49:騎士とメイド。②
全然かける時間がありませんでした、すみません。
そして、いつの間にか総合評価が600を超えていたことに感謝します。
目が合うと何となくお互いにそらしてしまう、そんな甘い雰囲気の中で甘いものを食べ終えた俺とブリジットは街をあてもなく歩いていた。出店など、何か目についたところに行こうとお互いで出した答えであった。断固として俺は薄い本が売っているところには行かないと言ったがな。何度言えば言わなくて済むようになるのだろうか。もはや生活の一部になっている。
「色々なものが売られていますね」
「王都だからな。人がいる分、それだけ需要が多岐にわたる。お目当てのものが見つけやすいかもな」
俺たちははぐれないように再び手をつないで歩いている。フローラさまでもこんな長時間手をつないだことがないのに、ブリジットとは長く手をつないでしまう。安心感があるのか? 俺でもよく分からない。
「・・・・・・ブリジット?」
「ダメですか?」
手をつないで歩いていると、ブリジットが俺の指にブリジットの指を絡ませてきた。いわゆる、恋人つなぎという手のつなぎ方だな。忌まわしい幼馴染たちとしかやったことがない手のつなぎ方だ。俺は驚いてブリジットの方を向くが、耳まで赤くしたブリジットにダメかと聞かれた。
「いや、ダメではない。少し驚いただけだ」
「それは良かったです。こちらの方が、手をつないでいるとより強く感じます」
「そうだな、簡単にほどけなさそうだ」
どこか、心が満たされる感じがする。フローラさまとはしたことがないから分からないからフローラさまとしたらこんな気持ちになるのかはわからない。だが忌まわしい幼馴染とした時には、こんな感じはしなかった。ブリジットが言う通りにつながりが強くなっている気がする。
そんな不思議な感覚で街を歩いていると、唐突にブリジットが止まり、俺も一緒に止まった。ブリジットの方を見ると、ブリジットはとある出店で出されている商品を凝視しているようであった。俺も出店の商品を見てみると、綺麗なアクセサリーが並べられている。
「何か気になるものでもあるのか?」
「いえ、別に・・・・・・」
別にと言っている割には、その場から動こうとしないブリジット。そんなところで意地を張らなくてもいいだろうと思いながら、俺はブリジットの手を引いて出店の方に歩いていく。ブリジットは手を引かれたことで驚いて少し抵抗しようとするが、その抵抗を無視して出店の前に立つ。
「あら、珍しいお客さんね。でもお客さんはお客さんだから、関係ないわ。いらっしゃい、何かお求めの物でもあるのかしら?」
俺を見て珍しいお客さんと言ってきた大人の雰囲気を纏っている女性が出店の店員をしていた。珍しいと言えば珍しいのか。この道行く人々は俺以外全員が女性だし、ここに来る男性がいないのかもしれないから珍しいのだろう。俺も一人ではアクセサリーが売っているお店にはそうそう行かない。誰かへのプレゼントなら行くかもしれないが、俺がつけるとなると行かない。
「何か気になったものでもあるんだろう?」
「い、いえ、別に、大丈夫です。気になったものはありません」
強情だな、こいつ。止まって凝視して出店の前まで連れてきたのに、まだ気になったものがないと言うのか。て言うか、ブリジットが物に興味を示すとは珍しい。薄い本は別としても、ブリジットは基本的に自身を着飾ることはないから、今日の姿も珍しいし、アクセサリーを凝視するのも珍しい。
「そんなほしがりそうな顔をして、気になったものがないとか嘘だろう。何故そこで意地を張る」
「そうよ、彼氏が買ってくれると言っているのだから、わがままを言っても良いと思うわよ? 今のご時世、女が男にわがままを聞いてもらえるのなら、聞いてもらうべきよ」
俺はブリジットの彼氏ではないが、アクセサリーショップの店員さんが援護してくれた。これでブリジットも素直になりやすくなったと思いたい。
「・・・・・・だ、大丈夫です。少し気になっただけなので」
・・・・・・たぶん、あれだな。ここまで強情なブリジットは甘え慣れていないのだろう。俺もその気持ちが何となく分かる。甘えるということではないが、初めて見知らぬ誰かに優しくされて戸惑った感情と同じなのだろう、たぶん。今までのブリジットの生活で、甘えたことがなかったのだろう。
「良いから、選べ。選ばないとここから動かないぞ」
「本当に大丈夫ですから」
「随分と強情だな。良いと言っているのだから選べばいいだろう。これはブリジットに選択肢を与えていると思わせているが、実質的に選ぶという選択肢しか許されていない。選ばないという選択肢はない。分かったなら早く選べ」
嫌そうだったら嫌そうな顔をするだろうが、ブリジットはそんな表情をしていない。どうしたら分からず戸惑っている表情だ。俺としては早く決めてほしい。もしくは俺が決める。
