47:騎士と女冒険者。③
ようやく冒険者終わり!
俺ではなく、サンダさんが先頭になり走り続けること五分ほどで、浮いている大地が見えてきた。あれはどういうことだ? 崩壊する大地じゃなくて、浮遊する大地なのか?
「あれは、何ですか? あそこが崩壊の大地なのですか?」
「うん、そうだよ。あそこが崩壊の大地。通称『定まらない大地』。大地が浮いたり、大地が崩壊したりする場所があそこなんだよ」
最初から崩壊する大地じゃなくて、定まらない大地と言ってくれた方が良かったのに。だけど、どういう原理であそこは大地が崩壊したり、大地が浮いたりしているのだろうか。俺は不思議でならない。
「どうして大地が浮いているのか、どうして大地が崩壊するのか分からない顔をしているね」
「それはそうですよ。だって、どう考えても普通じゃないですから」
「そうだよ、普通じゃない。あの場所は、大昔に勇者たちと大魔王が戦った名残でああなった場所だからね」
「勇者と、大魔王ですか?」
「そう、あそこは今も続く人間と魔族が戦い続けた中で、傷つけられた大地。すごいよね、勇者たちと大魔王はこんな戦いをしていたんだよ」
俺とサンダさんは定まらない大地にたどり着いた。そこには、誰もいないのに勝手に崩れ去る地面に、延々と上昇している地面、さらには地面が急に落下してくるなど、普通では考えられない状況が俺の目の前で起きている。・・・・・・ここに来て、いきなり超常現象を目撃してしまった。今までは神秘的とかの世界だったが、これはカオスに近いな。
「もしかして、聖魔大戦跡地を見るのは初めて?」
「聖魔大戦跡地? 何ですかそれは?」
「勇者と魔王が戦った跡がある場所だよ。その場所は、どこも聖戦大戦の名残で超常現象が起こっているんだよ。それも、何千年前のものでも、今もその土地の生態環境を狂わしている」
勇者と魔王が・・・・・・。サンダさんが人ごとのように言っているけれど、俺としては他人ごとではないんだよな。俺は一応勇者として呼ばれたわけだし。だけど、本当に勇者として呼ばれたのだろうか? 俺は召喚された時に召喚された場所にいなかった。持っていたものが神器クラウ・ソラスで、異世界から召喚されたと言うだけで、勇者として召喚されたわけではないのかもしれない。
だから、俺は勇者として呼ばないでほしいとアンジェ王国に言っておきたいところだ。まぁ、そんなことは許されないんだけど。アンジェ王国にシャロン家がある以上、俺がアンジェ王国に勇者の責務を断ることはあまりよろしくない。今は状況が悪くないから許されるが、許されない時が来るのかもしれない。くそっ、他に俺を召喚した人が居たらいいんだけどな。
「ここも合わせて、合計で二十一個ある聖魔大戦跡地あるけど、どこも常識はずれな場所だから行ってみると面白いと思うよ。私はこことあと二つしか行ったことがないんだけどね」
「暇があれば行ってみたいところですけど、それよりもまずはここですよ。ここはどうやって行くんですか? 普通ではいけない気がするんですけど」
「普通に行くんだよ? 大地が崩れる前にその大地から離れ、大地が浮いてきたら他の大地に飛び乗り、落ちてくる大地から気を付ける。それしかないよ? だからここは超危険区域って呼ばれているんだよ? ちなみに、他の聖魔大戦跡地もほとんどが超危険区域だからね」
そうだよな、この大地で何か安全に行く方法があった方が驚きだ。・・・・・・ちょっと危ない思考だが、こういう危険な場所の方が≪順応≫には良いのかもしれない。聖魔大戦跡地ツアーとか、誰もが行きそうにないツアーだ。
「じゃあ、私が先に行くよ」
サンダさんは崩れていない大地に踏み込んで先に進んで行く。俺も負けじと定まらない大地に入った。するとすぐに俺の足元は崩れ去ろうとした。だから崩れ去る前にその場から立ち去る。俺が踏み込んだ大地は一秒後に崩れ去った。結構大地が崩れる時間が早いな。
「あはははっ! 一番最初にハズレを引くなんて、運が良いね」
「運が悪いの間違いでは?」
「いやいや、崩壊の大地とそうでない境界付近の大地が崩れるなんてそうそうないよ」
よくよく後ろを見たら、俺が踏み込んだ場所だけ崩れていた。確かにこれは運が良いことで。運が良いのだから、このままコブラズがすぐに見つかれば文句なしですよ。そもそも、コブラズはどこら辺にいるのか聞いてなかった。
