲りました。本人からしてみれば、あんな姿になるなんて思っても見ていないでしょうね」

「まぁ、そうね。あれだけのことを言っておいて、あんな惨めな姿を晒して恥ずかしくないのかしら? 可笑しくてたまらないわね」


 フローラさまも俺と同じように稲田を見て笑みを浮かべている。自分で自分を苦しめている様を、滑稽と言わずして何と言うのだろうか。


「ふっ、あの姿を見れば、先のアユムへの言動を忘れさせてくれるな」

「・・・・・・バカとしか言いようがないですね。自分で自分の首を絞めているだけですね。笑えますね」


 フローラさまの他にもニコレットさんとブリジットが稲田の光景を見てバカにしている。密かにラフォンさんも稲田のことを見下している。だが、ルネさまとサラさんは俺たちの反応についていけていないようだ。うん、心が綺麗なのだろうな。こんなことで笑えるのは心が汚れている人たちだけだ。だけど、あちらから仕掛けてきたんだから、正当防衛だ。


「それで? どうするのあれ? 止まっているけど」


 フローラさまにそう言われて、俺は悩んだ。稲田の苦しむ姿を見るのも良いが、いい加減先に進みたい。俺たちだけでも先に進もうかと思ったが、ステファニー殿下があちらにいる以上置いてはいけない。なら、俺があいつらの前を進むしかないか。ハァ、もう少しあいつが頑張っていれば俺が前に出ることがなかったのに。


「・・・・・・仕方ありません、自分が前に出ます。火の玉は自分がすべて受け止めるので、稲田たちはラフォンさんにお願いしてもよろしいですか?」

「あぁ、構わない。あいつの尻拭いをさせてすまない」

「大丈夫ですよ。あれで少しは態度が改まればと思っていますけど」


 俺はラフォンさんに稲田たちを押し付けて、火の玉が飛んでいる中で右腕に全長ほど大きさがある白銀の盾を出現させて装備して、前に進んで行く。これを出せば何の心配もなく前に進める。何もスキルを使っていない状態ではあるが、この状態でも破ることができる生き物は限られている。


 盾だけでも十分だが、それに加えてこの罠を壊すために盾を装備している状態で使用できるスキル≪全反射≫を使い、火の玉を受けたそばから弾き返して火の玉が放たれた場所を狙っていく。そうすることで火の玉の数は少なくなっている。


「テンリュウジさん・・・・・・」

「ここからは自分が先導するので、ステファニー殿下はお下がりください」


 稲田が止まっている場所まで来て、ステファニー殿下が不安そうな顔をして俺の方を見てくる。そんな顔をするくらいなら、あそこで稲田を信用するべきではなかっただろう。あいつの実力を分かっているだろうに。他の勇者も一緒に戦っているのなら分かっているだろうに。


 そう思いながら火の玉を受けて跳ね返しながら俺はもはや何も聞こえていない稲田の前に出て俺の後方には一切の火の玉が飛んでいかないように、≪絶対防御≫を使って透明な盾の面積を広げて前方と後方は完全に遮断されている。俺は完全に安全策を取りながら進んで行くと、壁際の地面の上に燃えて灰になっている何かが視界に入った。


 何だと思って歩きながら目を凝らすと、何かの骨であることが分かった。いつ燃えたものかは分からないし、これが人間の骨なのか魔物か何かの骨なのかは分からない。だが、ここを通過しようとしたものがいることは明らかだ。この先にも骨が何個もあるのが見える。・・・・・・さて、真実はどうなのか。


「どうしたの? アユム」

「いえ、何でもありません。おそらくもう少しで終わるのでしばらく自分の後ろで我慢していてください」

「別に我慢していないわよ。むしろ、この場所は誰にも譲らない。だってこの背中を見ているだけで、私は安心するもの」


 フローラさまは俺の背中にそっと体重をかけてこられた。その言動にドキッとさせられたが、そう言われると、騎士冥利に尽きるというものだ。騎士は敵に顔を向けて背中を見せないと同時に、主に背中を見せている。面と向かえない分、背中で安心させられるのならば、騎士として一端と言えるだろうか。


「それは、ありがとうございます。とても嬉しく思います」

「そう? お礼を言うのは私なのに。こんなにも私を一途に守ってくれる騎士なんて他にいないわよ。いつもありがとう」

「・・・・・・は、はい」


 フローラさまが急にお礼を言われたので、俺はその言葉に動揺してしまった。フローラさまがお礼を言われることなど、滅多にないことだ。それが今起きている。えっ? 何かフローラさまが悪いことでもしたのか。それとも俺がいらなくなったから、最後くらいはお礼を言っておこう、みたいな感じか?


