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51:騎士とわだかまり。

今回は早めに書くことができました。次は日曜日くらいに投稿できればいいなと思っています。

 楽しいお買い物が一変し、俺たちは少し暗い顔をしてフローラさまのお部屋に戻っている。その道中では誰も言葉を発することはなく、沈黙のままフローラさまのお部屋にたどり着いた。


「あ、おかえりなさい。早かったで――」


 フローラさまのお部屋にいたサラさんが満面の笑みで迎えてくれた。しかし、俺たちの表情を見たサラさんはその言葉を途中で止めた。俺たちの表情を見たサラさんは、すぐさま俺の顔を見てくるあたり、俺の評価が見て取れる。俺が何かすると思われているのかと思ってしまう。


「何かあったのですか?」

「まぁ、ありました。それを今から簡単に説明します」


 俺に向けてその言葉を発してくれるサラさんであるが、俺に向けて聞いてくれたのは俺のことを信用しているからなのか、それとも原因が俺だと思っている節があるのか。何だか、女性会があってから俺への遠慮がなくなっている気がする。その方が良いけど。


 俺たちは、俺とブリジットの身にあったことと、この事件の元凶であるカスペール家当主のことについて情報を共有することになった。全員がソファーに座り、ニコレットさんが入れてくれた紅茶を一口飲む。


「で? アユムとブリジットは、あの男に何をされたの?」


 ニコレットさんの紅茶を一口飲んだフローラさまが最初に言葉を発した。ブリジットはフローラさまと合流してからずっと口を開く気がないようなので、俺が話すことにした。


「カスペール家の当主が、ブリジットに自分の女にしてやると言い出しました」

「ブリジットさんに、ですか?」

「はい、そうです」


 ブリジットが自分の女にしてやるという部分に反応したのはサラさんであった。ルネさまとフローラさまにニコレットさんはそのことについては知っているようであった。そのことを知らなかったのは俺とブリジット、サラさんだけであったようだ。


「そうよ。あのカスペール家の当主はアユムと同じく、私たちのような不細工を好む変わり者なのよ」


 この世界の住人の感覚からすれば、俺は変わり者になるだろう。何度も言うようだが、俺から言わせてみればフローラさまたちは絶世の美女たちだ。それは置いて、あいつが俺と同じような感覚を持っていることは話していて分かっていた。・・・・・・この世界の人間ではないとかではないよな?


「三年くらい前だったかしら。お父さまとお母さま、お姉さまにランディ、そしてニコレットの六人で社交場に出たことがあったの。その時に、あの忌まわしいカスペール家の当主に出会ってしまったわ。カスペールは社交場であるにもかかわらず、周りの目など気にせずに私に近づいてきて、私の身体をいやらしい目で見た挙句、私の身体に他の人間が見えない角度で触ってきたのよ。私は社交の場であることを考慮して何も言わなかった。でも、その後もひどかった。お姉さまやニコレットに手を出すのは当たり前、お母さまにも手を出そうとして、ランディにもいやらしい目を送っていたの」


 ・・・・・・何だ、そのクソ野郎は。あぁ、あの時にやはりこの後の人生が台無しになるくらいの恥をかかしておけばよかった。よりにもよってフローラさまに手を出すだと? それにルネさまやニコレットさん、エスエルさままで。あろうことかランディさま? その場にいたら我慢できないぞ。


「カスペールは、伯爵と言っていましたが、高い地位にあるのですか?」

「それほど高い地位にあるわけではないわ。どちらかと言えば、低いと言っても良い。だけど、そいつの後ろ盾が厄介なのよ」


 伯爵として地位が下辺りというのは間違っていなかったのか。しかし、後ろ盾があると話は変わってくる。一体誰がいると言うんだ。


「その後ろ盾は誰なのですか?」

「・・・・・・現国王の弟、ミッシェル・ユルティス大公よ。大公のおかげで、カスペールは好き放題にできて、誰も文句が言えない」


 ッ⁉ ・・・・・・まさか、またそいつの名が聞けるとは思わなかった。最初はルネさまとニコレットさんの件から始まり、俺を潰しにかかってくるかもしれないとラフォンさんから聞き、ついには屈辱を与えてやった貴族の後ろ盾とは。


