表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/134

46:騎士と女冒険者。②

こんなにも女冒険者の話をするつもりはなかったです。

 俺とサンダさんが、どうして馬車を使わずに『崩壊の大地』に向かったと言えば、それはサンダさんがどうしてもひもを育成しようとしているからだ。馬車を使って行くことには二人とも賛成したのだが、サンダさんが俺の馬車代も払うと言ってきたのだ。さすがに俺はダメだと言って自身の馬車代を払おうとするが、それを頑なに拒否してくるサンダさん。


 俺は何もしていなくていいから、お姉さんに任せてとか言ってきた日には、俺をサンダさんのヒモにするつもりなのかと思った。親切などではない、ただ男に世話を焼いていることに嬉しさを感じているのだろうか。それはヒモを作り出す可能性をはらんでいると言っても良い。


 サンダさんはお金がたくさんあると言っていたから、余計にそうなのだろうな。そもそもヒモでも良いから私と元へと来てとか言っている時点で、どうしようもない。元の世界だとドン引きされているレベルだけど、他の女性でもそうなっている人がいるらしいから、そこまで珍しい光景ではないらしい。本当にこの美酒逆転世界の男女比率と美醜比率がおかしい。


「すごいね、アユムくん。こんな速度を余裕で出せるなんて」

「サンダさんこそ、速いですね」


 俺とサンダさんは並んで『崩壊の大地』に向かって走っている。俺がどれくらいの速さで走っていいから分からなかったから、スキルを使っていない状態で八割くらいの速さで走っているが、それについてきていた。さすがはSランク冒険者なだけはある。


「私は暗殺者だからね。敵に気づかれない隠密と、敵を翻弄したり敵から逃れるための速度が必要になってくるから、これくらいの速度は当たり前だよ。それよりも、アユムくんは本当に騎士なの? 騎士だとは思えないほどの速さだね。冒険者ランクで言えば、Aランクと言っても問題ないほどの速さ」

「そういう騎士がいるというだけです。冒険者歴の長いサンダさんの方が、異色の職業の人を見たことがあるのではないのですか?」

「本当に少しだけどね。あまり大きく変わっている冒険者なんていないよ。アユムくんが特殊なの」


 Sランク冒険者のサンダさんが言うのだから、そうなのだろうが、もしそうならば騎士王決定戦では期待できないかもしれない。この世界に三年しかいない俺が特殊だと言っているのなら俺が求める者はないのかもしれない。だけど、普通を見るのも良いのか? そう思っておこう。


「それよりも、一緒にクエストを行うんだから、どう戦うか決めておこうよ」

「はい、分かりました。と言っても、騎士と暗殺者ですから、戦い方は限られています」

「そうだね、アユムくんが前衛で敵の注意を引き付けて、私が敵の隙をついて絶命させる。二人で戦うとしたらこれしかないかな?」

「はい、そうですね。でも、自分が注意を引き付ける前に倒したり、サンダさんが敵が気づく前に倒してしまうかもしれませんから、臨機応変で対応しましょう」

「二人でクエストに行って一緒に戦うと言っても、この二つの職業なら仕方がないか。でも、私的にはアユムくんの実力が知りたいところだから、一人で戦ってほしいな」


 サンダさんがそう言っている最中に、俺たちが走っている先に魔物がいるのを感知した。サンダさんはこの先にいる魔物を俺に倒してほしいのだろうか。俺と感知範囲がほぼ一緒とは、さすがは暗殺者と言うだけはある。


「この先にいる魔物ですか?」

「気が付いていたの⁉」

「一応は。自分はこう見えても仕えている身ですから、感知はお手の物ですよ」

「その恰好を見れば、どこかの執事なのだろうなとは思っていたから驚かないけど、その感知には驚いた。私の感知範囲は五本の指に入るくらいだけど、アユムくんはとことん常識を逸脱しているね」


 今まで出会った人たちには、俺の能力のすごさを知らせてくれなかったが、サンダさんが世界の常識を伝えてくれるから、俺がどの位置にいるのか正確に把握できる。サンダさんと出会ったことは、本当に運が良かったのかもしれない。


「あまり他の人と比べたことがなかったので、常識を逸脱しているのか分かりません。ちなみに言えば、自分の強さがどこくらいかは分かりません」


 一応結構強い方だとは思う。この前、ニース王国の軍勢と戦って無事に帰ってきたくらいだからな。だけど、そんな奴が他にもいるのかもしれない。それはそれで恐ろしい世界で、人間であるのなら俺たち勇者を呼ぶ必要はなかったと思う。


「じゃあ、この先に現れるAランクモンスターの〝テイル・キャット〟を倒してもらおうかな。Aランクだから危なかったら私が手を出すけど、そうじゃなければ見ておくけど、いいよね?」

「はい、大丈夫です。ちゃんと自分の実力を見ておいてください。それから、〝テイル・キャット〟はどのような魔物なのですか?」

「その名前の通り、尾が特徴的な魔物だよ。その大きな身体と二つのしっぽを持っている化け猫。動きも速く、尾には痺れ作用のある毒があるから傷つけられたら終わりだと思えと言われているくらいに凶暴な猫だよ」

