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57:騎士と騎士王決定戦・予選。 ③

これ、のんきに書いていたら、二十話で終わらないことに気が付きました。予選までで十七話? ちょっと一話ごとに長くなるかもしれません。

 走り続けること数分で、キング・ワームが目と鼻の先の場所まで来た。他の参加者、と言っても残りは俺とさっきの王女さまを含めて四人しかおらず、残りの二人がキング・ワームの元にいる。だけど、一向にこちらに戻ってくる様子はない。まだ交戦中なのだろう。


「女の子を置いていくことはないと思うよ?」


 そして、目的が一緒だから俺と同じ方向に来るのは当たり前だが、こいつは絶対に俺に用があってここに来ているだろう。結構な速さで走ってきたのに、追いついてくる辺り強さを伺える。本当に一国の王女さまなのかと疑問に思う。


「おーい、聞こえてる?」

「・・・・・・聞こえている」


 無視するのが楽だと思い、女性が話しかけていたが少しの間無視していたら、俺の耳元に顔を近づかせてきて話しかけてきた。さすがにここまでされると無視するわけにはいかず、俺は渋々返事をした。しかし、女性は顔を離してはくれなかった。


「いくらうざいからって、無視することはないよね?」

「うざいと自覚しているのならやめてほしいところだ。それよりも、何か用があるのか?」

「うん、そうだよ。君に少し聞きたいことがあってついてきたんだよ」

「それは今じゃないといけないのか? 今は大会中だから、後にしてほしいところなんだが」


 ここに参加している以上、基本的にここで誰が死んでも文句はないだろう。だが、この王女さまなら話は別だ。こいつがここで死んだとなれば、国同士の争いの火種になるかもしれない。なんせ王女さまなのだから。参加する上で死を覚悟しているだろうが、何かしらの火種にはなるかもしれない。


 何が言いたいかと言えば、邪魔をしてきたこいつをここで大けがをさせようものなら、またしても何か波紋を呼ぶかもしれない。厄介な話だ。こんなところに来るなという話だ。


「今じゃないとダメ。ここから出たら絶対に連れ戻されるんだから、今が自由に話せる唯一の機会なんだ」

「連れ戻される? 内緒でここに来たのか?」

「そうだよ。いくら大丈夫だと言っても、お父さんが反対してたから秘密で来ちゃった」

「それはそうだろう。生を保障されていないところに王女さまを送り出せるはずがない」

「王女さま? 何を言っているの、私は王女さまじゃないよ? 私はお父さんが私の生き様を認めてくれない娘だよ。王女さまなんてとんでもない」


 こいつ、いつまでそうやって王女さまじゃないと貫き通すのだろうか。さっき追われていた理由がそれなのだから、言い訳できるわけがないだろう。連れ戻されて、唯一話せる機会があるのは王女さまくらいしかいないだろう。まぁ、王女さまじゃないと言うのなら、俺も適当に対応しても良いわけだ。


「それなら用件を早く言え。時間が惜しい」

「それじゃあ手短に質問するね。君は異世界から来た人なの?」


 王女さまが言った言葉に、そこまで驚くことはしなかった。その一つにクラウ・ソラスを見せたことだ。見る人が見れば俺が異世界人だということが分かってしまうから、覚悟していた。あとの一つは、あの最初に聞いた京言葉にある。あれは元の世界の人間が教えたから、異世界人の存在を知っている可能性が高かったから、この女性から異世界という言葉が出ることに驚きはない。


「何を訳の分からないことを言っているんだ? 俺はただの騎士兼執事だ」


 知っているからと言っても、俺は素直に答えるつもりはない。もしかしたらカマをかけているかもしれないし、何やら嫌な予感しかしてこない。あちらも王女さまと言うことを認めないのなら、こちらも認めないようにしよう。こんな面倒なところに来た腹いせだ。


「へぇ? そうなんだ。クラウ・ソラスを持っているのに?」

「クラウ・ソラスを持っているだけで疑われるのは心外だ。どこかで手に入れたということはないのか?」

「それはないよ。知らないようだから言うけど、ジュワユーズ、クラウ・ソラス、キム・クイ、ガンバンテイン、ドラウプニルの五つの神器は、異世界から来た人たちが持ち主になる。それは今でも例外なく行われるらしいよ。五つの神器が出現している時は異世界人が呼ばれてて、神器はそれ以外の人間を主とは認めない。持ち主を殺してでも無理やり奪おうとしようものなら、神器は誰もたどり着けない空間に戻って行くんだって。だから、その神器を持っている人は異世界人だと分かるんだよ」


