72:騎士と封印の地。③
二日に一回の投稿は余裕を感じます。頑張ります!
今のところ罠らしい罠はなく、暗い道を勇者たち五人ととステファニー殿下が先導して歩いていく。その六人に少し離れて歩いている他のメンバーである俺たちは歩きながら話し始める。
「アユム、さっきのあの男が見せた剣は、本当にクラウ・ソラスなの?」
フローラさまがそんなことを仰るが、それは俺が知りたいくらいだ。あの剣を直に見た時、俺の持っているクラウ・ソラスとは違うことは分かった。だけど、全く関係ないとは言い切れないものがあったことは事実だ。どう答えればいいものか。
「・・・・・・自分が持っているクラウ・ソラスが本物なのでしょう。ですが、稲田が持っている剣がクラウ・ソラスでないとは断言できません。自分のクラウ・ソラスと切っても切れない縁を持っている気がします。忌々しいことに」
「ほぉ、アユムはそう思うのか?」
俺の言葉に一番に反応したのはラフォンさんであった。俺の適当な言葉にラフォンさんが反応するとは思わなかった。と言うか、フローラさまの質問はラフォンさんの方が知っているかと思った。今度は俺がラフォンさんに稲田の剣について聞く。
「稲田のあの剣は何なのですか? あれもクラウ・ソラスなのですか?」
「それはだな、今もまだ分かっていない。剣の特徴からアユムの持っているクラウ・ソラスが本物で、神器同士が共鳴しているからそこはまず間違いないだろう。だが、イナダの剣にも≪順応≫のスキルが備わっている」
「順応が、ですか? ・・・・・・クラウ・ソラスの所有者だけが持っているスキルですよね? 稲田が持っている剣もクラウ・ソラスということになるのですか?」
「そうと断言するには否定する要素もある。まず、他の勇者たちの神器に共鳴しない。すべての神器は例外なく近くに神器があると共鳴する。共鳴しない時点で神器の可能性は薄い。さらに、イナダの≪順応≫は発動条件が限られているため、≪順応≫できない時の方が多い。こんな中途半端な≪順応≫で前衛に立てるわけがない」
順応に発動条件? 稲田の順応はそんなことになっているのか。だからあんなにも弱かったのか。順応があれば大抵強くなると思っているが、条件が付いているからあんな状態になっているのだろう。
「アユムが現れるまでは、イナダがクラウ・ソラスの持ち手だと疑問を持ちながら思っていたが、アユムが現れてからイナダをクラウ・ソラスの持ち主だとは思わなくなった。しかし、疑問は残っている。この世界に勇者を召喚した時にイナダが来たことや召喚された際に装備していたクラウ・ソラス擬きなどがどうやっても説明できない。もうお手上げの状態だ」
・・・・・・ふぅん、ラフォンさんでも分からないのなら、俺はなおさら分からない。だけど、別の空間にあるクラウ・ソラスが稲田の剣を見てから騒いでいる気がしてならない。この感覚は騎士王決定戦で白銀の欠片を見た時のクラウ・ソラスと同じだ。あれがクラウ・ソラスの一部だとでも言うのか? それは勘弁してほしい。あいつが使っている剣を使う気がしないからな。
「あっ。・・・・・・アユム、少し良いか?」
「えっ、はい。少し失礼します」
ラフォンさんが何かを思い出したようで、フローラさまたちと少し距離を空けた位置に俺を呼び出した。俺はフローラさまに許可をもらってラフォンさんの元に寄った。するとラフォンさんは俺と密着してきて耳元に顔を近づけてきた。少しだけフローラさまの視線が痛いものの、俺はラフォンさんの言葉を聞くことにした。
