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61:騎士と騎士王決定戦・本戦。③

絶対に長くなりそうだったので、良いところまで書いて早めに出すことにしました。

 決勝進出を果たした俺は、元の場所に戻って椅子に座り目を閉じる。決勝戦では、まず間違いなくカスペール家の護衛が勝ち上がってくるだろう。その証拠に、あいつの気配だけは強く感じている。あいつが騎士王決定戦が始まる前と後の短時間でここまでの力を持ったのは、剣のおかげだろう。あの剣が護衛の男の力を底上げているらしい。


 それでも、俺の勝ちは変わりないが、どんなことが起こっても良いように油断はしない。そして次の試合が最後であるから、シャロン家に仕えている執事兼騎士がどれほどのものかをその眼に焼き付けなければならない。今後一生これほどの戦いが見れないくらいの戦いを、この騎士王決定戦の場で。


 そう思いながら、俺は力を安定して引き出せるように瞑想している。≪魔力武装≫をしていく中で、白銀の鎧に侵食しているあの黒い模様。あれはおそらく俺の精神状態を表している。≪魔力武装≫を使うことはそうそうないから、それを照らし合わせて考えると、精神状態しかない。精神が不安定になるほど、あの黒い模様は侵食してくる。漫画ではあれに呑み込まれれば精神がおかしくなるとか鉄板展開だ。


 そうならないように俺は精神を落ち着かせる。心の奥底では大公への怒りを秘めて、表面では冷静を装わないとこの力に呑み込まれるかもしれない。この神器の力を未だに理解していないから、断言できないところが悩ましいところではある。




 精神を落ち着かせていると、この場所に来る一つの足音が聞こえてきた。その音で俺は目を開き立ち上がった。そして闘技場に続く道から来たのは丁寧な話し方をする青髪の女性ただ一人であった。


「時間です。私についてきてください」

「分かりました」


 もう三度目になるやり取りと道のりを経て、俺は闘技場の入場口の前にたどり着いた。向こう側にはカスペールの護衛の男が見える。だが、護衛の男の顔色や顔つきが始まる前と全然違う。光の加減で違って見えるのか? どういうことかは分からないが、どうするもこともできない。今は勝つことだけを考える。


「テンリュウジさん、これに勝てば騎士王です」

「はい、分かっています」

「どれだけの人が何と言おうとも、優勝すればそれは変わりません。絶対に他者の声に屈しないでください」


 女性にそう言われて、俺は一層やる気をみなぎらせる。ここで優勝して、とりあえず大公の奴を鼻で笑ってやろう。お前の目は節穴だな? と。そして高い地位を得てカスペールを見下してやろう。フローラさまやブリジットと一緒に。


「決勝戦を始めます! 西方、カスペール家に仕える騎士、ジョルジュ・ジョリー」


 ラフォンさんの言葉で入場口から護衛の男が黙って闘技場に出てきた。最初は歓声が起こっていたが、護衛の男の姿を見た観客たちが段々と声を小さくしていき、ついには誰も声を上げなくなった。それもそのはずだ。護衛の男の肌の色は真黒になっており、試合が始まる前と比べ物にはならないほどの身体の大きさで、身体の所々から破裂して血が噴き出している。


 何だあの状態は。あれが俺を高圧的な態度を取っていた男なのか? 護衛の男の顔は俺のことしか見えておらず、獲物を狙う獣のような目をして人間のそれではない。・・・・・・手に持っている刀身が黒く、刃に何かの白銀の欠片が埋め込まれている剣のせいだろうな。あれは何だ?