「・・・・・・それだけですか。それなら問題なく行けそうですね」


 しばらく走り続けていると、段々とその〝テイル・キャット〟の気配が近づいてきている。テイル・キャットは感知した場所から動いていないようだ。俺は手早く倒すために、≪神速無双≫のスキルを一割使い始める。


「ちょ、ちょっと? すごく速くなっていない? こんなに速く走っても、すぐにばてるだけだよ?」

「まだ全力を出していないので、大丈夫です」

「いや、それは私が大丈夫じゃないの。・・・・・・このまま私から逃げ切るとか、許されないよ?」


 こわっ! ヤンデレかよ。いや、ヤンデレより質が悪い。ヤンデレはこちらが思っている限り相手のことを考えるが、この人みたいな女性は自分のことで必死で相手のことを考えてくれない。少し速度を落とそう。


「これで良いですか? なるべく早く倒したいと思ったので、少し速度を上げてしまいました」

「少しって、今のでどれくらい上げたことになったの?」

「・・・・・・一割くらいですね。まだ上げれますよ」

「・・・・・・それが本当なら、本当にアユムくんは普通ではないね。Sランクの私が言うのだから間違いないよ」


 やっぱり、勇者の力と言うのは凄まじいものだと再認識させられてしまう。たった三年間しかこの世界にいない俺が、この世界で強い部類に来ているのだから。そう自分の力に過信しそうになりながらも、テイル・キャットと思わしき大きな猫が見えてきた。その猫には根元から二つに伸びている大きな尾が見える。先端には針みたいに尖っているから、あれで傷つけられれば、しびれるのだろうな。


「やります」

「うん、やってきて」


 俺は国の外へと出る前に、一つの剣を買っておいた。可もなく不可もない普通の剣だ。神器クラウ・ソラスを使うのは、俺の素性が知られる危険性があるため、今回はこの剣にしておいた。業物である白銀の刀剣は、フローラさまの部屋に置いてきてしまったから、買うしかなかった。その際にサンダさんが買うと言ってきたが、もちろん丁重にお断りさせていただいた。


 刀剣を装備した俺は、テイル・キャットの元に向かうために加速した。テイル・キャットもこちらに気が付いたようで、俺を向かい打つために姿勢を低くして威嚇しながら構えている。そしてテイル・キャットの間合いに入った途端、テイル・キャットは俺に二つの尾で攻撃してきた。


 尾に痺れ作用がある毒があるとしても、≪状態異常無効≫がある俺には効きはしない。だけど、油断せずにその二つの尾を避け、尾を付け根から切り裂いた。


「にゃあっぁぁぁっ!」


 テイル・キャットは尾を切り裂かれたことにより叫び声をあげている。俺はそんな悲鳴を聞かないようにしながら、苦しまないようにテイル・キャットの大きな頭を斬り落とした。そしてテイル・キャットは絶命した。攻撃の速さはあった気がするが、特に大したことがない相手だった。Aランクと言っても、下の方だったのかもしれない。


「終わりましたよ」


 後ろから追いついてきたサンダさんの方を向いて、俺は終わったことを告げる。サンダさんは絶命しているテイル・キャットを見て目を見開いて驚いている様子だった。俺はサンダさんが何か言うのを待っていると、サンダさんは気を取り直して俺に話しかけてきた。


「そ、想像以上だよ。・・・・・・テイル・キャットを倒せるかどうかは分からなかったけど、強いんだろうなとは思ってたよ。でも、まさかテイル・キャットの堅い尾を根元から斬って、その上首を落とすなんて思ってもみなかった。・・・・・・本当に何者?」

「ただの冒険者になったばかりの従者ですよ。これで自分の実力の一端は理解してもらえました?」

「ただの従者がAランクモンスターを簡単に倒せないよ。それに、これで一端なんだ。・・・・・・何だか良い意味で恐ろしい人に目を付けた気がする」


 サンダさんが言いますか、サンダさん程ではないですよ。サンダさんの場合は実力じゃなくて気質が恐ろしいんだけどね。


「この調子なら、Bランクの魔物も自分一人で倒せそうです」


 最初から思っていたが、実力を見せていない状態で言っても根拠のない言葉だから言わなかった。だが、Aランクを倒した今の俺なら、根拠を示せただろう。サンダさんがいらないと言っているわけではなく、俺の実力を見てもらいたかっただけだ。


「ちょっと待って。それなら私はいらないんじゃない? こんなあっさりとAランクモンスターを倒せるアユムくんなんだから。・・・・・・もしかして、私って用済み? 私が必要ないから、実力を見せたの?」

「いや、違いますよ。自分の実力を正確に知ってもらうために実力を示したんですよ。パーティーを組むのなら、一定以上の信頼関係は必要だと思いましたから」

「・・・・・・それって、私とパーティーを組むのを積極的に検討してくれっている?」

「それはそうですよ。やると言ってしまった以上、やるしかありません。約束を無下にするように思われているのなら、それは間違いですよ」


 人として当然のことだ。サンダさんには俺のわがままを聞いてもらったのだから、少なくとも相性の良し悪しを確認しないといけないだろう。最も、俺の実力なら他の人は必要ないと思うだろうな。