「私が七聖会議に出席するために西の大陸に向かった時の話だが、私の前に突如希少な種族である女の巨人族が現れた」
「巨人族ですか?」
巨人族? 何かどこかで聞いたことがあったり見たことがあるような気がするな。・・・・・・ダメだ、思い出せない。この世界では魔物やらモンスターが至る所にいて、それに慣れてしまうと巨人族であろうとインパクトが薄れてしまう。
「まさか、覚えていないのか? いや、もしかするとあいつら四体が嘘をついていたのか? だがそれはあちらに不利益しかもたらさない。どうなっているんだ。・・・・・・本当に覚えていないのか? 水色の長い髪をしていた女の巨人だ。確かニース王国での戦いの際に願いを聞き届けてくれたと言っていたぞ」
ラフォンさんの言葉で、俺は女の巨人について思い出した。そうだ、ニース王国が侵攻してくる前に魔物が来ていて、その中に女の巨人たちがいたんだ。四人の女の巨人たちが、侵攻してくるニース王国の兵士を可能な限り殺してくれと頼んできたんだった。そう言えば、彼女らはあれからどうしたのだろうか? 別れたっきり何の音沙汰がない。元居た世界では連絡手段があったが、こちらではないから仕方がないことではある。
「思い出しました。確かに女の巨人族とニース王国との戦いで会いました。それで、彼女らがどうしたのですか?」
「あぁ、それなんだが。これを渡してくれと言われた」
ラフォンさんが、透明度が高い水色の宝石が埋め込まれている金色を基調とした指輪を俺に渡してきた。これが一体何なのかは見当もつかないが、ラフォンさんの表情からやばいものなのは確かだな。
「これは一体何ですか?」
「・・・・・・それは、巨人族が住む秘境にどこからでも移動することができる術式が施されている指輪だ」
ラフォンさんは周りに聞こえないようにとても小さな声で話してくるが、秘境にどこからでも移動することができる指輪の存在を知られたくないのだろうか。これがとても重要な指輪なのか、それとも他に意味があるのか。
「この指輪が秘境に簡単にたどり着くことができる便利道具なんですね。・・・・・・これのどこにそんなに小さな声で話す要素があるのですか?」
「大有りだ。その指輪は〝奈落の指輪〟と言われる代物で、またの名を〝魔王の指輪〟と言われている」
・・・・・・この指輪が、魔王の指輪? 魔王って、魔物の王の魔王だよな? その王さまの指輪が、これだと言うのか? それをどうして俺が持っているんだ? 頭が追い付かない。
「ど、どうしてその魔王の指輪がここに? どうして自分が持っているのですか?」
「それは私が聞きたいくらいだ。だが、それを渡されるくらいのことをしたのだろう? 魔王の指輪を渡されて嬉しい人間はいないがな。しかし、本来なら魔王が装備するはずの指輪で、巨人族が代々魔王が現れるまでそこで守護しているらしい。それなら今の魔王がしていなくてはならない代物であるが、どうしてアユムに渡すのか分からない」
うん、魔王になる必要がないのならもらっておこう。こんな貴重なものを道端に捨てるわけがないし、貰い物だからな。それにしても、秘境に移動することができる指輪が、どうして魔王の指輪と呼ばれているんだ?