「と、東方、圧倒的な力で騎士王に上り詰める男、アユム・テンリュウジ!」


 ラフォンさんもその異常に動揺しているらしく、動揺した声で俺を呼び出した。俺は護衛の男を警戒しながら闘技場に出てくる。もちろん俺に歓声なんてないが、理由は目の前の男が大半だろうな。それにしても、護衛の男が持っているあの剣についているあの白銀の欠片。言葉では言い表せないそんな感じがする欠片だ。クラウ・ソラスと同じ色だからか? それにしても俺には別物だとは思えない。


「両者、準備は良いな? 決勝戦で悔いの残らぬよう試合を行うように」

「はい」


 ラフォンさんの言葉に、俺は返事をしたが護衛の男は全く動じない。俺の方を見ているだけであった。俺しか視界に入れていない。始まりの合図が言われれば、間違いなく飛び出してくる。今飛び出してこないのが不思議なくらいの状態だ。


「それでは、始めッ!」


 始まりの合図で、今までエサを前に待てされていた獣が良しの合図でエサに食らいつくがごとく、俺に食らいつこうと剣を振るってきた。今までにはないほどの速度で驚いたが、対応できるためクラウ・ソラスで剣を受け止めた。


 早めにこいつに勝とうと次の一手を打とうとしたが、クラウ・ソラスと男が持っている剣が突然光始めた。まるで共鳴をしているかのようであったが、それだと俺がクラウ・ソラスを取り出した時点で光るはずだ。こいつのこれは神器ではないはずだ。それならばどうしてクラウ・ソラスは光っているんだ?


 そんな考えが戦闘中によぎったため、一瞬のスキを生んでしまい護衛の男の蹴りに気が付くのに少しだけ遅れてしまった。しかし、気が付くのが遅くなっただけで対応できないわけではない。その蹴りを片方の腕ではじき、クラウ・ソラスで剣もはじいた。


「がああぁぁぁっ!」


 獣のような雄叫びを上げながら、男はこちらに走ってきた。だが、先ほどとは違い少し動きが速くなっている。まだ上がり切っていない状態なのかと思いながら、男の剣をさばいていく。もはや理性はなく本能で剣を振っているため、剣術などそのようなものは一切ない動きだ。


 しばらく受けて男の実力を大体理解したから、今度は俺から攻撃していく。理解不能な剣があるから、様子を見ながら剣の速度を上げて男に傷をつけていく。男の剣を折るつもりで力を入れているが、全く折れる気がしない。


「がああぁぁぁっ、ああぁっ!」

「ッ⁉ ・・・・・・そういうことか?」


 男が追い付けない速度で動いていたのに、男は段々と俺の速さに合わせてきた。男がわざと速度を落としていたとは考えにくい。そんな思考があるわけがない。俺の不意をつくために獣のふりをしているわけでもないだろう。あんなプライドの塊がするわけがない。


 そして、俺はこの光景を嫌と言うほど自分で体験している。このクラウ・ソラスの≪順応≫スキルで何回も体験している。あの剣がクラウ・ソラスで同系統の能力を持っているのなら、実力を測らずに一撃で決めた方が良い。俺自身がその弱点を理解している。喰らいきれない一撃は順応しきれない。それは相手だろうと同じはずだ。


「≪魔力武装≫ッ!」


 俺は一度男から距離を離し、≪魔力武装≫を使用する。俺の身体から白銀の光が周りに放たれ始め俺の身体に鎧が装着し始める。しかし、俺はその光の中で相手の方から黒い光が俺の光とせめぎあっているのが見えた。俺は嫌な予感がしながらも≪魔力武装≫を完全に発動した。


 光が収まり、俺は白銀を基調とした黒の模様が七割の全身鎧を装着している。・・・・・・そして、相手も俺と同じような全身鎧を纏っている。俺と違う点と言えば、全身が黒だということだ。フォルムも似ているとしか言いようがない鎧であった。


 まず間違いなく男の剣はこのクラウ・ソラスと何か関係している剣だろう。それに・・・・・・、初めて受けた感じだが、このクラウ・ソラスから怒りのような感情が俺の中に伝わってくる。本当に気のせいとも取れるのだが、それで収めれないほどの怒りだ。


「ぎゃぎゃぎゃがああぁっ!」


 黒い鎧を着た男が俺に襲い掛かってきた。俺は早めに終わらせるべく、≪剛力無双≫と≪神速無双≫を限界の四割を引き出した状態で黒い鎧ごと男の胴体を切り裂いた。真っ二つにするつもりで斬ったのだが、斬り込みが甘かったのか内臓までしか到達していない。