 俺を潰しに来ることが本当なら、間違いなく、俺を潰すためにミッシェル・ユルティスは出てくるだろう。潰されるつもりはないが、こうなってくるとシャロン家には迷惑をかけることになりそうだ。


「その男とはつくづく縁があるようです。・・・・・・それで、カスペール家当主とはそれだけで終わりではないのですよね?」

「えぇ、その通りよ。カスペール家とはここからが本番。カスペールは、その社交場があった数日後に、私に縁談を持ちかけてきたの」

「縁談⁉ フローラさまとですか?」

「全く、今思い出しただけでも寒気がする。誰があんな男と結婚するの。触られるだけでも背筋が凍ると言うのに。冗談もほどほどにしてほしいと思ったわ」


 今を知っているのだから、その縁談がなかったことになったことを分かっているから安心できるが、あいつの下につくとか、俺の方も考えるだけで寒気がする。すぐに首を取って大公の枕元に置きたいくらいだ。


「その縁談、もちろん私たちシャロン家は断ったわ。だけど、カスペールはしつこく私に縁談を持ち掛けてきた。あろうことか、私だけではなくお姉さまにまで送りつけてきた。一番精神的に来るものがあったのは、あいつ自身がシャロン家に来たことね。シャロン家にいて安心してきた私の元に、あいつがニタニタとした顔でこちらを見てきたのを見て、胃に入っているものをすべて吐き出しそうになったわ」

「それで、その後はどうなったのですか?」

「さすがに、お父さまも無視できないと思ったようで、現国王に注進したわ。事態を深刻に見た現国王はカスペールに行き過ぎた行動を咎め、現国王の弟にも忠告したわ。それで一旦は収まった」

「一旦?」

「現国王に咎められてから一年経った頃に、シャロン領土に次々と事件が起こり始めた。作物は荒らされ、民家が襲われ、山には火が放たれるなど、悪質極まりないことがシャロン領土で勃発した。ちょうどアユムがシャロン家に来た頃になるのかしら」


 俺はフローラさまに言われ、ようやくシャロン家に入りたての頃に起きた事件の全貌を知ることができた。入ったばかりの時に、ランベールさまにシャロン領土に侵入して悪さをしている賊どもを捕らえよと言われたことがあった。俺は言われた通りに賊を一人残らず捕らえた。その賊は組織として動いており、誰かに命令されたことは分かったが、命令していた奴が誰なのかは分からなかった。


 それをランベールさまに聞いても教えてはくれなかった。それが、カスペールやミッシェル・ユルティスのせいだったわけか。


「思った通り、それは間違いなくカスペールの仕業だった。だけど、カスペールは頑なにそれを認めようとはせずに賊たちを切り離した。それ以上カスペールから何かされることはなく、今に至るわけだけど、また関わることになるとは思わなかったわ」

「何か、すみません」

「アユムが謝ることじゃないわ。悪いのはすべてあのカスペールのせいよ。・・・・・・そう言えば、私がアユムたちを見つけた時にはカスペールが男に担がれていたけれど、カスペールに一体何をしていたの?」


 あぁ、フローラさまは事の終盤を見ていたのか。それだとあまり分からない。俺はブリジットが絡まれた時に何が起こったのかを簡潔に説明した。ブリジットが自身を犠牲にしようとしていたことは伏せておく。さすがにフローラさまに伝えると、未遂とは言え怒られるだろう。俺もそうだったし。


「ぷっ、あははははっ! あいつ、お漏らしをしたの⁉」

「はい、自分の殺気にやられていました」

「ふふふふふっ、その時のあいつの姿と顔を見たかったなぁ。あいつがそんな滑稽な姿をするところなんて思い浮かばないのだから」


 事の顛末を伝えると、フローラさまはすごく元気に笑い始めた。何気にルネさまもざまぁみろみたいな顔をしているし、ニコレットさんは鼻で笑っている。どうやらあいつは相当シャロン家の恨みを買っているようだ。まぁ、領土を荒らされたり、身体を触られたりしていたらそうなる。自業自得だ。


「はぁ~、笑った」


 フローラさまは笑いすぎて涙を浮かべており、涙をぬぐいながら呼吸を整える。ここまで笑っていただけるネタになってくれたことだけが、俺としては救いだ。絡まれないことが一番良かったんだけどな。


