05:旅立ちと出会い。
一時間だけずれた! でも連日投稿だと思いたい!
遂にこの日が来た。今日は待ち遠しくなかった、フローラさまが王都にある学園に出発する日である。ランディさまに許可をもらい、ランベールさまが学園に付き人を二人に増やす許可をもらったことで、フローラさまが学園に通っている間は彼女の騎士として生きることとなった。
二つ目の問題である、魔物を抑える者については、予定通りに≪死者の軍勢≫のスキルを使い数百体の俺が殺してきた魔物が周りを警備している。ただ、何もないときは地中におり緊急事態に地中から出てくるようになっている。その魔物たちはランクA以上で、冒険者Aランクではないと太刀打ちできない強さを持つ。死んでもなおその強さは健在だ。
「それでは、行ってまいります。お父さま、お母さま、ランディ」
学園指定の制服を着たフローラさまは見送りに来ていたお三方にご挨拶をする。
「道中気を付けるんだぞ。アユムくんがいるから大丈夫だと思うがな」
「フローラ、くれぐれも身体には気を付けるのですよ。いざとなればアユムさんに頼るのですよ」
「お姉さま! 僕の騎士は貸してあげただけだからね! 取らないでね」
全員が俺のことを当てにしている現状に、騎士として嬉しいものの、気恥ずかしい感じはする。そもそも俺は騎士として異世界に送り込まれたときに持っていた剣を有しているから強いだけであって心意気はまだまだだ。
「はい、気を付けて行ってまいります。お父さまたちもお元気で」
そう言い、用意されている馬車に乗り込もうとするフローラさまを他所に、俺はランディさまに手でこちらへと来いと指示されたため、ランディさまの元へと向かう。
「ちゃんと、あの誓いを忘れていないよね?」
「はい。大丈夫でございます。約束を守らないような騎士はいませんから」
「うん、ありがとう。・・・・・・ちょっとしゃがんで?」
「え? はい」
俺はランディさまに言われた通りに少ししゃがむと、ランディさまが俺の顔にご自身の顔を近づけてきて、俺へと軽いキスをしてきたっ! 前に誓いのためにキスした時よりも意識していなかったため、実感はないが病みつきになりそうな柔らかさだけは感じた。
「これで、決して忘れないでね?」
「おぉっ」
「あらあら」
「アユムとランディさまのキスッ! 来ましたぁぁっ!」
真っ赤な顔をしたランディさまがいたずらが成功したみたいな顔をしている。そして、それを見ていたランベールさまとエスエルさまは驚くことなく温かい目で見ており、いつもは静かなスアレムは珍しく叫んでいた。て言うか、こんな大衆の面前でやることはないだろうがッ! いや、柔らかくていいものだったけどさ、男同士だぞ!
まぁ、ここの人たちに見られたとしても、ここの人たちはおかしな人ばかりだから何も感じないだろう。だけど、ただ一人だけこちらを見てものすごい血相をして睨んできているものがいた。そう、俺の主となるフローラさまである。
「アユム? ちょっとこっちに来なさい」
フローラさまがこちらを人を殺しかねない視線をしていたが、ため息をはいて笑みを浮かべて俺を手招きで呼んでいる。笑みを浮かべていると言ったが、その眼には笑いのかけらもない。その眼にはただの怒りしかないのは、俺にはすぐに分かった。そう感じているが、俺は行くしかなかった。
「何か御用でしょうか?」
「えぇ、御用、よっ!」
フローラさまは近くに来た俺の襟元をつかんできて、強制的に俺の目線をフローラさまの高さに合わせられすぐ近くにフローラさまの顔がある。その顔にはすでに笑みなどはなく、強い視線でこちらを見ている。
「さっきまではランディの騎士であったから、さっきのことに私は何も言えないわ。でも、今からは私の騎士であるのだから、勝手な行動は許さない。良いかしら?」
「・・・善処します」
「善処じゃないわ、絶対よ。私の騎士が、半端であることは許されない」
「承知しました」
ハァ、このきつい性格は直るのだろうか。このきつい性格はフローラさまがご自身に厳しくしているため他人にもそれを押し付けている。まぁ、ただ単に性格が悪くなっているからとも言えなくはない。
フローラさまは馬車へと乗り込み、俺とスアレムも馬車へと乗り込んだ。そして馬車は使用人によって出発した。ランベールさまや屋敷の人々に見送られ、王都を目的地として出発した。
「さっきのランディさまとのキスはどういうことなのですか? もしかして禁断の恋に落ちたのですか⁉」