 ・・・・・・へぇ、そうなのか。五つの神器は他の神器とは少し違うのか。俺はそこら辺の事情を知らなくてこちらに来て生活をしていたから、知る由もなかった。そもそも知る必要性もなかったと言うべきか。それ以前に他の神器の名前を初めて聞いた。


「それを知っているのなら俺に聞く必要はなかっただろう。これで終わりか? 俺はもう行くぞ」

「ううん、ここからが本題だよ。何を行こうとしているの?」


 良い感じで先に進もうと思ったのに、そうはいかないらしく王女さまに捕まってしまった。俺が異世界人だということを分かって、何を知りたいというんだ?


「マヤ・ミキ、チナ・サエキ、ユズキ・マエノ、リサ・マエノ、コウスケ・イナダの五人の名前に聞き覚えはない?」

「ッ!」


 さすがにその言葉を聞いて動揺してしまった。こちらの世界に来てからその名前を誰かから聞くことがなかったのに、またしてもその名前を聞いてしまった。・・・・・・忘れようにも、忘れることができないやつらの名前だ。


 俺はその名前を聞いた瞬間に、先に進み始める。そいつら関連の話だというのなら、俺はこいつと話すつもりはない。もう金輪際あいつらとは関わる気がないのだから、もう俺のことを放っておいてほしい。あいつらに今の幸せを壊されそうで怖い。


「話は終わってないよ?」

「そいつらについての話なら、俺から何か言うつもりはない。これでこの話は終わりだ」

「君が良くても私や、マヤたちが良くないよ。マヤたちの名前を知っているということは、もしかしなくても君がアユムくん?」


 ・・・・・・やっぱり、あいつらと面識がある人間だったか。異世界の人間と接触したことがあるのは分かったが、それが三木たちだとは思わなかった。最初から知っていればこいつと話すことはなかった。そもそも王女さまと仲が良いと言うことだよな? そうじゃないと俺のことを話さないだろう。


「俺はもうそいつらと関わりたくないんだ。あちらの世界でようやく離れることができ、こちらの世界で守るべきものを見つけた。その幸せを崩されたくないんだよ」

「マヤたちがアユムくんの幸せを崩すと言っているの?」

「そう言っているんだ。あいつらは俺の幸せなど何も考えていない。俺の友達だった人たちを踏みにじったようにな。あいつらは俺の苦しむ姿しか見たくないんだ」

「待って、そんなことがあるはずないよ。マヤたちはアユムくんのことを第一に考えているはず。だって、アユムくんのことを話している四人は、嬉しそうな顔をしているんだもの」

「それは、俺をおもちゃとしか考えていないからじゃないのか? 嬉しそうじゃなくて、嘲笑っているだけじゃないのか? あいつらから受けたことを、俺は一つも良いと思ったことはない」


 ようやく、あいつらのことを忘れて前に進めると思ったのに、こいつが過去を思い出したことで暗い気持ちになる。大会に差し支えありそうだけど、あいつらよりも先に大公の方が先だ。それだけはハッキリとしているのだから大丈夫だろう。


「・・・・・・一度、五人で話し合わない?」


 王女さまは少し考えた後、俺にとんでもないことを提案してきた。俺がそんなことを受けるはずがないし、あいつらと会うことも決してない。


「断る。言っただろう、俺はあいつらと関わりたくない。だから会わないし話し合うこともない」

「それだと前に進めない。両方の話を聞く限り、たぶんお互いに認識に差が生じていると思う。その認識を合わせないと関係は一切良くはならないよ」

「俺は良くしたいとは思わない。あいつらとの関係は前の世界で終わっているんだ」

「君が良くても、私やマヤたちが良くない。何より、五人には仲良くとはいかなくても、関係の改善をしてもらわないと困る問題も発生するからね」

「問題?」

「君たち五人・・・・・・、いや、六人かな。まぁ良いか。異世界から呼び出された神器の所有者は、人類を脅かす魔王を倒すために呼び出されたんだよ。神器の所有者は他にいるけれど、クラウ・ソラスを含めた五つの神器は相性が良く、魔王を倒すために五人でパーティーを組むことになっている。君がマヤたちとの関係を改善してくれないと、魔王を倒す術がなくなっちゃうの。現に、魔王討伐が一回失敗しているから」