「何よ? 私がお礼を言うことがそんなにもおかしい?」

「い、いえ、そんなことはありません。少し驚いただけです。お礼は素直に受け取っておきます」

「私もお礼くらいは言うわよ。失礼ね」


 いや、たぶんこの会話を聞いているルネさまやブリジット、ニコレットさんはフローラさまの発言に心底驚いているはずだ。俺が驚いているくらいなのだから、俺よりもフローラさまと長い付き合いなのだから驚くに決まっている。だが、こうしてお礼を言われると、ここまでフローラさまをお守りしていてよかったと再認識させられる。


 この世界に来るまではやることなすこと、やって良かったと思えるものが少なかった。こちらの世界ではそうではなかったから、生きていると感じられる。俺の自己満足でも、俺はフローラさまやシャロン家をお守りし続ける。それが俺の生きがいだ。


「ねぇ、フローラ。私とそこを替わってくれない?」

「なぜですか? ルネお姉さま。ここは私の特等席ですよ?」

「少しくらい良いでしょう? ね、お願い」


 俺の背中にピッタリとくっ付いておられるフローラさまに、ルネさまが替わるように頼んでこられたがフローラさまは断固拒否されている。それでもルネさまは諦めずにフローラさまにお願いされている。


「ダメです。ここは絶対に譲りません。ルネお姉さまはアユムの隣で良いと思います」

「えぇっ⁉ 私も背中が良いの! フローラは満喫したから、もう替わっても良いんじゃないの?」

「ダメです」


 いつまで経ってもこのやり取りが解決することがなさそうだな。ルネさまとフローラさまはどちらも頑固だから、どちらも譲ろうとはしない。そしてこのやり取りの中心は俺だから、逃げることができない。歩きながら後方にいるニコレットさんを見るが、また俺から視線を外した。ふっ、これは誰も助けてくれない感じだな。


 何かないかと思ったが、火の玉の勢いは段々と弱まって行き、魔法の罠が張り巡らされていない場所がこの先にあることを発見した。張り巡らされてはいないが、一つだけ魔法の罠があることは分かった。それが何の魔法陣であるかは分からない。


「お二人とも、もう少しで魔法陣が張り巡らされていない場所にたどり着きます。しかし、一つだけ魔法陣が確認できます。自分の背中から離れないでください」


 お二人にそう言うと、フローラさまはむすっとして、ルネさまは嬉しそうな顔をされた。えっ、さっきの言葉のどこに相反する二つの表情を作り出したんだ? と、不可解な気持ちになりながらも歩き続けてついに火の玉が出る魔法陣はすべて解除された。


 俺は≪絶対防御≫を解いて後ろを見ると、俺の後ろにいたフローラさまたちや青髪の双子の女性は無事であるが、稲田の後ろにいたステファニー殿下や勇者たちは少しながら服や皮膚が焼けているのが分かった。当のへまをした張本人である稲田は、前野妹に介抱されるくらいに弱り切っている。あれくらいにことで情けないと思っていたその時、気を付けていた魔法陣が発動したことに気が付いた。


 すぐにフローラさまとルネさまの前に立ち、魔法陣が発動している最中の場所を見る。魔法陣は弱弱しく光を放ちながら、何かが魔法陣から召喚された。何が召喚されたのか確認しようとするが、その何かが俺に襲い掛かってきた。


 俺は武装している右腕でその何かの攻撃を受け止めた。そこで初めてその何かの正体が分かった。全長は俺の腰くらいまでしかない小さな猿であった。だが、ただの猿ではなく目がむき出しになっており赤い毛が逆立ち、魔力を纏って今にも俺を食べそうなくらいに興奮している猿だった。