「コブラズはどこにいるのですか?」
定まらない大地を二人で走りながら、俺はサンダさんにそう問いかけた。サンダさんは振り返らずにその質問に答えてくれた。
「どこにいるのか分からないけど、コブラズは獲物を狩るために地面に擬態している魔物だよ。そして、擬態しながらこちらに来ているのかもしれないから感知はしていてね」
「感知の方は大丈夫です。常時していることに慣れているので」
やはりここで生きているのだから、ここの環境に順応しているというわけか。感知で探せるのなら大丈夫だとは思うが、見つけた時や見つかった時、攻撃を避ける時に、この足場に気を付けておかないと、文字通り足元をすくわれる。そこだけ注意しておけば、問題ないだろう。
「・・・・・・ッ! 来た! 左から来ているから気を付けて!」
「はい」
走っている途中で、サンダさんは急に止まって左から来ていることを忠告してきた。俺も魔物の気配がしていたからそうではないかと思ったが、コブラズの気配だということは分からなかった。これがコブラズの気配なのか、よし覚えた。魔物の気配も覚えていた方が良いよな。じゃないと何が来たのか分からないでは対策のしようがない。
コブラズが来ている方を見るが、何もない地面にしか見えない。しかし、気配でそこにいるのが分かる。これが擬態なのか、擬態度が高いな。俺は刀剣を抜き、いつでもコブラズが来ても良いように構える。待ち構えるが、一向に来る気配がない、と思った矢先に俺の背後に尾を回して攻撃してきた。
擬態しているからと言っても、音や気配が消えるわけでない。俺は振り返って尾を斬ろうとするが、足元が崩れ始めて姿勢が崩れてしまう。その隙を逃す魔物ではなく、体勢を崩している俺に尾で貫こうとしてきた。俺は姿勢が整わないまま技を打てるスキルである≪一閃≫をコブラズの尾に放った。コブラズの尾は簡単に斬ることができた。
「コブラズの頭以外は斬っちゃだめだよ!」
サンダさんの忠告むなしく、コブラズの尾を斬ってしまった。それを言うなら早く行ってほしかったし、どうなるのかも言ってほしいところでもある。いや、今起こるから言う必要はないか。
コブラズの本体とコブラズの尾は分離しているが、コブラズの本体から尾が再び生えた。そしてコブラズは生えてきた尾で、斬られた自身の尾を切り裂き始めた。いくつかの肉塊になると、その一つ一つが動き始めて肉塊が大きくなり始めた。
「コブラズは、自身から分離した一部から分裂する性質を持つ蛇。だから倒すとしたら斬り落とされたら生えることがない頭を狙わないといけないの」
「それを早く言ってほしかったですけど、問題ないですね。これだけの数なら」
「それから、コブラズの本体から分離した肉塊しかコブラズの分身になることはないよ。分身は遠慮なく倒しても大丈夫」
「それを聞いて安心しました」
コブラズの肉塊は、本体であるコブラズと同じ大きさになった。だが、本体しか分裂できないのなら、厄介ではない。自分で蒔いた種だ、分裂体は俺が倒す。そう思った俺は、≪一閃≫と≪剛力無双≫を組み合わせた≪一閃≫でコブラズの分裂体をすべて縦に真っ二つにした。
「ッ! すごいね、≪一閃≫を使えるなんて。本当に騎士?」
「騎士ですよ。それよりも今は本体ですね」
「そうだね。私がコブラズを倒すから、その間の引きつけはよろしく」
「はい、了解しました」
コブラズに向かって飛び出したサンダさん。そしてサンダさんに狙いを定めたコブラズであったが、俺は≪絶対権限・囮≫のスキルを使い、コブラズの狙いを強制的にこちらに向けた。スキルに踊らされ、俺を喰らおうと口を開けて向かってきた。
だが、その間にサンダさんがコブラズの頭を的確に狙える位置におり、コブラズの頭を切り裂こうとしている。これでコブラズの討伐が終わったと思ったが、コブラズを守るようにサンダさんの頭上に大地が落ちてこようとしている。そしてコブラズの地面は上昇した。
俺はサンダさんの頭上に来ている大地に向けて、≪剛力無双≫を使っている状態で一つの物体を粉々にする技である≪一閃・瞬紛≫を使った。落ちてくる大地は粉々になり、サンダさんは難を逃れたようであった。こんな良いタイミングに来るとは思わなかった。
