55:騎士と騎士王決定戦・予選。
再び総合評価が700を上回って嬉しいです。
これからは戦闘シーンがメインとなると思いますので、よろしくお願いします。
俺が冤罪をかけられそうになった日から、二週間が経った。いや、正確には俺がカスペールを殺そうとしたことは街中の噂になっているそうだ。お尋ね者の気分だ。グロヴレさんが兵士たちに箝口令を敷いたようだけど、時すでに遅く、城中に噂は流れ、街中に噂は流れている。今でも俺が外に出ると、遠くからこそこそ話が聞こえてくる。俺の聴覚を舐めないでほしい。
俺に関しては何を言われても平気だからいい。だけど、フローラさまやルネさま、シャロン家のことを悪く言うのはやめていただきたいところだ。一切悪くないシャロン家を悪く言われるのは気分が悪いし、フローラさまやルネさまが買い物に行った時に、露骨に嫌そうな顔をされるのは失礼だ。
俺が騎士王決定戦を優勝し終えて、まずすることはシャロン家を悪く言った奴に面と向かって言いに行ってやることだ。顔は全部覚えた。陰キャの陰湿さをなめんじゃねぇぞ。まぁ、冗談だけど。四割くらいは。
「ここが騎士王決定戦、第五集団の予選会場だ」
隣にいるラフォンさんと一緒に来たのは、アンジェ王国の東にある古びた遺跡であった。ラフォンさんに二週間前に聞いていた通り、予選では人数が多いから八つのグループに分かれ、そのグループの中から本戦へと進める二人を決める。
予選での集団分けは国側が決めたことで、事前にどの集団に配属されたのかは伝えられた。俺は第五集団として振り分けられた。そして、第五集団の予選会場は、この〝這いより蠢く遺跡〟で行われる。この遺跡に生息している〝キング・ワーム〟という虫の卵を持ち帰ることで予選を突破できる。このキング・ワームは言葉通り、虫の王様と言われるほどにデカく、その口から吐く液体は何十種類もあるらしい。Aランクモンスターで、この予選では一番難関だと言われた。
そして、何故ラフォンさんがいるのかと言えば、ラフォンさんが第五集団の監督官であるからだ。普通は現地集合なわけだが、俺が初めて行く場所であるからラフォンさんが案内してくれた。
「Aランクモンスターとは言え、アユムの手にかかれば問題なく突破できるだろう。そこは心配していない」
「そこは、ですか?」
「そうだ。この騎士王決定戦では殺しが許されていると前に話したことがあったな?」
「はい、覚えています」
ラフォンさんは周りをさりげなく見渡し、俺に顔を近づけてきた。そして、小さな声で俺に話しかけてきた。
「大公の手先が何かしてくるかもしれない。そこだけは気を付けておけ」
「大公が仕掛けてくるのですか? 自分の実力を疑っていたあいつが」
「ああ見えて慎重な男だ。少しでも疑いの余地がある男をみすみす放っておくはずがない。国を救った英雄と言われる可能性を秘めているアユムが狙われた原因もそこにあるだろう。自分の手の内にない英雄が自分の予期せぬことや自分に都合が悪いことをしてこないかと思っているのだろう」
大公が俺を殺しにかかったのはそのせいか。カスペール家の件で奴にエサを与えてしまったわけだ。あのままカスペールを無視していれば良かったと思ったが、どうやっても俺を冤罪で潰しにかかる腹なのは分かり切ったことだ。
「集団の分け方は、国の上層部が決めている。つまり、アユムと大公の手先を組み合わせることも可能で、ここに手先を送り込むことも可能だ。十分に気を付けておくように」
「はい、分かっています」
遺跡の前に大勢の人間がおり、ここにいる全員が第五集団の人間だ。それにしても、騎士王決定戦と聞いていたから男ばかりの大会だと思っていたが、この世界は男の人口が少ない。だから女性が占めていることは当たり前のことか。そんなことよりも、この中にいるであろう大公の手先を見つけるべく、俺は≪完全把握≫を使い、俺に対する悪意を感じ取ろうとするが、数人の人間が俺に悪意を持っていることに気が付いた。
