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06:騎士と学園。

今日はちゃんと投稿できました! でも、何だか限界を超えてきているような。

 ハーフアップの女性ことサラ・エントーヴェンさんをフローラさまの馬車に乗り込ませ、馬車が出発して数十分。俺の前にエントーヴェンさんがおり、俺の隣にフローラさま、フローラさまの前にスアレムがいる座席だが、少しの会話もないまま、馬車が進んでいた。馬車の中では重苦しい雰囲気が漂っている、主にエントーヴェンさんから。フローラさまとスアレムはいつも通りの雰囲気で、俺もエントーヴェンさんを気にしながらも雰囲気で悟られないようにしている。


「エントーヴェン家はどうして没落したの?」


 ・・・・・・このお嬢さま、普通に聞いちゃったよ! そうだよね、会話の糸口にするには格好の餌食だけど、それを話題にするにはためらわれるんだよね。お嬢さまはどうでもいい人には適当にするからな。よく言えば正直、悪く言えば不躾と言える。


「ありきたりな理由です。様々な災害により莫大な損失を被るなどで家が貴族として存続できなくなったのです。そんな没落貴族から成り上がるために、父は私に位が高い貴族を落としてきなさいと言ってきたのです。・・・・・・貴族の家として当たり前の話だと思いますが、私にはひどい父親としか思えません」


 お、重い。没落しているだけで重い話なのに、その上で父親から結婚相手を探して来いとか言ってくる始末か。それを本人が承認しているのならいいけれど、完全に本人の意思を尊重せずに意見を押し通したな。でも、エントーヴェンさんは美人でいっぱい言い寄ってきそうな――


「ふぅん、それは大変。私だったらプライドをかける価値もない堕落した家のために自分の身を捧げる気なんて毛頭ないわ。それにあなたは私と同じで不細工だから、高位な貴族に相手にされなさそうね」


 そうだ、ここは美醜逆転世界だった。屋敷から抜け出したからと言っても、美醜逆転世界は戻らないんだったな。本当にもったいない、エントーヴェンさんみたいな美人が不細工呼ばわりされるなんて。


「・・・・・・そうですね、私は不細工なのに父はひどいことを言ってきます。不細工が相手にされないことは分かり切っていることなのに」


 たぶん、フローラさまには劣るがエントーヴェンさんの大きな胸や、大きなお尻などのスタイルの良さで言っていたんだろうな。さっきエントーヴェンさんを抱えた時にその身体を堪能してしまった。決してわざとではない。


「不可能と分かり切っていることなら、言いなりになるのではなく何かすれば良いでしょう? 一番手っ取り早い方法は家を捨てることね」

「それは、できません。お恥ずかしい話、自業自得を自分の娘に押し付けるようなダメな父親ですけど、見捨てる勇気がありません。馬鹿ですよね、私。父親の言いなりにしかなっていないんですから」


 エントーヴェンさんは悲しそうな笑顔をしている。そんな笑顔を見せられた俺は、我慢できずにエントーヴェンさんに話しかける。


「エントーヴェンさんは馬鹿ではありませんよ。見捨てる勇気がないのかもしれませんが、あなたには見捨てない優しさを持っています。その道は決して楽な道ではありませんが、見捨てる勇気よりも価値のあるものだと思います。だから、そんなに卑下しないでください」

「・・・・・・そ、そんなことを言われたのは初めてです。そ、その、勇気づけられました」


 俺がエントーヴェンさんに向かってそう言うと、彼女は恥ずかしそうな顔をして指で髪をいじり始めた。俺にしては良いことを言ったなと思っていると、目だけぶち切れているフローラさまから馬車が揺れるほどの蹴りが俺の足に放たれた。痛くはないが、理不尽を感じている。何故俺は蹴られないといけないのだろうか。


「あ、あの、あなたのお名前を聞いてもよろしいですか?」

「自分ですか? 自分はアユム・テンリュウジです。フローラさまの騎士をやっております」

「アユムさん、ですね。・・・・・・私のことはエントーヴェンではなく、サラとお呼びしてくれませんか? そちらの方が呼びやすいと思いますので」

「はぁ、エントーヴェンさんがよろしいのなら、サラさんと呼ばせていただきます」

「はい、それでお願いします。アユムさん」


 ・・・何か、普通に女の子と会話している気がする。いや、今までがおかしかったんだろうな。これが普通なのだろう。うん、そう。普通ではないのは、隣で修羅のごとく血相をしているフローラさまなのだろうな。決して否定しているのではなく、ただ怖いなと思っているだけ。