 さらなる追い打ちをかけるべく、男の背後に回り込んで男の背中を切り裂こうとした。だが、その攻撃は後ろに目が付いているのかと思うくらい正確に剣で受け止められた。俺はそのまま押し切ろうと、≪剛力無双≫を限界の五割まで引き上げて剣を真っ二つにしようとするも、男が前進したことにより逃がしてしまった。


 下手に≪順応≫される前に決着をつけたかった俺は、前進した男目掛けて飛び出して再び切り裂こうとした。男は気が付いていないのか避ける素振りすらしなかった。俺は遠慮せずに背中を切り裂いた。が、クラウ・ソラスと男の鎧がぶつかった甲高い男が聞こえただけで男の鎧を切り裂くことができなかった。


「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃっ!」


 嘲笑っているかのような声を上げた男が、俺に剣を振り下ろしてきた。俺はそれをクラウ・ソラスで防いだが、先ほどまでの力とは全く違い重かった。俺は体勢を立て直すために、後方に≪神速無双≫を使った状態で下がるが、その速さにもついてきやがった。


 ・・・・・・鬱陶しい。この≪順応≫を真似してきた挙句、俺を上回っていると言わんばかりの下衆な笑い声をあげているこの男が。理性は失われても、俺を見下している本性は変わらないようだ。良いだろう、そんなにも死にたいのなら、今すぐに殺す。体勢を立て直す必要もない。


「≪紅舞の君主≫」


 スキルを発動すると一気に視界に映るすべてが遅くなり、それは相手の男もそうであった。その隙に男の四肢を四度の斬撃で切り裂き、男の首も斬り落とした。


 スキルの効果が切れると俺の中の時間が正常に動き出し、男の四肢と頭はすべて斬られてバラバラに落ちて行った。少しだけ驚いた相手であったが、まだ俺が本気を出す相手ではなかった。いや、本気を出していた方が良かったか。そう言えばフローラさまの言いつけは守れなかったな。それどころではなかった。


 すべてが終わったと思い、≪魔力武装≫を解こうとするが男の気配が未だに消えていないことに気が付いた。俺はすぐに男の方を向き、身体がバラバラになっている男を注意深く見る。男の身体は動こうとしないが、・・・・・・何だ、これは? 今まで男の気配に異常はなかったが、次第に男の気配が変化? いや複数になっている。


 一人の人間が複数の気配を持つなんてありえない。つまり、こいつはいくつもの命を自分の中に内包しているということになる。一体どうしてだ? ・・・・・・人体実験? 剣を扱うための改造? どれでも良いが、決して気分が良いものではない。


 男を注意深く見ていると、急に男のすべての身体が震え始めた。そして斬ったはずの身体がすべて一人手に動き始めて胴体にすべてが合体して元の状態に戻った。手を使わずに立ち上がり俺の方を焦点の合わない目で見てくる。何を考えているのか分からないと思った次の瞬間、男は不気味な笑みを浮かべて笑い始めた。


「けっけっけっけっけっ! あひゃひゃひゃひゃっ!」


 その笑い声は闘技場全体に広がり、その声だけが響いている。誰も何も言うことはできないほどの不気味さがそこにはある。だが、お前はすでに人の領分を踏み外している。これ以上生きていてはいけないだろう。


 強くクラウ・ソラスを握りしめて、男に殺気を当てた。その殺気に気が付いた男はこちらを向いて一直線に走ってきた。俺は対応できるようにスキルを使う準備をした。しかし、それは必要ないことであった。男が走っていると突然男の腕やら足やらから血が噴き出し始めた。腕や足に限らず胴体や頭からも血が噴き出し全身が破裂し始めて身動きが取れない状態になっている。