 俺が呼び出された理由が、魔王討伐のためだったのか。・・・・・・まぁ、俺にとってはそんなことなど、どうでもいいことだ。俺が魔王討伐を受ける義理もないからな。


「どうでもいい」

「・・・・・・どうでもいいって、魔王討伐がどうでもいいってこと?」

「そうだ。俺にとっては魔王討伐などどうでもいい話だ」

「呼び出された理由が魔王討伐なのに?」

「魔王討伐を了承したことは一切ないし、勝手にそちらが呼び出しただけだ。俺が受ける義理も義務もない」

「それだと、世界が終わるかもしれないんだよ? 君が仕えている主にも被害が及ぶかもしれないのに、そう言っていられる?」

「その時は俺がすべて叩き潰す。それだけのことだ。そのために俺は力を振るう。間違っても、世界を救うために力を振るうつもりはない」

「一人でできると思っているの? 神器所有者が五人集まっても魔王討伐は失敗したんだよ? それを一人でできるとでも?」

「できるようにする。そのためにこの剣があり、≪順応≫のスキルがある。騎士として、死力を尽くして守りたいものを守り切る。それだけのことだ」

「・・・・・・ふぅん、随分と自信があるようだけど、本当に強いのかな?」

「それをお前に示す必要はない。ただ、あいつらと関わらなければ、それでいい」


 そう言って、俺はキング・ワームの元へと向かう。後ろから王女さまが付いてくるのが分かるが、今はそんなことどうでも良い。今の俺は大公の地位を失墜させるために、〝マジェスティ・ロードパラディン〟を目指すただの騎士だ。


 そして、キング・ワームがいるであろう開けた場所へと入った瞬間に、緑色の変な模様の壁が目に入ってきた。壁だと錯覚していたのは一瞬で、視野を広く持つことでこの壁の正体を理解した。緑の壁だと思ったものは、人間の十倍以上ある大きさの緑色の芋虫であった。真上を見ないと奴の顔が見えないとはな。こんなところでこんな大きな芋虫に出会うとは思わなかった。


 緑の芋虫が、キング・ワームだろう。キングと言っても差し支えない。だが、こんな大きな奴から毒液や溶解液、猛毒のガスが出てくるとなれば、厄介極まりない。俺が想像していたキング・ワームの大きさとは全く違った。俺一人なら楽勝だが、フローラさまがいたら対処に困る相手だ。


「わお、デカいね」


 俺の後ろに遅れてきた王女さまがキング・ワームの姿を見て他人事のようなコメントをした。王女さまは戦う気がないのだろうか? まぁ、こいつは俺がやるから手を出されると逆にやりずらい。


 ふと参加者二人の気配があるもののどこにも物音一つ立てないことに気が付いて、周りをチラリとみると、全身鎧を着ている男かと思った女性は、鎧が溶かされて足の骨が折れているのか立てずにいて、筋肉がムキムキの大女は糸で何重にも縛られて身動きが取れなくなっている。


 鎧を溶かされている原因は、こいつの溶解液だろう。この空間にキング・ワーム以外のモンスターの気配はない。キング・ワーム以外いないのなら、糸もキング・ワームが出したことになる。そもそも、こいつはこんなに身体が大きいのに、どうして糸で縛り付けるという芸当ができるのだろうか。


「ッ、来るか」


 キング・ワームがこちらに気が付き、俺と王女さまの方を向いた。そして、キング・ワームは口を膨らませて初手で俺たちに口から液体を吐き出してきた。とりあえず喰らっても良いことはないから、横に飛びながらその液体を避けた。王女さまの同じように俺と同じ方向に飛びのく。


 液体は地面に到達すると同時に地面を溶かし出し、液体が沈んで行っている。溶解液なのはわかるが、俺が知っている溶解液とは全く違う。威力が強烈すぎる。さすがキングと名が付くほどはある。この状態で喰らえば、多少ダメージが入りそうだ。