「エントーヴェンさん? これは私の騎士なの。勝手に変なちょっかいをかけないでくれるかしら?」


 修羅のごとく血相はどこにやら、すがすがしい顔で僕の腕に抱き着いてサラさんに注意しているフローラさま。・・・・・・えっ⁉ あの修羅の血相はどこに行ったんだ⁉ すぐに元に戻せるとはすごいな。


「べ、別にちょっかいをかけているつもりは、ないです」

「ふぅん、そう、それなら良いの。私はてっきり命を助けられて、真摯な対応をされたアユムに惚れたと思っていたけれど、杞憂で良かったわ」


 俺に惚れる? 馬鹿な、そんなことはあり得ないだろう。助けて言いたいことを言っただけで惚れられるなら俺はどれだけの女性を落とせるのだろうか。サラさんもすぐに反論してくれると思ったが、反論の言葉は言い出されることはなかった。サラさんの方を見ると、顔を少し赤くしていた。サラさんを見ていた俺と俺を見たサラさんの目が合い、サラさんはすぐに目をそらした。


 これはどちらだ。フローラさまが言っていたことが図星で恥ずかしいのか、こいつに惚れているとか思われているとかマジで勘弁なのか。後者なら精神的に死ぬな。前者でもこっちまで恥ずかしくなるわ。


「アユム? あなたは私が言ったことを忘れたのかしら? あなたの記憶力は魔物並みなの?」

「あの、フローラさま? 腕が変な方向に行きそうなのですが」

「答えなさい! 私が言ったことを忘れたのかしら?」


 修羅のごとく血相ではなくなったことに安堵していたら、そんなことは決してなく、俺の腕をへし折ろうとしながら怒り狂っているように見える。ここで変なことを言ったら完全に腕を折られるな。


「『今からは私の騎士であるのだから、勝手な行動は許さない』です」

「分かっているのなら勝手な行動は慎みなさい。あなたは自身がどれほどの人間か理解していないのよ」

「・・・大した人間ではないと思います」

「大した人間よ。男性が少なくなっている今、男性は希少になってきている。それも普通の顔と来れば狙わない女はいないのよ。だから不用意に女性に近づくなと言っているの」

「承知しました」


 俺が希少な存在なのはよく分かったから、今にも悲鳴を上げそうになっている腕を解放してあげるために即答する。俺がこんなに重宝される日が来るとは思ってもみなかった。元の世界だったら、普通として普通に生きていくだけだった。・・・・・・いや、それが普通なのだろう。この世界の普通も向こうの普通と同じにすべきだろう。こんな世界は間違っている。


「と言うわけだから、アユムのことはあきらめてね、エントーヴェンさん」


 フローラさまが勝ち誇った顔をしてサラさんを挑発しているように見える。だけど、それを見たサラさんが少しむっとした表情をして反論した。


「アユムくんが望めば、私はいつでも大丈夫です。最終的にはアユムくんの意思を尊重させてくださいね。そうでないと、それはただの道具と変わりありませんから」

「それで構わないわ。だって、アユムは私を必ず選ぶのだから」


 何やら二人の間で言い争いとは言い難いが、雰囲気で勝負している感じがする。ハァ、王都まであと四日間をこのメンツで過ごすのは大丈夫なのだろうか。不安しかない。仲良くしろとは言わないが、適当に流す仲になってほしい。そう、俺が被害を受けない程度に。




 長く感じていた馬車の旅は終わりを迎え、大きな城壁に囲まれている王都にたどり着いた。本当に良かった。この四日間は本当にひどいものだった。サラさんが無意識にちょっかいをかけてきたのを見たフローラさまからお仕置きされるし、面白半分でスアレムがちょっかいかけてきてまたお仕置き。少しは手加減してほしいものだ。俺じゃなければキレて襲われるところだぞ。


 そんな踏んだり蹴ったりであったが、そんな中で俺は三人の身体を堪能したから良しとしよう。これは痛みの対価であって、俺が望んだことではない。


「起きてください、フローラさま。それにサラさんにスアレムも起きてください。王都に到着しましたよ」


 寝ていた三人を起こして馬車から降りる。馬車の使用人は、俺の死者の軍勢の一体を付かせて安全に帰ってもらう。あの人も苦労を分かち合った数少ない同志。フローラさまの理不尽に二人で耐えてきたと言っても過言ではない。帰ったら名前くらいは聞いておこうかな。


「ここが、王都。・・・・・・大きいですね」

「そうですね。さすが王を守る城壁と言ったところでしょう」


 サラさんと自分は王都の大きさに圧倒されたが、フローラさまとスアレムは何度か見たことがあるような態度であった。そんな田舎者みたいな表情をしながら、俺たちは王都にある基本的に貴族が通うタランス学園に足を運ぶ。