 それでもなお俺の元に行こうとする男を前に、俺は剣を構えずにスキルを口にした。


「≪一閃・死撃≫」


 スキルが放たれると、男は縦から真っ二つになり、破裂が止まった数秒した後に今度こそ死に絶えているのを確認した。本当にこいつは一体どういうことなのだろうか? クラウ・ソラスと同じ能力を持っており、首を切っても死なず、複数の命を持っていた。この不気味な人間を前に、クラウ・ソラスが何かを伝えに来たのが分かった。


 ・・・・・・白銀の欠片を、取れ? と言っているように感じる。そもそも今更だけどこの剣に意思なんてあるのかよ。意思と言うよりかは本能に近い感じがする。剣からこんなことを送られている時点で異常だけど、分からないものに、ありえないと言えるほど無知ではない。


 俺はクラウ・ソラスの意思のままに、ぐちゃぐちゃな男の身体に近寄った。そして今も禍々しく圧力を放つ剣に埋め込まれている白銀の欠片を手に取った。埋め込まれているから取れないかと思ったが、白銀の欠片はすんなりと取れて、男の剣の禍々しさは消えて行った。


「・・・・・・ッ! しょ、勝者、アユム・テンリュウジ! よって、騎士王決定戦優勝者はアユム・テンリュウジとなり、今年の騎士王に決定します!」


 我に返ったラフォンさんは俺が騎士王となったことを大きな声で宣言した。優勝したから大きな歓声が上がっても良いが、疑惑をかけられている俺であるのと、たぶん相手の男の不気味さに当てられて声を上げれないのだろう。


 何だか締まらない終わり方になってしまった。この終わり方でフローラさまはどう思っているのかと思い、フローラさまの方を向くとフローラさまは満足そうな顔をなされて俺を見ていた。これで満足していただいて良かった。恐怖は相手が勝っていたが、強さはこちらが勝っていたようだ。


 フローラさまや周りにいるルネさま、ニコレットさん、ブリジット、サラさんを順番に見ていると、フローラさまの隣に長い赤髪の女性がいた。・・・・・・あれは、アンジェ王国第一王女、ステファニー殿下だ。それに長い黒髪の女性、リモージュ王国の王女さまじゃないか。殿下と他の国の王女さまがどうしてフローラさまと一緒におられるんだ?


「――ッ⁉」


 呑気にそんなことを考えていると、突然下から力の奔流があふれ出してきた。その力によって地面を揺らして、地震は段々と激しくなっている。それに、揺れが激しくなるにつれて何かが地の底から出てきているのが分かる。そうそうお目に掛かれないほどの力の持ち主が、地上に上がってこようとしている。


 俺はこの緊急事態にすぐフローラさまの元に向かおうとするが、それよりも早く城の方から何かが地上に上がってきた。何かが崩れ去る音、気配の場所から言って城だろう。崩れ去る音と共に空高く飛翔している物体が見えた。


 遠くからでも分かる、人間の数十倍以上の深紅の巨体に、二本の巨大な角、羽ばたき一つで村を壊滅できるのか思わせる翼、そして全身傷だらけのドラゴンがそこにいた。ドラゴンは地上に出てきたと言わんばかりに大きな雄たけびを上げた。その大きさは少し離れているここでも身体中に響き渡るほどであり、戦闘能力が低いものは気を失っている。


 あんな化け物級のドラゴンが、下にずっといたと言うのか? この国の下にか? 全く気が付かなかった。あんなものが暴れれば、この国は一瞬で壊滅するぞ。だが、あの化け物がどうしてこのタイミングで地上に出てきたんだ? 何か目的があるのか?


「ッ⁉ くそがっ」


 できれば当たりたくないドラゴンが、この守護の闘技場目がけて降下し始めた。それを見た観客たちがようやく状況が分かったようで、逃げまどい始めた。これは俺も覚悟を決めて本気を出さないとダメか?

最後まで見てくださってありがとうございます。誤字脱字あればご指摘お願いします。

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[良い点] アユム無双には変わりなかったのかもしれませんが、 決勝戦の相手のカスペール家に仕える騎士 ジョルジュ・ジョリーの不気味さと、神器に 操られていると感じる謎が多く残って 物語に謎の要素も増え…
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