「そうなると、カスペール家から何かしてくることは目に見えているわね」

「申し訳ございません。自分が感情的になったばっかりに」

「だから良いと言っているのよ。そもそも、何もやらずにカスペールから逃げ出したなんか言った日には、単独でカスペール家に宣戦布告をしていってもらうわ」

「どっちにしても逃げ道はなかったわけですね、はい」


 しかし、後ろ盾に大公がいるとなると、大公に喧嘩を売るのと同じことだろう。ルネさまとニコレットさんの時と違うことは、俺が力を示し、少しだけ功績を残していることだ。簡単に処刑されることはないだろうが、立場が悪すぎる。


「相手が仕掛けてくるとしても、こちらから何かすることはないわね。大公がいることが厄介極まりないけれど、現国王を味方につけることができれば、勝ち目はあるかもしれない」

「勝ち目、ですか?」

「そうよ。カスペールの件でお父さまが現国王に注進したと言ったけれど、その時に現国王は真摯にお父さまの言葉を受けてくださったと言っていたの。伯爵としてそれなりに名があるとしても、ただの伯爵の言葉を受けて弟を注意するとは思えない。現国王とシャロン家の間に何があるのか、はたまた大公のことを信用していないのかは知らないけれど、これを使わない手はないわ」


 確かに、現国王が真実に目を向ける人であるのかもしれないが、ただの伯爵の言葉に耳を傾けるのだろうか。あまりこういう手のことは分からないから、何とも言えない。


「そう思わない、ブリジット?」


 フローラさまが突然ブリジットに声をかけるが、ブリジットは暗い顔をして下を向いているだけで、フローラさまの問いかけが聞こえていないようだった。


「ブリジット?」

「ッ⁉ は、はいっ、どうされましたか?」

「どうされましたは、こちらの台詞よ。何か考え事でもしていたの?」

「い、いえ、特に、何も・・・・・・何でもありません」


 ブリジットはフローラさまの問いかけに言葉を濁すだけで、何も答えることはなかった。俺を含めたこの場にいる全員が、いつものブリジットではないと思っているだろう。・・・・・・一体、ブリジットに何があると言うんだ? カスペールのおっさんの出来事で気落ちしている部分があるのか?


「ふ~ん、そう。なら後で私と二人っきりで話しましょう」

「・・・・・・はい」


 いつもは表情を変えないブリジットだが、今日はよく表情を変える。て言うか、ブリジットがこういう顔をしているのは、俺が関係しているのかもしれない。俺が強く言ったからか? 何にしても、そうならばすぐに謝りにいかないといけない。


「アユム、少し来い」

「え? はい」


 フローラさまのお話が一通り終わったところで、ニコレットさんについて来るように言われた。ニコレットさんと俺は部屋から出て、向かいの部屋である俺とブリジットの部屋に入るように促された。鍵を開け、俺とニコレットさんは中に入る。部屋に置かれている椅子に対面して座った。


「それで、何があったんだ?」

「何、とはどういうことですか?」

「どういうことではない。何か隠しているだろう。ブリジットの様子でもそうだが、お前も何か言いにくそうなことがあることはあの場にいた全員が分かっていただろう」


 えっ、そんなに分かりやすかっただろうか。俺はいつも通りの表情で話していたと思う。それでも隠しきれなかったのは、俺が分かりやすい顔をしていたのか、あの場にいた人たちが察する能力が高いのか。後者だと思う。


「あの場にいるとブリジットにも聞かれるから、ここに移動したんだ。早く話せ」

「そうは言われましても、これは別に――」


 ブリジットのことを考えて、言わないようにしようとしたが、話している途中に立ち上がったニコレットさんが俺の胸倉をつかんで俺の顔に顔を近づけてきた。ニコレットさんは俺を睨めつけてきている。


「良いから話せ。ブリジットは私の大切な妹だ。そんな妹の身に起こったことを知りたいと思うのは自然なことだろう。前に私とルネさまがボロボロにされた事情を聞いてきた時のお前と同じだ」

「・・・・・・分かりました。でも、フローラさまには言わないでくださいよ。たぶん切れると思うので」

「分かっている。私一人だけでも事情を聞いていた方が、ブリジットを慰めやすいからな」

「分かりました。カスペールと護衛の男がブリジットにしつこく絡んできた時です。その時に――」


 俺はニコレットさんに、ブリジットが自分の身を差し出そうとしたこと、そしてそれに対して俺が強く言いすぎてしまったことを話した。ニコレットさんは黙って俺の話を聞いて相槌を打ってくれていた。話し終えた後、ニコレットさんは深く息を吐いた。


