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65:騎士と幸せ。

ついに第三章終了です! 第三章を終わらせるのに何か月かけてんだと突っ込みが入りそうです。

 カスペール家を襲撃してから一夜明け、俺は今現在フローラさまとブリジットとの三人でデートをしていた。なぜデートをしているのかと言えば、ブリジットとのデートをカスペールに邪魔をされたから、その仕切り直しと、フローラさまが俺へのご褒美という名目で三人でデートしていることになっている。


 昨夜の件は、一応カスペール家に襲撃したというくらいでフローラさまに説明した。さすがにあの惨状を詳しく言うわけにもいかないし、カスペールの話でフローラさまのお時間を浪費してもらいたくなかった。


 昨夜の件を詳しく言うのなら、カスペールを真っ二つにした後に囚われていた女性たち以外をすべて殺して必要な書類や物的証拠になりうるものを回収した。死体しかなくなったカスペール家は、俺が≪魔力武装≫をして壊しつくした。その後の囚われていた女性などは、グロヴレさんとラフォンさんが引き受けてくれるそうで、俺はそのまま帰った。フローラさまやブリジットに害を与えた異物を処理できて良かった。


「アユム、私と出かけている途中で何を考えているのかしら?」


 昨夜のことを思い出していると、鋭い視線を俺に向けてフローラさまに胸倉をつかまれて顔を近づけられた。そうだった、今はフローラさまとブリジットとのデート中だから二人に集中しないとお二人に失礼だ。俺はすぐに頭を切り替えた。


「すみません、昨日のことを少しだけ思い出していました」

「昨日? カスペールの件? 重要なことでもあったのかしら?」

「いえ、ありません。それとは別の件です。それはまた別の機会にして、今はお出かけを楽しみましょう」

「・・・・・・それもそうね。せっかくの三人でのお出かけなのだから」


 俺の言葉にフローラさまは納得してくださったようで、俺の胸倉から手を離してくださった、と思いきやフローラさまの唇と俺の唇が重なった。本当に触れるくらいのキスであった。面食らったキスであったが、フローラさまはそんな俺を見て妖艶な笑みを浮かべた。


「あなたは私のよ。私だけを見ていなさい」

「・・・・・・フローラさまのものではなく、本当はランディさまのものですよ」


 そんな不意な攻撃にちょっとだけ反抗した。しかし、俺の言葉をものともしないフローラさまの表情がそこにあった。


「いいえ、私のよ。だって、アユムはもう私しか見えてないもの。それ以上に私のものだと示す必要があるかしら?」


 ぐっ! 本当のことだから何とも言えない。確かに俺はすでにフローラさまのものになったのかもしれないが、それでもランディさまのことも命を賭して守らないといけないし、シャロン家やニコレットさん、ブリジットもその限りだ。


「何も私だけを守れと言っているわけではないわ。私を一番に考えていなさいと言っているのよ。分かった?」

「・・・・・・はい」


 ハァ、もうフローラさまに調教されている気がする。これも惚れた弱みという奴なのか。元の世界ではこんな状況になるとは思ってもみなかったけど、今をものすごく幸せに感じる。こんな時間がいつまでも続いてくれるのなら、俺はどれだけ汚いことでもする。例え、何千、何万の人を殺したとしても、絶対にこの幸せを守って見せる。


「もちろん、ここにいるブリジットも守りなさいよ? たとえ誰が来ようとも」

「ッ! フローラさま⁉」

「おっと」


 フローラさまは近くにいたがどこか遠くを見て我関せずを貫いていたブリジットの腕を引いて俺の前に押し出してこられた。ブリジットは俺の胸の中に納まり、俺とブリジットの目が合った。数時間も見つめ合っているのかと思うくらいに濃密な見つめ合いの末、顔を真っ赤にしたブリジットの方から視線を外してブリジットは俺から離れた。


 ブリジットが自身の過去を話してくれてから、俺はそうでもないのだがブリジットの方がぎこちなくしている。避けられているのではなく、いつも通りに俺と話しをするものの、俺の顔を凝視した後に顔を赤くして視線を外してくる。そんなに赤くするのなら見なければいいのにと思いながらも、嫌われていなくて良かったとも思っている。また避けられるようなことがあれば、俺はもう立ち直れないぞ? それくらいにブリジットのことを大切に思っているのだろうな、俺。


「いつまでそんな恥ずかしそうにしているのよ。ブリジットは自分のことを受け入れてもらえたのでしょう? それならもっと積極的に行けば良いじゃない」

「そ、その、受け入れてもらえたからこそ、ここに来て恥ずかしくなっています。今まで通り接しようとしても、アユムの顔を見ていると、・・・・・・あの時のことが思い浮かんで顔をまともに見れません」


 俺を見ていたブリジットと目が合い、ずっと目を合わせていると目を泳がせて顔を真っ赤にしている。いつもはクールなブリジットであったが、こんな恥ずかしそうにするブリジットは新鮮で可愛く思える。今すぐにでも抱きしめたくなる。


「そんなことを言っていると、ルネお姉さまやニコレットに出し抜かれるわよ。もしかしたらサラもここに来て食い込んでくるかもしれないわ。・・・・・・私の次に一緒に時間を過ごしていたのに、そんなことを言っていると二番を取られるわよ? それでもいいの?」

「よ、良くはありませんが、どうしても顔が赤くなるので・・・・・・」

「それで良いじゃない。それがダメだとは誰も言っていないでしょう?」

「そ、そうでしょうか?」

「疑問に思うのなら聞いてみればいいじゃない、そこにいるのだから。ほら、早く行って聞く」


 俺の近くでそんな会話をしているフローラさまとブリジットだったが、フローラさまがブリジットを押して再び俺の胸の中に納まった。ブリジットは顔を真っ赤にさせながら上目遣いで俺のことを見てくる。