 学園に向かう道中、改めて男が少ないことを実感させられた。道行く人々の大半が女性であり、全員が美人であった。その中で男性がちらほらいるものの、この多くの人の数の中では少なすぎると言っても良い。人が集まる王都なのだから、この現状がこの世界の人口比率と考えてもいいのだろうか。


 それよりも、道行く人々は全員が俺とすれ違う時に俺の方を見てくる。俺の顔に何かついているのかと思ってスアレムに確認するが何もついておらず、どうしてかと考えたが、すぐに答えを思い出した。四日前にフローラさまが言っていたな、俺の顔は普通だから狙われるのだと。この美醜逆転世界で普通の男でも希少なそうだ。


 こんなにも注目されると恥ずかしくてならない。だって、美人がこちらを見ているのだぞ、獣の目をした美人な女性たちが。ギラギラとした視線であっても、大衆の面前で注目されるなど慣れていない俺には恥ずかしさしかない。


「アユム、もっと堂々と歩いていなさい。そんな恐縮した歩き方だと下に見られるわよ」

「・・・承知しました」


 フローラさまに渇を入れられたことで、見てくれだけでも歩き方をいつものように堂々とした歩き方にする。何事も形からだと言うし、何だか少しだけ恥ずかしさがなくなった感じがする。恥ずかしいのは変わりないけれども。


 王都の中でも一、二を争う大きさであろう貴族の子が通うタランス学園の前へとたどり着いた。何個も大きな建物が存在しており、生徒がいっぱいいると言うよりかは色々な施設が完備されていると見た。ランベールさまに聞いたが、タランス学園は王都が一番金を使っているところで、生徒の学園への要望はほぼ聞いてくれるらしい。まぁ、貴族が通う学園なのだから、生徒自身でできる気もする。


 タランス学園に入る際に、身分確認をされ、フローラさまとサラさんは無事に通ることができ、俺とスアレムもフローラさまのお付として確認できたらしくこちらも無事に通ることができた。身分確認された後に各自の部屋がどこかを説明された。・・・・・・使用人は同じ部屋なのか。


「荷物を置きに行きましょう。学園の位置の把握はその後でも大丈夫そうね」


 フローラさまの発言に反論する者はおらず、学び舎の他の建物である寮があり、そこに俺たちの部屋が用意されている。学び舎から少し離れた位置にある寮へとたどり着き、中へと入る。最上階である四階に上がる。どういう偶然か、フローラさまとサラさんの部屋は隣同士であった。どんな偶然だろうか。


「少し待ちなさい。あなたたちの部屋はどこにあるの?」

「自分たちの部屋はフローラさまの部屋のお向かいにあるこちらの部屋となっております」

「自分〝たち〟? 聞き間違いじゃないわよね?」

「はい、そうです。自分とスアレムは同じ部屋になっております」


 学園には生徒一人一人の部屋が用意されており、使用人にも部屋が用意されている。だが、使用人は原則一人のため、二人目の申請があった場合でも部屋を二つ用意されない。俺とスアレムは学園にいる間、同じ部屋で暮らさなければならないわけだ。


「そうですよ、お嬢さま。少しだけお嬢さまには悪いと思っていますが、仕方がないことです。これは学園が決めたことなのです。ベッドも一つしかありませんから、同じベッドで寝るしかありません。一夜の過ちが起こったとしても、誰にも責められません。男と女なのですから」


 スアレムがまたお嬢さまを挑発するという余計な真似をしたおかげで、お嬢さまの周りの気温が氷点下に入った感じがする。そしてお嬢さまは俺の腕をつかんできた。


「アユムは私の部屋で寝るから安心しなさい。ブリジットは一人で寝ると良いわ」

「そうはいきません。これが学園側が決めたことなのですから。それにお嬢さまが嫌々されることをお嬢さまに強いるわけにはいきません」

「嫌々していると誰が言ったのかしら? そもそも騎士が主の元で寝ることは、何ら不思議なことではないでしょう。だから私の部屋で寝るわ」

「私の方が我儘なお嬢さまに付き合わされる心配がないですので、こちらの方がアユムのためです」

「あなたは変な本をアユムに読ませる気でしょう。それなら私の方が良いでしょう。それにわがままお嬢さまと言ったことを後で覚えておきなさいよ」


 張本人を抜きにして、二人の言い争いが続いていく。途中でサラさんが介入しようとしていたが、一蹴されて終わった。俺としては何の気を使わなくていいスアレムの方が良いが、それだと後々フローラさまに何か言われそうで怖い。まぁ、俺の意見は求められていないんだけど。


 結局、俺はこの場で絶対的な強者であるフローラさまの部屋で寝ることとなり、学園探索に向かうこととなった。

最後まで見てくださってありがとうございます。誤字脱字あればご指摘お願いします。

評価・感想はいつでも待ってます。よければお願いします。

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