「ありがとう! アユムくん!」
「そちらは大丈夫ですか?」
「うん、助けてくれたおかげで大丈夫だよ。・・・・・・Bランクモンスターだと思って軽く戦っていたけど、どうやらそうはいかないようだね」
「そうですね。そろそろで片づけましょうか。自分も時間がないので」
「じゃあ、アユムくんはあのコブラズが乗っている大地をさっきの要領で粉々にしてもらっても大丈夫かな?」
「それなら問題ないですよ」
「降りてきたコブラズは、私が倒すからあとは任せて」
頷いた俺は、コブラズが乗っている大きな大地に向けて、再び≪剛力無双≫を使った状態で≪一閃・瞬粉≫を放った。コブラズが乗っていた大地は粉々になり、何もできずにもがいているコブラズが落ちてきている。そのコブラズを見定めたサンダさんは、短剣を構えてコブラズの元に飛んだ。
コブラズの顔辺りに来たところで、コブラズは身体をうねりどうにかしようとしているがどうにもできずに、サンダさんの短剣がコブラズの首を斬り落とした。さっきから気になっていたが、剣が短いのにどうやって斬っているのだろうか。体内で必要な分だけ剣を伸ばしているのかもしれない。
そんなことを考えているうちに、コブラズの首と胴体が先に落ちてきて、それからサンダさんが綺麗に着地した。さすがは暗殺者、華麗な暗殺技能だ。しかも斬った断面から血が出てきていない。血が出ないようにしているのだろうか。
「さてと、ここは危ないからコブラズを持って早く帰ろうか」
「はい、そうですね。コブラズは自分が持ちます」
「いいよ、私の方が冒険者歴が長いんだから、私に任せて」
「いえ、自分の方が力があると思うので、自分にやらせてください」
「・・・・・・何だか、この会話も新鮮。それなら、お言葉に甘えて持ってもらおうかな。私は頭の方を持っているから」
俺はコブラズの胴体を持ち、サンダさんはコブラズの頭を持って走り始める。これは、重くはないが思ったよりも邪魔になるな。これも順応して、持ち運びが便利になるようなスキルが手に入らないかと淡い期待を抱きながら、俺とサンダさんはアンジェ王国に帰国した。
冒険者ギルドの前に到着した俺たちだが、さすがに冒険者ギルドにこのコブラズを入れるわけにはいかない。今も周りの人たちに若干引かれているし、邪魔だと思われているらしき視線は感じる。サンダさんが冒険者ギルドに入り、俺を受け付けてくれた紫色のポニーテールの受付嬢さんが冒険者ギルドから出てきた。
「うわっ! 随分と大きなコブラズを討伐したのですね。それに超危険区域に入ったのですから、大変だったでしょうに」
「ううん、アユムくんがいてくれたから大変じゃなかったよ。こっちが助ける側なのに、私を助けてくれたからね。それにアユムくんの戦闘力はすごかった」
「・・・・・・テンリュウジさんが。テンリュウジさんの実力は、ランクで言えばどのくらいに当たると思いますか」
「それはもう、Sランクに該当すると思う。私を助けてくれる時点で、Fランク冒険者ではない強さを持っているよ」
何だか俺のことをべた褒めしてくれているようで、恥ずかしい気持ちになる。俺としては冒険者ランクには興味がなく、今日のような冒険ができれば本来の目的は達成されている。今日の調子で≪順応≫できるほどの環境に出会えればなお嬉しい。そんな環境がいくつもあったら、大変だけどな。
「それでは、報酬を清算するので、中へとどうぞ」
受付嬢さんがコブラズの死体を冒険者ギルドに所属しているらしき筋肉ムキムキな褐色肌の女性に任せて、俺とサンダさんと一緒に冒険者ギルドの中に入る。俺は、あんなに筋肉がムキムキな女性がいることに驚いた。あそこまで筋肉がムキムキにするのに何年かかったのだろうか。憧れはしないが、尊敬はする。
「今回はBランクと判定されていましたが、超危険区域でのクエストだったということで、Sランク相当の報酬が上乗せされます。さらに、コブラズの状態が良かったので、さらに報酬を加算させていただきます」
Sランク相当の報酬が上乗せってことは、Sランククエストだったということか? それをBランクと称して冒険者にクエストを行かせるとは、悪徳なのかうっかりなのか分からない。どちらにしてもSランク冒険者であるサンダさんが処理したから構わないけど。
「こちらが報酬になります。お疲れ様でした」