「選べって、言われているんだから、どれかを選べば良いじゃない。そんな重要なことでもないのだから、簡単に考えればいいのよ」
本当に店員さんの援護は助かる。俺だけではブリジットの説得はできなかったかもしれないが、女性の立場の店員さんなら説得力がある。その証拠に、ブリジットは戸惑いながらも、アクセサリーを選び始めた。
「・・・・・・どうしましょうか」
アクセサリーを選び始めたブリジットであるが、あちこちに視線を泳がせてどれに決めるか困難を極めているようであった。適当に選べというほどの買い物ではないから、そうは言えない。だが、時間を使う場面ではない。
「何を迷っているんだ?」
「どれも素敵な首飾りや指輪、腕輪なので、どれにするのか迷ってしまいます」
「あら、嬉しいことを言ってくれるわね。納得するものを選んでくれるまでいてくれていいわよ」
「はい、ありがとうございます」
数分ほどブリジットの様子を見ていたが、一向に決める気配がない。そして、店員さんがどうして納得するまでいていいと言った理由が分かった。男の俺に引き寄せられて、この店の近くに道行く女性たちが足を止めてこちらを見てきており、それは何かの見世物かと思わせる人数になった。
「・・・・・・おい、ブリジット。納得するまで選んでほしいところだが、周りの状況としては早く決めてほしいところだ」
「す、すみません。・・・・・・このようなものを選ぶのは初めてなので、少してこずってしまっています。あと少しで終わるので、もう少し待ってください」
注目されていることに、たまらず俺はブリジットに声をかけた。ブリジットは申し訳なさそうな顔をして早く選ぼうとする。その顔をされると俺の心が痛む。それに周りからの視線も痛いから、早くこの場から脱出したい。
「お嬢さんがどうしても決めらないと言うのなら、そこの彼に選んでもらったら良いじゃない。きっと彼ならあなたに似合うものを選んでくれるわよ」
「・・・・・・それは良い案ですね」
何が、それは良い案ですねだよ。俺はそんなセンスは欠片もないんだぞ? それなのに、プレッシャーをかけた挙句に決めろと? ・・・・・・まぁ、ここは本当に素敵なアクセサリーばかりだからハズレはないと思うから、俺が決める。早くこの場から逃げ出したいというのもあるが、ちゃんとブリジットに似合うアクセサリーを選ぶつもりだ。
「分かった、俺が選ぶ」
「ありがとうございます、アユム。お願いします」
ブリジットにお願いされ、俺はアクセサリーを見ていく。どれもこれも良いものばかりだけど、ブリジットに似合うものとなると限られてくる。派手な色や派手な装飾ではなく、まとまった感じのアクセサリーが良いだろう。仕事中につけるとは思わないが、一応手に付けるものは避けておこう。
となれば、俺が選ぶものは一つしかない。丸い紺色の宝石の周りに軽めの装飾がなされているペンダントを手に取った。
「これを買います」
「そう、それにするのね。私も良いと思うわ。きっとその子も喜ぶと思うから」
店員さんの妙な言い方に違和感を覚えたものの、俺はそれを流して店員さんが提示してきた料金を支払った。昨日稼いだお金があるから、お金には全然余裕がある。
「これで良いのか?」
「・・・・・・はい、すごく嬉しいです」
ペンダントを受け取ったブリジットは嬉しそうな顔をしながら目に涙を浮かばせた。その涙に一瞬だけ焦ったが、ブリジットが愛おしそうにペンダントを見ているから、嬉し涙なのかと安堵した。
俺はブリジットが今すぐにつけてくれるのかと思ったが、中々つけず、俺ともらったばかりのペンダントを交互に見て何か言いたげな顔をしている。俺とブリジットの仲なんだから、遠慮する必要はないだろうと思っていると、店員さんが俺に耳打ちしてくれた。
「彼女は、あなたにペンダントをつけてほしいのよ。早くつけてあげなさい」
「・・・・・・なるほど。分かりました、ありがとうございます」
店員さんのアドバイスで、俺はブリジットの方に手を出す。
「どうせなら、俺がブリジットにつけても良いか?」
「ッ! お願いします!」
ブリジットは嬉しそうな顔をして俺にペンダントを渡してくれた。そして、ブリジットは俺に背後を向けてきた。俺はペンダントを持ってブリジットに近づき、ブリジットにペンダントを付けた。つけた時に、近いところから何かの声がしたような気がしたが、気のせいだろう。
「どうですか?」
ペンダントをつけ、俺が一歩離れるとブリジットは俺の方を向いてペンダントの良し悪しを聞いてきた。
「とっても似合っているぞ」
「・・・・・・あ、ありがとうございます。一生大事にしますね」
「それはどうも。買ってよかった」
ギャップにより、いつもの数倍は可愛く見えるブリジットに調子が狂わされ、少し照れ臭くなる。そんな俺たちを見ていた周囲は、騒めき出していた。
「キャーッ! 甘い、甘すぎるのよ!」
「本当よ! 甘すぎて吐きそうよ! 羨ましい!」