「うわぁ、すごい溶解液だね」

「お前はいつまで俺の後ろにいるつもりだ」


 さっきからずっと俺の背後に立っている王女さまに、さすがにうざいと思った。言わないとずっと居られそうで怖いんだが。


「あれを倒すつもりなの? 倒さなくても、後ろにある卵を取ればいいんだよね?」

「卵を取りたければ、俺がキング・ワームと戦っている間、好きに取ればいい」


 ようやく俺の横に立ってくれた王女さまにそう問われた。キング・ワームの後ろに見える卵は、人間の全長ほどある大きさであった。確かに卵を取ればいい話だが、俺に逃げるという選択肢は最初からない。俺は最初からこいつを倒すつもりでここにいるんだから、卵を取って逃げるという選択肢を提示されても食いつくつもりはない。


「そうじゃなくて、Aランクモンスターを一人で相手にするつもり?」

「そうだと言ったらどうするんだ?」

「命知らずも良いところだよ。Aランクモンスター、ましてやSランクモンスターにも匹敵するモンスターを一人で相手にするとか、正気じゃないよ」

「こんなモンスターに勝てないような奴が、主を守れるはずがないだろう」


 俺はそう言って前へと出る。大きくて溶解液などを出してくる相手であっても、≪魔力武装≫をするほどの相手ではないか。≪剛力無双≫と≪神速無双≫、≪強靭無双≫の三つを限界まで開放する。いつもは剛力と神速の二つであるが、デカい相手にはこうして使うことがある。他には、潜在能力が未知数の相手とかには特に使う。


「・・・・・・やるのなら、私もやるから。ここで無謀な神器の所有者を死なせるわけにはいかないから」

「いや、俺が一人でする。お前は手を出すな」

「だからぁ、無謀だって言っているでしょ? 本当に死にたいの? そこまで意地を張らなくていいと思うけど?」

「俺の実力を見てから、無謀かどうかを言えばいい」

「そんなことを言っていたら、君が死んでしまうから言っているの。先に言っているよ!」


 王女さまはそう言ってキング・ワームに向かっていく。くそっ、大丈夫だと言っているのにどうしても俺が勝てないと思いたいらしいな。俺的には、王女さまが死ぬ光景しか浮かばない。俺は王女さまを死なせないために走り出す。


「≪剣王・出陣≫!」


 走っている王女さまがそう口にすると、王女さまの背後に上半身だけのキング・ワームにも匹敵する大きな人型の何かが二つの剣を持って出現した。幻覚、かと思ったが半分幻覚で半分本物の代物だと分かった。霊体か何かの類なのだろうか。


「≪剣王・初撃≫!」


 剣王と呼ばれているその何かが、王女さまが剣を振る動きに合わせて、キング・ワームめがけて剣を同じように振った。キング・ワームはその攻撃を避けられるはずもなく、もろに喰らった。剣が入ったことで、緑色の液体が身体から出てきている。だが、剣王の剣の入りが浅く、それだけでは終わらなかった。


 キング・ワームは斬られている状態で、王女さまめがけて溶解液を吐き出した。王女さまはそれを分かっていたようで、避けるのではなくその場に留まって対処するようであった。


「≪裂空≫!」


 俺も覚えている≪裂空≫を使い、王女さまは自身に降りかかる溶解液を吹き飛ばした。王女さまにはかかっていないが、王女さまの周りに溶解液がかかって周りの地面が溶けている。キング・ワームにそんな知能があるとは思えないが、もしかすると狙っているかもしれないと思った。


「剣王・いっ――」


 王女さまが次の攻撃をキング・ワームに仕掛けようとしたところ、攻撃の動作に入った王女さまを狙ってかキング・ワームが身体中からガスを噴出させた。何かは分からないが、毒ガスの可能性が高かったから王女さまの元に走った。王女さまは攻撃の動作に入ったばかりでその毒ガスを避けれるか分からない状態だ。


 王女さまは攻撃を中止して後ろに飛びのこうとするが、さっきの溶解液で体勢を崩してしまう。その間にも毒ガスが目の前まで来ている。俺は、ありったけの魔力を使って防御をしようとしている王女さまの腹に腕を回してその場から離脱する。そして毒ガスの脅威から逃れることができた。