出発してしばらくすると、スアレムがランディさまとのキスの件で詰め寄ってきた。
「うるさいし近い。・・・・・・ランディさまに納得してもうための騎士の誓いだ。やましいことはどこにもない」
「ふぅん、あんないやらしい顔をしていてやましいところはどこにもないんだ。へぇ?」
俺の弁解に、さっきは何も言えないと言っていたけれど、フローラさまは言いたいことをいっぱいため込んでいるご様子で。馬車に乗り込んでからずっと足を踏み続けているから、そんなことは分かり切っていたことだ。俺のこと大好きすぎだろ。
馬車に揺られること三日、まだまだ王都には着くことはない。王都までは一週間くらいかかるため、色々な街を経由して行かなければならない。もちろん、予定が合わなかったり街がない場所があるため、野宿することもある。現に二日目はどこにも街がなかったため、野宿した。その時は、フローラさまが俺を抱き枕になれと言って聞かなかったため、仕方なく抱き枕に徹した。
移動中のフローラさまのご様子がどこかおかしい。馬車の中では距離が近く、胸元をわざと見せてきていると言っても良いほどの服をはだけさせている。フローラさまはスタイルが良いんだから、そういうことはやめてほしい。それに便乗してスアレムが近づいてくる時があるからな。近づいて来たらフローラさまがまた人を殺しそうな目をする。俺は何もしていないはずなのに、足を踏まれるなどの被害を受けるのは俺だ。解せない。
そんなこんなで馬車で移動していると、急に馬車が止まった。その際に二人とも俺の近くにいたから、俺の方に寄りかかってきた。おぉっ! 二人からの圧倒的な弾力の胸が押し付けられる。これは、さすがと言わざるを得ない。何かのトラブルに感謝。
「どうしましたか?」
スアレムが馬車を動かしていた使用人に聞いた。
「ほ、他の馬車が魔物に襲われています!」
使用人の言葉で俺も前を見ると、オオカミの姿であるが一回り大きく、とがった角を額に生やしている魔物である魔狼が馬車を襲っているのが見えた。あの馬車は貴族が使うものだから、貴族のものか。馬車を引いていた馬はすでに食べられており、馬車を動かしていたであろう女性の使用人も魔狼に囲まれて内臓を引きずり出されて貪られているのが見える。
「どうされますか、フローラさま。あの馬車にはまだ女性が一人残っていますが、助け出しますか?」
「あなたなら簡単でしょう? それなら助け出しなさい。傷一つでもあなたにつけばお仕置きよ」
「承知しました」
俺は馬車から降り、異空間に収容していた俺専用の剣を取り出す。魔狼の元へと走り、白銀の太い刃を魔狼に向けて振りかざす。魔狼は豆腐を斬る感じでスパスパと俺の刃で真っ二つに斬られていく。この魔狼の角は案外高く売れる。小遣い稼ぎをするつもりで行くか。その方が気が楽でいい。
馬車の中にまで入り込んで、女性を喰らおうとしていた魔狼を真っ二つにしていき、女性を馬車から降ろそうと馬車の出入り口に立った。馬車の中には、フローラさまと同じ制服を着ていた、長い黒髪をハーフアップしている顔立ちが優しそうな美人の女性が、涙目でおもらしをしてそこに座っていた。
「さぁ、早くこちらへ」
俺はそんなおびえた女性に手を差し出す。女性は必死に俺の手を取り、俺は女性の手を引っ張って俺の胸で女性をキャッチする。おぉ、この女の人も胸が大きく、柔らかい。そんな邪なことを考えながら、女性を抱えたまま、魔狼たちを切り裂いていく。女性は俺に必死にしがみついている。女性の胸を堪能しながら、最後の魔狼を殺しつくした。動物型を殺すのは心が痛い。結構動物が好きだから抵抗があるものの、生きるためだ。
「大丈夫ですか?」
「・・・・・・はい、大丈夫です。助けていただいてありがとうございます」
ハーフアップの女性は魔狼に壊された馬や使用人の状況を見て、自分が襲われていることよりも絶望した顔をしていた。そして一つお礼を言って食われた使用人の元へと向かった。何をするのかと思えば、内臓を引きずられた使用人に手を合わせている。そんな時に、フローラさまが馬車から降りてきて、終わった現状を見て少し顔をしかめた。
「あら、あなたは助けられた騎士の主である私に一言もないのかしら?」
「ちょっ・・・・・・、今は良いのではないですか?」
使用人と馬が食われた人に向かって言う言葉かよ⁉ この人は鬼畜なのか⁉ 今はそっとしてやればいいだろうに!