「うん、ありがとうね」
受付嬢さんが渡した報酬が入った袋をサンダさんが受け取った。そして俺とサンダさんは受付から離れて、冒険者ギルドにある机といすがセットになっている椅子に、サンダさんと対面して座った。そして対面しているサンダさんからさっきもらった報酬が入った袋を差し出された。
「はい、これ。アユムくんの分だよ」
「分って、全部じゃないですか。自分は付き添っただけなので、それはサンダさんが受け取ってくださいよ」
「良いんだって。言ったと思うけど、私はお金が有り余っているから私が受け取っても無駄にするだけ。アユムくんがもらってくれた方が嬉しいから」
サンダさんに報酬が入った袋を差し出され、中身を見るとそれ相応の金貨が入っていた。・・・・・・これを全部俺がもらうとなると、やはり気が引けてしまう。相手がお金を持っているからと言って、全部受けるわけにはいかない。
「妥協点は、報酬を半分です。自分もお金が必要で冒険者をやっているわけではないので、お互いに半分にすることで妥協しましょう」
「・・・・・・そうだね。アユムくんとだと平行線のままだと思うから」
俺とサンダさんは今回獲得した報酬を半分にして受け取った。Sランククエストがこれだけの報酬だ、Sランク冒険者のサンダさんが一週間に一回Sランククエストを受けていても、大金持ちになれるぞ。むしろサンダさんは冒険者としてではなく、婚活を始めた方が良いのではないだろうか。働かなくていいのだから。
「さて、それで、そろそろで、アユムくんの答えを聞いても良いかな?」
サンダさんが緊張した面持ちで俺にしか分からない答えを聞いてきた。これはもちろん、俺がクエストでサンダさんとの相性を良し悪しを見ると言った件だろう。そんなにドキドキすることなのか?
「はい、良いですよ。素晴らしい技能を持ち、お互いに邪魔にならない実力を持っているサンダさんとは、またクエストをご一緒させていただきたいと思っています」
「・・・・・・それって、私とパーティーを組んでくれるってこと?」
「はい、そうです。これから冒険者としてお願いします」
「・・・・・・や、やったぁぁっ!」
飛び上がって俺に抱き着いてくるサンダさんであるが、そこまで喜ばれるとは思わなかった。しかし、サンダさんとパーティーを組んでもよかったのだろうかと思った。実力は申し分なく、俺との相性も悪くはない。俺もサンダさんも周りをよく見ているから相手のことを思いやれる。だが、サンダさんの決定的な弱点である、独身という部分が問題だ。
俺はサンダさんから狙われていて、サンダさんに迫られる可能性があると言うことだ。あまりむやみにやたらに見ず知らずの男に言い寄るなと言っておきたいところだ。
「ありがとう、アユムくん。これで独りぼっちじゃない」
「・・・・・・それは何よりです。と言うかもう離れてください」
サンダさんを無理やり俺から引き離している時に、≪騎士王の誓い≫が発動した。≪騎士王の誓い≫を通して、フローラさまが俺を呼んでいるのが分かる。これに答えれば、俺は一瞬でフローラさまの前に瞬間移動することができる。その前に、サンダさんに事情を話さないと。
「すみません、サンダさん。自分はもうそろそろで行かないといけませんので、離れてくれませんか?」
「えぇっ! もう? ・・・・・・また会えるよね?」
「はい、必ず会えますよ」
「じゃあ、離れるね」
サンダさんは素直に離れてくれ、俺は≪騎士王の誓い≫で我が主の元に向かうべく、呼びかけに答える前に、サンダさんの方を向く。
「では、サンダさん。また会いましょう」
「うん、またね、アユムくん」
俺とサンダさんは別れの挨拶を済ませて、今度は本当にフローラさまの呼びかけに答えた。すると景色は一瞬で移動して、フローラさまの目の前にいることが分かった。しかし、フローラさまの顔が少しだけ怒っているのが分かった。
「随分と遠くに女とお出かけしていたようね、冒険者アユム?」
悪いことをした記憶はないのに、怒られるなこれは。理不尽すら感じるのは、俺だけだろうか。
最後まで見てくださってありがとうございます。誤字脱字あればご指摘お願いします。
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