「大丈夫か?」

「・・・・・・ありがとう」


 意外にも王女さまが素直に俺に感謝を述べてきた。それよりも、さっきの王女さまの一撃で分かったが、この人ではキング・ワームを倒せない。潜在能力を探っても、勝てる要素がどこにもない。キング・ワームの強度もそうだが、王女さまの力が足りない。


「今度は俺が行く。お前はここで見ておけ」

「だから、それは危険だって――」

「俺に助けられた人間に言われたくないな。ともかく、俺を神器の所有者と知っているのなら、そこで見ておけばいい」


 さすがに王女さまにこれ以上時間をかけられない。それに、キング・ワームも待ってくれない。俺は王女さまを置いてキング・ワームの元に向かう。


「ちょっと待って! ≪魔力武装≫をしていかないの⁉」


 こいつ、≪魔力武装≫のことを知っているのか? ・・・・・・勇者・騎士として備わっているスキルなのかもしれない。さっきの王女さまが使っていた≪剣王≫みたいに。


「使う必要はない。これだけで十分だ」

「そ、そんな無謀――」


 一々突っかかってくる王女さまは放っておいて、俺はキング・ワームの前に出た。キング・ワームは王女さまから俺へと狙いを定めたようで、俺にもう一回溶解液を吐き出して来ようとした。だが、俺はその前にクラウ・ソラスを構えた。


「≪裂空・剛≫ッ!」


 良く斬れる斬撃が溶解液を吐き出そうとしているキング・ワームに当たり、縦に深く斬り込まれて緑色の体液が噴き出している。やはり、≪魔力武装≫をするまでもないか。これくらいで戦闘能力が低下している相手に見せるものでもない。


 だが、それで終わらないとばかりに毒ガスを身体中から噴出させると同時にキング・ワームの尾から糸が出てきた。その糸はただ放出されるのではなく、キング・ワームの尾と未だに繋がっており糸が自在に動いている。だからあの大女の人が縛られているのか。


 糸に気を引いていると、毒ガスを喰らってしまう算段なのだろうが、俺にはまだ届かない。もうこの一撃終わらせる。


「≪一閃・死撃≫」


 構えた状態で放つ≪一閃≫と≪剛力無双≫が合わさった技で、キング・ワームの身体は真っ二つになる。残った毒ガスについては≪裂空・広≫で壁際に押し付けて霧散していった。どこかに風の通り道があるのだろうか。こちらとしてはありがたい話だ。


 俺は後ろにあるキング・ワームの大きな卵を抱える。こんな卵は正直持ちたくないが、大会のためなら仕方がないと腹をくくるしかない。これからあの大きなキング・ワームが出てくると思うと、ゾッとするしこの状態で潰しておきたいとも思う。


「・・・・・・君って、本当に強いんだね」

「何を今更。最初から言っているだろう」


 双剣をしまったであろう王女さまがこちらに来て当たり前のことを言ってくる。俺を生ぬるい場所にいた奴らと一緒にされるのは心外だ。この世界に来てから訳も分からず何度も死にかけたんだ。それは強くもなる。


「ねぇ、マヤたちと一緒に――」

「何度も言わせるな。俺はあいつらと関わるつもりはない」

「その強さがあれば、魔王を倒すことができる可能性が高くなると思うけどなぁ」

「あいつらが頑張ればいい話だ。どうせ、あいつらはこの世界を救うことを約束してしまったんだろう?」

「うん、そうだね。異世界に来て最初に説明されたらしいよ。それで世界を救う勇者となったらしいね」

「それなら俺の力じゃなくて、あいつらの力を底上げすればいい。自分たちのできないことを引き受けたことが運の尽きだ。自業自得とも言う」


 それでも納得してくれなさそうな王女さまであったが、それを遮るかのようにこの空間に複数の気配が来ていることが分かった。そして、その気配はラフォンさんたち実行役の人たちであった。ここでの戦闘が終わったから見に来たのだろう。