この数人が人間が大公の手先なのだろうか? それとも、何か別の要因があって俺に悪意を持っているのかよく分からない。だが、やることは変わらない。俺はこいつらの上に立って予選を勝ち抜く、それだけだ。俺に悪意を持ってようが関係ない。
「よし、では行ってこい」
「行ってきます」
俺はラフォンさんに背中を軽く叩かれ、前に進む。それと同時に遺跡の前で受付が開始された。この受付は申請した人に事前に配られている参加許可書を確認する作業だ。申請していない人が出ないようにするための処置であるが、ラフォンさんが言っていた上層部がそれを許せば、この行為は無意味になる。
一部の上層部が腐っていると、真面目にしている上層部がかわいそうに思える。だが、それは同時に腐っている人間を放置しているということだ。国王がハッキリと大公を死刑にしてくれればフローラさまやルネさまたちに苦労を掛けなくてもよかったのに。
「参加許可書をご提示ください」
「はい。どうぞ」
受付に並んでいた俺の番となり、俺は参加許可書を受付の女性に渡した。ここには参加者以外にもラフォンさんと同じような実行役や受付係の非戦闘員の人間が数十名いる。参加者と実行側の人数が見合っていないが、そもそもこの騎士王決定戦自体が命の保障をされていない。
騎士王決定戦に参加申請する前に、死んでも良いような主旨が書かれた紙にサインしないと参加できないようになっていた。だから、ここで参加者たちが死んでも国側は一切の責任は取らない。ただ、その危険な大会に参加する見返りとして、参加するだけで金貨百枚が配布される。もちろん大会が終わった後に。参加者が死ねば、参加者の親族に渡されることになっている。
もし、その金貨狙いの人間がいて、何かずるをしようものなら、ここで実行役として任命されている人間にすぐにばれるらしい。これはラフォンさんも含まれており、バレればすぐに金貨の配布はなくなる。当然だ。
「それでは、これから予選の説明を行う」
しばらくして全員の受付が終わり、遺跡の入り口の前に立つラフォンさんによる予選の説明が始まるようだ。・・・・・・こうして大勢の中から見るラフォンさんも新鮮だ。騎士育成場で見るラフォンさんもこんな感じだが、あまり騎士育成場での光景を見たことがないから新鮮に感じるのだろう。
「予選の内容は非常に簡単。今からこの遺跡の中に入り、あるモンスターが守っている卵を取ってきてもらう」
・・・・・・うん? 何か、気のせい、ではないな。いや、絶対にそうだろう。
「概要は聞いているとは思うが、そのモンスターはAランクモンスターである〝キング・ワーム〟だ。このモンスターは巨大であると同時に、口から毒液や溶解液、身体から猛毒のガスなどを放出する極めて危険なモンスターだ」
ずっとラフォンさんがこちらを見て話している。俺の方しか見ていないし、俺の目しか合わせようとしない。いや、これだと俺と会話しているようにしか見えない。もっと他の人にも目をやってほしいのだが、ラフォンさんは俺から目を外そうとはしない。
「そのモンスターを倒すもよし、モンスターとの戦闘を避けて卵を奪うもよし。それは君たちで決めると良い。だが、今のキング・ワームは卵を守ろうとしてより一層気性が荒くなっている。その荒さはSランクにも届くくらいだ。それを踏まえ、どうするかを決めると良い」
俺の場合はキング・ワームを倒しても良い。おそらく簡単に倒せる。Sランクモンスターくらいならぶった切れるはずだ。だが、これは勝ち抜けということだ。他の参加者が横取りしてくる可能性がある。横取りさせるつもりはないし、参加者の戦闘力を把握しても問題ない。だが、逃げ切れるのだから倒すメリットが薄く感じる。そこは臨機応変に行動するしかないか。
「それと、この遺跡はキング・ワーム以外にも強力なモンスターがいることを頭の片隅に理解しておくように。そうでなければ、キング・ワームに気を取られて後ろから食われるかもしれないからな」