「あ、あの、・・・・・・ダメ、でしょうか?」


 ブリジットが目を潤ませながら聞いてくるが、さっきの会話を聞いていなければ分からない言葉だ。しかし俺は会話を聞いていたから問題なく理解した。・・・・・・これはもうド直球に俺の言葉をぶつければいいんだよな? その方が正解な気がする。


「いいや、ダメではない。むしろ、今までのブリジットとは違った一面が見れて、すごく可愛いぞ」

「・・・・・・ッ⁉」


 俺の素直な言葉にブリジットは何を言っているのか分からないという顔をしていたが、意味を理解した瞬間顔をこれでもかというくらいに真っ赤にして口をパクパクさせている。うん、これで良かったらしいな。本当に可愛いから仕方がない。


「アユム? 何を言っているのかしら?」

「何を・・・・・・? フローラさまの次にすごく可愛いぞ」


 隣でものすごく睨めつけているフローラさまの言っている言葉が分からなかったが、少しして理解して言い直した。危ない危ない。次はフローラさまの機嫌を損なうところだった。こんな楽しい時間でフローラさまの機嫌を損ないたくはない。


「当たり前よ、私が一番よ。だけどブリジットにはその次を譲ってあげる。・・・・・・ブリジット?」

「か、かわいい・・・・・・」


 フローラさまはどこか機嫌よさげであるが、ブリジットと言えばさっきから俺の言葉で顔を真っ赤にしたまま固まっている。これは、普通に言葉攻めにしすぎたか。こういう言葉に慣れていない人に言う言葉ではなかった。いや、この世界での美人な女性たちは聞き慣れていないだろう。何せこの世界は美醜逆転した世界なのだから。


 そう考えれば、いつも感情を表に出さずメイドを真面目に努めているブリジットに〝可愛い〟という言葉は効果抜群だったわけか。だが、可愛いのだから行ってしまったのは仕方がない。


「ブリジット、いつまで固まっているの?」

「・・・・・・かわいい」

「ブリジット!」

「ッ! は、はいッ! どうなされましたか?」

「どうなされましたかじゃないわよ。さっきから呼びかけているのに答えなかったのはあなたでしょ」

「も、申し訳ございません。少し浮かれていました」

「ふぅん、そう。・・・・・・ブリジット、今は幸せ?」


 突然フローラさまが変なことをブリジットに聞いた。どうしてこのタイミングで幸せかどうかを聞いたのだろうか。俺は幸せだけどな。元の世界の時では考えられないくらいの生活をしている。この世界に来た最初は、どうしてこんなにも死に目に合わないといけないのかと何度も思った。だけど、その苦労が最近になって報われてきた気がする。


「はい、とても幸せです。今までにないくらいに、一番幸せです」

「それなら良かったわ。私も今がとても幸せなの。前まで、この世界は残酷で、私に生きてほしくないのかと思っていたわ。けれど、アユムに出会ってすべてが変わった。アユムが私の心に触れてくれて、私の世界は変わった。・・・・・・本当に、幸せだわ」


 フローラさまはそう言ってブリジットを間に挟むように俺に抱き着いてこられた。えっ? これはどういうことでどうなっているんだ?


「この幸せを、一生離したくないわ。・・・・・・何をしても、絶対に」

「フローラさま・・・・・・。私も、そう思います。私たちに厳しい世界でも、これだけは、手放したくないです」


 間に挟まれたブリジットも俺に抱き着いてきて、二重に抱き着かれている状態になっている。これは、何をしたら正解なのだろうか。そもそもこれには正解があるのか? どういうことなんだ? こんなに人目に晒されている中で何かをしないといけないのか? など、これまでにない状況で俺の頭では処理しきれていない。


 とりあえず、二人の抱き着きに応えるべくフローラさまの背中に腕を回そうとした。しかし、その状況に乱入してくる人たちがいた。


「その幸せの輪に、私たちも加えてくださぁい!」

「ちょっ、ルネさま」

「わ、私もですか⁉」


 ルネさまがニコレットさんとサラさんを引っ張ってこちらに走ってこられた。そして、俺の背中にぶつかったと同時にルネさまは俺の背中に抱き着かれた。ニコレットさんもルネさまの行動に乗っかり、俺の右に抱き着いてきた。残りのサラさんはどうしようかとあたふたしていたが、ルネさまの笑顔の圧力により俺の左に抱き着いてきた。


 ・・・・・・何だ、このカオスな状況は。俺とフローラさまとブリジットでデートするはずが、買い物すらしていないのにルネさまとニコレットさんとサラさんが乱入してきた。その上、男一人に女性五人が抱き着いているという図が出来上がっている。


 それがまだ家の中なら良い。ここは街中で、人の通りも少なくない場所だ。そんな場所で目立たないわけがなく、俺たちは注目を浴びてコソコソ話をされている。


 まぁ、でも、こんな日常でも良いか。俺が守りたいもの、それはフローラさまやルネさま、ニコレットさんにブリジット、サラさん、シャロン家の人々だが、それはこの状況を守りたいという思いが根底にあるのだろう。この幸せな状況が永久に続くように、俺は今日も騎士として生き続けている。

最後まで見てくださってありがとうございます。誤字脱字あればご指摘お願いします。

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[良い点] 嫌な相手もいない、闘わない、この回の話とても良かったです。他愛もない日常かもしれませんが、前回までが結構緊張した内容でしたのでホッとできました。 第四章からまた波乱万丈になってくることがわ…
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