「無事か? アユム」

「もちろん、無事ですよ」


 ラフォンさんがこの場所に来ると俺に一目散に話しかけてきた。一応大会中なのだろうに、俺に私的に話しかけて良いのだろうかと疑問に思う。


「それにしても、本当にキング・ワームを簡単に倒すとは思わなかったぞ。私の弟子なだけはある」

「そうですか? 自分は勝ちしか見ていませんでしたよ」

「まさかAランクモンスターを瞬く間に倒すとは誰も思わないだろう。さすが、ニース王国の兵を一人で退けただけはある」


 ラフォンさんは自分のことのように得意げな顔をしている。一応、この世界で一番強いとされているドラゴンを倒したことがあるから、これくらいの敵に苦労しない。


「あの噂って、本当だったんだ」

「噂?」


 近くにいた王女さまが気になることを呟いた。だから俺は気になってそのことについて聞き返した。


「噂っていうのは、少し前にニース王国が攻め込んできた時に、たった一人でそれらに勝利したっていう噂だよ。七聖剣さんの言葉から、それがアユムくんのことを指していて、キング・ワームを倒した実力を見れば納得した」

「・・・・・・どうしてリモージュ王国の第一王女がこんなところにいるんだ?」

「それはこちらが知りたいくらいですよ」


 ラフォンさんが王女さまを見て目を見開いて驚き、俺に耳打ちしてきた。本当に俺が知りたいくらいだが、その張本人はどこ吹く風と聞こえないふりをしている。耳打ちしてもこんなに近くなら聞こえていただろうに。


「ゴホンッ。それよりも、キング・ワームの卵を回収したのなら上に戻るぞ。ここにはもう用がない。他の参加者たちはこちらで回収するから安心しろ」

「はい、分かっています」


 俺はキング・ワームの卵を抱えて出口へと歩きだし、ラフォンさんは動けなくなっている二人の参加者を助けに行っている。残りの王女さまは、何も持たずに俺についてきている。卵が目的なのに、どうして何も持っていないんだ?


「卵を手に入れないと、本戦に出場できないぞ?」

「そんなことは分かっているよ」


 分かっているのなら、どうして卵を持たないのだろうか。王女さまの考えが一切分からない。


「分かっているのなら、どうして卵を持たないんだ?」

「だって、キング・ワームの卵なんて持ちたくないから」

「まぁ、そうだよな。何せ王女さまなんだから、予選突破よりも卵を触らない方が大切だよな」

「王女さまって誰のことかな? よく分からないなぁ」


 もはや隠す気がないと取られても良いような、とぼけ方をしている。認められたら認められたでこちらの態度も変わってくるからそれでいいんだが。


「そもそも、私は最初から本戦に出場する気がなかったから卵を持つ必要がないからね」

「それじゃあ、どうして予選に出場したんだ?」

「君に、会うためだよ」

「俺に? 最初から俺の正体を知っていたのか?」

「ううん、知らなかったよ。君、と言うよりかはクラウ・ソラスの所有者に会いに来たと言った方が正しいかな。ある人からの情報で、二本目のクラウ・ソラスのことを聞いて、その真偽を確かめるためにこの予選に出場した。予選に出場することも、その人から聞いていたから私が参加したわけ」


 その口が軽いある人は誰だ? 俺がクラウ・ソラスを持っていることを知っているのは、そんなにいないはずだ。まず、身内はないだろう。そこまで口の軽い人はいない。ラフォンさんも騎士として話すはずがない。となれば、一番濃厚なのはアンジェ王国の現国王か、国王の娘だろうな。


「クラウ・ソラスが本物だと分かったことだし、今日のところはこれで帰るね。どうせ何を言っても聞かないだろうから」

「ようやく分かってくれたようで何よりだ」

「じゃあ、また会おうね、アユムくん」


 そう言って、王女さまは俺より先に出口の方へと向かって、帰って行った。三木たちと王女さまがつながっていて、三木たちと俺が浅くない関係で、それを知った王女さまが何かしでかしそうなことは明らかだ。これで何もしてこない方がおかしい。・・・・・・ふぅ、これ以上の面倒ごとは勘弁してくれ。


 最近悩ましい出来事ばかりだと思いながら、俺は卵を持って外へと出た。結局、第五集団でのクリア者は俺一人になり、本戦は一人欠けている状態で始まることとなった。

最後まで見てくださってありがとうございます。誤字脱字あればご指摘お願いします。

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