「あぁ、こんな恋がしてみたいわ」
「いや、そもそも彼みたいな男がそうはいないでしょう。こんなに真摯に向き合ってくれる男性はそうはいないのよ?」
「・・・・・・良いなぁ」
そんな周囲に耐え切れなくなった俺は、ブリジットの手を引いて他の場所に向かおうとする。そんな俺たちを見た周囲がより一層黄色い声を上げだした。どれだけこの光景が珍しいんだよ。元の世界だとこんな光景は腐るほど溢れているぞ。それこそ、俺が道いっぱいに広がっていて鬱陶しく思うくらいに。立場が逆なはずなのに、やられていることは前の世界と変わらない。
「そのペンダントを大事にしてねぇ~」
店員さんの言葉に頷きながら、俺とブリジットはどうにかして人ごみを抜けた。俺たち、というよりかは俺を追ってくる人が数多出現したが、そこは俺の≪隠密≫スキルで切り抜けた。全く、元をたどればあの店員さんが不必要に人を集めたことが原因だろう。あそこにいる群衆にお店が押しつぶされたらいいのにと少し思ったくらいには、腹は立ったがもうどうでも良い。
「あんなに人に囲まれていることなんて、そうそうないぞ」
「そうですね、大変でしたね。・・・・・・でも、楽しいです」
「こんなことが楽しいと思うのか? 俺は囲まれている状態が楽しいとは思えないぞ」
「いえ、私も囲まれていることが楽しいというわけではないです。そうではなく・・・・・・いつものフローラさまやアユムと一緒に過ごす日常も楽しく思えますが、アユムとこうして手をつないで逃げていることが楽しく思えます。何気ない日常な感じがして、幸せです」
幸せですと言われたら、否定できなくなる。正直、ブリジットが今までどれだけの人生を送ってきたのかは分からない。少しだけ聞いたことがあるだけで、他が話そうとしない。だけど、今幸せなら良いのかと思ってしまう。今までの不幸を上書きするくらいの幸せが来ても良いだろう。
「そうかよ、それは良かった。・・・・・・じゃあ――」
「どうしましたか?」
「――いや、何でもない」
「そうですか。気になりますが、アユムがそう言うのなら何も言いません」
じゃあ、俺と一緒にもっと幸せになるのも良いかもしれないな。なんて言葉を言えるわけがない。こんなキザなセリフは俺じゃない。そして、どうして俺はこんな言葉が浮かんできたんだ。あろうことか言おうともしたとは、浮かれているんじゃないのか? 俺の理性よ、仕事しろ。
「そうしてくれ。それよりも、気を取り直して見て回るか」
「そうですね。私としては、この贈り物をいただいただけで、十分と言えるほどですが、どうせならもっと楽しみたいです」
随分とペンダントをお気に召してくれたようだ。ブリジットは紺色の宝石を手に取り、それを見るだけで笑みを浮かべている。いつもの表情筋の硬さはどうした? 今日は随分と柔らかくて良かったな。そのおかげで、俺の心臓はいつもより血の巡りを早くしないといけなくなった。
「まだまだ見てないところがたくさんあるし、時間もある。そんなに楽しみたいのなら、存分に付き合うぞ。今日はブリジットだけを見ないといけないからな」
「・・・・・・そう、ですか。今日は、私だけを見てくれていますか」
「当たり前だろ。俺もそこまで相手に失礼ではない」
俺の言葉に、ブリジットは顔を俯かせた。どういうことかは分からなかったから表情を少しだけのぞき込むと、口角を上げているのが見えたから怒っているわけではないから良かった。
「時間があると言っても、時間は有限だ。ほら、行くぞ」
俺がブリジットに手を差し出すと、ブリジットは顔を上げて今更恥ずかしそうに俺の手を握った。そしてブリジットの手を優しく引いて歩き始める。ブリジットは俺の横に並び、肩が当たりそうになるくらいの距離で歩いている。
フローラさまに振り回される時間も良いが、ブリジットとゆったりといる時間も良い。俺はいつまでも願うわけにはいかないが、今だけは、今だけはこの時間が邪魔されないことを――
「そこの女! ワシの女にしてやろう!」
どうやら、そうはいかないようだ。俺の平穏は長く続いてくれないようだ。俺とブリジットの前に立ち塞がってきたのは、妊娠してるのかと思うくらいの腹が出ているバーコード頭の元の世界で想像する課長? みたいなおっさんであった。だが、服装が貴族みたいな高価なものだ。
その後ろには、貴族らしいおっさんの護衛なのだろうか、鎧を装着して剣を腰に携えている男がそこにいた。・・・・・・こいつ、少し曲者だな。俺に比べれば、足元にも及ばないが、何かありそうな雰囲気を感じる。歴戦の勘というやつだ。
「聞こえなかったのか! ワシの女にしてやると言っているんだ!」
聞こえているんだよ、バーコードじじいが。全く、面倒なおっさんに絡まれてしまった。
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