「そうか。そんなことがあったのか。それはフローラさまもお怒りになるだろう。自分の身を犠牲にする仕方など、フローラさまが許すはずがない」

「そう思ったので、あの場では言いませんでした。暗い顔をしているブリジットが怒られるのを見るのは気が引けるので。それに、自分がブリジットに強く言いすぎて暗い表情をさせているのかと思うところはありますから、あの場では言い出せませんでした」

「強く言いすぎた、か。・・・・・・直接的な原因はアユムにはないだろう。元凶は間違いなくカスペール家当主だ。直接的な原因は、ブリジットが過去と現在を照らし合わせてしまったからだろうな」

「ブリジットの過去に、何かあったのですか?」


 俺が軽い感じでブリジットの過去について聞くと、ニコレットさんは険しい顔をした。まぁ、ブリジットが暗い顔をしている時点でその件が地雷なのは確かなわけで、俺は聞くべきではなかったと後悔した。


「・・・・・・あぁ、あった。だが、それは私の口から言うべきではないだろう。いや、ブリジットの許可をもらわないと言うべきではないことだ。ブリジットが嫌だと言えば、私は何も言うつもりはない」

「分かりました、自分からこれ以上そのことについて聞くことはしません。ブリジットにも聞くこともしません」

「そうしてくれ」

「・・・・・・ところで、いつまでこの体勢でいるつもりですか?」


 ニコレットさんは俺の胸倉をつかみ、俺の顔にニコレットさんの顔を近づかせている状態になっている。そして、ずっとニコレットさんと目と目を合わせ続けているから恥ずかしくて仕方がない。


「さぁ、いつまでだろうな。アユムは嫌か?」

「嫌と言うより、この体勢が苦しいので離してくれると助かります」

「それもそうか。じゃあ、離すとしよう。んっ」

「ンッ⁉」


 ニコレットさんが素直に離してくれると思いきや、近づけていた顔をさらに近づけてきて、触れ合う程度の軽いキスをして手を離してくれた。・・・・・・いや、その工程はいらないだろう。


「今はこれくらいで許そう」

「・・・・・・許されないことをしましたか?」

「あぁ、したぞ。私のことを放置した罰だ」

「いや、放置って、放置していないと思いますよ」

「いいや、している。お前は私のことを忘れて、フローラさまやブリジットのことを考えているだろう」

「そんなことは、ないと思いますけど」


 ないとは言い切れない。あまり考えていなかったのかもしれない。俺に好意を抱いてくれているのに、普通ン接している状態だから、放置していると言われても何も言えないのかもしれない。


「まぁ、良い。この件が終わればたっぷりと構ってもらおう」

「善処します」

「善処ではダメだ、絶対だ。忘れていれば、何をしでかすか分からないぞ?」


 ニコレットさんは子供っぽい笑みを浮かべながらそう言い、出入り口に向かう。俺も続いで出入り口へと向かい、部屋から出る。すると同時に正面の部屋からフローラさまとブリジットが出てきた。


「フローラさま、少々よろしいでしょうか?」

「えぇ、良いわよ」


 フローラさまを見たニコレットさんが、フローラさまの許可を得て二人でどこかに向かった。残ったのは俺とブリジットだけになった。俺はブリジットの方を見るが、ブリジットは俺に目を合わせようとしない。


「なぁ、ブリジット。もしかして――」

「すみません、失礼します」


 俺が話しかけようとするが、ブリジットはそれを遮ってフローラさまとニコレットさんが向かった方向に小走りで向かった。・・・・・・やっぱり、俺のせいではないのだろうか。


「何かしたのですか? 相談には乗りますよ」

「どうしようもなくなったらお願いします」


 フローラさまの部屋から様子を見ていたサラさんが、優しく声をかけてくれた。どうしようもなくなったらと言ったが、もはや今がその状態なのではないかと思った。

最後まで見てくださってありがとうございます。誤字脱字あればご指摘お願いします。

評価・感想はいつでも待ってます。よければお願いします。

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[一言] ぶっちゃけ主人公なら国ごと処刑できそうだから心配ないよな あとこの糞は転生者とかそんな設定くるのかな
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