「この指輪って、他に何か能力はないのですか? これで魔王の指輪と呼ばれているとは思いませんが」
「ある。が、おそらくアユムにはあまり関係のない話だ。その指輪がどうして魔王の指輪と呼ばれているのかは、たとえどれだけ弱い魔物であろうと指輪に認められれば強大な魔力と魔法を与えられ、魔物を思うままに支配することができる。それ故に、魔王の指輪と呼ばれている。どうしてアユムと関係ないかと言えば、その指輪に認められなければその力を使えず、それと相反する存在であるアユムが扱えるとは思えない。その指輪は巨人族の秘境に行くときに使う道具と思っていれば良いだろう。それだけでも貴重なものであることには変わりない」
認められた持ち主に、強大な魔力と魔法を与え魔物を思うままに支配することができる指輪か。ふぅ、良かった、ラフォンさんに見られないで。ラフォンさんが会話している途中で俺は何かが俺と繋がったことを意識してしまった。この感覚はクラウ・ソラスを使っている時と同じ感覚だ。
手の中の指輪を見ると、青の宝石から光が放たれそうになっていたから俺は急いでポケットにしまって手を離した。すると宝石から光が漏れ出すこともなかったし、何かが繋がる感覚はなくなった。どうなっているのかは、あえて考えないでおこう。これ以上俺に問題を増やさないでくれ。脳がショートする。
「ありがたく受け取っておきます。それより、女性の巨人たちは自分に指輪を渡すためだけにラフォンさんに会いに来たのですか? それに、よく自分とラフォンさんが知り合いだと分かりましたね」
「巨人族の中には、予知や千里眼に長けているものがいるらしく、それで私がアユムと知り合いだと分かったようだ。そして、巨人たちは私にその指輪を渡した後に、『いつでも待っています』と伝えてくれと言われた。この指輪を渡したことと言い、相当に巨人族から気に入られているようだな」
「そんなことはないですよ。ただ、彼女たちは自分との約束を守っているだけです」
「それだけで魔王の指輪を渡すとは思えない。彼女らにも何か事情があるのかもしれない」
ラフォンさんの言う通り、俺がニース王国の兵士たちを可能な限り殺しただけで魔王の指輪をあげるなんてあるわけがない。それも俺は人間だぞ? 何か事情があるのは明白だ。
「何であろうと、その指輪は大事に持っておくと良い。巨人族と友好関係も結べて悪いことはないからな」
「分かりました。大切に持っておきます」
その会話が終わると、ラフォンさんは俺から離れてくれた。それを確認されたフローラさまが、咳払いをしてこちらに来いと手で指示された。俺は大人しくフローラさまの元へと向かった。
「どうされましたか?」
「あの七聖剣と何の話をしていたの?」
当然フローラさまに聞かれると思ってはいたが、この件についてはどう答えたら良いのか。あの話の中で一番話してはならないことは、もらった指輪が魔王の指輪だったということだけか。それを伏せてならフローラさまにお話ししても良いだろう。確認のためにラフォンさんを見ると、自身の指を指さされて首を振っていることから、指輪の件は伏せておけと言っているのだろう。
「ラフォンさんから――」
俺はニース王国の兵士が侵攻してきた時に出会った女性巨人のことを話して、その女性巨人たちがラフォンさんと先日会い、今度巨人族が暮らす秘境に案内されるかもしれないことを話した。それを聞かれていたフローラさまは不思議そうにしておられた。
「そうなの。魔物って知能があっても人間を目の敵として見ているのかと思っていたわ。人間と友好的に接して来る魔物もいるのね」
「魔物の中でも、種族の違いとかでもあるのでしょう。基本的には力を持ってすべてを制す、という考え方の魔物たちですが、魔物がそんな脳筋だらけだと人間領に攻め込んでくるでしょうが、してこないということは知恵が回る魔物もいるのでしょうね」
過去に一度だけ魔物を助けたことがあったが、そいつは頭が良くきれるやつだった。逃がす見返りに懐中時計と魔物軍の情勢を事細かく教えてくれたが、目の付け所が頭が切れるやつのそれであった。だから魔物だからと言って見つけて殺す、なんてことは俺はしない。こちらに害を与えてくれば別の話だけど。
「みなさん、止まってください」
魔物の話が終わり、いつもの六人で世間話をしながら軽い感じで歩いているとステファニー殿下から静止の合図が来た。勇者とステファニー殿下が止まっている位置の少し後ろで止まり、その先を見てみると、一見何もない場所に見えるが、魔力の反応がそこら中にあるのが理解できた。ここからがスタートか。