「今やらないで、いつやるの? 今自分が辛くても、相手に礼儀を尽くすのが貴族というものでしょう」
それはそうだけれども、その前に人としてのモラルというものがあるだろう。と言おうとしたが、フローラさまの気迫に黙るしかなかった。黙らないと、後でひどい目に合いそうだからな。別に大して肉体的にはダメージはないが、精神的に来るものがある。
「・・・・・・そう、ですよね。すみません、礼を欠いて。魔狼から助けていただいて、本当にありがとうございます。あなたの騎士のおかげで命が救われました」
「そうでもないわ、私の騎士だもの。それよりも大変ね、魔狼に襲われるなんて」
ハーフアップの女性は深々と頭を下げてお礼を言ってきた。それに対して、言わなくても良いことを言い出すフローラさまに頭を痛めながらも静観を貫く。
「それでは、本当にありがとうございました。私はやることがあるのでここで失礼します」
そう言うと、女性はフラフラとした足取りで少し離れた場所に向かい、服に土埃がついても構わずに地面に膝を付いて地面を掘り始めた。しかし、ここの地面は簡単に掘れるものではないため、一向に掘ることができずに女性の指先から血が出始めている。
「・・・・・・全く、見てられないわ。アユム、彼女を手伝ってあげなさい」
「分かっていますよ。言われなくても手伝うつもりでした」
さっきのことで手伝うなと言われるかと思ったが、さすがにそこまで意地悪ではなかったようだ。俺は女性の元へと向かい、声をかけた。
「手伝いますよ」
「・・・・・・大丈夫です。もう迷惑はかけられません」
「これは自分が決めたことです、迷惑でも何でもありません。これは騎士として手伝うのではなく、一人の人間として手伝うので気にしないでください」
俺はハーフアップの女性が掘ろうとしていた場所を掘り始める。騎士として一般人よりも強い力と強い皮膚を持っているため、簡単に地面を掘り進められた。おそらくこの人はあの女性の使用人を埋めようとするために穴を掘っていたのだろうから、人が一人入るくらいの穴を掘る。
「これくらいで大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。手伝っていただきありがとうございます」
女性は中途半端に食べられている使用人の元へと向かう。その使用人を抱えようとするが、女性の非力さでは持てないようだ。ここまでやってやらないなんて選択肢はない。ハーフアップの女性が持とうとしていた使用人を俺が横から取り上げて、穴の元まで運ぶ。そして使用人の女性を穴の中へと丁寧に入れて埋める。
「何から何まで本当にありがとうございました。この御恩は忘れません」
未だに絶望した顔をしている女性は、またしても頭を深々と下げた。そして消え入りそうな足取りをしてどこかに去ろうとしていた。俺はそれを引き留めようとしたが、その前にフローラさまが引き留めにかかった。
「待ちなさい。その制服を着ているということは、あなたもタランス学園に通う生徒なのでしょう?」
「・・・・・・はい、そうです」
「あなた、馬車もなく学園に間に合うの?」
「きっと、間に合わないでしょうね」
「間に合わせないといけないでしょう。間に合わなければ貴族として終わるのよ?」
「・・・・・・はい、分かっています。でも、それで良いです。私の家はもう没落貴族で、終わらせてくれた方が救いなのかもしれません」
ぼ、没落貴族とは、重い話なのがもっと重い話になりそうだぞ。まぁ、それで納得するほど良い性格をしているフローラさまではない。
「いいえダメよ。私が助けたのだからきちんと学園まで行きなさい。私がしたことが無駄になるじゃない」
いいえ、フローラさまがしたことではありません。でも、騎士のしたことは良いことも悪いことも主がしたことになるのだから、それを考えればこれくらいの手柄を渡すのは何とも思わない。
「でも、どうしたらいいのですか。お金もなく馬車もない状況で、どうやって学園に行くのですか」
「簡単に分かるでしょう。私も学園に行くのだから、私に乗せてもらえば良い話よ。それくらいの知恵を絞らないでどうするの?」
「・・・・・・良いのですか? 私にはお金はありませんよ?」
「だから言ったでしょう、私がしたことが無駄になると。お金の代わりに色々と動いてもらうかもしれないけれど」
うわぁ、この人こき使われそう。でも、こうしてフローラさまの言動に引かない身内以外の人を一人でも獲得していくのは良いことだろう。それが没落貴族だろうと。
「早く行くわよ」
フローラさまはハーフアップの女性を自身の馬車に乗り込むように指示し、女性は馬車に乗り込んだ。すでにスアレムは乗り込んでおり、俺は女性とフローラさまが話している間に魔狼の角を回収し、馬車へと乗り込む。
「ところで、あなた名前は?」
「サラ、サラ・エントーヴェンと申します」
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