不敵な笑みを浮かべて言葉を発するラフォンさんであったが、話を終えると俺に微かに笑みを浮かべてきた。俺もそれに応えるべく、深呼吸をして覚悟を決めた顔をラフォンさんに向けた。俺の顔を受けたラフォンさんは肩をびくつかせて少し後ろに下がった。俺の見えないところで何かあったのだろうかと後ろを振り向くが、特には誰も目立った人間はいなかった。
「ご、ゴホンッ! それでは、これより騎士王決定戦、第五集団予選を開始する。始めッ!」
始まりの合図を出したラフォンさんはすぐに横へと飛びのき、参加者は全員が遺跡の中へとなだれ込んでいく。俺も参加者の波に乗って遺跡の中へと入る。と言うか、このまま人の波に乗っていたらモンスターの餌食になる。一応≪完全把握≫を使ってこの遺跡にいるモンスターたちの位置は把握した。だけど遺跡の構造自体は分からない。分からないが、この先にBランク相当のモンスターがいることは理解している。待ち伏せているのかもしれないから、俺は素早く参加者の波から外れて後方へと移動する。
長い直線の道を走りながら参加者の中で、警戒すべき人間を後ろから確認する。身長ほどの大剣を持った大女や、双剣を装備している長い髪の女、硬そうな鎧を装備している男? の三人が注意すべき人物か。それ以外に注意すべき人間はいない。注意するとすれば、俺に悪意を持っている人間だけだろう。それでも、俺が油断することはない。
しばらく走り続けると、開けた場所が見えてきた。それが見えたからかより速度を上げた参加者たちが一斉にそこに走って行くが、俺は一旦止まる。ここからでは見えないが、開けた場所に出るすぐ近くにモンスターの気配を感じた。おそらく、待ち伏せをしているのだろうという考えだ。
「ぎゃ、ぎゃあぁぁぁっ!」
「な、何これ⁉」
「気持ち悪いわよッ!」
俺の考え通り、開けた場所に参加者が出ると、両脇から全長が人の倍はある複数の茶色の芋虫が参加者たちに口から得体の知らない液体を吐き出した。両脇にいた参加者たちは丸ごとかかったようだが、中央にいる参加者たちにはかからず、一部の参加者たちは素早く先に進んだり他の参加者を盾にしたりして難を逃れた。
「と、溶けてる! い、いやあぁぁぁっ!」
「痛い痛い痛いッ! 痛いよぉ!」
「皮膚が溶けてる!」
得体の知らない液体は、どうやら皮膚を溶かす液体だったようで、かかった参加者は皮膚が溶かされており、強力な液体だからか骨まで見えている参加者もいる。難を逃れた参加者たちはモンスターに目もくれずに先に進む。
芋虫型のモンスターは、溶解液がかけられて動けない参加者たちを喰らおうとしている。さすがにここで人を助けない程余裕がないわけではないし、人間が食われている光景なんて、トラウマで夢に出てくるぞ。
俺はクラウ・ソラスを異空間から取り出し、装備する。参加者を喰らおうとしている芋虫のモンスターに向けて走り出し、喰われそうになっている参加者の前に立って芋虫に真っ二つにする。真っ二つにしたからこれで終わりかと思ったが、最後のあがきで俺に溶解液を吐き出そうとしてきた。
このくらいなら避けても良いが、俺が避ければ後ろで倒れている彼女たちに溶解液がかかってしまう。ならば、このモンスターごとどうにかしないといけない。俺の技はすべて切れすぎるから、この技を編み出さないといけなくなった。
「≪裂空・広≫」
本来は斬撃を飛ばすだけの≪裂空≫であるが、殺傷能力をなくして斬撃を広げて相手を吹き飛ばす技を作り出した。殺傷能力がない斬撃は芋虫に当たり、芋虫は口からあふれ出ていた溶解液と共に背後に吹き飛んだ。ぶっちゃけ、他のモンスターなら殴り飛ばしてもよかったが、触るのが嫌だというのもあった。触って体液が出てくるとか勘弁してほしいとも思った。