「ここから先が危険な魔法罠が仕掛けられている場所になっています」
深紅のドラゴンがいなくなったのだから、罠が解除されていても良いだろうに。融通が利かない魔法罠だな。不用意にドラゴンが封印されている場所に行かせないためならこの罠はもはや邪魔でしかないが、それ以外の目的があるのなら話は別だが、そんなことあるわけないか。
「それでは、ここからはテンリュウジさんが先頭になっていただきたいです」
ステファニー殿下の言葉で全員が俺の方を向く。やっぱり俺が先頭になるのかよと少し嫌な顔をしそうになったころで、ステファニー殿下の言葉に間髪を入れず稲田が言葉を放った。
「ステファニー殿下、そこの男よりも俺の方が全員を守れますよ。そこの男は俺より下なんですから」
あぁ、この男がいてくれて良かった。良くはないかもしれないが、思わぬところで役に立つことはあるな。こいつがマウントを取ったり女の前で格好つけようとしている性格で良かった。おかげで俺が前に出なくて済む。
「しかし、ここから先は危険ですよ? それにテンリュウジさんよりも強いなど、バカげたことを仰らないでください」
「バカげていませんよ。前の世界だと俺とあいつでは比べ物にならないくらいの能力差だったんですよ? まさに天と地と言っても過言ではありません。数年間でそれが変わるわけがないですよ。一生女を抱けない甲斐性なしの男より、自分の方が役に立ちます」
おぉ、俺のことをバカにしてくれる。そもそも俺はそんなことを言われても何も気にならないし、今のこの状況で危険に自分から突っ込んでいってくれるという意気込みに敬意を表したいくらいだ。
「それはあなたが勝手に思い込んでいるだけで――」
「そんなわけないですよ。むしろあの男と俺を比べて、何か俺に劣っているものがあるとでも言うのですか? ここは俺に任せてくださいよ」
どうしても自分からやりたいらしいから、俺も後押ししてやろう。そう思って俺はステファニー殿下と稲田の近くに行き、口を開いた。
「ステファニー殿下。稲田もそう言っていますから、彼に任せてみてはどうですか? 自分の方が劣っているようなので、そちらの方が安心でしょう」
「おぉ、分かってくれるか。自分のことは自分が良く分かっているようだな。この俺にすべてを負けていることが理解できていて何よりだ」
「はははっ、そうだな」
俺は愛想笑いを浮かべて稲田のご機嫌を適当に取る。ステファニー殿下は俺と稲田の顔を交互に見て戸惑っているように見える。だけど、自信満々の稲田を見て、ため息を吐いてイナダの方を見た。
「では、イナダさん。ここはあなたにお任せしても構いませんか?」
「お任せください。きっとここにいる全員を無傷でゴールさせて見せます」
すごい自身で頼りがいがあるな。本当に頼りがいだけなのは言うまでもないが。無事にステファニー殿下の説得が終わり、フローラさまの元に戻った。するとフローラさまは誰かを殺すのかと思われるくらいの憤怒の顔をしておられた。
「ど、どうされましたか?」
「どうされました、ではないでしょう。あのアユムをバカにした態度を受けて、あなたは何も思わないの? どうして私の方がこんなにも怒っているのよ」
「何とも思わなくはないですけど、あいつのあの態度は今に始まったことではないので気にならなくなりました」
「・・・・・・それは異常よ? あんなことを言われて気にならないのは感覚がマヒしている。あれは同調するところではなく、怒るところよ。それに、私の騎士があんな奴に馬鹿にされて良いはずがないわ。私も馬鹿にされていると思いなさい」
そうだった。俺は今たった一人ではなく、シャロン家に仕える騎士であり執事であった。馬鹿にされた本人以上に怒ってくださるフローラさまがいて良かった。それに、フローラさまだけではなく俺の後方にいる人たちはほぼ怒っているように見えるな。俺のために怒ってくれるなんて、本当にありがたい。
「はい、申し訳ございません。ですが、自分はこれから見る光景のために我慢したところもあります」
「これから見る光景?」
「前を向いていれば分かります。それよりも、ここから先進むにあたって自分の後ろにいてください。全力でお守りします」
俺の言葉でフローラさまたちやラフォンさんと青髪の双子の女性たちが俺の後方に集まってこられた。そして、ステファニー殿下は稲田の後方に入り込んで稲田は前に進み始めた。
中途半端に終わってしまいましたが、次回から戦闘シーン? が入り始めます。