「・・・・・・何だか、本当にアユムくんって変わっているよね。ほとんどの男の人は、女の約束を破るのは当たり前、女は掃いて捨てるほどいるんだから、女の人に義を通さない」

「そんなクソみたいな男と一緒にしないでください。自分は人として当たり前のことをしているだけです」

「それをできているアユムくんが凄いんだよね」


 前に聞いていたが、この世界の男はクソな奴が多いらしい。前に出会った王に仕えているロード・パラディンのグロヴレさんは別だが、大概の男は男が優位に立っていると錯覚し女を見下している。女性も、そんな男性の態度に、嫌気がさしていると言っていた。大概の男と言うのは、美醜両方の男だ。こっちの世界で醜いと思われている男でも、男の数が少ないため、男は優遇されるらしい。俺はそんなことされた記憶はないけれど。


「それで、サンダさんは自分とパーティーを組む気があるのですか?」

「それはあるよ! こっちからお願いしたんだから、あるに決まっているよ。次は私が実力を見せる番かな?」

「サンダさんは冒険者ギルドでSランク冒険者の実績を持っていますから、必要ない気はしますが、実際の実力は見てみたいです」

「アユムくんとパーティーを組めるのなら、いくらでも戦っちゃうから!」


 張り切っているサンダさんが、大群の魔物の気配がする方を向いた。俺の感知範囲に入っていたから俺も気が付いている。そして、その魔物の集団はこちらに来ていることが分かる。サンダさんは腰に装備している短剣を抜き出す。その短剣は桃色の刀身をしており、美しかった。


「その短剣、良いものですか?」

「うん、結構いいものだよ。神器フラガラッハと呼ばれ、世界に十五しかない神器の一つなんだ」


 神器⁉ 俺の持っているクラウ・ソラスも神器であるが、俺のクラウ・ソラスも十五の一つに入っているのか? それにその美しい短剣が神器なら、その使い手であるサンダさんも強いのだろう。後で神器のことを聞いてみよう。


「私だけで倒すから、アユムくんは見ておいてね」

「お気をつけて。サンダさんが危なかったら助けるんで」

「それは嬉しい! その時はお姫様抱っこと目覚めのキスをお願いね」

「その前に助けるので、問題ないですね」


 サンダさんはこちらに来ている魔物の群れに向かって走り始め、俺もサンダさんについていく。走り続けること一分も満たないうちに魔物の群れが見え始めた。あちらもこちらに来ているのだから当たり前か。魔物は、燃えているような赤い肌をしているイグアナであった。イグアナの大群はこちらに数で圧倒している。


 そんな大群をものともせずに、サンダさんは大群に突っ込んでいった。だけど、それにイグアナたちが気が付いていない。暗殺者なのだから隠密行動が基本で、目の前にいても認識されないのか。俺にもそれができるだろうか。


 気が付いていないイグアナたちに、サンダさんが神器フラガラッハで一体ずつ急所を的確に狙って絶命させていく。しかも一体に一秒もかかっていないくらいの速さでだ。俺の目には見えているが、やられているイグアナたちは何が起こっているのか分かっていない様子だった。


 サンダさんがついに最後の一匹を狩りつくして、余裕の表情でこちらに戻ってきた。俺も今のサンダさんより早く赤いイグアナを狩りつくことはできるだろうが、あんなにも鮮やかに絶命させることは不可能だ。俺ができるのは粉々にすることくらいだ。


「私の戦いはどうだった?」

「すごかったですよ。さすがはSランク冒険者ですね」

「それだけ? 惚れた~とか、嫁にしたいくらいだ~とかないの?」

「強いだけでそんなにはなりませんよ」

「残念。・・・・・・それよりも、どう? 私は。アユムくんのお眼鏡にはかなった?」

「まだ討伐クエストを終わらせていないので、何とも言えません。終わってからその話をしましょう」

「えぇ! それは気になって戦いに集中できなくなるよ?」

「最後までやり切らないと、このクエストの意味がなくなるので」


 そうは言っても、サンダさんと組むこと自体、俺は賛成だ。技の鮮やかさに、暗殺者としての能力は、さすがSランク冒険者で本職の人だと思った。俺には真似できない芸当だ。今言うとサンダさんがちょっとだけうざくなりそうだから黙っておくことにした。


 ごねているサンダさんをよそに、本来の目的である崩壊の大地に向かった。崩壊の大地は、文字通り地面が崩壊し続けている土地だ。崩壊した地面は自然に元に戻るという不可思議な場所である。そんな場所に、コブラズがいると言う。コブラズのランクはBに該当するが、その崩壊の大地にいるとSランクに指定されるが、今回は指定されていないと今サンダさんに聞いた。


 何か起こってくれた方が、俺の冒険者として≪順応≫できるだろうに。冒険者とは何が起こるか分からないから危険であり、スリルがあるらしい。順応し続ける俺には、その何が起こるか分からないという状況は危険極まりないとしか思えない。

最後まで見てくださってありがとうございます。誤字脱字あればご指摘お願いします。

評価・感想はいつでも待ってます。よければお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