一体の芋虫を吹き飛ばしたところで、他の芋虫がすべて襲い掛かってきた。こちらに飛び乗ろうとしている個体もいれば、俺に溶解液を吐き出そうとしている個体もいる。何より、他の参加者たちもろとも襲い掛かってきている。相手はすべてが敵だから当たり前だろうし、この参加者たちも自身が死ぬことを覚悟して来ているだろうが、参加者たちが死にたいと思っているわけではないと思う。
まだ生存している参加者をすべて守り切って芋虫を倒す。これくらいできないで騎士王などできないだろう。
「≪剣舞・空≫」
遠くの敵であろうと斬撃を飛ばして舞うように相手を倒す。芋虫が倒れている女性たちに倒れそうであったり溶解液を吐きかけられそうになれば、≪裂空・広≫で吹き飛ばす。不意を突いたり、集団で攻撃したり、皮膚を溶かすことは脅威であるが、ただそれだけの相手だ。俺の敵ではない。
ものの数秒ですべての芋虫型のモンスターを狩りつくした。芋虫の死骸や芋虫の溶解液を他の参加者に当たらないようにできたようで良かった。・・・・・・それにしても、この人たちをどうしようか。このまま放置しておけば、死にそうな人がいる。そして、襲われた参加者に見向きもせずに進んだ参加者はずっと先に進んでいる。このままこの参加者を置いて行かないといけないが・・・・・・。
「こんなところで何をしているんだ。最初だぞ」
「ラフォンさん」
俺がどうしようかと悩んでいると、入口の方からラフォンさんと数人の実行役の人が現れた。ラフォンさんは少し戸惑いながら俺にそう聞いてきた。まぁ、俺もそう思っているけどね。
「いや、モンスターの罠に引っかかった参加者たちをどうしようかと思って」
「他の参加者など放っておけ。死を覚悟して来ているのだから、アユムが気にするところではないだろう」
「まぁ、そうなんですけど、見てしまったので放っておけませんでした」
「全く、危機感がないのか、余裕なのか。どうでも良いが、早く行け。この参加者たちは責任を持って治療しておく」
「ありがとうございます」
ちょうどラフォンさんが来てくれて、俺は先に進めることができる。ラフォンさんにお礼を言い、俺はすぐに遺跡の先に進む。かなり距離を離されたものの、負けないほどではない。≪神速無双≫を少しだけ使い遺跡を進んで行く。遺跡の中は迷路みたいになっており、分かれ道が多数ある。
どの道が正解なのか分からないから、この遺跡の中で一番強いモンスターの気配を頼りに進んで行く。この一番強いモンスターの気配がキング・ワームでなければ、辛いところではあるが、キング・ワームの気配を知らないからこうするしかない。
少しの不安を抱えているが、・・・・・・どうやら正解みたいだ。一番強いモンスターの気配を頼りに道を進んでいると他の参加者に近づいてきた。だが、何やら他の参加者の動きがおかしい。モンスターと対峙しているわけではなく、参加者同士で戦っているようであった。ルール無用の予選であるから、他の参加者に攻撃するのも黙認されるのだろう。
他の参加者の動きを気にしながら一番強い気配に近づいていると、一人の冒険者が一番強い気配とは逆の方向、つまり俺の方に近づいてきた。その後ろからは何人かの参加者が追ってきている。嫌な予感しかしない。俺としては関わらずに卵を手に入れたいところだ。さっきの参加者たちは仕方がなかったが、今は余裕がないから勘弁してほしい。
だから、俺はクラウ・ソラスを収納して≪隠密≫を使い近づいてきている人たちをやり過ごそうとする。そしてこちらに来ている参加者が目視できる場所まで来ている。追われている人は、先ほど俺が注意していた双剣を携えている黒髪の腰まである髪、つまりスーパーロングヘアの美人な女性であった。女性はまるでその状況を楽しんでいるようであった。
俺は巻き込まれまいと、隠密で姿を消しているが、どういうわけか女性は俺の前で止まって、こう言ってきた。
「ねぇ、お兄さん。ウチと一緒に遊ばへん?」
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