 その猿が俺の武装している右腕を喰らおうとしていたから、無駄だろうと思いながらも思いっきり前に拳を振って猿を振り飛ばした。猿は転がりながら吹き飛んで行ったが、吹き飛ぶ前に猿が俺の右腕に何か唾液をつけていたのを見ていた。右腕を見ると紫の液体が付着していた。


 毒か何かかと思ったが、瞬時に違うと理解した。これは、神器の力を不安定にさせる液体だ。今も俺の≪魔力武装≫が崩れそうになっている。こんなことができるモンスターがいるなんて初めて知った。こいつもここの罠の一体なのか? いや、それはない。猿の強さが段違いだ。


「キッ、キキキキッ」


 吹き飛ばされた猿が不気味な笑い声を出して俺の方を見ている。その唾液で俺を倒せると思っているのなら、大間違いだ。あいにく、俺には≪順応≫がある。数秒しただけでこの訳の分からない液体に順応して力を安定することができている。


「アユム、あれは何?」

「分かりません。ですが、すぐに倒します」


 フローラさまが俺の後ろで猿を気味悪そうに見ながら俺に聞いてこられたが、俺にも分からない。この場で観察なんてしている暇はない。後ろには守るべき人がいるのだから。


「アユムくん、大丈夫なの?」


 ルネさまが俺の服のすそを掴んでこられて、不安そうな顔をしながらそう尋ねられた。・・・・・・バカか、俺は。守るべき人を不安な表情にさせてどうするんだよ。騎士がいるのに不安にさせることは絶対にしてはならないことだ。


「はい、大丈夫です。安心して自分の後ろにいてください」


 俺は力強い言葉でルネさまに答えて、猿の方を向く。守るべき人を不安にさせる要素は、早々に退場してもらわないといけない。と言うか、この狂ったような、道を踏み外したモンスターの感じ、あのニース王国のヴォーブルゴワンを彷彿とさせる。


 しかし、そんなことは関係ない。俺はクラウ・ソラスを出現させて全身に白銀の鎧を纏わせる。鎧を纏ったが、驚いたことに今回は純度百パーセントの白銀の鎧だ。そのせいか、頭がスッキリしているし、身体の奥底から力があふれ出してきている。今はとても気分が良い。


「キキキキッ、キーッ!」

「遅い」


 紫の唾液を口から垂れ流しながら、そこそこの速さで俺に襲い掛かろうとしてくる猿と距離を詰め、すれ違いざまに猿の胴体を真っ二つに斬った。すぐさま俺はフローラさまとルネさまの前に戻り、猿の様子を見る。猿は、上半身だけでも俺の方に来ようとしている。だが、ついに息絶えて動かなくなった。


「一体、何だったんだ」


 結局この猿が何なのかは分からずじまいだった。でも、この猿だけは他の魔法陣とは違う構造の魔法陣であったことは確かだ。あれは転移魔法陣で、構築している人が違った。誰かがここに近づかせないために作ったのか、それとも、俺たち神器持ちだけを殺すためだけに作ったのか。そうでなければ神器の力を不安定にする力なんて、俺や勇者以外に必要ないのだから。


 ・・・・・・まぁ、今はそんなことを考えても分からないから、頭の片隅にでもしまっておこう。


「ご無事ですか?」

「えぇ、大丈夫よ」

「うん、ケガはないよ。アユムくんが守ってくれたから」


 フローラさまとルネさまに確認するが、当たり前のように問題なくてよかった。そして周りを見渡し、見える範囲では罠も何もないことを確認したので俺は魔力武装を解除してお二人よりも後ろにいる人たちの方に視線をやる。


 勇者一行以外は無事なようだが、肝心の勇者一行の一人、稲田があれくらいで先導して先に進めなくなっており、長い茶髪をカチューシャ編みしている前野姉が橙色の腕輪で稲田を治療している。・・・・・・ここまで弱いとは思ってもみなかった。これから先大丈夫なのかよ。

この封印の地という話は過去で一番長くなりそうです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] トラップが降り注ぐ中で、アユムの背中はフローラさまとルネさまが取り合い! 緊張感ある場面でホッと一息、こういう場面はこの作品で楽しくて大好きなところです(*´ω`*) 稲田のヘナチョコさに…
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